開き直りは大切 03
そしてそれからさらに4年の月日が経った。
ここに来て6年。
流石に6年も経てば、元の世界に戻ることもないだろうと感じてきているである。
元に戻ったら戻ったで、今は日本語を流暢に話せるかがちょっと不安である。
理解できないことはないだろうが、あまり自信がない。
いや、その分英語は十分理解できるようになったけどね。
は今応接間にお茶を運ぶところである。
今日は珍しく孤児院に来客が来ているとの事。
お茶を4つ持っていくように頼まれて、は応接間の目の前に立つ。
こんこんっ
ノックをしてから、かちゃりっと扉を開き中に入る。
いたのは孤児院院長のミセス・コールと、客人らしき老人とリドル。
「失礼します」
はまずは客人から順に紅茶を置いていく。
ミセス・コールとそしてリドル、しかし持たされた紅茶は4つ。
4つ目はどうするべきかと思ったが、適当においておけばいいかと思い、空いている席に置く。
はそのまま退室しようとしたが、ミセス・コールに止められる。
「院長?」
「お座りなさい、ミサキ。この客人はあなたとトムに用があるそうですよ」
は?と声を出しそうだったが、それをなんとか飲み込み、リドルの隣に大人しく腰を下ろす。
じっと客人である老人を見る。
「もう一度話していただいてもよろしいですが、Mr.ダンブルドア」
「ミセス・コールが納得できるまで、わしは何度でも説明しても構わぬよ。そう、その2人の魔法使いの卵をわしが教師として勤めている学校に通わせたいのじゃよ」
「それで、その学校は何を教える学校ですって?」
「”魔法”じゃよ。その2人がいる周囲で不思議なことが起こったことはないかね?」
はミセス・コールに説明をしている老人を見る。
もこもこのサンタクロースのような髪と髭。
赤い服を着ていたら完全にサンタクロースだろう。
ホグワーツなんだよね、きっとホグワーツだよね。
でもな、私、あまり行きたくないんだけど…。
「魔力のある子供は魔法学校に通う必要があるんじゃよ。勿論、無理強いはできないがの」
「でしたら、私はお断りします」
ダンブルドアのその言葉には間髪いれずにそう言った。
以外の3人が驚きを見せる。
「何故か理由を聞いてもよいかの?」
はそれにすぐ答えずにじっとダンブルドアを見る。
ダンブルドアの目に責めるような感情はなく、優しげな目をしている。
理由はいくつかあるが、とりあえずその中の一番無難なものを選ぶ。
「お金がありません」
そう、これは結構重要だ。
保護者がいないは金がない。
「教科書代や、つ…くえで勉強する為の文具等を買うお金がありません」
あ、危ない危ない。
普通に杖とか言っちゃいそうだった。
いくら魔法云々と言っても、杖なんて当然のように思うわけないし。
「それは最初から承知しておる。わしがなんとかしよう」
「そこで甘えるわけにはいきません」
「子供は大人に甘えるもんじゃよ」
む、さすがダンブルドア未来校長先生。
なかなか手ごわい。
「それになによりも…、私は自分がそんなことが出来るだなんて信じられません」
「魔法使いであることを信じられないのかね?」
「はい。思いっきり信じられません」
「ミサキの周囲で不思議なことがあったことはないのかね?」
「これっぽっちもありません」
さっぱり否定する。
「蛇と話せるのはミサキにとって不思議なことじゃないんだね」
ぽそっとリドルが呟く。
リドルの言葉にダンブルドアが驚きを見せた。
は内心思いっきり叫ぶ。
「ほほぉ、これはパーセルマウスかの?」
「ち、違います!」
「何でそこで否定するんだい?一昨日だって散々話してたじゃないか。最初の頃と違って聞くだけじゃなくて話すようにもなれてるし」
「み、ミスター、それいじめ?!絶対にいじめでしょ?!」
聡いリドルならばが行きたがっていないことくらい分かっているはずだ。
ここでそれを言うという事は、が強制的に行かされるようになるのは当然。
リドルはにっこりと笑みを浮かべる。
その笑みは確信犯の笑みだ。
結局はリドルと共にホグワーツに通うことを決定づけられてしまうのだった。
ホグワーツに行くには買い物が必要である。
となれば、ダイアゴン横丁だ。
ダンブルドアに連れられて、グリンゴッツでお金を下ろし、教科書を買い、杖を買い、鍋を買い、そしてペットを選ぶ。
「ペットは何が良いかの?」
「私、必要ないです」
「トムはどうする?必要かね?」
「そうですね、できれば梟が欲しいです」
「ならば、お金を渡すから買ってきなさい。わしはミサキと一緒に外で待っておるよ」
ダンブルドアはリドルにいくらかお金を渡してペットショップに行かせる。
その間、ダンブルドアとは近くのベンチに腰を下ろした。
映画でみたまんまのセットのダイアゴン横丁。
