黄金の監視者 43
場所は黒の騎士団本部に移る。
黒の騎士団の本部というのはそう大きくはない。
トレーラー1台だけだ。
だが、そのトレーラーを置いてある場所が結構広い。
他の団員達はその倉庫らしき場所に寝泊りし、その倉庫には紅蓮二式をはじめとするナイトメアが格納されている。
スザクを連れ帰ったゼロは、幹部に説明をすることになる。
そして問題は、誰がスザクを見張るかであった。
勝手な行動をされては困るので、やはり見張りは必要だろう。
「オレがやろう」
名乗り出たのはナオトだった。
「アッシュフォードのクルルギ・スザク君だろ?ついでに色々聞きたい事もあるし」
「ならば、お前に任せる。しかし、油断はするな」
「大丈夫、みたいなものだろ?」
の名にスザクはぱっと顔を上げてナオトを見る。
あの場でと呼ばれていた黒髪の少年が、自分の知るであるのかスザクは確認できずにここに連れて来られることになってしまった。
ユーフェミアはゼロを信頼していたようだが、スザクはゼロの部下をユーフェミアの側においてきたことをとても心配している。
「初めまして、だな?枢木スザクくん。オレは紅月直人だ」
「紅月…?」
「もしかしたら妹の事を知っているか?紅月カレンっていうんだ」
ナオトがこの場にいるカレンへとちらりっと視線を向ける。
スザクは驚いたように目を開く。
「きょう、だい?」
「父親は違うけどな。オレは純日本人だが、カレンはハーフなんだ」
カレンはその事実が気に入らないのか、僅かに顔を顰める。
黒の騎士団は日本人が多い。
だからカレンも自分が日本人だと言い切るのだが、その身にブリタニア人の血が流れているのは変えようもない事実である。
「君の事はから少しだけ聞いているんだ」
「から?」
「”ナナリーに好かれている気にいらない友人”だってね」
ナオトが苦笑しながらそう言えば、スザクはふっと少しだけ笑みを浮かべる。
スザクが笑みを浮かべたことに、ナオトはほっとする。
「僕はに友人だと思われているんですね」
「友人だと思われていないと思っていた、か?」
昔からへのスザクの態度は変わっていなかった。
いつも何かと敵視していた。
それでも、スザクの存在を疎んでいたわけでもなく、感謝されることをすれば素直に礼の言葉も出てくる、そして気軽に話をすることもあった。
あからさまに気に入らないという表情をされると、果たして友人関係と言っていいものかスザクは迷うことがあったのだ。
「は黒の騎士団所属なんですか?」
「もしかして、知ったのは最近かな?」
ナオトはスザクが滞在する部屋へと案内する。
ゼロに目をむけ、ゼロが頷いたので歩き出すナオトとスザク。
その後をカレンがついていく。
それはゼロの指示か、それとも自分の意思か。
「カレンだけじゃなくて、も…」
スザクはついてくるカレンをちらりっと見る。
「はブリタニア皇帝が嫌いだって言ってたわ」
「の口癖だからな。”ロールパンが大嫌い”ってのは」
ナオトの言葉に笑いを堪えるかのように口元を抑えるカレン、そしてスザクはふっと笑いをこぼす。
話をし始めて、スザクの表情は随分と柔らかくなってきた。
「は相変わらずなんですね、ロールパンって」
スザクと会ってからも、はブリタニア皇帝を”父上”と言う事はなかった。
がブリタニア皇帝を示す時は、”ロールパン”か、もしくは”白いロールパン”であった。
父親が嫌いなのだろうということが、あの当時のスザクにすらはっきりと分かった。
「あなたはとはどういう?」
「同居人だよ。2年ちょっと前かな?オレはあるテロ組織のリーダーでね、ちょっとヘマしてこの通り」
ナオトは右腕があった場所を左指で示す。
そこには何もない。
今なら義手をつけることも可能だろうが、この状態に慣れてしまった今では義手をつけるほうが動きにくくなるだろう。
「その時と会って、それからゲットー内を一緒に転々としている」
「ゲットー?」
「深い事情は知らないけど、ゲットーにしか暮らしていける場所が見つからなかったそうだよ」
スザクにならばその事情が分かる。
シュナイゼルにとても良く似ている顔立ちをした。
その存在が見つかってはいけないから、ブリタニア軍に近づくわけには行かない。
子供が何の身分証明もなく暮らせるとすれば、ゲットーしかなかったのだろう。
「でも、は何でゼロに…」
スザクにはそれが納得できないのだろう。
ぎゅっと拳を握り締める。
「オレはがここに入った理由はすごく単純だと思うけどな」
「の行動なんて、会って間もない私でも分かるわよ。事情はあんたの方が詳しいんでしょ?それなら分かるんじゃない?」
はナナリーをとても大切に思っている。
そしてルルーシュも大切に思っている。
誰を犠牲にしても、その2人だけが大切だという事をスザクは知っている。
「けど、実際オレは、があそこまでゼロの命令に従うとは思っていなかったけどな」
「お兄ちゃん?」
「だってな…、のルルーシュ君とナナリーちゃんの大好き度を考えれば、あの2人の命令とかお願い以外にはそうそう従わないんじゃないかと思えるんだよな」
「そう?あの2人に危害を加えない命令なら、従うと思うわよ」
ナオトとカレン、どちらの意見も間違ってはいないだろう。
2人に危害を加えない命令ならば、確かには従うはずだ。
だが、ほんの少しでもその可能性があるのならば絶対に従わない。
だから、こそナオトの考えも間違ってはない。
