変わりゆく未来 2
慣れない感じでが緑茶を3人分入れる。
何故緑茶かといえば、が日本人だからだ。
ヴォルデモートがに飲み物は何が好きかと聞き、はその時「日本茶が飲みたいな」と言ったのである。
ヴォルデモートは随分とには甘いらしい。
「すみません、私の好みで日本茶しかなくて…」
「構わんよ、ジャパンのお茶は年寄りのわし好みじゃ」
日本茶に湯のみ。
さらに凝って急須まで揃えてあったりする。
どこからそんなものを揃えたのか分からないが、ヴォルデモートはに甘いようである。
「えっと…、ダンブルドア…さん?」
「アルバスで結構じゃよ、お嬢さん」
「え?いえ!名前で呼ぶなんて…!」
慌てる。
雰囲気で分かる。
ダンブルドアがどれだけすごい人物かという事が。
「ダンブルドア先生って呼んでもいいですか?」
「構わんよ」
にこりっと笑み浮かべるダンブルドア。
その笑みはとても優しいものだ。
としてはダンブルドアは”ダンブルドア先生”なのだ。
先ほど自己紹介した時に、ホグワーツの校長をしていると言っていたので”先生”と呼んでもおかしくはないだろう。
「それで、貴様何しに来た?」
すぅっと目を細めてヴォルデモートはダンブルドアを見やる。
「勿論、今後おぬし達がどうするのかを聞きに来たのじゃよ」
「魔法省から頼まれてか?」
「いや、わしの独断じゃ」
ダンブルドアの独断と聞いて少しほっとする。
ヴォルデモートは今まで沢山の人たちの命を殺めてきた。
それは分かっているが、アズカバン行きになどさせたくない。
本来ならばアズカバンへ投獄、又はなんらかの方法で罪を償わなければならないのだろう。
しかし、はヴォルデモートと離れるのは嫌だと思う。
このまま静かに暮らす事が出来ればと思っている。
「私がこのまま静かに暮らしたいと言えばどうなる?」
「わしはそれでも構わんと思うがの」
「魔法省がそれで納得すると思うのか?今まで被害を受けた魔法使いがそれで納得すると思うか?」
「しないじゃろうな…」
人の命を奪った事、闇の魔法に手を染めた事。
人としてしてはいけない事を数多くしてきたヴォルデモート。
「お主も、そのお嬢ちゃんも……魔法省ならば処分を言い渡すじゃろうな」
「え…?」
私…も?
は自分の事が出てきて驚くと同時に少し不安になる。
そんなを守るかのように、ヴォルデモートはの手を握った。
「私が作り出した”合成獣”だから…か?」
「魔法省がお嬢ちゃんを見れば、そう判断するじゃろうな。彼女の本質を見てから…などという心の広い考えを持つ役人はそう多くない」
「ああ、そうだろうな。……好きにすればいいだろう」
「ヴォルデモートさん?」
ヴォルデモートの空気が変わる。
ダンブルドアを射殺すような目で見る。
の腕を軽く引き、自分の胸へと閉じ込めるように抱きしめる。
「魔法省が私とに処分を下すというのならば勝手にすればいい」
「その決定が下されたらお主はどうするのじゃ?」
「どうする?決まっているだろう?」
ヴォルデモートは口元に小さな笑みを浮かべる。
はヴォルデモートに抱きしめられている為、ヴォルデモートの表情は分からない。
でも空気から分かる。
「皆殺しだ。」
短い言葉で残酷な事を言う大切な魔法使い。
それは本気の言葉。
「ヴォルデモートさん!」
はぎゅっとヴォルデモートの袖を握る。
「は教えてくれた。大切な者がいなくなる恐怖を、悲しみを、そしてその心は誰でも持っていることを…。私は今後無用な殺生をする気はない。だが、それは…こちらに害が及ばないという前提条件の上でだ」
ヴォルデモートにとって大切な少女である。
と一緒に過ごす事が出来ればそれでいいと思っている。
その願いは決して大きな願いではない。
ささいな願いだ。
自分の今までの行いは分かっていても、それでもこれだけは譲れない。
「に何かするつもりなら、魔法省はその存在が消えると思っておけ」
ヴォルデモートが本気になれば、皆殺しは可能かもしれない。
ただでさえ強い闇の魔法使い。
それに加え、人は守るべきものがあると強くなる。
「ヴォルデモートさん…」
嬉しい…と思ってはいけないのだろうか、とは思う。
自分はここまで想われているのだから…。
もヴォルデモートの側にいたい。
彼が悪い事をした事も分かっている。
それでも……静かに一緒に暮らしたいと思ってしまうのはいけないことだろうか。
とヴォルデモートはダンブルドアの反応を静かに待つ。
ヴォルデモートは本気だ。
に害をなすのならば、危険を承知でも魔法省に乗り込んででも壊滅させてくるだろう。
ダンブルドアも恐らくそれを分かっているはずだ。
「随分と…」
ダンブルドアが小さく笑う声が聞こえた。
