変わりゆく未来 4
「それじゃあ、本題に入ろうか?ダンブルドア先生から聞いているけど、ハリーが倒したことにするんだろう?」
ジェームズから警戒が解かれる。
の答えに何か納得できるものがあったのかは分からない。
でも、空気が変わった。
ジェームズの様子を見て、リリーも肩の力を抜くかのように小さくため息を吐いた。
ただ、シリウスだけはまだ警戒を解かない。
「ああ。丁度いい予言があるらしい」
まずはヴォルデモートの方から口を開く。
「う〜ん、でもその予言だと、君の力がハリーに一部譲渡されるような形になるってあるからね…その辺りはどうしようか」
ジェームズはむぅっと腕を組んで考え込む。
完全に警戒を解いているようだ。
「先の問題は山積みだろうが、その前に”ここが襲われた時何があったか”を決めた方がいいんじゃないか?」
「それもそうだね。魔法界が恐れる闇の帝王相手にハリーだけの力で太刀打ちして、僕らが無傷ってのは変だからね」
「入院でも偽装するか?」
「それもいいけど、そうすると長期入院になるだろう?長期間ずっと病院に閉じこもっているのは嫌だな…。どうせなら、シリウス辺りに死んでもらうとかってのはどうかな?」
「ブラックか…。ワームテールの裏切りに気づいてギリギリに駆けつけた所を、相打ち…いや、相打ちではハリー・ポッターが倒した事にならないか」
「シリウスが”ヴォルデモート卿”の力を削いだ事にして、死んでもらおう。万全でない状態で僕達…う〜ん、襲われるのはこの場合はリリーの方がいいのかな?」
「状況的には彼女の方が適役だろうな」
「ハリーを抱いていたリリーに襲い掛かった”ヴォルデモート卿”が、ハリーによって倒される……って、どうやって?」
「ダンブルドアからは何も聞いていないのか?」
なんのわだかまりもないかのように、ヴォルデモートとジェームズの話は進んでいく。
それに驚いたのはとピーター、それからシリウスである。
つい最近までは、命を狙うものと狙われるもの同士だったというのに不思議なものである。
「それなら古い魔法があるわ。人の想いの力、愛情で守りを与える魔法があるの」
リリーは驚くことなく自分も会話に参加しだした。
「そう言えば、そんな魔法があるね。でも、それじゃあ、リリーの命に関わる事態になってしまうよ?」
「”ヴォルデモート卿”が万全でないのならば、不完全な魔法でも大丈夫ではないか?」
「そうね、入院程度で済むかもしれないわよ」
「でも、そうするとリリーが暫く入院する事になるのかい?僕は嫌だよ?何の為に結婚したと思っているのさ」
「分かっているわよ、ジェームズ。それなら、私はマグルの病院に入院している事にしてはどうかしら?」
「それがいいな。どことは指定せずに”マグルの病院”としておけば疑う者は、そう多くないだろう」
「あとは”私”が退院するまで、私はこの家から出なければいいだけだわ」
ジェームズもすごいが、リリーの度胸もすごいものである。
ヴォルデモートの存在感は、闇の帝王であった頃となんら変わりがない。
変わったことといえば、考え方と…それから表情。
とても優しい表情が出来るようになったこと。
「だが、私がポッター家の場所をワームテールから聞いたことになると、ワームテールは確実に魔法省に捕まるがいいのか」
「あ、それは困るね…」
ヴォルデモートはピーターを心配して言ったわけではないだろうが、その言葉に驚いたのはピーターだ。
しもべを人とも思わない闇の帝王の言葉とは思えないのだろう。
「ね、ヴォルデモートさん」
「…?」
驚いたままではここにいる意味がなくなってしまうので、も会話に加わる。
自分も関係者であるにはあるのだから、参考になる意見くらいは言える。
それが取り入れられるかどうか別として。
「ピーターさんが、ポッター家の『秘密の守人』っていうのは皆知っている事なの?」
「ああ、死喰い人の極一部の者達ならばな」
「魔法省は完全にシリウスだって思っているよ。ダンブルドアにも、僕らは最初そう言っていたし」
「それじゃあ、裏切り者はピーターさんじゃなくてシリウスさんにしてみるのは?」
「、そうするとワームテールはどうする?」
