黄金の監視者 26
クルルギ・スザクの騎士就任式。
同時に黒の騎士団では、団員の再編成が行われていた。
はそれを聞き流しながら、スザクの騎士就任式を”視て”いた。
黒の騎士団でどの所属になっても、やることはきっと変わらない。
陰口をたたかれながらも、ユーフェミアの下へと歩くスザク。
その視線は厳しいだろうに、それに耐えていくつもりなのか。
(ユーフェミア皇女殿下も、何を考えてスザクを騎士にしたんだろ?というより、どこで知り合ったんだろ?)
特派とはいえ、スザクは一兵士にしか過ぎない。
ブリタニアの皇族である皇女殿下に関わることなどどこにもないはずだ。
(あ、でも、確かスザクがアッシュフォード学園に通うようになったのはユーフェミア殿下の取り計らいとかなんとかって聞いた覚えが…)
「」
(それだけにしても接点がないよね、やっぱりどこかで会った事あるのかな?いや、まぁ、実際ユーフェミア殿下が誰を騎士にしようが僕には関係ないんだけど、ナナリーが…)
「・リキューレル!」
「へ?はい?」
名前を呼ばれて視線をようやく通常に戻す。
気がつけば視線が自分に一斉に集まっている。
再編成の発表があったはずだが、何故こんなことになっているのだろうか。
「私の話を聞いていたか?」
「へ?」
ゼロに直接問いかけれ、は思わずきょとんっとする。
「・リキューレル。お前の所属は?」
「え?あ…えっと……」
とりあえず編成の一覧がゼロの背後にばっと載っているのでそれを目で追う。
細かすぎて普通の視力ならの位置からは見えないかもしれないが、そこはの目は普通じゃないので確認することが出来る。
「えっと、ゼロ番隊副隊長?」
(何それ?)
自分で言っておいてなんだが、所属が分かったもののどういう位置になるのかさっぱりだ。
その上にカレンの名前があるということは、カレンの下につくということなのか。
色々視てみれば、ナオトの名前は扇のすぐ側、副指令補佐という形になっているようだ。
「それ相応の働きができないようならば、それを返してもらうことになるが?」
「え?!それは困る!」
それとゼロが言ったのはの新しい愛刀の事だ。
2〜3度ほど試しに振ったことはあっても使ったことがない。
「せめてナイトメアが斬れるかどうか試してみてみたい!」
「斬るのは構わないが、ブリタニアのナイトメアだけにしておけ」
「了解!」
びしりっと姿勢を正す。
そのままじっとゼロの反応を待つが、それで良かったらしい。
ゼロがその後一言話して解散となった。
気が緩んだところで、ぽこんっと頭を軽く叩かれた。
「ちゃんと話を聞いてないと駄目だろ、」
「ごめんなさい、ナオトさん」
ちょっとだけ反省はしている。
「でも、ゼロ番隊って何?」
「お前な……」
「ゼロの直属部隊よ」
呆れる直人の隣でカレンが説明してくれる。
は思わずゼロの方を見たが、ゼロはディートハルトとなにやら話中である。
「あれを見る限り、カレンさんが僕の上司?」
「一応私が隊長だけど、多分ゼロが指示を出すと思うわ」
「じゃあ、ゼロに従っていればいいってこと?」
「そうね」
ゼロに付き従う直属の部下。
スザクの騎士就任の光景を見ていた途中だったからだろうか、直属部隊というよりも他の言葉がの頭に浮かぶ。
「なんか、ゼロの騎士みたいだね」
ゼロに忠誠を誓う、ゼロに尽くすためだけの騎士。
カレンはそれにぴったりかもしれない。
黒の騎士団の中では、恐らくカレンが一番ゼロに忠実だろう。
はぐるんっと団員を見渡す。
ぱちっと目が合ったラクシャータは軽く手を振ってくれたので、こちらも軽く手を振り返す。
そして最近黒の騎士団に入団した藤堂鏡志朗と四聖剣の4人が見える。
その中で見覚えがあるのは、藤堂だ。
じっと見ていると藤堂と目が合ったのでにこっと笑みを浮かべる。
彼が黒の騎士団に来て、顔をまともに合わせたのはこれが初めてだろう。
(せっかくだから挨拶しておくべきかな?)
