SWEET BOX3




SWEET BOX 3






ホグワーツでの朝食は大抵パンだ。
それにおかずがつく。
は朝に弱いので朝食は軽いものを食べている。
大抵、パンにサラダ、それとジュースかお茶だ。
お茶と言っても勿論紅茶だ。
リリーとセフィアに起こされて、寝ぼけながら朝食をとる。

「おはよう、リリー。今朝も君に会えるなんて僕の今日一日はこれでバラ色さ」
「おはよう、ジェームズ。私も朝から貴方に会えて嬉しいわ」

いつもお決まりのグリフィンドールでは有名なバカップルの朝の挨拶である。
この二人、付き合い始めたのは今年になってからだが、それ以前から両想いだった為か、付き合い始めたとたんに恥ずかしげもなくいちゃいちゃするようになってきたのだ。
周りはもうすでに呆れた様子で彼らを見る。
一部のジェームズの隠れファンの女子生徒がリリーを恨めしそうにみたり、リリーの隠れファンの男子生徒がジェームズを恨めしそうに見ていたりする。


「リリー達は、相変わらずだね」
「いつものことよ、気にすることないわ。むしろグリフィンドールの名物として卒業まで続くものだから気にしていたらこっちの気がもたいないわよ」
「セフィアって、クールだよね」

リリーとジェームズのいちゃいちゃぶりなどなんのその、毎度クールに無視を決め込み朝食をとっているセフィア。
まぁ、確かにいちいち反応していたらこちらが疲れるだけだ。

「おはよう、
「あ、おはよう、リーマス」

同じ甘党同士ということが分かってから、はリーマスとはそこそこ仲良くするようになっていた。
朝は挨拶をするし、たまに皆で(リリー、セフィア含む悪戯仕掛け人達)お茶をしたりする。
ただ、やはりジェームズやシリウスには今まで通りの態度で通している。
敵は少ない方がいい、というのがの持論である。
ジェームズファンはともかく、シリウスファンを敵にまわすつもりなど全くない。

「あら、リーマス。あたしには挨拶なしなのかしら?」
「そんなことないよ。おはよう、セフィア」
「そんな取って付けたような挨拶は嬉しくないわ。けれどまぁ、いいわ。おはよう、リーマス」

にっこりと笑みを見せるセフィア。
気の強さと顔立ちの良さもあって、セフィアの笑顔はとっても綺麗だとは思う。
綺麗なリーマスとセフィアが並ぶと綺麗な人同士でお似合いだと思う。
それを前にセフィアに言ったら「冗談じゃないわよ!」と思いっきり否定されてしまったという事実があったりするのだが。
は二人から漂う微妙に黒いオーラに気付かない。

「あ、そうだ。、口開けて?」
「え?何で?」
「いいから」

リーマスに言われ首をかしげながらも口を明ける
リーマスは持っていた何かをの口に放り込む。
コロコロ、と口の中で転がすそれは飴のようだ

「甘い」
「『ラ・フーレ』から出たチョコレート味の飴だよ」
「美味しい、どうしたの?これ?」

『ラ・フーレ』はも知る有名なケーキのお店だ。
の情報では飴を発売するなど聞いていなかったが…。

「両親が送ってくれたんだ。あと、ジャムとかもあるんだけど、朝食のパンにどうかなって思って」
「あ、欲しい〜。ありがとう、リーマス」
「はい、どうぞ」

リーマスは小さな容器を差し出す。
透明のその容器の中にはたっぷりのいちごジャム。

「やっぱり、朝のパンにはジャムか何かつけないとね。チョコレートでもピーナッツバターでも美味しいけど」

リーマスはにこにこしながらを見る。
もそれに同意したかのように頷く。
隣でセフィアが顔を引きつらせているのには気付かないようだ。

「でも、これ、本当に貰っていいの?」
「いいよ。の為にこの容器に分けたものだから。僕の分はちゃんと確保してあるし」
「じゃあ、遠慮なく貰うね。さっそく使わせてもらうよ」
「それなら、僕も一緒に食べようかな?」
「うん、どうぞ、どうぞ」

の左隣はセフィア。
リーマスは右隣に座る。
リリーはといえば、ジェームズと二人で少し離れた場所でいつものようにいちゃいちゃだ。
さっそくリーマスにもらったジャムをパンにぬって朝食をいただく
ぱくりっと一口。

「あ、甘くて美味しい〜」
「ほんとだね〜」

の隣でリーマスが同じようにパンを食べて幸せそうに笑みを浮かべていた。
有名店のジャムなのか、普通の人が作った手作りでは出せない美味しさと甘さがある。
もジャムは作ったことあるのだが、下手に砂糖を大目にして焦げてしまうだけなので、通常の量のみにしてみたりと奮闘した覚えがある。
これだけ甘くてしつこくない味のものは初めてだ。

「それ、ほんとに美味しいの?」
「あ、セフィアもどう?」

少し顔を顰めて尋ねてきたセフィアには勧める。
美味しさのあまりのそのままの笑顔で。
はジャムを差し出す。
セフィアは疑わしそうにそれをパンにちょこっとぬり、ぱくり。

「どう?」
「…甘っ!」

思いっきり顔を歪めて、近くのジュースをとり飲み込むようにごくごく。
はぁ〜〜、と息をつきどうやら飲み込んだのか、セフィアはを見る。
ジャムたっぷりのパンとを見比べ…