「うん。ピーターさんは脅されてヴォルデモートさんの部下になっていたけど、こっそりシリウスさんを説得しようとしていたってのは駄目かな?」
「そうか、それならピーターが死喰い人だってバレても、裁判はこちらの有利に運ぶかもね」
「私たちの『秘密の守人』はシリウスで、シリウスは死喰い人になって裏切ったけれども、それをピーターの説得によってヴォルデモートを止め様として…それならなんとかなりそうね」
ジェームズもリリーも同意する。
横でシリウスの顔が引きつっていたのは言うまでもないだろう。
何しろ親友の事を誰よりも思っている自分が”裏切り者”役にされてしまいそうなのだから。
ピーターは話の内容にただ驚くだけである。
「それじゃあ、リリーは自分が”入院する”予定のマグルの病院を決めてくれ」
「ええ、いいわ」
「ピーターはどうする?魔法省に出頭するつもりはあるかい?」
「え…あ……」
ピーターの顔色が青白いものへと戻ってしまう。
「ね、ピーターさんが魔法省嫌なら、私の家に来る…」
「却下だ、」
がピーターを自分の家に来るよう誘おうとしたが、ヴォルデモートから言葉が終わらぬうちに却下されてしまう。
はきょとんっとするが、ヴォルデモートの意見は最もだろう。
「ヴォルデモートさん?」
「、私はあの家には以外と一緒に住むつもりはないぞ」
「…何で?」
「と2人だけで一緒にいたいからに決まっているだろう」
ヴォルデモートの言葉に顔を赤くする。
自分も結構ストレートに気持ちを出す方だが、こういう風に言われるとやっぱり恥ずかしいものだ。
こればかりは日本人の性質のようなものだから仕方ない。
「ま、ピーターだって馬になんて蹴られたくないだろう?魔法省に出頭するなら口ぞえはするし、隠れ住む気があるなら場所は僕がなんとかするよ」
「…あ、…ありがとう、ジェームズ。僕、なんかに…」
「そうやって、自分を卑下するのはピーターの悪い癖だよ。時間は少しあるからどうするかはちゃんと考えて、自分が納得できる結論を出すといいよ」
「うん」
ピーターは少しだけ笑みを見せた。
ジェームズはそれににこりっと笑みを返す。
ピーターは自分が”裏切った”事をずっと悔いていた。
ジェームズはそれを知っているかのように許しを与える。
「それから、シリウス。君は何か意見ある?」
「あるに決まってるだろ?!ハリーを守って死ぬならともかく、なんで俺が”裏切り者”扱いされなきゃならねぇんだよ!」
シリウスの反応は当然だろう。
ジェームズもリリーもその反応を予想していたかのように平然としていた。
勿論もシリウスが怒るだろう事は予想できていた。
会って間もないに行動を予想されるシリウスがいかに分かりやすい性格なのかが分かる。
「あら、シリウス。その役目が嫌なのかしら?」
「嫌に決まってるだろ?何で俺なんだよ!」
「だって、闇の陣営にいってもおかしくないのは君くらいだし。ブラック家って純血誇ってたからさ」
「俺はブラック家を勘当された身だぞ?!」
「実際はそうでも世間はそうは思っていないさ」
シリウスの生家であるブラック家は、純血一族の中でも有名な家だった。
今はすでに没落しているが…、純血主義の先導をきっていたとも言ってもいいほどに。
スリザリン出身が多く、異常なまでに純血という事を誇っていた。
シリウスはブラック家の次期当主でありながらも、グリフィンドール寮に選ばれてしまい、家と反発して家を出て行った。
「そう言えば、シリウス。3年生の時のこと、覚えているかしら?」
全く関係ない話を始めるリリー。
必要以上ににっこりと笑みを浮かべている。
「3年…?何かあったか?」
「あら、忘れたとは言わせないわよ。貴方がまだジェームズと馬鹿騒ぎやってグリフィンドールの大量減点に貢献していた時よ」
「あ、あの時はだな…………あ…」
何か思い出したらしいシリウスは顔を引きつらせた。
リリーは相変わらずの笑顔である。
ジェームズは口を挟まない。
自分も当時は馬鹿をやっていたため、ここで口を挟もうものならば、自分にまで話が向かってくる。
「『穢れた血のくせにうるせぇな。』…だったかしら?」
「う………。」
