変わりゆく未来 5
光は白く清らかな色。
ハリーの魔力のように思えるけれども、が感じたのはハリーとヴォルデモート両方の魔力のような気がした。
ハリーがホグワーツに通うことになることが決まってから買う杖は、ヴォルデモートの杖の兄弟杖になるはずだ。
だから、ヴォルデモートの杖に反応したのだろうか。
「ぅあぁぁぁん!!」
「!大丈夫か?!」
短い間だったが、はどうやら気を失っていたらしい。
ハリーの鳴き声とヴォルデモートの心配そうな声で気がつく。
自分の腕の中には泣き声を上げてるハリー。
杖は、すでのヴォルデモートの手の中に戻っていた。
「ヴォルデモートさん…?」
ゆっくり顔を上げるの目に映ったのは、ヴォルデモートの心配そうな表情とその手に握られた杖。
「杖……つ…手、手!!ヴォルデモートさん、手!!」
ヴォルデモートの杖を持つ手が血まみれだったりする。
はそれを見て、慌ててポケットからハンカチを取り出す。
「何で?怪我?どうしてなの?」
「、落ち着け。これくらい大したことないから」
「大したことなくなんてないよ!血が出てるんだよ?出血多量で死んじゃう事だってあるんだからね!」
「だが、このくらいの傷…」
はハンカチをヴォルデモートの手に巻きつける。
見たところ、小さな切り傷が多数あるだけのようで深い傷ではないようだ。
それに少しほっとするが、傷の数の多さに心配になる。
「うあぁぁぁん!うあぁぁん!」
「え?わ、ハリー?!」
大きな声で泣くハリーに驚く。
「ハリー!!」
リリーが何時の間にかのすぐ側まで来て、ハリーを抱き上げる。
ハリーを泣き止ませるためにあやすリリー。
次第にハリーの泣き声は小さくなっていき、小さくしゃくりあげるだけになってくる。
流石母親だ。
「一体、何だったんだい?」
ジェームズがまだ少し呆然としたように呟いた。
「私の杖とハリーの魔力が共鳴して暴走しかけただけだ。それを強制的に止めたが……傷が残ったな」
「え…?」
ヴォルデモートはハリーを見る。
リリーの腕の中でうとうとし始めているハリー。
「額あたりか?見てみろ」
ハリーの額に視線が集中する。
ジェームズがリリーに近づき、ハリーの前髪を少しだけ掻き揚げる。
すると、癖のある黒髪に隠れていた傷が現われる。
「稲妻形の……傷」
が呟いたように、ハリーの額には稲妻形の傷があった。
先ほどついた傷のはずだというのに、血がにじみもしていない。
「これは…どういうことだい?この傷は…」
「予言の成就って所だろうな。私のどの能力がコピーされたかは分からない。だが、繋がりが出来たのは確かだ」
「君の能力がコピーされた…?」
ヴォルデモートは自分の杖をしまう。
「このまま魔力が暴走するよりましだろう。ただ…」
「ただ、何だい?」
「ただでさえ魔力が高いらしいが、それ以外の能力が付属するとなると制御が難しいだろう。魔力の制御が出来る年になるまで魔法を完全に禁じるか、小さい頃から魔力の制御を厳しく教え込むかしないとまずいだろうな」
「う〜ん…。魔力の制御か……」
ジェームズは考え込む。
はといえば、ハリーの稲妻形の傷をじっと見ていた。
『ハリー・ポッター』と同じようについた、ハリーの額の傷。
それはヴォルデモート卿を倒した証でもあり、両親の愛情の証でもあったもの。
「シリウス、君は魔力が結構高かったよね。小さい頃ってどうしてた?」
「あ?俺ん家は、昔から当然のように闇の魔法だらけだったからな。そっち関係スパルタだから自然にな」
「全然参考にならない意見をありがとう」
「おい…」
ジェームズはピーターに視線を移す。
「ピーターは?」
「え?僕?僕はそんなに魔力高くなかったから、魔力が制御できなくても大した問題じゃなかったし」