黒の騎士団内で、がゼロの命令に背いたことは一度もない。
まるで盲目的にゼロに従っている様にも見えるのだ。
スザクはナオトの言葉に考え込む。
「結局はゼロもも、目指すものは同じようなものでしょう?」
「弱い者が生きられる世界、か?」
ゼロが目指すのはブリタニアでは切り捨てられてしまう弱者が生きることの出来る世界。
その考え方は理想的でとても難しく、だが、素晴らしいものではあるだろう。
スザクはそこまで考えて、はっとなる。
「ナナリーが幸せになれる世界…?」
ぽつりっと呟く。
に当てはめれば、弱き者に当てはまるのはナナリー。
ならばゼロはどうなのだろう。
この世界の全ての弱者に当てはまるのか。
それならば、あんなにたくさんの犠牲を出すことを平気で出来るのか。
「スザク君、どうかしたか?」
「あ、いえ…」
「オレに話せることでよければ時間つぶしに話すよ。その代わり、アッシュフォード学園でのカレンのことを聞かせてくれないか?」
「お兄ちゃん!」
「カレンやつ、どうしても学園の事は全然教えてくれないんだよ。は学年が違うからよく分からないって言うしな」
スザクがカレンと同じクラスであることはナオトは知っているのだろう。
そのくらいはも知っていそうだから、から聞いたはずだ。
「いいですよ」
「頼むよ。君が聞きたいことでオレが分かることなら話すからさ。何が聞きたい?」
スザクは少しだけ考えるそぶりを見せる。
黒の騎士団に所属し、ゼロに強い忠誠心を見せるほどに素直に従う。
かつてブリタニア軍にいたというのならば、上の命令に従うという事はそう抵抗がないかもしれない。
それでも、スザクの勘が何かあると訴える。
「ゼロの事を聞かせてください」
「ゼロの事?」
「どんな小さな事でもいいんです」
う〜ん、と考えるナオト。
「そうは言っても、オレもゼロにそう詳しいわけじゃないしな、側にいることも少ないし。カレン、どうだ?」
「私も、そう知っているわけじゃないけど…」
「けど?」
ナオトは黒の騎士団が動く時に行動を共にすることは少ない。
大抵が待機だ。
カレンの方がゼロの側にいる時間は多いだろう。
「人を従わせることが出来る何かがあるんだと思う。この人にならば従える…みたいな」
結果が出ていることもそうだが、ゼロの声には人を従わせるような何かがある。
この声に従っていれば結果がでると信じられるような何かが。
「ゼロが誰だかも分からないのに、随分と信用しているんだね」
「ゼロには素顔をさらせない理由があるから、仕方ないのよ!」
「素顔をさらせない理由?」
幹部たちはゼロが日本人でないことを知っている。
それが黒の騎士団全ての人間が知っているかどうかは分からないが、日本を立て直すというのにそのトップが日本人でないというのは、黒の騎士団の士気を下げかねない。
だから、幹部たちはゼロが仮面をしていることに納得をしている。
「けど、どんな理由でだって、信じられる相手にならば素顔を見せることくらい出来るんじゃないか?」
「そう簡単なことじゃないのよ」
「それじゃあ、ゼロが誰であるか知っている人はいないってこと?」
「そんなこと…ないと思う」
カレンはC.C.がゼロの素顔を知っているだろう事に気付いている。
彼女だけが何の役職もなくゼロの側に無条件でいることができる。
それは素顔を知っているからではないだろうか。
「だけど、ゼロのように結果を出せる人も、これだけのものを作り上げる人もいないよ、スザク君」
この短期間で黒の騎士団をここまで大きくした。
もはや、このエリア11では黒の騎士団の存在は当然のようなものになっているだろう。
そしていずれこの名は世界へと広がる。
「たとえ仮面をかぶっていたとしても、誰も彼の代わりにはなれないよ。違う人間が同じ格好をしてもその雰囲気と声で分かる」
それだけの存在感がゼロにはある。
人を従わせることが出来るだけの納得のいく計画の立案力、そして命令に否と言わせない声。
まるで上に立つ為に生まれてきたような存在。
そんな存在をスザクは知っている。
ブリタニア帝国の皇族がそうだ。
彼らの全てがそうとは言えないが、ブリタニア皇帝の血を引くものは少なからず生まれ持っての上に立つ為の雰囲気というものがある。
「オレも要もそしてカレンも…、この黒の騎士団にいる人たちは皆、ゼロについていくのが日本独立の一番の近道だと感じている」
だから、ここにいる。
「だけど、ゼロのやり方は犠牲が多すぎる。変えたいのならば内側から変えていけばいいじゃないですか」
まちがったやり方で得た結果は、虚しいだけでしかない。
スザクはそれを経験している。
だからこそ、ゼロのやり方を認めることが出来ないのだ。
「スザク君。そのやり方じゃ、今いる人が生きている時代に、ブリタニアが目指すものへと変わることはとても難しいと思うよ」
ブリタニアの圧倒的な力を黒の騎士団に属している日本人は、その身で実感している。
彼らに喧嘩を売って勝つことなど不可能だ。
その先入観など無意味だと思わせるかのように、ゼロはブリタニアに一泡吹かせた。
それは自分達でもブリタニアに勝つことが出来るという自信にもなった。
「けど、僕は…!」
スザクは間違っているやり方は認めないと言い切れなかった。
その考えが変わったわけでも、ゼロのやり方を認めたわけでもない。
ただ、何故かナオトの言葉を全て否定することが出来なかっただけだ。
それは何かが引っかかっているからなのかもしれない。