黄金の監視者 44
は行政特区日本にいずに、シュナイゼルと一緒にトウキョウ租界の特派のトレーラーのある場所に来ていた。
つまりアッシュフォード学園の大学部である。
一緒にいるシュナイゼルは、皇族らしい格好ではなく普通の一般人が着る服を着て何の嫌味か分からないがと同じようなサングラスをかけている。
もう何かを言う気すら失せてきたである。
何故特派に訪問しているかといえば、事の起こりは先日のを含む皇族4人で顔を合わせた時の事だった。
*
「はユフィの警護をしているのかい?」
「ま、一応そうですね。流石に就寝時は一緒にいることは出来ませんけど」
「当たり前だ!」
少し声を大きくしてすぱっと言ったのはコーネリアである。
夜が一番危ないので、警護はつけているもののも部屋の外で待機はしている。
物騒な気配が近づけば分かるので、浅く眠ってはいるもの今のところ問題はない。
「しかし、クルルギ君と交換とは、ロイドがまた煩いだろうな」
「スザクがランスロットのパロット…えっと、正式にはデヴァイサーでしたっけ?だからですか?」
「ランスロットと一番適合率が高いのがクルルギ君のようでね、彼がいないとデータもとれないだろうからね」
どれだけの間この状態が続くか分からないが、がここにいる以上、スザクも戻ってこないだろう。
ゼロがランスロットのデータの為にスザクを軍へと行かせるはずもない。
「データって十分データとってると思うんですけど…、河口湖畔でしょ、成田連山でしょ、式根島でしょ、あとは九州?」
「随分と詳しいんだね、。黒の騎士団へは設立当初からかい?」
「もうちょっと後ですよ」
そもそも黒の騎士団設立当初であった河口湖畔ホテルの事件では、は人質の方だった。
思いっきりビルから突き落とされてゼロに助けられた人質にはならかったが。
成田連山以降は、黒の騎士団の視点からランスロットの活躍を見ている。
あれだけの動きをしていれば、データは十分にとれるだろうに。
「が変わりにロイドの所に行ってみないかい?」
ごほっと思わずむせる。
げほげほっと咳き込んでしまう。
「兄上……」
どうしてこうとんでもないことをさらっと言うのだろう。
この人は果たしての立場が分かっているのだろうか。
は一応反ブリタニアを掲げた黒の騎士団の団員なのだ。
「僕は黒の騎士団ゼロ番隊所属なんですけど…」
「ロイドはそういうのは全く気にしないよ」
顔が引きつりそうになるのは仕方ないだろう。
「ユフィ、コーネリア殿下、この人に何か言ってやって下さい!普通は僕にそんなことは言いませんよね?!」
「シュナイゼルお兄様はが大好きだから、が側にいて欲しいのよ」
「特派は兄上の直属だからな。私がどうこう言う権利もない」
(せめてコーネリア殿下くらいは反対してくれると思っていたのに…)
まともに言い返されてしまった。
しかし、そうひょいひょいとがここを動くわけにはいかない。
「僕はユフィの警護という形で残ったんです。だから、ユフィの側を離れるわけにはいきません」
だから特派などに行けない、と言い放つ。
これなら立派な理由になるだろう。
「それなら、ユフィの警護には一時的に私の騎士を警護をつけようか。ユフィ、それで構わないかな?」
「はい、勿論です」
「兄上、ユフィ?!」
自分の騎士を貸し出してまで何をやっているんだ、とは言いたい。
そんなにランスロットの開発が大事なのか、それとも別の理由があるのか。
その理由を問いたいところが、恐ろしい答えが返ってきそうなのでやめておくことにする。
「あのね、ユフィ?」
「だって、アッシュフォード学園に行くのでしょう?だったら、も友人に会えるわ」
(それってまさか、僕にナナリーと会わせてくれようとしてるの?)
