黄金の監視者 33



九州で日本を名乗る者が反乱を起こしているそうだが、は何故かアッシュフォード学園の生徒会室にいた。
ロイドにここにいることを知られた以上、シュナイゼルにも伝わるのでアッシュフォード学園を退学するとルルーシュに言った。
せめて学園祭まで待っていろと言われ、その学園祭の準備を手伝うことになったのだ。
最後になるかもしれないから、とことん学生という身分を楽しめと言うことなのだろう。

「ごめんね〜、に手伝わせちゃって」
「構わないよ、ミレイさん。義兄上の代わり…ほどの能力はないけど出来ることはやるから」
「手伝ってくれるだけでも助かるわ」

ミレイにはもう伝えてある。
だからこそ、ミレイは積極的にを学園祭に関わらせようとしているのだろう。

「にしても、まだまだやることが山のようにあるね…」
「ルルーシュがいないとやっぱり進みがどうしても遅いのよね」

は作業をしながらテレビを見る。
テレビでは中華連邦の援助を受けた日本軍とブリタニア軍との交戦の様子が放送されている。
ゼロはどういう対応をするだろうか。
この日本軍に合流するということは、同時に中華連邦に借りを作ることになる。
いずれは話し合いなりのコンタクトを取る必要があるだろうが、借りを作ることを果たしてゼロが望むだろうか。

「ルルーシュは随分変わったよな」

パソコンを見ながらリヴァルが呟く。
そうかもしれない。
以前のルルーシュは賭けチェスをしていることはあっても、それなりに真面目に授業には出ていた。
今は授業をサボることも多く、それでも授業にはついていけるところが不思議なところだが、付き合いは悪くなっただろう。

「でも、義兄上も学園祭は楽しみにしていると思うよ。ただ、ちょっと忙しいだけで…」
「楽しみにしているなら、ちゃんと仕事をやってくれよ〜って感じだけどな」
「仕方ないよ」

くすりっとは笑う。
やっとやりたいことを、やるべきことを、進むべき道を見つけたルルーシュ。
きっと立ち止まることはないだろう。

「はいはい、文句言ってないで手を動かす〜」

ぱんぱんっとミレイが手をたたき、作業をするよう促す。
ぱちぱちとデータ整理をする中、学園祭の内容が並ぶ。
内容を見るだけで楽しそうな学園祭。

「楽しそうな企画ばっかりでしょ?」

データ整理をしているに笑みを向けてくるミレイ。

「うん、すごく楽しそう」
「でしょ?なんだかんだと、は今までまともに学園祭に参加していなかったもんね〜」
「ごめんなさい。バイトとか忙しくて…」

実際はバイトなどしていない。
学園祭に参加していなかったのは、学園祭に参加するよりもゲットーでブリタニア軍人を相手にしているほうが有意義だと思っていたからだった。
失うと分かって、そして短い時間を大切にしようとやっと思いはじめる。

「いいのよ。今年こそは存分に楽しみなさい」
「うん、ありがとう、ミレイさん」

最後だから、とはミレイも言わない。
多分、学生生活も楽しかったのだろうと振り返ってみればそう思う。
でも、ブリタニア皇族として、そして目に不思議な力を宿して生まれて来たが、少しの間だけでも普通の学生として暮らせたことはきっと、とても貴重な経験だったのだろう。
今はこの学園祭が無事に成功することを祈るのみである。



学園祭まであと数日。
先日の九州の一件はコーネリアの指示によるブリタニア軍によって首謀者が捕らえられたとニュースで放映していた。
実際はスザクのランスロットとゼロのガウェインによる共同戦線によって決着がついたらしい。
その報告を、は何故かC.C.から聞いた。
学園祭の準備を一気に仕上げようと、生徒会室にこもる生徒会メンバー。
日が暮れはじめ、残っているのはミレイ、ルルーシュ、スザク、だけになってしまっていた。

「スザク君、帰らなくて大丈夫なの?」
「うん。遅くなるって言ってあるし、軍務があるようだったら連絡が来るので」
「それじゃ、残ったメンバーで今日は徹夜よ!」
「会長、俺はナナリーが待っているので…」
「何を言っているの、ルルーシュ!ここはクラブハウスよ!心配なら時間を取って様子を見に行けばいいのよ!」
「それはそうですけど…」

ミレイの強引さには流石のルルーシュも逆らえないだろう。
確かにクラブハウス内に生徒会室はあるので、ナナリーの様子が心配ならばすぐに見にいける。

は帰らなくて平気なのかい?」

生徒会役員でもないのに残っているに、スザクが声をかけてくる。

「一応同居人には連絡してあるから。最後の学園祭なら準備から思う存分楽しんできなって言われてる」
「最後?」
「うん。学園祭を最後に、アッシュフォード学園やめるから」
「やめる?!」

同居人であるナオトにもそれは言ってある。
学生生活なんだから楽しめと説得されたが、黒の騎士団の活動云々ではなくて個人的な理由があって辞めるのだと言ってある。
決して授業がついていけなくなったからではない、ということは強く主張しておいた。

「バレちゃったからさ。僕だけやめればとりあえずは安心かもしれないし」
「バレたって…」
「シュナイゼル兄上に」

スザクが息を呑むのが分かった。
はっとなってスザクはミレイを見るがミレイは頷くだけ。

「ミレイさんは事情を知ってるよ」

が皇族であることも、そしてルルーシュとナナリーの事も。
3人をかくまってくれたのは、他ならぬミレイの家、アッシュフォード家なのだから。
スザクを呼びに来たロイド、そのロイドに姿を見られた。
それが原因だが、そのことでスザクに責任を感じてもらう必要もないので、何故バレたかはは言うつもりはない。

