変わりゆく未来 3
ゴドリックの谷という人里離れた場所がある。
ホグワーツ創設者であるゴドリック・グリフィンドールに関係した地であるとも噂されている。
その地に1件の家が建っている。
ポッター夫妻が暮らしている家だ。
「ダンブルドア先生は…?」
「話はしてあるから行って来いと言っただけだったな」
「大丈夫…かなぁ?」
ポッター家へ向かうのはとヴォルデモートの2人である。
ダンブルドアも時間があれば同行するとは言っていたものの、やはりまだ闇の勢力が完全には衰えていない為忙しいようだ。
対闇の勢力用に設立した『不死鳥の騎士団』はダンブルドアが中心となっているのだから。
「には傷1つつけさせないつもりだ」
「ヴォルデモートさん、話し合いに行くんだから大丈夫だよ」
「万が一という事もあるだろうからな。その時は姿現しで跳べばいい」
そんな事がないことを願うばかりである。
原作から出来る限り知ることのできたポッター家の性格はどうだったのだろうか、とは思う。
原作の1巻、賢者の石の中ではすでにポッター夫妻は他界していたため、詳しくは描かれていない。
大丈夫、だよね…?
不安な気持ちを抱えながらがポッター家の扉を叩く。
魔法界の家にはインターホンなどいうものはない。
コンコンっとドアを軽く叩く。
すると、すぐにかちゃりっとドアが開く。
「どちらさ…ん……?」
ドアを開いたのは黒髪の男性。
癖のある黒髪に、ダークブルーの瞳の20代の男性。
彼は途中で言葉を止めて、驚いたようなどこか警戒しているような表情を浮かべる。
「こ、こんにちは。ポッターさんのお宅ですか?」
「ああ、そうだよ。君たちは?」
の方が先に口を開いて挨拶をする。
ジェームズはに形だけの笑みを向ける。
「ダンブルドア先生から聞いていると思うのですが…、お話を…」
はどう話したらいいのか分からなくて、困ったようにヴォルデモートを見る。
ヴォルデモートは苦笑したような表情を浮かべて、の頭を優しく撫でる。
その光景を見て僅かに驚く男性、恐らく彼はジェームズ・ポッター。
「ダンブルドアから聞いているだろう?私がヴォルデモートだ。話がしたいが時間はあるか?」
一瞬空気が張り詰める。
ジェームズが緊張しているのが伝わってくる。
それはそうだろう、つい最近まで目の前にいる相手に命を狙われていたのだから…。
「聞いているよ、どうぞ中へ。ただ、僕ら家族以外にもう2人ほど客人がいるけど、構わないかい?」
「客人…?」
聞いたのはだ。
ジェームズはににこっと笑みを向ける。
「僕の親友だけど、大丈夫。信用できる相手だからね」
ジェームズの親友というとシリウスかリーマス辺りなのだろうか。
それなら大丈夫…と思っただったが…。
あれ、でも、シリウスさんとヴォルデモートさんを会わせるのはまずい気がする。
居間の方に案内されると、そこにはすでに紅茶が用意されているようだ。
ソファーに座っているのは小さな赤ん坊を抱いている女性、リリー。
リリーの隣に1人分空きを作って座っているのが、黒髪の綺麗な顔立ちの男性。
そして、その男性の向かいのソファーに…。
「ピーター…さん?」
見覚えのある顔にが驚く。
の声が聞こえたのか、ピーターはばっと振り向く。
振り向いた瞬間、元々顔色は良くなかったようだが、更に顔色が真っ青になる。
「ひっ……!」
引きつるような小さな悲鳴すらも上げる。
どうやらヴォルデモートの存在を見て相当驚いているようだ。
「ヴォルデモートさん、睨んじゃ駄目だよ」
「睨んでなどいない」
「嘘。目が怖いよ。大丈夫だから、もっと友好的な表情しようよ」
今までの状況が状況だった為、ヴォルデモートもジェームズもリリーも、そしてリリーの隣に座る男性も、決して良い表情はしていない。
「ピーターがそんな表情するってことは、やっぱり彼は本物なんだね」
「おい、ジェームズ…」
「言いたい事は分かるよ、シリウス。でも、あまり喧嘩腰にならないでね」
綺麗な顔立ちの男性はシリウスのようである。
ピーターとヴォルデモート、それからの方を睨んでくる。
綺麗な人に睨まれるのは少し怖い。
「君たちはピーターの方に座ってくれ」
ジェームズにそう言われて、がピーターの隣に、そのの隣にヴォルデモートが座る。
ヴォルデモートとリリーが向かいになる形だ。
リリーの表情が僅かに引きつるのが見えた。
「それじゃあ、改めて紹介とでも行こうか」
自己紹介などする必要もないかもしれない。
ジェームズもリリーもシリウスも、そしてピーターも、ヴォルデモートのことは良く知っている。
ヴォルデモートも彼らのことは知っているだろう。
もここにいる彼らの事は知っている。
だが、それは全て知識の上での事だ。
「僕はジェームズ・ポッター。隣が僕の奥さんの…」
「リリーよ。それからこの子はハリー」
「んで、僕のもう片方の隣が…」
「シリウス・ブラックだ」
「それから、シリウスの向かいに座っているのが…どうやら知り合いみたいだけど、ピーター・ペティグリューだよ」
ジェームズ達の視線がに集まる。
はヴォルデモートを見上げた。
「私は知っているだろうがヴォルデモートだ。本名を名乗るつもりはない、あの名は捨てたからな」
緊張感が漂う。
「えと、私は、…あ、じゃない。・です」
ぺこんっと小さく頭を下げる。
苗字の方を先に言いそうになって言い直した。
日本人の癖である仕草も言い方も、そう簡単には変わらないものだ。
「のファミリーネームは””というのか?」
「うん、そうだよ。名乗ってなかったっけ?」
「ああ、聞いてない」
どこかむすっとするヴォルデモートにはくすくす笑う。
言われてみれば、は自分の名前である””とは名乗ったが、苗字は言ったことがなかったかもしれない。
ヴォルデモートにも、リドルにも。
「……でいいのかい?」
「はい。なんですか?」
ちらっとヴォルデモートの反応を伺うようにジェームズはの名を呼ぶ。
「君は彼の何?」
きょとんっとする。
何と問われた事は今までない。
死喰い人達がいる中では、は当然のようにその中にいた。
主であるヴォルデモートの側にいる人物の存在性を問うものは誰もいなかった。
「私は……」
はまっすぐとジェームズを見る。
きっと彼が聞きたいのは、の肩書きとかどの家の出とかではないだろう。
だから、は自分の気持ちを答える。
「私は、ヴォルデモートさんを世界で一番大切にしたいって思っているだけです」
どんな関係、どういう存在と聞かれても、はが思うことを言うだけ。
闇の帝王だからじゃない。
才能ある魔法使いだからじゃない。
闇の魔法に魅入られたわけじゃない。
ヴォルデモートがヴォルデモートであるから、優しい彼の側にずっといたいからは今ここにいる。
の答えにジェームズはふっと笑みを浮かべた。
「君が彼を変えたんだね」
を見るジェームズの目はとても優しい目だ。
ジェームズは一度瞳を閉じて、そしてゆっくり開く。
考え、結論が出たようだ。
すぐにヴォルデモートに対して態度が変われるわけではないだろうが、ジェームズはダンブルドアに話を聞いてから、ずっと考えて来たのか。
その結論が、今出たというところなのだろう。