黄金の監視者 28
クルルギ・スザクの捕獲。
スザクとユーフェミア皇女殿下がブリタニア貴族を出迎えるために島に出向くと言う事で、スザクの捕獲作戦が取られることになった。
スザクよユーフェミアが向かった島というのが、日本列島から離れた式根島という島である。
「暗殺?なにそれ?」
は自分に与えられたナイトメアをじっと見上げながら、カレンに尋ねる。
「そういう話もあったらしいって事だけよ」
「スザクを?」
「そうよ」
ふ〜ん、とは適当に返事をする。
(スザクを暗殺なんて無理だと思うけどなぁ)
ブリタニア軍人だからではなく、スザクほどの実力者相手に暗殺が出来るほどの技術を持った者がこの黒の騎士団にいるのだろうか、ということだ。
実力で対抗できるとすれば、藤堂くらいだろう。
「でも、結局なくなったわ」
「それは正解だね」
「どうして?」
は疑問を返してくるカレンに驚く。
カレンだってスザクの実力は分かっているのではないのだろうか。
生身でかかっていって、カレンが勝てるような相手ではない。
「アッシュフォードでスザクを暗殺しようなんて考えていたら、僕が絶対に邪魔しただろうから」
「何でよ?」
はにこっと笑みを浮かべる。
「考えてみてみてよ、カレンさん。僕がここにいるのはナナリーのためなんだよ?アッシュフォードにはナナリーがいる。ナナリーがいる場所で、そんな物騒なことさせるはずないでしょ?」
ナナリーには二度と血を見せたくない。
過保護だと言われても、ナナリーは十分悲しいものを見て感じてきた。
これ以上はそんな思いをさせたくない。
が黒の騎士団にいるのは、ナナリーが幸せになれる世界を作れると思ったからだ。
ナナリーに害が及ぶのならば、例え黒の騎士団にとって理になることでもは逆らう。
「僕は自分の力をちゃんと正当に評価できているつもりだよ。だから、はっきり言える」
過小評価も過信もしていないつもりだ。
「アッシュフォードに暗殺者をよこしても、僕とスザクならそれを軽々撃退できるね。今の黒の騎士団に僕とスザクの2人を相手に出来るような人なんていないよ」
は黒の騎士団そのものの味方というわけではない。
日本を開放するなどという目的があるわけでもない。
だから、黒の騎士団の起こす行動がの目指すものとは違うものになるのならば、敵だと普通に認識する。
「って、そろそろ時間だね」
ぱさりっと揺れる黒髪のウィッグをつけたま、はナイトメアへと乗り込む。
が乗るのは、先日藤堂と四聖剣が乗っていた月下と同じタイプのナイトメア。
特注のナイトメアがすぐ出来るはずもなく、今ラクシャータが考案中とのことらしい。
刀を持ち、黒の騎士団の団員服ではナイトメアへ乗り込む。
(ナイトメアの操縦方法は頭にあるから大丈夫だと思うけど…)
手を伸ばせば届く場所へと、刀を置きナイトメアの内部を見る。
小さく深呼吸。
さあ、新しい戦場の始まりだ。
*
式根島の司令部を攻撃し、ランスロットをおびき出す。
ユーフェミアの性格ならばスザクを寄越すだろうと読んでの行動だ。
ゼロ番隊のとカレンは、藤堂の指示に従う。
(でも、どうしてこんな辺境とも言える式根島になんてブリタニアの貴族が…)
気になることは他にもある。
わざわざこの場所を選んだことも気になるが、情報が駄々漏れなのも気になる。
まるで何かの罠の様に感じる。
『対象を確認。各機第三陣形をとりつつ、後退せよ』
司令部を攻撃しているうちに、ゼロの読み通りランスロットが現れる。
ランスロットが現れたならば、これ以上司令部に長居は無用だ。
(それにここは近いんだよね)
は司令部から後退しながら考える。
ここ式根島は、あの”扉”がある島の近くにある。
これは偶然なのか、誰かが仕組んだことなのか。
(ゼロをおびき出すにしても、コーネリア皇女殿下がこんな策を使うはずがないし)
ユーフェミアを溺愛しているコーネリアがユーフェミアを利用しての作戦など考えるはずがない。
がそう考えている間にも、ゼロの作戦は進んでいく。
ゼロのナイトメアがラクシャータの用意した装置の力場へとおびき出す。
ランスロットがその力場へ入った瞬間、装置が作動する。
(うまくいってるみたいだね)
ランスロットが止まり、スザクがゼロに言われるまま降りてくる。
(考えすぎだったかな)
はふぅっと息をつくが、何かひっかかった。
自分の勘か、それとも気を感じる感覚か。
まるでまだ戦場の中にいるような緊張感。
(なんだろ、何かが来る)
はナイトメアの操縦席を開き、身体を半分外に出す形をとる。
『君、どうした?』
藤堂が通信で聞いてくるが、はその声に耳を傾ける余裕がなかった。
は集中して周囲を”視る”。
必死で周囲を”視る”が、自分の勘にひっかかるものが見つからない。
『ゼロ!!』
カレンの声と、カレンが力の影響を受ける力場へとナイトメアごと入ったのが分かった。
ミサイルがこちらの方に向かってくるのが”視え”る。
(違う、これじゃない!)