「でも、シュナイゼル殿下もそんな酷いことは…」
「しないと思う?スザクは考え方が甘いよ。ブリタニア皇族ってのはそんな甘い存在じゃない。ユフィみたいな優しい存在は貴重だよ」

あのブリタニア皇族の中で、綺麗ごとを並べられる皇子皇女が果たしてユーフェミア以外にいるだろうか。
ユーフェミアもコーネリアという姉がいなければ、あんな綺麗な存在にはならなかった。

「だから、大切にしないと駄目だよ?」
「へ?」
「だって、スザクはユフィの騎士なんでしょ?ユフィを大切にしないと駄目だよ」
「勿論だよ」

だがスザクはどこか戸惑ったようにを見る。

「何?」
「ううん。が僕にそんなこと言うとは思ってなかったから」
「何でさ?」
「だって、っていっつも僕に突っかかってきてたから」
「そりゃ、スザクは気にらなかったし…。でも、ユフィの騎士になるなら応援するよ」

にこりっとは笑みを浮かべる。
スザクがユーフェミアの騎士になることで、ナナリーが何も言わなくても寂しがっていることは分かる。

「だって、スザクがユフィの騎士になるってことは、ナナリーの騎士になることはない!それはつまりナナリーに近づく機会が減る!僕にとってこれ以上のことはないよ!」
「……それが本音なんだね」
「それ以外に何があるのさ!」

きっぱりはっきり肯定する
にとって所詮はナナリーが中心であり、それ以外でスザクに対する態度が変わることはない。
スザクがユフィに従うというのならば、それはそれでには都合がいい。

「相変わらずナナリー大好きよね、は」
「僕にとって一番はナナリーだから!勿論二番はルルーシュ義兄上!」
「だってさ、ルルーシュ」

ミレイが楽しそうな表情をしながらルルーシュを見る。

「その台詞、昔から腐るほど聞いていますから」
「それって昔からずっと変わらないってことじゃない?一途よね〜。嬉しいでしょ?」
「鬱陶しいだけですよ」
「またまた、照れちゃって」

ルルーシュは冷静に学園祭のデータを処理している。
昔からが言っていたことだったので、聞きなれているのだろう。
最初に「大好き!」とが言った時は照れてくれていたのだが、何回も聞かされれば慣れるものなのかもしれない。

「ちなみに三番目は?」

好奇心なのかミレイが聞いてくる。
はその問いに少し考える。

「昔はマリアンヌ義母様だったんだけど、…うーん、今はナオトさんかなぁ?」
「ナオトさん?」
「うん、同居人なんだけど、色々面倒見てもらっているし、助けられたこともあったし」

今も同居は続けている。
ただ、黒の騎士団に参加してから、その家に帰ることは2人共少なくなってきてしまっているが、それでも家は家だ。
ブリタニア軍に何度か壊されて転々と移動していても、今住んでいる所も、そう長く持たないだろうと分かっていても。

「ちなみに、スザクは後ろから12番目だから」
「え?何で?しかも、後ろから12番目って微妙なんだけど」
「後ろから一番はロールパン」
は本当に変わらないね」

嫌いなものも好きなものもはスザクから見れば、変わっていないのだろう。

「ロールパンって何?」

ロールパンが何を意味しているのか知らないミレイはに聞く。
は自分の頭の横で両手でくりくりっと円を描く。

「髪型、父上の」
「ブリタニア皇帝?」
「ロールパンみたいでしょ?」

一瞬ミレイの口元がひきつったかと思えば、声を上げて笑い出す。

「た、確かにそう言えるかもしれないわね…!」

スザクも思い出し笑いなのか、くすくすっと笑い出す。
どうしてこう皆笑うのかには分からない。
ナオトも爆笑して、ルルーシュとスザクも最初はかなり笑っていた。

「にしても、相変わらず発想が面白いわね、は」
「そうかな?」
「イベントのアイディアもたくさんもらったし」
「それを実行しちゃうミレイさんがすごいよ」

生徒会恒例の強制イベントだが、アイディアに関してはも一役買っていたりする。
自分も参加することになるのだが、はナナリーが喜んでくれればいいので、見て楽しむよりも、耳で聞いても楽しめるものを立案する。
それがかなりミレイには好評だったようで、いくつか行われたイベントがあった。

「それは、あのとんでもないイベントの中にの案があったということか?」
「うん、そうだよ。…って、義兄上?なんか目が怖いんだけど」
「いや、どれがそうなのかと思ってな」
「僕はただ、ナナリーが楽しければいいな〜って思って提案していただけだよ?」

だから、怒らないでもらえると嬉しいな〜とルルーシュの顔色を伺えば、ルルーシュの目は怖かった。
確かにイベントはとんでもないものだったが、それはそれで楽しめたのではないかと思うのはの考えでしかない。

「これから存分にこき使ってやるから覚悟していろ」
「え、ええ…?!」

(義兄上それって、学園祭関係の事?それとも黒の騎士団での事?)

スザクとミレイがいる場ではそんな事も聞けないので、ちょっとした不安を抱えたままルルーシュを見るしかないだった。
ちなみに、学園祭までルルーシュに散々こき使われたのは言うまでもないだろう。