黄金の監視者 25




は今日はお留守番である。
黒の騎士団の本部ともいえる場所で、ゼロ達が藤堂鏡志朗を救い出してくるのを待っている。
依頼はキョウト経由の四聖剣からだった。
四聖剣とは、藤堂が信頼を置いたかなり実力のある彼の部下4人。

「新しいナイトメア、ゲッカって言うんだっけ?」

目は彼らのナイトメアを”視”ながら、はその月下の開発者である女性へと問いを向ける。
褐色の肌をしたキセルを持った女性は、ナイトメアの開発者とは思えないほど若い。
研究者と言えば、もっと年老いた人間を想像するだろうが、ナイトメア自体がかなり新しい平気だからか、開発者達も若いのか。

「そうよ。そう言えば、あんたが?」
「うん」
「キョウトのじいちゃんから預かりものがあったっけ」
「預かりもの?」

思わず視線を戻す
月下の開発者である女性、ラクシャータがぽんっと何かを投げてくる。
かちゃりっと音を立てての手に納まったのは、一本の刀。

「え?これって…!」
「名刀らしーわよ。ゼロがあんたの名前を言ったら、あっちがこれをくれたってさ」
「うわ…」

すらりっと鞘から刀を抜いてみる。
剣を使う者でなくても分かるだろう、普通の剣とは違う気迫がその刀からは伝わってくる。
まさに生きている刀。

「名前はないらしーけど、かなりいい刀で使い手を選ぶって」
「名前ないんだ」

使い手を選ぶのは手にとった瞬間分かった。
下手な使い方をすれば、刀に振り回される結果になってしまうだろう。
でも、だからこそというべきか、これは使い甲斐がある刀だ。
はかちんっとそれをしまう。

「嬉しいけど、こんなすごいもの僕の名前だけでくれるなんて…、別に僕が有名ってわけでもないのに」

(太っ腹だよね)

思わず顔がにやけてしまう。
良い武器を手に入れることができて嬉しいのは仕方ないだろう。

「十分有名よ、って名前」
「そうかな?でも、僕もラクシャータさんの名前も有名だと思うよ」
「それは光栄だわ」
「だって、プリンと一緒にいたの何回か見た事あったし」

ラクシャータはちらりっとに目を向ける。
プリンは別名ロイドとも言う。
流石にロイド・アスプルンドの名前を出すわけにはいかないので、その名を出したのだが、それだけで十分ラクシャータには通じだようだ。

「私も貴方を見たことが何度かあったね」
「数えるほどくらいしか会ったことなかったと思うけど…」
「名前だけは嫌ってほど、あの時は耳にしていたからね」
「僕の名前?」

きょとんっとする
このラクシャータをは昔ブリタニアで見たことがある。
それは兄のシュナイゼルの友人とも言える存在であるロイドと一緒に研究をしているのを見たことがあるということだ。
挨拶を何度か交わしたことはあるという程度である。
それでもあの変わったロイドと共にいたことで、印象には残っていた。

「あの人が弟バカってのは意外だったよ」
「弟バカ?って兄上が?」

初耳である。
ラクシャータはくくくっと笑う。

「随分と可愛いんだろうなってあの時思った覚えがあるからね」

別人ではないのだろうか、とは思ってしまう。
そんな可愛がられた記憶などない。
少なくとも自身には。

「で、あれが、白いナイトメア?」

どうやらあちらで白いナイトメアが出てきたようで、興味津々に画面を覗き込むラクシャータ。
もそちらの方向を”視る”。
白いナイトメア、ランスロット。

(やっぱり、乗ってるのはスザクだ)

機動性共に優れた機体であることは確かだろう。
そしてそれを操るスザクの腕もいい。

(でも、倒せない相手じゃないと思う)

同じくらいの性能の機体があり、スザクの動きを冷静に分析すれば倒すことは可能だろう。
軍人とはいえ、ナイトメアのパイロットとして正式な訓練を受けたわけでもなければ、戦場に出る軍人としての正式な訓練をしたわけでもないだろう。
ナンバーズのブリタニア軍人はそう高い位へと行けるわけでもないので、正規のブリタニア軍人ほどの訓練を受けることが出来なかったはずだ。

(スザクは行動が比較的読みやすい)

これは昔もそうだったが、今も変わっていないようだ。
分析が得意なルルーシュならば、その先を読むことはできるだろう。
だが、は心配な点が1つだけある。

(義兄上、ランスロットの中にいるのがスザクだってことは、知っているんだよね?)

ナイトメアの中にいる人間は、誰なのか分からないだろう。
のように”視え”る人などいないのだから。
ゼロの指示で、月下と呼ばれるナイトメアとカレンの乗る紅蓮二式が動く。
ランスロットを次第に追い詰めていく。
そして藤堂の乗るナイトメアがランスロットを仕留めたかに見えた。
藤堂の繰り出した刃がえぐったのは、パイロットが乗っている場所。
スザクの姿がさらされる。

(ランスロット…スザク)

名誉ブリタニア人でありながら、ナイトメアに乗ることが出来る唯一の名誉ブリタニア人。

「おい、どうした?」
「なんかゼロからの指示が…」

ここに残っている幹部が、様子がおかしいと騒ぎ始める。
はまさかとゼロを”視る”。
驚愕した表情のままのゼロ。
当たり前だ。
名誉ブリタニア人であり、技術部にいるはずの、安全な場所にいるはずのスザクがこんなところにいるのだから。
しかも、乗っているのはいつもいつも黒の騎士団の邪魔をしてきた白いナイトメア、ランスロット。

(義兄上…!)