ユーフェミアは友人と言ったが、実際はナナリーとルルーシュを示しているかもしれない。
そこではっと気付く。
シュナイゼルはナナリーとルルーシュがアッシュフォード学園にいることを知っている。
そして特派が間借りしているのはアッシュフォード学園の大学部だ。
大学部に出向くならば、ついでに高等部に出向いてナナリーとルルーシュに会いにいっても構わないだろう。
「シュナイゼル兄上って、意外と甘いんですね」
ため息とともにこぼれる言葉。
思わずくすりっと笑いもこぼれてしまう。
「兄上がに甘いのは昔からのことだ」
コーネリアが当然の事のように言う。
にはまったく実感がないが、ナナリーも同じ事を言っていた。
思い出す限り心当たりはないのだが、コーネリアまでがそういうのだから、きっとシュナイゼルはに対しては甘いのだろう。
*
(けど、だからって一緒に来ることなんてないのに…)
そして今の状況となる。
真っ先に高等部に行きたかったのだが、今の時間帯は授業中。
ルルーシュは授業を受けていなくても、ナナリーは授業中だろう。
ということで、本来の用事である特派への訪問となるのだ。
「おや、珍しいですね〜、殿下がここに来るなんて何か御用でも?」
驚きもせずに出迎えたのはロイドだった。
は彼が驚いたのを視たことも見たことも殆どない。
この場にシュナイゼルがいることに盛大に驚いて欲しいものだが、彼にとっては驚くに値しないことなのだろうか。
「しかも、弟君とご一緒とは。仲良くなれたんですね」
「どうだろうね」
「しかし、貴方みたいな兄では、殿下も大変でしょうね」
「それはどういう意味かな、ロイド」
「そのままの意味ですよ」
こんな会話が出来ること自体、彼らはとても仲の良い関係なのだろう。
ロイドが伯爵であり研究以外は殆ど見向きもしないような性格だからこそ、成り立っている関係なのかもしれない。
ブリタニアの皇族であり優秀すぎる相手と、平然と付き合える人など少ないだろう。
「ねぇ、スザクって本当にここには来てない?」
「どこかの姫君が騎士に任命したお陰でデータを取る機会が減って、更に今度は黒の騎士団にとられちゃったからねぇ」
確認のため聞いてみたのだが、本当に来ていないようだ。
それならば高等部に行ってもばったりスザクと会うことはないだろうし、カレンに会うこともないだろう。
スザクが黒の騎士団内にいるのにカレンがのんびりと学校になど行くはずもない。
(あ、でも、ナオトさんが行かせるかもしれないんだよね)
あれでいて結構妹であるカレンのことを大切に思っているナオトである。
学生であるうちは学生としての生活も楽しんで欲しいと思うかもしれない。
「で、本当に今日はどんな御用で?」
「君が困っていると思ってを連れてきたんだよ」
目を開いてロイドはまじまじとシュナイゼルを見る。
「弟君を使っていいんですか?」
「危険はないんだろう?」
「肉体面では、と注釈がつきますけどね」
「精神面ではクルルギ君よりの方がずっと大人だよ。だから、大丈夫」
「あっさりと弟君が上だと言い切りますか…、相変わらずですねぇ」
くくっと笑うロイド。
笑みを崩さぬまま、ロイドは手でにランスロットが格納されている方へと促す。
しかし現在のエリア11のブリタニア軍からは独立した形をとっているとはいえ、一応ブリタニアの所属。
本当にがひょいひょいと近づいて良いのだろうか。
思わずちらりっとシュナイゼルを見るが、全く気にしている様子はない。
(そりゃ、僕がランスロットに乗ったからって、理論とか性能がわかるわけじゃないけどさっ!)
ルルーシュならば分かるかもしれないが、にはそういう小難しいことはさっぱりだ。
しかし、分からないだろうと思われていることがなんとなくむっとくる。
「けれど、殿下大丈夫ですか?戦場からは随分離れていたでしょう?」
ランスロットの操縦席に乗り込むをロイドとシュナイゼルが見守る。
「大丈夫だと思う」
「ナイトメアの操縦経験は…ない、ですよね?」
「月下なら乗ったことあるけど」
「ゲッカ?」
「黒の騎士団で四聖剣の人たちが使ってるのと同じやつ。ほら、藤堂先生が処刑されそうになった時に助けに来た時に何体かいたナイトメア」
スザクがランスロットに乗っていたのだから、あの時ロイドも近くにはいたはずだ。
となれば月下を見ているはずである。
「それって黒の騎士団のナイトメアですよね」
「うん」
「殿下って…」
「そういえば言っていなかったね、今は黒の騎士団に所属しているんだ」
あっさりとんでもない事を言ったのはシュナイゼルである。
今この近くに人がいないのを確認して言ったのだろう。
ロイドは目を開いて驚く。
「あらら…、殿下って相変わらず弟君に全然好かれていないんですねぇ」
