黄金の監視者 03



は8歳になっていた。
身体は鍛え、鍛え、鍛え抜き、大人10人くらいを相手にしてもどうにかできるような強さを手に入れた。
きっとそちらのほうに才能があったのだろうと師は言っていた。
だが、ルルーシュには未だに認めてもらっていない。

「チェック」

ことりっと容赦なく進められる駒。
ガーンと思いっきりショックを受けた表情になる

「酷い、義兄上!」
「酷いも何も、が弱すぎだよ」
「僕は一生懸命なのに…」
「シュナイゼル義兄上は僕よりも数段強いよ」
「ああいうのは別格って言うんだよ、義兄上」

ルルーシュは肉体派ではない為、こうしてチェスの相手をするだが、どうも戦術という面ではまったくルルーシュに敵わない。
ルルーシュよりも上の義理の兄であるクロヴィスといい勝負だと言われてしまう。

「ナナリー、僕、いつか絶対に義兄上に勝ってみせるからね!」
「はい、頑張ってください、

にこりっとナナリーに笑みを浮かべてもらうとすごく嬉しくなる。
思わず頬も緩む。
一目ぼれしてから数年、のこの気持ちは変わることがなかった。
それどころか、ナナリーともっと会話したい、一緒にいたいと思うようになったのだ。
どうしてかナナリーは癒しの効果を発揮してくれるようで、側にいるのがすごく好きだと思える。
これが、恋なのか兄妹愛なのか今のには分からないが、ナナリーは特別だということが分かる。

「義兄上、もう1度勝負!」
「何回やっても同じだと思うけど」
「奇跡を信じて!」
「実力で勝とうって考えはないんだね、
「勿論!」

きっぱり言うに呆れたようなため息をつくルルーシュ。
これはここの所、いつもの光景となっている。

「ところで義兄上」

ことりっとチェスの駒を置きながら、はルルーシュに話しかける。
駒の置き方に策は全くない。
もはや勘で進めているようなものだ。

「ちょっとファッションでサングラスでもしようかな〜って思っているだけど、どんなのがいいと思う?」
がするのか?」
「うん」

の深紅の瞳、それは予想以上に周囲に受け入れられていない。
その瞳を平然と見るのは、父とナナリー、そしてルルーシュ、マリアンヌくらいだ。
そう多くの人に会っているわけではないが、兄のシュナイゼルでさえ初対面、一瞬だけ顔を顰めたのを覚えている。
ナナリー達の場合は、が初対面のときのことをあまりよく覚えていないというのと、初対面から求婚まがいのことをしでかして、そっちのほうが印象に残っているからだろう。

「丸がいいかな?四角がいいかな?それとも意表をついて黒と言わず別の色眼鏡とか!」
「どうしてまたサングラスなんて…」
「えー、だから言ったじゃん、義兄上。ファッションだよ、ファッション」

実際はこの深紅の目を隠すためだ。
今更気づいたのだが、これが何らかの能力の証であると知っている人が他にもいるかもしれない。
それを思えばこの目を晒すのは利口ではないだろう。

「ナナリーはどんなのがいいと思う?」
「えっと…」

急に言われ考え込むナナリー。
素直に考えてくれるのが嬉しい。
だから、はナナリーが好きなのだ。

「サングラス掛けると少しは知的っぽく見えるかな?」
「見えない、見えない」
「酷い、義兄上!」
「事実を述べただけだよ。人間、時には自分のことを正しく知る必要があるからね、特には。……ということで、チェックメイト」
「早っ!」

いつの間にか駒は進められてチェックメイト。
勝負にならないかもしれない。

「組み手とかなら、義兄上にも負けないのに…」
「力だけじゃナナリーを守り切れるとは言いきれないからね」
「それはそうなんだけど…」
「でも、まぁ、ここ数年の努力であれだけの武術を身に着けたってのは評価するよ」
「義兄上!」

ぱぁっとの表情が一気に明るくなる。
その表情変化にぎょっとするルルーシュ。
どうしてルルーシュがの武術がどれだけ身についたかを知っているかなど、が疑問に思うはずもない。
大方シュナイゼルや周囲から噂を聞いたりしてのことだろう。
ルルーシュならばそれだけで正確な情報を得ることが出来るはずだ。

「認めてくれるんだね、義兄上!大好き!」

にこっと満面笑顔で言い放つ
ストレートすぎる言葉に、ほんのり赤くなるルルーシュ。

「勿論、ナナリーは愛しているよ!」

ばっとすばやくナナリーの手を握り、ドサクサに愛を告げる
そのの頭にすこーんっとすばらしく正確にチェスのキングの駒がヒットする。
鍛えているからなのか、はちょっとあたった場所をさするだけで、ルルーシュのほうを振り返る。

「痛い、義兄上」
「当たり前だよ。痛いようにやったんだ!」
「これは、義兄上の痛い愛なんだね」
「違う!」

即効で否定するルルーシュだが、そんなことはお構いなしには再びナナリーのほうを向く。

「僕は義兄上の痛い愛を乗り切って見せるよ、ナナリー」
「頑張ってください、

ナナリーが、この状況を分かっているのか分かっていないのかは知らないが、にこりっと笑みを浮かべてくれる。
にはそれで十分だ。
しかし、天誅とばかりに再びチェスの駒がすこーんっとの頭に直撃する。
その気になれば避ける事ができるのだが、なぜかはそうしようとは思わなかった。

…」

子供ながらの妙に低いルルーシュの声が響く。
さすがのもその声にびくっとなる。

(あ、本気で怒った…かな?)

