黄金の監視者 07




日本に着き、案内された場所はまさに日本家屋と言っていい平屋のある屋敷のある場所だった。
周囲の目が良い感情のものではないことはすぐに分かった。
ナナリーとルルーシュに会いたい旨を伝えると、案内させようと1人の少年が呼ばれてきた。
日本人にしては珍しい色の組み合わせを持っている日本人の少年。
はその少年に”視”覚えがあった。

(ナナリーがなついてた茶色いの!)

名前など知らない。
少年はギッとを睨んでくる。
対するも、目の前の少年が気に入らないので睨み返す。
ナナリーがなついていることがどうしようもなく気に入らない。

「スザク、案内してやりなさい」
「うん、分かった」

日本の首相であると名乗った男が少年にそう言ったところで、少年の名前がスザクであることが分かる。
スザクは無言で着いて来いとばかりに歩き出す。
はスザクを睨みながらその後を憮然とした表情でついていく。
廊下を歩くスザクの足音には少し驚く。
綺麗なほどに足音がない、と同じだ。

(こいつ、武術をやってる)

それもかなりの強さだ。
ますます気に入らなくなる。
すたすたっと足音も立てずに廊下を歩く2人。
どこまで歩いたのか分からないまま、突然スザクがピタリっと足を止める。
ぐるんっと振り向いてを睨むように見る。

「お前、何の用なんだよ」

がスザクを良く思っていないように、初対面ながらスザクもを良く思っていないのがすぐ分かる。
感情が簡単に表にでる分かりやすいやつだとは思った。
最もも人のことは言えない。

「ナナリーと義兄上に会いに来ただけだよ」
「わざわざ会うためだけにか?」
「悪い?」

会って側にいて守るためにはここに来た。

「ブリタニアが皇族を3人も送ってくるなんておかしいだろ」
「んなの知らないよ。ロールパンが何を考えようが、僕には関係ない」
「ろーる…?」

日本は勘ぐっているのだろう。
皇族を日本に3人も滞在させて、何かをたくらむ気ではないだろうか、と。
の訪問は日本を挑発しただけになったかもしれない。
父は分かっていてを日本に送ったのだろう。

「ロールパンって何だよ?」
「少し考えれば分かると思うけど?ブリタニアの王座でふんぞり返っている白いロールパンだよ」
「玉座…?それって、ブリタニア皇帝のことか?」
「それ以外に誰がいるのさ」

スザクはすごく困惑した表情を浮かべる。
はブリタニア皇族であり、そのブリタニア皇帝の子であるのだ。
その父をロールパンと表現するのはどうだろう。

「何?僕がロールパンが嫌っているのが意外?それなら、ナナリーと義兄上にも聞いてみれば?多分、好きだなんて答え返ってこないだろうから」
「自分の実の父なのに嫌いなのか?」
「君は自分の父親が好きなの?」

首相と名乗ったスザクの父、それは噂で聞くクルルギ首相なのだろう。

「尊敬は…している」
「ふぅん。尊敬できる父親でいいんじゃない?僕はあのロールパンを尊敬だなんて天地がひっくり返ったって無理だけど」

先ほどちらっと見ただけのクルルギ首相は父に比べれば普通のお父さんだろう。
どれほどのやり手なのかは分からないが、子供に尊敬されるなら良い父親をしていはずだ。
それが少しだけ羨ましいと思う。

「日本がブリタニアに勝ってくれればこれ以上嬉しいことはないよ」
「お前、自国がどうなってもいいって言うのか?」
「君はあんな国が存続してて欲しいって思っているんだ?」

日本がブリタニアに勝つ。
技術面で考えてもそれは無理だろう事は分かる。
それでも、そうなってくれればいいと思っているのは本当だ。

「僕はナナリーが好きなんだ」
「は?」
「だから、ナナリーが笑顔でいられないあんな国は間違ってる」

そうは言い切る。
スザクは驚いた表情を浮かべてをまじまじと見る。
ブリタニアを批判するブリタニア人など初めて見ただろう。
ブリタニアの人の殆どは、ブリタニア人が嗜好の存在であり、それ以外の国の人間は自分以下の存在であると思っている。
その思考が他国を必要以上に刺激して敵を作るのだ。

「お前、変なヤツ」
「変?僕はいつもで正直なだけだよ」
「それが変なんだよ」

スザクはふっと笑みを浮かべる。
対しては表情を和らげない。

「俺、ブリタニア人は好きじゃないけどお前が嫌いじゃない」
「そう?僕は君の事嫌いだけどね」
「は?!」
「ナナリーの側にいる男は日本人でもブリタニア人でも嫌いだよ」
「んなっ?!」

初めて”視た”時からスザクの存在が気に入らなかった。
自分が苦労しても手に入れることが出来ない場所を、あっさり奪い取るように手に入れたかのような少年。
別にスザクの何が悪いわけではない。
そんなことは分かっているが、感情は所詮別物。

「なんだよ!せっかくこっちが…!」
「下手な遠慮はいらないよ。僕は君にすぐにでも殴りかかりたいくらい君が気に入らないんだから」

の言葉にかっとなるスザク。
ひゅっとスザクが足を振り上げる。
同じ武人であるディセルはそれを飛んで避け、廊下から庭へと着地する。
スザクも廊下から庭に下りて来る。
が構えるとスザクは遠慮なく拳を繰り出してくる。

(正確に力が入った攻撃だ。やっぱり武術を何かやってる)