ひょこひょこっと気軽に近づく。
他の団員は、彼らの雰囲気に入り込めないのか近づこうとはしていない。
きっと存在感が違うと感じてしまうのだろう。
だが、はそんなことを気にしない。
「えっと、お久しぶりです?」
ちょこんっとが首を傾げるように挨拶をすると、藤堂はまっすぐ視線を向けてきた。
「やはり君か?」
「はい、今は・リキューレルですけどね。お久しぶりです、藤堂先生」
昔クルルギの家でお世話になっていた時、はスザクと一緒に藤堂の教えを受けていた時期があった。
実力が均衡していただろうスザクとはよく手合わせをしていたし、藤堂とも何度か手合わせをしたことがある。
1度手合わせをした事があるかなり使い手の武人というのは、その相手の癖というものを覚えている。
が今ここで話をしなくても、の戦い方を見ていればバレてしまうだろうことが分かっているので、先に声をかけたのだ。
「また、時間があれば手合わせしてください」
「こちらこそ、お願いするよ」
自分の師匠とはまた違った強さを持った人だったことを覚えている。
はずっと大人の中にまじってその強さを身につけてきたので、藤堂に対しても臆することなく立ち向かっていた。
そんなに同じくらいの年ながら、対等とも言える技術を持っていたのはスザクくらいだった。
ただ、あの年齢だったからかは分からないが、スザクはその強さにかなりムラがあったのを覚えている。
「しかし、君は生きていたんだな」
「色々ありましたけど、なんとか」
「あの2人は…?」
問われてはどう答えるか迷う。
藤堂はルルーシュやナナリーとも面識がある。
「君が今ここにこうしているということは、どこかで無事でいるんだろうな」
その言葉には肯定も否定もできなかった。
(どうして分かったんだろ?)
がそう思っているのが分かったのか、藤堂はふっと笑みを浮かべる。
「あれだけ君が大切に思っていた2人がいなくなったのならば、君の雰囲気が変わっているだろうと思ったからだよ。君は昔と変わらない、守るべき者がいるという目を失ってない」
そう言われて確かに、とは思う。
あの時、日本でルルーシュとナナリーが日本人によって傷つけられでもしたら、はきっといまここにいない。
ナナリーとルルーシュが日本人によって、表向きの状況のように亡くなってしまったのならば、このエリア11と名を変えたかつての日本に無意味とも思える復讐をしていたかもしれない。
「だが、スザク君は…」
「知ってます。ブリタニア軍にいるってことも、特派のランスロットのパイロットだってことも」
「覚悟が出来ているんだな」
「僕にとって大切なのはあの2人で、あの2人の幸せを邪魔するのならば…」
は静かに藤堂を見る。
「実の父だって、僕はこの手にかける覚悟があります」
立ちはだかるのが友人でも、親しかった人でも、そして血縁者でも。
覚悟はブリタニアを出てくる時にしてきた。
「でも…」
は少しだけ迷い始めている。
スザクは敵であり、自分の障害となるだろう事が分かっている。
躊躇いを感じ始めているのは、ナナリーとルルーシュが悲しむかもしれないから。
「スザク君とは戦えないか?」
藤堂の言葉には首を横に振る。
「戦えないわけじゃないんです。でも…、殺せないかもしれない」
ナナリーが泣くのは嫌だ。
ナナリーが悲しむの嫌だ。
ルルーシュが悲しむのは嫌だ。
ルルーシュが傷つくのは嫌だ。
「君がそう思うならそれでいいじゃないか?」
「藤堂先生?」
戦争をする以上、相手を殺したくないなどという甘い考えは通じない。
ブリタニア軍はそういう教えだった。
敵は殲滅する。
「スザク君が君の進む道に立ちはだかるならば、君は自分の道を進むためにスザク君を殺すという選択肢しか思い浮かばないわけじゃないんだろう?」
ははっとなる。
殺伐とした戦場をたくさん経験してきたには、話し合いという手段は殆ど頭に浮かばない。
邪魔をするなら消す、そのやり方はブリタニア人らしいものなのだが、そうやってきたのだから他の手段など思い浮かぶはずもなかった。
「殺す…以外の手段」
(そっか、考えもしなかった。説得…とかは無理だろうけど、殺す以外の手段はたくさんあるんだよね)
の説明や説得の言葉で、スザクを納得させられる言葉など思い浮かぶはずもない。
それでも、言葉以外にスザクに訴えかける方法がないわけでもない。
邪魔をするのならばそれをなぎ払う。
だが、なぎ払うと殺すはイコールでなくてはならないわけではない。
敵を生かすことがどんなに危険なことかは、だって承知している。
でも、間違ってはいけないのだ。
(僕は敵を殺したいわけじゃなくて、ナナリーと義兄上が笑顔でいて欲しいって思うのが願いだから)
「ありがとうございます、藤堂先生」
迷い始めていた道が再び見えてくる。
「迷った時は、人生経験がより多い誰かに頼るのもひとつの手段だ、君」
「はい」
1人だけじゃないで、誰かに頼ること。
多分、それはとても大切なことなのだ。
1人で出来ることなど、結局はそう多くはない。
人は、たくさんの人の手をかりて、助けてもらって、そして多くの事を成していくのだから。