はここからでは何も出来ない。
このままスザクが引いてくれればいい。
不利だと、今の自分では不利だと引いてくれることを願う。
そして、この状況が無事に終わることをじっと待つしかないのだ。



戻ってきたゼロは、何故かナイトメアの中からなかなか姿を現さなかった。
心配そうにゼロの乗っているナイトメアを見上げるカレンを、は少し離れたところから見る。

(義兄上…)

ルルーシュにとってスザクはナナリーと同じような存在でに守りたい存在であったはずだ。
初めて出来たルルーシュにとっての友人がスザクであり、敵対していたからといって平然とそれを受け入れられるはずがない。
の立場で考えれば、ルルーシュが敵として現れたようなものだ。

(僕はスザクが気に入らないけど、ナナリーと義兄上がスザクをとても大切に思っているのは知ってる)

スザクがランスロットのパイロットだと知った時、はただその事実を受け止めただけだった。
ナナリーとルルーシュにとってスザクの存在が大きなものであることは分かっていたはずなのに。
スザクが敵として目の前に立つのならば、は迷わず敵と認識するつもりだった。
でも、敵と認識して倒してしまったら、ナナリーとルルーシュは悲しまないだろうか。
そんな簡単なことには今まで気づかないふりをしていたかもしれない。

「カレンさん」

心配そうにまだゼロの乗っているナイトメアを見上げているカレンに、は話しかける。


「ゼロは?」
「分からない。戻ってきてから、声が…なんか笑っている声が聞こえてそれがとまったと思ったらそれっきりで」

通信機を持った状態でカレンはずっとゼロがいるだろう方向を見ている。
がそちらを”視れ”ば、どこを見ているのか分からない目をしているゼロ。
はカレンの持つ通信機を少し借りる。

「ゼロ…?」

呼びかけてみるが返事はない。
果たして聞こえているのだろうか。

「あのね、ゼロ」

は自分の言葉を聞いているのがカレンだけであることを確認する。
カレンの通信機を借りたのでカレンが聞いてしまっているのは仕方ないが、今から話すことは、あまり他の人の耳には入れたくないことだ。
はゼロを”視”ながら話を続ける。

「あの白いランスロットの開発者はロイド・アスプルンドって言って、第二皇子の直属だよ」

その言葉にルルーシュが反応したのが”視え”た。

「あの人はナイトメアの開発が命みたいで、多分ブリタニア人も名誉ブリタニア人も関係ないんだと思う。だから…」
『…枢木スザクが乗っていたという事か』

反応が返ってきてほっとする。
何も聞こえていないわけではなかったらしい。
周囲の音に耳を傾けることが出来るならば大丈夫だろう。

「うん」
『シュナイゼルの直属か』
「うん」
『……そうか』

スザクがそこにいることがいいことなのか、悪いことなのか分からない。
でも、スザクがルルーシュと敵対することは、ルルーシュにとってもナナリーにとっても嬉しいことではないだろう。

「カレンさん、ありがとう」

は通信機をカレンに返す。
普通の言葉が返ってきたら、ルルーシュはとりあえずは大丈夫だろう。
気持ちが落ち着けば、今後どうしていくか、その結論をルルーシュは自分で出すはずである。

「あんた、随分と詳しいのね」
「スザク本人に聞いたから」
「知ってたの?!」

驚いたようにを見るカレン。
カレンも先ほど知ってルルーシュ同様驚愕したばかりなのだろう。

「うん」

は静かに肯定する。
正確にははスザクに聞いたのではなく、自分が知ったことを少しだけスザクに確認しただけだ。

「だからそんなに冷静なのね」

それには苦笑を返すだけだった。
多分同じ状況でスザクの事を知ったとしても、はカレンやルルーシュほど驚愕はしなかっただろう。
自分の感覚が、他の人と違うことをは自覚している。

「ねぇ、カレンさん」
「何よ」

スザクがランスロットのパイロットであることは知っていたはずなのに、は少し迷っている。

「スザクを殺したら、ナナリーとルルーシュ義兄上は悲しむかな?」

刃を向けてくるならば、それに対峙する覚悟はある。
それがどんな相手であっても。
そう、ルルーシュとナナリー以外の相手ならば、どんな相手でもは迷わない。

「悲しむでしょうね」

カレンの言葉に、の心が少し重くなる。
覚悟はあるのに、人を殺める覚悟はあるのに、ナナリーとルルーシュが悲しむのを見る覚悟はない。
2人には笑っていて欲しいのだ。
泣かないで、悲しまないで、二度と守れない状況など作り出したくない。
そう思うのに…、それはとてもとても難しいことなのだろうか。