「何だ?」
「いや、随分と変わったんじゃな、トム。勿論いい意味でじゃ」
「ああ、自分でもそう思う」
「そのお嬢ちゃんのお陰かの?」
「そうだ」
ダンブルドアは楽しそうな嬉しそうな笑みを浮かべる。
人を安心させてしまうような笑顔。
だがヴォルデモートは警戒を解かない。
ダンブルドアは唯一ヴォルデモートを止める事ができる魔法使い。
「予想以上の良い答えじゃな」
「え…?」
「何だと?」
もヴォルデモートもダンブルドアの言葉に驚く。
など思わず首をひねってダンブルドアの方を振り向いてしまった。
「今回ここに来たのは、先ほども言った通りわしの独断じゃ。闇の陣営の勢いが衰えてきての…今噂では、お主はゴドリックの谷へ行ってジェームズとリリーに倒されたとも言われておるよ」
「何だその噂は」
「噂の真相をジェームズに聞きに行けば、ジェームズはヴォルデモート卿など来てないと言っておった。ならばお主はどこへ行ったんじゃろうと思っていてな」
「それで探し当てたというわけか」
「そうなんじゃよ」
ダンブルドアの言いたい事が見えない。
ヴォルデモートの言葉に対して反応が見えないところを見ると、予想していたのだろうか。
まだ、警戒は解けない。
「お主がわしを警戒する気は分かる。じゃがそれと同時に、魔法省は予想以上に”ヴォルデモート卿”に脅威を感じているんじゃ。お主が生きていると分かれば、始末にかかるじゃろう。じゃが、本気になったお主に敵うほどの魔法使いがこの世界に何人いようか…」
「それで?」
「お主が素直に罪を償うつもりならば魔法省に引き渡すつもりじゃったが、そのつもりはないんじゃろう?」
「当たり前だ」
「力づくで捕らえられるほどお主は弱くない。なによりも守るべきものがいる相手は強いんじゃよ。わしは、今のお主に勝てるかどうか分からんよ」
ヴォルデモートはその言葉を静かに受け止める。
だが、は驚いていた。
ダンブルドアはヴォルデモート卿が唯一恐れるといわれる魔法使い。
その彼が、ヴォルデモートに勝てるかどうか分からないと言う。
「じゃから、わしの独断で魔法界を騙すことにしたんじゃ」
明るい声でにこりっと笑顔を浮かべるダンブルドア。
「……………おい、本気か?」
「勿論本気じゃ。ジェームズ達には話をしてある」
「何の話をだ?」
「予言通りに事が起きたように見せかける為じゃよ」
も少しだけ知っている予言。
それはハリポタの5巻で明らかになったこと。
7月生まれの男の子がヴォルデモートの脅威になるだろうという事。
「予言通りとはどういうことだ?」
「何じゃお主予言を知っておったんじゃないのかね?」
「私が知っているのは、80年の7月生まれの少年が私にとって脅威な存在になるということだけだ」
ヴォルデモートが知ったのは予言の最初の部分だけ。
後半部分を知らなかった為に、ゴドリックの谷へ行き、ポッター親子を殺害しようとしていた。
もし、全てを知っていたら何か変わっていたかもしれないが…。
「お主が予言の対象者、つまりハリーを襲う事によってお主の存在が危うくなり、お主の力の一部がハリーに移ってしまうという予言じゃ」
「ハリー・ポッターが私を倒した事になるというわけか」
「そうなるの」
それじゃあ、本の通りの展開になるのかな。
あ、でも、ジェームズとリリーは生きてる事になるから違うのかな。
「ああ、構わない。勝手にやってくれ」
「勝手にやってくれじゃないぞい。きちんとジェームズ達と打ち合わせしておく必要があるじゃろう?」
「話し合いでもしろとでも言うのか?」
「そうじゃよ」
「話し合いが成立すると思っているのか?」
「大丈夫じゃ。ジェームズとリリーは良い子じゃよ」
ヴォルデモートはため息をつく。
半分呆れているようなものかもしれない。
はヴォルデモートを見上げる。
「ヴォルデモートさん?」
「…はそれでいいか?」
「うん、いいよ」
ヴォルデモートが倒された事になれば、隠れて暮らしていれば静かに暮らせる。
には異論はない。
「問題はホークラックスが残っているのがな…」
「ホークラックス?」
の知らない言葉だ。
「回収するのが一番いいんじゃろうが…」
「確かにそれが一番望ましいが、どこにあるか分からないものもあるからな。繋がりを断ち切った方が早いかもしれん」
「その件については、ジェームズ達との話が終わった後でもよかろう」
「ああ」
ヴォルデモートとダンブルドアの話には首を傾げるだけである。
ホークラックスというのが何なのかさっぱり分からない。
全く聞き覚えのない言葉だ。
しかし、話の決着はついたようである。
とにかく最初にやるべきことは、ジェームズ達と話し合う事である。