「ジュースがすっぱい味に感じるわ。ねぇ、。貴方、それが本当に美味しいの?」
「うん、美味しいよ。何で?」

きょとんっとは首を傾げる。
甘党のにとってこの程度の甘さなど普通である。

「甘すぎよ!それが美味しいなんて、の味覚変よ」
「そうかな?美味しいよね?リーマス」
「うん、僕としてはもうちょっと甘いくらいでもいいんだけどな」

リーマスも平然とした様子でぱくぱく食べている。
この2人にとってはこの甘さが普通なのだ。

「冗談でしょ、これ以上甘いなんて人間の食べ物じゃないわ」
「セフィア、そこまで言わなくても…」

はパンにぬられたジャムを見る。
甘くて美味しいのだが、セフィアは全然駄目らしい。
首を傾げる


「うげっ、セフィア、お前まさかソレ食ったのか?」

の斜め後ろ、丁度セフィアの後ろからシリウスの声が聞こえてきた。
振り返ってみれば、シリウスは甘い臭いに顔を顰めている。
セフィアはシリウスを睨むように振り替える。

「少しだけ食べたわ」
「マジかよ、俺なんて臭いだけで駄目だったぜ」
「あんたの甘いモノ嫌いは筋金入りだものね。あたしはそこまで酷くないわ。でも、この甘さは勘弁してほしいわ」
「だろ?ったく、リーマス。お前、朝っぱらからこんな甘い臭い振りまくなよな!」

シリウスはリーマスの方を軽く睨む。
リーマスはその睨みなど全然気にせずににこにこ笑みを浮かべる。

「なんで、シリウスは駄目なのかな?こんなに美味しいのに…、ね?
「うん。この丁度いい甘さと果実そのものの酸味も生かされていて、それがパンに合うんだよね」

リーマスの意見に同意するように頷きニコニコ笑顔で答える
シリウスはを信じられないものでも見るような目で見る。
セフィアはそれにため息をつく。

「信じられねぇ、リーマスと同等の甘党がいるなんて」
「世の中不思議なものよね。臭いはともかくちょっと食べるのはあたしは遠慮したいわ」
「俺は臭いだけでも嫌だ」

セフィアとシリウスの言葉など気にせず、ジャムたっぷりのパンを幸せそうに食べ続ける二人。
にこにこ幸せそうな笑顔だ。

「こんなに美味しいのにね〜、リーマス」
「そうだね。この美味しさが分からないなんて勿体無いよね」

その甘さが美味しいと言える味覚を疑う。
とリーマスを見るシリウスとセフィアはそう思った。
甘さの基準がどうやら違うようだ。
ついていけない。

「でも、いいね〜、リーマスは」
「何がだい?」
「だって、この前のクッキーとチョコも両親が送ってきてくれたんでしょう?いろいろ甘いもの沢山送ってきてくれていいな〜って思って」

羨ましそうにリーマスを見る
だが、リーマスはその言葉にどこか悲しげな笑みを返すだけだった。
その笑顔にはちょっと不安になる。
何か言ってはいけないことを言ってしまったのだろうか?

「ごめん、リーマス。もしかして何か事情があることだった?」

は純粋に羨ましいと思って言っただけだったのだが、リーマスのあの表情からして何か事情があるように思えた。

「ううん、そんなことないよ。ただ、僕の両親は僕に対してちょっと負い目があるから過保護すぎなんだよ」
「負い目?」
「うん。あまり詳しくは言えないけど、僕が昔怪我をした時に何もできなかったからだと思う」

そう言うリーマスの表情がとても辛そうで、はこの話題は今後絶対しないと思った。
言いたくないことだったのだろう。
リーマスの表情は、辛そうで、泣きそうで、そして寂しそうだったから。
昔なにかあったせいで、それを気にしているのかリーマスの両親はリーマスの好きな甘いものを沢山送ってくれるのだろう。

「えっと、リーマス。あの、お菓子だったら、ちょっとしたものなら私が作れるから」
?」
「だから、今度お休みの日にお菓子パーティーしよう!甘いもの沢山集めてさ!」

一生懸命リーマスを慰めようとでもしているのか、の言葉にリーマスは笑みをこぼす。
自分を思ってもらっていることが分かって嬉しいのだ。

「うん、そうだね。ジェームズやシリウス、ピーターも呼ぶけどいい?」
「いいよ!皆でやろう!私もリリーとセフィアを誘うからさ」

まだジェームズやシリウスとはろくな会話ができないだが、リリーとセフィアがいればその二人が相手をしてくれるだろう。
リーマスが楽しいと思えることをしてやりたかった。
しかし、甘いものパーティーと聞いてやはり顔を顰めたのは側にいた2人。
シリウスとセフィアである。

「げっ、冗談じゃないぜ!俺は!」
「何、シリウス?この僕の誘いを断るの?」

にっこりと怖いほどの笑みを浮かべるリーマス。
笑顔大魔神光臨の瞬間である。
リーマスの笑顔に何か底知れぬものを感じ、シリウスは身震いする。

「あ、いや…」
「断るなんてこと、しないよね?勿論。返事は?シリウス」
「…ヨロコンデ」

半分泣きながら了解の返事をするシリウスであった。

「セフィアもいいよね?」

心配そうに聞く
セフィアはその表情に苦笑する。
もっと強引に進めてくれても構わないのに、は必ず相手の意見を尊重する。
それが良いところなのだ。

「いいわよ。シリウスをいじめるのも楽しみだし」
「いじめるって…」
「甘いもの嫌いのシリウスに甘いものを押し付ける!ふふ、楽しみね」
「セフィア、てめぇ!」
「嫌なら、その甘いもの嫌いをなんとか克服しなさい!」

含み笑いをこぼすセフィア。
顔を引きつらせながらセフィアに文句を言うシリウス。
実はこの光景もジェーリリバカップル同様、名物になりつつあることを当事者達は知らなかったりする。