少し離れたところから大きな”何か”がこちらに向かってくる。
はっとして、は顔を上げてそれを”視た”。
空中浮遊艦、ここまで大きなものは初めて見る。
こんなものを実現できる技術力がブリタニアにはあったのか。
キィンッと一気に視界が広がる。
浮遊艦の中が”視え”る。
そこにいるのはと同じ金髪、そしてブリタニア皇族の証であるかのような紫色の瞳。
まるで未来の自分を見ているかのような、にとても良く似ている顔立ち。
罠であるかのような式根島へのブリタニア貴族訪問、そしてその情報は罠といわんばかりにネットで公開されていた。
ユーフェミアを使うというコーネリアらしからぬ策。
それらが全て納得できる理由が、そこにはあった。
(兄上…?!)
『全ナイトメア!飛来するミサイルに対して弾幕を張れ!全弾撃ちつくしても構わん!』
藤堂の声が通信機を通して聞こえてくる。
その声に従う余裕がにはなかった。
藤堂達が撃つ弾丸は全て浮遊艦にはじかれていく。
(これは全部、シュナイゼル兄上の指示…!)
そこにいる兄の姿がには”視え”る。
そこから先は、もう無意識の行動だった。
近くに置いた刀を手にとり、力場へと生身で入り込む。
シュナイゼルが何か指示を出したのが”視え”た。
恐らく何らかの攻撃をしてくるのだろう。
「ゼロ!!」
叫ぶがこの声は届かないだろう。
それでも、呼ばずにはいられなかった。
(義兄上…っ!!)
にとって、ナナリーがいてルルーシュがいて、そして初めて他の人の命を考えることが出来る。
今この場で、たとえスザクを斬っても、そうすることでルルーシュが助かるのならばは迷わずスザクを斬る。
その後でルルーシュがどれだけを責めるだろう事がわかっていても、の行動は変わらないだろう。
(え…?)
浮遊艦から何かの攻撃が来る、そう感じた瞬間。
ランスロットが動き出す。
そのスピードで、浮遊艦からの”何か”の攻撃を綺麗に避けていく。
ゼロを拘束していたスザクの行動とは思えない何か。
(まさか、義兄上…!)
しかし、もそんなことを考えている余裕はない。
頭上からの攻撃を全て避けきることは難しい。
避けきった所で、頭上の浮遊艦は健在だ。
(このままじゃ…っ!)
キィンっと目に宿る力が増した気がした。
「…え?」
は動きを止めて”空”を見る。
そこから視界が切り替わっていく。
空の先を見るわけではなく、まるで別の空間へと視界が切り替わる。
浮かぶ”しるし”。
それはの瞳に浮かぶ”それ”と同じもの。
額にその”しるし”を刻んだ少年少女たち。
そして…笑みを浮かべる、あれは少年だろうか。
(この光景…、僕は前に見たことがある)
初めてみた光景ではないとは感じた。
自分は一体”どこ”を見ているのか。
そんなことは分からないが、これは初めてみる光景ではない。
― 生きたいのならば、契約を
そう、これは生まれる前に見た。
契約主と契約をした時に、”視”えたもの。
(貴方は…だれ?)
誰かの介入があった。
それだけは分かった。
あの状況で立ち止まったきり、一歩も動かなくなったが無事でいるはずがない。
痛みも何も感じず、今こうして”視る”事ができるということは、何かの干渉があったということだろう。
何かに身体を包まれた感覚。
そして一瞬記憶が飛ぶ。
(あなたは、僕の契約主?)
答えなど返ってこなかった。
でも、何かが”視え”た気がしたのだ。
そして、の視界は真っ白になる。
上を見ていたはずなのに、いつの間にか視線はまっすぐに、”普通”の視界へと戻っていくのだった。