「実は少しショックだったんだよ」
(嘘付け)
心の中で思いっきり言ってやる。
黒の騎士団とブリタニアは対決しているということは、すなわち今はともかくとしていずれははシュナイゼルの敵となる。
にそれが分からないはずもないだろうから、は分かっていて黒の騎士団に属しているということが分かる。
それはシュナイゼルと敵対しても平気ということになってしまう。
「セシルくん、悪いけどデータ採りを手伝ってくれるかな?」
ロイドが誰かに呼びかけているのが聞こえた。
女の人だろうそのセシルという彼女がロイドのところまで近づき、隣に立っている人物に驚いているのが気配が分かった。
はランスロットの操縦席にすでに入ってしまっているのでその光景を見てはいないが。
(なんかごちゃごちゃしてて、何がなにやら…)
この構成を視ることも可能性だが、の頭で細部まで記憶することも出来なければ理論を理解することも不可能だ。
(エネルギー源のサクラダイトがどこにあるかくらいは視ておこうかな)
ぐるりんっと中を視回す。
良く分からないランスロットの構成を見ていると頭が痛くなってくる。
だがサクラダイトのある場所はすぐに分かった。
気配というか、そちらから強いエネルギーを感じたのだ。
「殿下〜、降りてきていいですよ〜」
のんびりとしたロイドの声が聞こえてきてはっとなる。
視界を広げると気配に疎くなるというのは少し気をつけた方がいいかもしれない。
普段普通に声をかけられただけならば、はっとする事なく声をかけられる前に気付く。
(このギアスもいいんだか悪いんだか…、近くの気配に疎くなるってのは欠点だよね)
制限回数、制限距離等、制限というものがとても少ない分、視界に集中してしまう為に身近なことがおろそかになってしまう。
のギアスの欠点だ。
小さく息をついて、はひょいっとランスロットの操縦席から出る。
記録をとっていたらしいコンピュータの前にいたのはロイドとシュナイゼルだけではなく、もう1人女性、恐らく先ほどロイドが呼んだ女性だろう。
「いい数字な方なんでしょうけど、やっぱりクルルギ少佐には及ばないねぇ」
「いくつ?」
「平均で65%という所でしょうか」
「それって高いの?」
「クルルギ少佐に次ぐ2番目ですよ」
ふ〜ん、とは興味なさそうにデータを見る。
「けれど、興味深いですよ。案外若い子の方が適合率ってのは高いのかな?」
顎に手を当てて考え始めるロイドだが、にはさっぱりだ。
ちらりっとシュナイゼルの方に目を向ければ、にこりっと笑みを返される。
「随分とお金つぎ込んでいるんですね、ランスロットに」
「ロイドの研究はとても素晴らしいものだからね。それだけの価値があるんだよ」
金髪が2人並ぶ。
その姿にロイドに呼ばれて来ていた彼女、セシルがロイドにこっそり聞く。
この2人は誰なのか、と。
「ああ、彼はシュナイゼル殿下とそのおとうっ?!」
言葉の途中でロイドの頭にがかけていたサングラスが思いっきりヒットする。
投げるものがサングラスしかなかったので仕方ないだろう。
「人の事べらべら話さないでよ」
「ですが、殿下は殿下でしょう?」
「ロ、ロイドさん?!この方って…」
「うん。シュナイゼル殿下の弟君だよ。ほら、本国では行方不明扱いになっている」
今度はは投げるものがないのか、その言葉を遮らない。
サングラスを外せばのその顔立ちは隣に立っているシュナイゼルにとても良く似ていることが分かる。
むっとした表情をしながらも、はため息をつく。
「行方不明じゃなくてむしろ死亡扱いとかにしてくれると嬉しいんだけどね。兄上、そうしてくれません?」
「父上がきっと認めないよ」
「…ですよね」
シュナイゼルが言った所でそう簡単に死亡扱いになるのならば、8年も行方不明になっている間にとっとと死亡扱いにしているはずである。
あの父は一体に何を期待しているのか、それともただ面白がっているのか。
(ロールパンの手の上で踊るのだけは避けたいのに…)
けれど、どうあっても父の手の上からは逃れられないのかもしれない。
小さくため息をついたの頭にぽんっとシュナイゼルの手が置かれる。
そのまま子供のように頭を撫でられるが、は思わずそこからバッと離れる。
ものすごく恥ずかしい。
何するんですか!と文句を言うだが、その光景にセシルが驚いていたのを知らない。
「シュナイゼル殿下もあんな表情なさるんですね」
「殿下は昔から弟君のことを大切にしていたからねぇ」
「ええ、それは分かるような気がします」
シュナイゼルの公務の姿を見ている者ならきっと誰もがそう思うだろう。
ブリタニア皇族というのは、やはり実の兄弟には甘いのである。
それはシュナイゼルとも例外ではない。