「別に今は怒ってないわ。でもね、シリウス。貴方その事謝りに来た時に何て言ったかしら?」
「………」
「『この先1度だけ、どんな頼みでもきいてやる。』だったわよね」
「そ、それは……」
「ハリーの為にも、やってくれるわよね?勿論」
は思わず心の中でリリーに拍手を送ってしまう。
シリウスには悪いが、リリーはすごいと思う。
「……………分かったよ」
観念したようにシリウスは頷く。
力関係が分かってしまうような様子である。
「それは良かったわ。それじゃあ、話がひと段落したみたいから、私は一度お茶を入れなおしてくるわね。冷めちゃったでしょう」
「それもそうだね、一息つこうか」
小さくため息を吐くジェームズ。
リリーは立ち上がって、すぐ側においてあっただろうお盆を持って立ち上がる。
新しいお茶を入れてきてくれるのだろう。
抱いていたハリーは自分の座っていた場所に座らせる。
何も分からないかのようにきょとんっとしているハリー。
「あう〜?」
ちょこんっと首を傾げるハリー。
その可愛らしい様子には思わず笑みを浮かべてしまう。
ぱちっとハリーと目が合う。
すると、ハリーがにぱっと笑った。
「ヴォルデモートさん、どうしよう」
「?」
「ハリーがめちゃくちゃ可愛いよ〜」
ヴォルデモートの裾をくいっと引っ張りながらの視線はハリーに釘付けだ。
幼いながらの純粋な瞳で真っ直ぐ見られて、にこっと笑顔を浮かべられたら目を逸らせない。
「抱いてみるかい?」
「え?いいんですか?」
ジェームズの言葉にぱっと顔を輝かせる。
ハリーはジェームズとを交互に見る。
ジェームズがハリーをひょいっと抱き上げて、に渡す。
はハリーを自分の膝の上に乗せて、丁度ジェームズと向かい合うように座らせた。
あ、髪の毛がすごい癖っ毛だ。
これは確かジェームズさん似だからだよね。
「あ〜」
「ハリー?」
の上に座ったハリーがヴォルデモートの方に手を伸ばしている。
何か興味を惹くようなものでも見つけたのだろうか?
ハリーが落ちないように支えているの手を乗り出すように、ハリーはヴォルデモートの方に手を伸ばす。
「あ、きゃ〜」
「……杖か」
ヴォルデモートはハリーが何に興味を示したのかが分かったらしい。
ローブの影から見えている杖。
ヴォルデモートがその杖を見えないようにローブで隠そうとした瞬間、杖が何もしていないのに動く。
ふわっと浮き、杖はハリーの手の中にすとんっとおさまる。
「あ、きゅ」
小さな手でヴォルデモートの杖を握るハリー。
それを見ていたジェームズ、、シリウス、そしてヴォルデモートまでが驚く。
呪文もなしで杖を自分の下へと引き寄せたハリー。
「ハリー、すごい…」
は思わず呟く。
ハリーの手にはまだ杖は大きすぎる為、持っている手が危なっかしいように見える。
だが、ふらふらしている杖が僅かに光を帯び始める。
それに気づいたヴォルデモートが、ハリーから杖を取り上げようと杖をつかむ。
「やー!」
ハリーは嫌がって杖をぎゅっと握る。
赤ん坊と大人の力の差など歴然としているはずだ。
ヴォルデモートがすぐに杖を取り上げる事ができないのは、ハリーが無意識に魔法を使っているのかもしれない。
「ヴォルデモートさん、別に杖くらい…」
「そうじゃない。私の杖とハリーの魔力の波動が似ているからか、同調し始めている。このままだと暴走しかねん」
「え?それって……」
「ハリー、離すんだ!」
暴走と聞いて何も言わずに見ていたジェームズの顔色が変わった。
赤ん坊とはいえ、どれだけの魔力が秘められているか分からない。
幼いまま知識もないからこそ、暴走したらどうなるか…。
「やーー!」
「っ?!」
ハリーの叫び声とヴォルデモートの驚いた表情。
ハリーの声に反応するかのように眩しいまでに光りだす杖。
「ハリー?!」
ハリーの声でリリーも駆けつけてくるが、すでに光は目を開けられないほどに強いものになっている。
光は恐らくハリーの魔力。
ハリーだけの魔力かどうかは分からないが…。
が驚いたのは一瞬だった。
この事態を何とかしなければならない。
でも、自分ができる事は……。
は膝の上のハリーをぎゅっと抱きしめた。
お願い、おさまって…!