実戦経験も武術を学んだ経験もある対何らかの武術をたしなんでいるスザク。
繰り出される拳を受け止め、蹴りをさけ、互いに攻防する。
スザクがひゅっとの懐に入ってくる。
拳がくるかと思ったが、スザクの姿がふっと消えたように見えた。
その瞬間、は自分の身体が宙に浮くのを感じた。
身体をひねってつかまれている手を離させ、ひゅっとそのまま飛んで綺麗に着地。

「驚いた。えっと……柔道だっけ?」

投げ技を主とする日本の武術があったのを聞いたことがある。
生憎とはそれを詳しくは知らないが。

「柔道、剣道、空手、一通りのことはやってるからな」
「じゃあ、相撲とかもやったりしてる?」
「お前っ!馬鹿にしているのか?!」
「え?!なんでそれで馬鹿にしていることになるのさ?!」

相撲がどういうものかは知らないが、日本の国技が相撲であると聞いたことがある。
ならばやっているのかな、と思って聞いただけだ。
どうやら相撲は武術とはちょっと違うもののようである。

「くそっ!」

自分の攻撃が全く当たらないことにスザクは苛立ちを見せる。
実際は少し驚いている。
子供である以上、のように実戦経験がある可能性は低いだろう。
それなのにここまで相手が出来ている。

「舌打ちしたいのはこっちだよ。でも…」

すぅっと目を細める
殺気を放つ。

(本気で行くよ)

の殺気にびくりっとなるスザク。
本気の殺気など浴びた事もないだろう、だからこそ隙が出来る。

(一撃で昏倒してやる)

ぐっと右手に力を入れる。

「スザク?!」

の拳がスザクの鳩尾に入ろうとしたその瞬間、第三者の声が割り込んでくる。
思わずその拳をぴたりっと止めてしまう。
驚きで目を開き、は声のほうを見る。

「義兄上!」
「ルルーシュ?!」

目を向けた先にはルルーシュの姿。
そのすぐ後ろには、車椅子に乗ったナナリーもいる。
はナナリーに駆け寄ろうとするが、ナナリーをかばうようにルルーシュが立つ。
ルルーシュは睨むようにを見る。

「義兄上…?」
「何をしに来たんだ」

警戒するかのような目。
それには少なからずショックを受けていた。

「ナナリー…と、義兄上に会いに」

はしゅんっとする。
会いに来たのに警戒されるということは考えてもいなかったのだ。
少し考えれば分かったかもしれない。
追い払われるかのように人質として日本に送り出されてしまったナナリーとルルーシュ。
ブリタニアの人間であるを警戒するのは当たり前だ。

「会いたいならばすぐに来ればよかったじゃないか」
「でも、だって…っ!僕は弱かったから!」
「半年くらいで強くなれたか?」
「頑張ったよ!最強だなんて自惚れてない、でも!半年前よりかは強くなった!ナナリーを今度こそ守れるように、僕は…っ!」

(傍にいたい…!)

父がここにある何かのために日本にいずれ攻め入るだろう事も、今のこの情勢も、心を閉ざしかけてしまったルルーシュも、そんなことは考えられなくて、ナナリーとルルーシュの姿を見ただけでは嬉しかった。
会いたくて、強くなりたいと思ったけど、ずっとずっと会いたくて、深紅の瞳を持ったを受け入れてくれた2人に会いたくて。

「今度こそ、傍で、命をかけてでもまもっ…!」

じわりっと目頭が熱くなる。
泣きそうになってくる。
警戒するような目を向けられたショックと、再会できた喜びで。

「お兄様、今の声が…」
「あ、うん。ナナリー」

ルルーシュは苦笑する。
涙を流さないようにぐっと堪えているは声を発したナナリーを見る。

「会いに来てくれたんだよ」
がですか?」
「そう、ブリタニアからナナリーに会いに来てくれたんだよ」
「本当ですか?」

ルルーシュがナナリーの前からどき、はナナリーの全身を見ることが許される。
ゆっくりとナナリーに近づき、ナナリーの手にそっと自分の手を添える。
暖かいナナリーの手。

「久しぶり、ナナリー」
「お久しぶりです、
「元気そうで…良かった」

な泣きそうなほどの笑みを浮かべる。

は、いつまでいられるのですか?」
「ナナリーが望むのならいつまででも」
「ずっとここにいることも出来るのですか?」
「うん。ロールパンの許可はもぎ取ってきたから」
「ロールパン?」

こくりっと首を傾げるナナリー。
呆れたように息をつくルルーシュが見えた。

「まだその表現使ってるの?。大体なんでロールパンなんだ?」
「え?だって義兄上、どうみてもあの髪型ロールパンじゃない?くるくるっと」

は頭の横で人差し指をくるくるっとまわすように動かす。
父の髪型を的確に表現したのだが、ルルーシュはそれを思い出したのは思わずぷっと小さく噴出す。
スザクもそれを見てブリタニア皇帝の顔でも思い出したのか、身体を折り曲げてまで大笑いしていた。
ブリタニアで大笑いしようものなら不敬罪に当たるだろうが、幸いここは日本だ。
そんなにウケるとは思っていなかったと、良く分かっていないナナリーは困惑する。

「お兄様とスザクさん、何が面白いんでしょう?」
「さあ?僕は事実を述べただけなんだけどね」

ロールパン呼ばわりがかなり気に入ったようで、ルルーシュもスザクも、何故かブリタニア皇帝を示すときロールパンと言うようになっていた。
周囲の大人にそれが分かるはずもなく。
たまに様子を見に来る大人たちは、ルルーシュとスザクは食べ物のロールパンがとても嫌いなんだろうと思っているらしい。