「う〜ん。じゃあ、リリーは?」
「私もピーターとそう変わらないわ。ホグワーツから入学許可が来るまでは、ちょっと不思議な現象が周りでおきやすいだけって思っていたもの」
小さい頃から魔力の制御や魔法を教わったりするのは、魔法族の良家ばかりだろう。
マグル出身は魔法自体を知らない為に魔法など小さい頃からは使わない。
魔法使いの一家であっても、簡単な魔法は教えるかもしれないが、本格的な勉強は魔法学校に行ってからだろう。
「、君は?」
「え?私…?私はまだ魔法もろくに使えないよ?だって、マグルだったし」
「は……?」
きょとんっと驚くジェームズ達。
「マグルってどういうことだい?」
「普通に魔力感じるぜ?」
「様…マグルって…?」
「それ、本当なの?」
次々に質問が来る。
はどれから答えるべきか慌ててしまう。
「別にそんなことはどうでもいいだろう」
は一つ一つ答えようとしたが、ヴォルデモートはそれを却下するかのように、質問を一蹴した。
のことを知られたくないのか、自分以外に知られるのが嫌なのか。
「ね、魔力の制御なら、ヴォルデモートさんが教えるのは?」
が唐突に提案する。
「私が…か?」
「うん、だって、ヴォルデモートさんの力の一部と同じなんでしょ?それならヴォルデモートさんが一番詳しいよね」
「そうだが……」
困ったような表情をするヴォルデモート。
しかし、ふと何かを思いついたかのように考え込む。
ちらっとハリーに目を向ける。
「そうだな、…あれもまだ残っている。効率よく力を使えるようになるに越した事はない、か」
何か考えがあるのか、ヴォルデモートはそう言った。
「そちらの許可がでれば、私がやろう」
「本当かい?」
「丁度、にも魔法を教えなければならないしな」
そう言われても気づく。
は、まだ全然魔法が使えないのだ。
少しならば教えてもらったのだが、レベルでいけば魔法学校の1年生レベル。
一人前の魔法使いと対峙した場合、確実に負ける。
「それから、これは最初に聞きたかったんだけどね。君の事を何て呼べばいいんだい?流石に”ヴォルデモート”じゃまずいだろう?」
ジェームズが問う。
は普通に”ヴォルデモートさん”と呼んでしまっているが、世間ではヴォルデモート卿は倒された事になっている、というかそうする予定なのだ。
それなのに、ヴォルデモート卿と同じ容姿の”ヴォルデモート”と呼ばれている存在がいたら、ヴォルデモート卿が復活したと思われてしまう。
迂闊に口に出来ない名前なのである。
「そうだな、偽名を考えなければならないとは思っていたが…」
「トム・リドルじゃ駄目なの?」
「その名が”ヴォルデモート”の名だと知っているものは魔法省にもいるんだ、。ああそうだな、それならば……”モーフィン・ゴーント”と名乗ろう」
どこからその名前が出てきたのか分からないが、それがヴォルデモートの偽名になるようだ。
ジェームズは興味なさそうに頷いていたが、シリウスはその名を知っているのどうか分からないが僅かに顔を顰めていた。
「でも、これで当面の問題はオッケーだよね。ハリーに君の力の一部がうつる事にはなったわけだし」
「そうだな、後は……」
「細かい処理かな?」
大方の流れは決まった。
不自然の無いように世間を騙さなくてはいけない。
真実を知るものは少なければ少ないほど、世間を騙すのは楽になる。
少人数でどれだけの事ができるか分からないがやるしかないだろう。
「、暫く忙しくなるが…」
「うん、分かってる。一緒に頑張ろうね」
「そうだな」
ふっと笑みを浮かべるヴォルデモート。
大切な人がいれば、大変な事でも頑張れる。
これは、今後のために必要な事だから…。