変わりゆく未来 1
闇の陣営から逃げ出したとヴォルデモート。
2人が落ち着いた先は、大きな森に囲まれた小さな一軒家だった。
あの屋敷を出てきた時の所持品は、ヴォルデモートの持っていた杖1本のみ。
食料はどうしたかといえば、森の中にある木の実などをとって食べていたりした。
だが、ヴォルデモートはが疲れるだろうと言って、宿だけはきちんととってを休ませていた。
が「どこからそのお金出てくるの?」と不思議に思えば、ヴォルデモートは道すがら見つけた薬草を売っているのだと言っていた。
確かに彼の魔法やその類の知識は、かなりのものだろう。
何しろホグワーツを首席で卒業したのだから…。
そんな感じで逃亡を続ける事半月ほど。
手ごろな空き家を見つけてそれを購入。
それが現在の森の中の一軒家である。
「屋敷しもべ妖精が必要か?」
「え?いいよ。私、料理覚えたいもん」
掃除も洗濯も、家事ちゃんとやるよ!とは張り切る様子を見せる。
ヴォルデモートはそれに自然と笑みが浮かぶ。
この周辺には守りの魔法をできる限りかけた。
魔法省に感づかれることはないだろう。
「だが、1人では掃除は大変だろう?」
「だ、大丈夫だよ!」
「家事ばかりに構われては、せっかく一緒にいる意味がないだろう?」
「う…、そんなことないもん」
はそう言うが、この家を全て1人で掃除するのは大変だ。
それに加えて料理や洗濯をもするつもりらしい。
はまだ魔法を覚えて間もない。
魔法を使って家事をするのは無理だろう。
となると、方法はマグル式でやるということになる。
「洗濯はマグル界にある”センタクキ”のようなものを作ろう。全て自動でできるような便利なものをな」
「え?!ヴォルデモートさん、洗濯機作れるの?!」
「仕組みは分かるからな、あとは魔法の構成だな」
今この時代に全自動の洗濯機はない。
はこの時代が自分のいた時代よりも昔の時代であることを知っている。
その前にここは異世界のようなものなのだが…。
「それじゃあ、掃除機とかも欲しい!」
「ああ、後でそれも作ろう」
半分冗談で言っただったが、ヴォルデモートはあっさりと承諾してしまう。
作ろうといって本当に作れるのだろうから、やはり彼は偉大な魔法使いには違いないのだ。
「でも、ヴォルデモートさん、よく洗濯機とか掃除機知ってるね。マグル嫌いだから知らないかと思ってた」
「これでもホグワーツ在学中はまだあの孤児院にいたからな。あそこはマグルの孤児院だ。マグル界のことは嫌でも耳に入ってくる」
「あ…ごめんなさい」
嫌なことを思い出させてしまったかと思い、はしゅんっとなる。
あの孤児院でのリドルへの待遇は、ほんの少しだけあの場所にいたにも分かるほど酷いものだった。
いい思い出があるはずもないだろう。
はそう思ったのだ。
「何を謝る必要があるんだ、。あそこにいたからこそ、私は…君に会えた」
ヴォルデモートはの頭をそっと撫でる。
に会えたことが彼を大きく変えた。
それが何よりも良かった事だと、ヴォルデモートは思っている。
「うん…」
はそう言われて少しだけ笑みを浮かべた。
良かったと思ってもらえれば、それほど嬉しい事はない。
にとってヴォルデモートの存在はそれだけ大切だから。
コンコン
玄関のドアをノックする音。
どうやら来訪者のようである。
はきょとんっと不思議そうな表情をしながら扉の方を見る。
だが、ヴォルデモートは瞳を鋭くして扉を睨む。
「、動かないでここにいろ」
「ヴォルデモートさん…?」
の頭を軽く撫でてヴォルデモートは玄関の扉へと向かう。
この家の周囲にはヴォルデモートの魔法が掛かっている。
目くらましの魔法も掛かっているはずだ。
誰かが近づく事など、ましてや客人が来ることなどない。
来るとすればヴォルデモートを上回る魔法使い、又は何かの偶然が重なって誰かが迷い込んだかだ。
かちゃり…
キィと少しだけきしませて扉を開く。
警戒だけは忘れない。
扉を開けて外にいる人物を見て、ヴォルデモートは僅かに驚きを見せた。
だが、次の瞬間すぐに杖を構える。
『クルー…!』
「駄目!ヴォルデモートさん!!」
杖を持ったヴォルデモートの腕にしがみついたによって、呪文は途中で遮られる。
はヴォルデモートが扉の外の人物に何をしようとしたか気づいたから止めた。
命は大切なもの。
それが例えどんな人でも。
はそう思っているから、それにヴォルデモートにこれ以上人を殺めて欲しくなかったから止めた。
「駄目だよ、ヴォルデモートさん」
「…」
「何もせずに力だけで抑えるのは駄目」
「…だが…!」
「大丈夫」
はにこっと笑みを見せる。
「お客さんでしょ?悪い人じゃないよ。ね、そうですよね?」
は外にいる人物に笑いかける。
彼はに優しい笑みを返した。
「勿論じゃ。害をなすつもりはこれっぽちもないぞい」
長い銀髪と白く長い髭の温かな雰囲気の老人。
それでも雰囲気がただの老人と言えないもの。
ゆったりとしたローブに、優しげな青い瞳。
ヴォルデモートが警戒するに値するほどの人物。
「何しに来た…」
低い声で問うヴォルデモート。
彼はそれに全く動じない。
「ヴォルデモートさん、立ち話もなんだし、中で話そうよ」
「…だが、コレは…」
「コレじゃないよ。この人はお客さん、お客さんはもてなさなきゃ駄目。ほら…!」
ぐいっとヴォルデモートの腕を引っ張る。
ヴォルデモートはにひっぱられるまま家の中に引きずり込まれる。
「大丈夫だよ、ヴォルデモートさん」
「…」
「私がいるよ、一緒にいる」
ヴォルデモートの腕をぎゅっと握る。
「何があっても私はヴォルデモートさんの側にいるからね。だから、大丈夫」
「そう…か」
「うん、そうだよ!」
腕にしがみついているの手の暖かさにどこか安心するヴォルデモート。
そんな2人の様子を見て、老人は顔をほころばせた。
とてもほほえましい光景だと思ったのだろう。
闇の帝王だと恐れられた存在がこうして、暖かな表情を浮かべるようになっている。
誰かと共に歩もうとしている。
老人にとってそれは何よりも喜ばしい事だった。
扉を開けた先に立っていたのが、この老人でなければもこんな反応はしなかっただろう。
多少は警戒したかもしれない。
でも、はこの老人を知っていた。
いや、恐らく彼だろうと思ったのだ。
ハリーポッターの本の中でも、ヴォルデモートさんと敵対しながら、この人はヴォルデモートさんがかつての生徒であるという目で見ていたから。
闇の帝王とかじゃない、かつての教え子として見ていたはずだよ。
だから信じられる。
何よりも、あの目はヴォルデモートさんを捕まえに来たとか、断罪に来たとかじゃない。
そんな雰囲気じゃない。
老人の名はアルバス・ダンブルドア。
現ホグワーツの校長であり、ヴォルデモート卿が恐れる唯一の偉大なる魔法使いと言われている。