黄金の監視者 32
さくりさくりっと森の中を歩くルルーシュ、、ユーフェミア。
昨夜見えた明かりの方へと向かっている。
「状況を見てから対応を決めよう」
がそちらを先に”視て”から、ブリタニアか黒の騎士団かの区別はついている。
ブリタニアの捜索隊なのか、とにかくあの浮遊艦がある事をルルーシュには伝えてある。
捜索隊にしては重装備なのが気になっていたが、ルルーシュはその目で判断してから対応を決めることにしたようだ。
ブリタニア軍がここにいる以上、黒の騎士団が動くことはないだろう。
となればどうにかして、自分達で脱出しなければならない。
「このあたりだと思うんだが…」
「ルルーシュ」
浮遊艦がいると思われる場所まで来て、足を止める。
「いるのが捜索隊だったら、この時間も終わりなの?」
この時間が終わってしまうことが不安であるかのように、ユーフェミアはルルーシュを見る。
穏やかな時間だった。
まるで少しだけ昔にもどったかのような。
「仕方ないさ」
幸せな時間はそう長くは続かない。
この時間ができたのは本当に偶然の事だったのだから。
はこの近くに気配を感じてはっとなる。
「義兄上」
「どうした?」
「誰か来る」
その言葉にルルーシュは手に持っていたマントを羽織り、仮面をかぶる。
ユーフェミアを草陰へと誘導し、も後に続いて隠れる。
それと同時にかさかさっと草の音が聞こえ、気配の主が現れる。
気配は2つ。
(やっぱり、スザクとカレンさん)
気配で2人だということはなんとなく気づいてた。
「スザク…!」
草陰にしゃがんで隠れていたユーフェミアが嬉しそうに立ち上がる。
あ…とが思った時には遅かった。
こちらの存在をスザクに知れてしまうのは困ることだったのに。
「ユーフェミア様?」
案の定ユーフェミアの声に2人はこちらの存在に気づく。
ルルーシュ…ゼロがユーフェミアの腕をとり、とっさに銃口をユーフェミアへと当てる。
「動くな!彼女は私の捕虜だ」
くっとスザクが拳を握っているのが見えた。
「そこにいる私の部下を返してもらおう」
カレンは後ろで手を縛られている状態なのか、スザクの捕虜になっているようだ。
スザクが睨むようにしてこちらに一歩ずつ近づいてくる。
はユーフェミアとゼロをかばうように前に出る。
「動かないでもらおうか?クルルギ・スザク」
が殺気を放てば、スザクは警戒するようにその場にぴたりっと止まる。
(甘いね、スザク)
カレンを離すべきではなかったのだ。
後方でカレンは後ろで固定されている腕をなんとかしようと、足をくぐらせて腕を前へと移動させる。
そして、そのままスザクへと飛び掛りくくられた腕でスザクを拘束する。
「おやめなさい!」
の後ろからユーフェミアの静止する声。
「黙ってろ!お人形の皇女が!1人じゃ何もできないくせに!」
「ま…っ!」
カレンの言葉にユーフェミアがむぅっと膨れたのが分かった。
そんな言葉に反応しないで欲しい、というのがの正直な思いだ。
「構いませんスザク!私に構わず戦いなさい!」
「皇女殿下!」
ゼロがユーフェミアをいさめるように名を呼ぶが、それは意味を成さない。
カレンの拘束を解こうとしたスザクに、はかちんっと刀を抜き放ち、それをユーフェミアの首にぴたりっと当てる。
スザクがカレンの拘束を解ききる前に、その動きを止める。
「うん、忠義者だね。クルルギ・スザク」
「ユーフェミア様をどうする気だ?」
「君が動かなければ、どうもしないよ?」
刀をユーフェミアの首に当てているものの、はユーフェミアを斬る気はない。
銃口を向けるよりも、刀を向けたほうが効果的だと思ったからそうしたまでだ。
「スザク!」
「ユーフェミア殿下、いくらクルルギ・スザクでも刀と銃、両方は防げないよ?」
だから大人しくしててね、とは言いたかったのだが、ユーフェミアはきゅっと唇を結びをきっと睨む。
戦場経験も政治的な手腕もない可愛いお姫様に睨まれた所で、別に怖くもなんともないのだが、睨まれたことにちょっと驚く。
「斬りたければ、私を斬ってみなさい!」
「へ?」
「私を斬る覚悟があるのでしょう?!だったら、今ここで、斬ってみなさい!」
「は…ちょっと待って、確かに昨日はそう言ったけど…」
「自分の言ったことを撤回する気ですか?!」
「いや、あの、それはどうしてもって状況の時であってですね、ユーフェミア殿下」
「ユフィです!」
(ええ?!こんな時にそう呼ばないと駄目なの?!)