半分本気で半分からかっていたの行動だったのだが、ちょっと反省する。
しかし、もう遅い。
はあわてて投げられた駒をひょいひょいっと拾って元に戻す。
ルルーシュはにっこりと可愛らしい笑みを浮かべた。
どうじにぞくりっとの背に悪寒が走る。

「もう1回勝負しよう、
「あ、義兄上…?」

ことりっと最初に位置へと駒を並べるルルーシュ。
いつもと変わらないしぐさに見えるそれが妙に怖い。

「全力で相手をしてあげるよ」

ルルーシュが浮かべているのは笑みなのに、開いた紫の瞳は決して笑っていない。
それが妙に実の兄であるシュナイゼルに似ていると思ってしまった。
やはり半分しか血がつながっていなくても義兄弟である。

(義兄上って絶対にシュナイゼル兄上に一番似てるよ!)

笑顔で本音を隠すことが出来る所など特にそっくりである。
将来どうなるのか、末恐ろしい。
ルルーシュが怒った状態ではじめたチェスだったが、結果は勿論の惨敗。
未だかつてないほど、決着がつくのが早かった気がする。

「ちょっとは手加減してくれたっていいのに…」
「手加減しても君は弱いよ」
「義兄上の年で、それだけ強いの義兄上くらいだよ」

常識外の強さである。
大体シュナイゼルのチェスの相手が出来ること自体がすごいことだ。
実践での戦略をも立てているシュナイゼル、そのチェスは実践仕込でもあるのだ。
それを相手にできるなど、ルルーシュの頭はどうなっているのだろう。
が体術に特化しているのならば、ルルーシュは頭脳に特化していると言えるだろう。

、よければ今度私にチェスを教えてください」
「ナナリー?」

ルルーシュにコテンパンにされて落ち込んでいるに優しく声を掛けてくれるナナリー。

もシュナイゼルお兄様も、クロヴィスお兄様もお時間が取れないとき、私がお兄様のチェスのお相手が出来たらお兄様も暇をもてあますこともないですし」

はがばっと起き上がる。
そしてうんうんっと何度も大きく頷く。

「勿論全然オッケーだよ、ナナリー。寧ろ、一緒に強くなって義兄上を負かそう!」
「お兄様をですか?」
「僕、ナナリーと一緒ならたくさんたくさん強くなれる気がするよ」
「本当ですか?」
「うん、本当だよ!」

がチェスをやるのはもっぱらルルーシュとだ。
何故かシュナイゼルに教えを乞おうとは思わない。
シュナイゼルも忙しいだろうし、も頼もうとも思っていないのでそうなるのだが、兄弟仲はそう悪いわけではないのだ。

「ナナリー、それじゃあちょっと約束しようか?」
「約束?」
「シュナイゼル兄上でもなく、クロヴィス殿下でもなく、僕にチェスを教えてもらうって約束」
「シュナイゼルお兄様やクロヴィスお兄様に教わっては駄目なのですか?」
「うん、僕が嫌だから駄目」

ナナリーは一瞬驚いた表情を浮かべた。
これはただののわがままだ。
でも、ナナリーはにこりっと笑みを浮かべて頷いてくれる。

「約束します、
「うん。その代わり、もっとたくさん会いに来るからね」
「本当ですか?」
「うん」

(君にもっと会いたいのは本当だから)

母はがここに行くことにいい顔はしない。
しかし、はもう1人でここに来る方法を覚えてしまった。
道さえ分かれば、王宮内はたいした危険などないので1人で出歩くことはそう危険ではない。

「約束はいいけど、

先ほどの怖い笑みを浮かべたままルルーシュが声を掛けてくる。
反射的にぎくりっとなってしまう。

「その前に僕と対等に勝負できるようになってからにしようか?」
「え、義兄上…、それじゃあ何年かかるか」
「大丈夫だよ、だって頻繁に来るようにするんだろう?」
「そ、そうだけど…」
「僕がみっちり鍛えてあげるから、そう時間はかからないよ」
「あ、義兄上?」
「かからないよね??」
「うぁ、はい!頑張りますっ!」

ルルーシュは始終笑顔だった。
それが余計怖かった。
妹大好きシスコンルルーシュがいる限り、がナナリーと親しく会話し続けるのはとっても難しい。
ちょっぴり寂しいが、それでもはこんな日常がすごく好きだった。