はその中を流れるローブを着た魔法使い達をぼうっと見る。
「この世界はつまらんかね、異界の者よ」
はダンブルドアの小さなその声にばっと顔を上げる。
警戒するかのようにダンブルドアを見る。
だが、ダンブルドアは穏やかな笑みを浮かべるだけである。
「どうしてそれを?」
「6年前のことをちょこっと調べたんじゃよ」
「調べた?」
「魔法界には預言というものがあっての。丁度6年ほど前に預言が2つに分かれはじめたんじゃ」
ざわざわっとするダイアゴン横丁の中、ダンブルドアの声がやけに鮮明に聞こえる。
「片方の預言はうっすらとしたもので、おぼろげだったんじゃが今ではそちらの方が真実に近くなってきておる」
預言というものが存在することは、も知っている。
預言者がいるくらいだ、正当な預言が存在しているのは普通だろう。
「何の、預言ですか?」
はダンブルドアの方を見ずに呟くように問う。
「闇の帝王、再来の預言じゃよ」
ぴくりっとが反応した。
言うまでもない、それはリドル、のちのヴォルデモートのことだろう。
今この時代は別の闇の帝王がいる。
「6年前までは、今年入学するホグワーツの生徒の中に闇の帝王となる人物がおるとのことじゃった。理事達は今年入学の生徒の中にグリンデルバルドの継承者がおるのではないかと噂しておったよ」
「グリンデルバルド…、今の闇の帝王ですね」
「そうじゃ。じゃが、今一番有力な預言は、一昨年入学した生徒の中に闇の帝王となる人物がおると言われている」
「は?それって、闇の帝王が別人になるってことですか?」
「そうなるの」
「別人になっても闇の帝王であることには変わりはないんじゃないんでしょうか?」
ダンブルドアは首を横に振る。
「被害の大きさがだいぶ変わるそうじゃ。薄くなりつつある預言が正しいものであったとしたら、被害は大きなものとなり、大きな戦争となる。じゃから、預言が分かれた原因を探した。それが、おぬしじゃよミサキ」
「私、ですか?」
「おぬしが現われたと同時に預言が2つとなった。そして、おぬしがトムの側にいればいるほど最初の預言は薄れていく」
「それって、預言の帝王がミスターだってことが分かっているんですね」
「知っているのはわしだけじゃよ。確証がないことは言えぬのでな」
「ですが、ダンブルドア先生は状況と可能性を考えてそうだと確信しているのでしょう?」
ダンブルドアは静かに頷く。
が現われたと同時に分かれた預言、そしてが関わることによって変わり始めてきたリドル。
それを考えれば確かに分かるだろう。
「私が側にいれば、ミスターは闇の帝王にならないんでしょうか?」
「言い切れないが、そうなるといいとわしは思っておる」
「ですが、ホグワーツに入学するなら確実スリザリンなミスターは闇の帝王街道まっしぐらな気がするんですけど…」
首をふってため息をつく。
スリザリンに入ればスリザリンの思考に染まってしまうのではないのだろうか。
「随分と詳しいの。ホグワーツを知っておるのか?」
「まぁ、多少は…」
「ふぉっふぉ。おぬしはどの寮に入りたいと思っておるのじゃ?寮のことは知っておるのじゃろう?」
「はぁ、そうですね…、しいて言えばハッフルパフでしょうか」
一番無難で一番平和そうである。
「ハッフルパフは難しいじゃろうな」
「え?!どうしてですか?!」
「おぬし、パーセルマウスじゃろ?」
「私狡猾じゃありませんよ?!」
「特殊技能を持つ者は、大抵スリザリンかグリフィンドールのどちらかに行くからの」
「よりによってその2択ですか…」
は巨大なため息をつく。
リドルはスリザリンが確実だろうが、はスリザリンには入りたくない。
純血ムードばりばりなスリザリンはに合わない。
かといってお祭り大好きグリフィンドールもには合わない気がするのだ。
「ああ、そう言えば、1つ聞いてもいいですか?」
「なんじゃ?」
ダンブルドアはがリドルの側にいることによって、リドルの未来が変わってきていると思っている。
それならば…?
「私をホグワーツに入れようとしているのは、彼の側にいさせる為ですか?」
の周囲では不思議なことは起こらなかった。
魔力など本当はないのではないのか。
ダンブルドアは首を横に振る。
「不思議なことに、6年前、おぬしが現われたと同時にホグワーツ入学予定者の名簿に1人名前が増えたんじゃよ。その名は”ミサキ・”。お主の名じゃ」
「…ってーことは」
「お主には魔力がある。というよりも、魔法使い以外のパーセルマウスなど存在せぬよ」
蛇と会話できるが魔法使いであることは当然のことだ。
ダンブルドアはそれ以上に対して深く聞いては来なかった。
どうしてホグワーツのことを知っているのか、どうしてリドルが闇の帝王になるかもしれないと聞いて驚きもしなかったのか。
深く突っ込まれないのはなによりもありがたい。