予想もしてなかった展開には困惑する。
その状況を隙と視たのか、スザクが動いたのが気配で分かった。
ゼロがユーフェミアを開放すると同時に、も刀を納めてユーフェミアから離れる。
「ユーフェミア様!」
「スザク」
スザクがユーフェミアを守るように立つ。
「ユフィ!さっきのはずるいっ!」
「そんなことはありません!」
抗議するに、その言葉はきっぱり否定させられてしまう。
だが、その瞬間、立っている大地が光る。
キィンっと瞳が強く輝くのがには分かった。
(何?!)
そして、また視界が一気に切り替わる。
広い空間、そこで笑みを浮かべる少年。
(ここに移動させたひと…?!)
がくんっと地面が下がる。
の視界は切り替わるが、距離のコントロールが出来ない。
力が一時的に増している気がする。
(通常の視界に戻さないと…っ?!)
下がる地面でバランスを取りながらも、は視界を戻す途中で見えたものに息を呑む。
ごぉんっと地面が”下”に降りる。
見えたのはブリタニアのナイトメアと何かの装置。
そして、見覚えのある姿が2つ。
実兄シュナイゼルとロイドの姿。
(ここはまさか…?!)
は周囲を見渡し、見えた”扉”に愕然となる。
ここが”扉”にこんな近い場所だったとは思いもしなかった。
いや、だからまたあの介入があったのか。
「クルルギ少佐?!それとまさか…ゼロ?!」
先日も聞いたことのある声。
そう、この声はロイドの声だ。
はユーフェミアのいる方へと動く。
幸いスザクは呆けているようでの動きに反応しない。
ユーフェミアの腕をぐいっと引っ張る。
「?!」
「ごめん、ユフィ」
ユーフェミアの身体を軽々と抱き上げる。
「必殺、ユーフェミアアターック!」
ユーフェミアをスザクに向かって投げつける。
きゃっと悲鳴が聞こえて、なだれるように倒れこむユーフェミアとスザク。
スザクさえ動けなくしてしまえば、ここにいる数人のブリタニア軍人など敵ではない。
ゼロはカレンが指摘した新型らしいナイトメアへと乗り込んでいくのが見えた。
はかかってくるブリタニア軍人を鞘に納めたままの刀をふるって、昏倒させていく。
(シュナイゼル兄上…)
はロイドのすぐ側にいる兄の姿をちらりっと見る。
「カレンさん」
「行くわよ!」
「うん」
新型のナイトメアの肩の両肩に乗るとカレン。
同時にそのナイトメアが起動する。
(このナイトメア、ガウェインって言うんだ)
ロイドの言葉にこのナイトメアの名前が分かるが、ランスロットの次はガウェインとは円卓の騎士でも作る気だったのだろうか。
ウィンっと動き出すナイトメア…ガウェイン。
「出口にサーザランドが!」
カレンの言葉には前方に立ちはだかるブリタニアのナイトメア、サザーランドの数を確認する。
戦闘のためにこちらに来ていたわけではないようで数はそう多くない。
「ゼロ、出口近くに5体、この洞窟の外に8体いるよ」
『ああ、掴まっていろ、このまま突っ込む!』
ガウェインの両肩にある兵器が開く。
はそれにはっとなる。
「ゼロ、それは…っ!」
それはあの式根島で降り注いだ攻撃をしたものだ。
あの攻撃は広範囲に広がっていた。
つまりそれを作動させるということは…。
ガウェインから放たれたそれは洞窟内を拡散するかのように散らばる。
「…やっぱり」
どうにかガウェインにしがみついていてこちらに被害はないが、使えるものではないだろう。
「ゼロ、新手が!」
『分かっている。心配するな、もうひとつは作動している』
ガウェインの背に羽のようなシールドが発動し、ふわりっとナイトメアが浮く。
いまだかつてナイトメアが空を飛んだものを見たことがない。
めまぐるしく発展していくブリタニアの兵器。
(すごい…)
は素直に感嘆する。
『、扇達の居場所は分かるか?』
「え?あ…、ちょっと待ってて」
は潜水艦が潜伏していることを祈りつつ、周囲を”視る”。
救出作戦を取るつもりならば、そう遠くにはいないはずだ。
思ったとおり、見覚えのある潜水艦を発見する。
「ここから北東に10キロくらい離れた場所にいるよ。ジャミングはかけているようだけど、専用回線なら通じると思う」
専用回線コードを知っていれば連絡を取ることは可能だろう。
はあの”扉”のあった島の方を振り返る。
8年ぶりに見たシュナイゼルの姿。
は手に持っている刀をぎゅっと握り締める。
(兄上…)
仲は良くなかったといっても、実兄だ。
やはり気になってしまうのは仕方ないだろう。
ナナリーやルルーシュとは別の意味で、シュナイゼルはやはりにとって普通の人とは違うのかもしれない。