SWEET BOX2




SWEET BOX 2





カラン…

透明のガラスの容器に入っているのは氷と泡立つ炭酸水。
甘いだけなく、丁度よい酸味もあり上手く仕上がっているとは思う。
この容器は冷却魔法がかけてあり、中の炭酸水は冷たいまま飲むことができる。

は、ホグワーツの寮から少し離れたところにある小さな丘に来ていた。
今日は授業もない日なので、リリーやセフィアと外でお茶でもしようと待ち合わせをしているのだ。
リリーはジェームズと少し話がある、セフィアはまだ残っている宿題があるのでそれを終わらせてから…ということで、暇であったは先に来ていた。

さわさわ…

心地よい風が頬に触れる。
は瞳を閉じて風を感じる。
こう静かだといろいろなことを考えてしまう。
この間、男子寮へとリーマスからチョコレートを受け取る為に進入したのだが、特にアレ以来、彼ら悪戯仕掛け人とは今まで通りの接し方だった。

「…でもな。リーマスが同じ甘党仲間なら仲良くなりたいんだけど」

の甘党は同じ甘党である父親の影響であるのだが、これがまた筋金入りである。
甘党ではない母からは、父と甘いモノを食べている時など顔を顰められてしまう。
とりあえず、は自分の甘党が普通よりもちょっとおかしいかもしれないと自覚はあった。
だから、甘いモノへの執着の様子は、このホグワーツでは見せないようにしていたのだ。

「…くぅ!まさか、同類かもしれない人がいたなんてっ!」

甘いモノについて語れる相手が欲しいと常々思っていたのだ。
あまりマニアックな話になるとついていけない人が多いので、話題にしないように気を付けていたのだが、リーマスがと同じくらい甘いモノ好きならば、話がしたいと思うのだ。

「「ボイリアス」の限定ものの情報知っていたくらいだから、甘いモノ…好きだと思うんだけどな」

ぽつりっと呟く。
「ボイリアス」は甘党ならば知っているだろうハズの名店だ。
甘いだけでなく美味しいお菓子を売っているお店。


「甘いモノ?勿論、甘いモノは好きだよ」
「そう?そうだよね。だって、…?」


聞こえるはずのない声には疑問を浮かべた。
ここには人だったはずだ。
なのに他の声がした。

「やっぱり、一番なのは「ボイリアス」の限定チョコだよね。僕は毎年買ってるんだけどなぁ。は?」
「うん、私もホグワーツに来る前までは自分で買いに…って、何でリーマスがここにいるの?!」

いつの間にかの隣に腰掛けているリーマス。
は考え事に夢中で気付かなかったようだ。
驚くにリーマスはにっこり笑顔を見せる。

「伝言役だよ、僕は」
「伝言?」
「そう。図書館に行ったらね、たまたまセフィアに会って、まだまだ時間がかかりそうだから今日は無理かもしれないって。リリーと二人で楽しんでってね」
「そっか…」

そういえばセフィアは宿題に追われていたと気付く。
セフィアはかなり優秀だ。
だが、面倒くさがりやなのか宿題を後回しにしてしまうことが多い。
その辺は従兄弟であるシリウスそっくりだ。

はもう、宿題終わった?」
「魔法史の?」
「うん、そう」

の言葉にリーマスは頷く。
確か魔法史のかなり時間のかかる宿題が出ていたはずだった。
セフィアは難しくはないが、時間のかかる宿題が特に苦手だとぼやいていたのを聞いた覚えがある。

「私魔法史は結構得意なの。だからすぐ終わらせたよ。リーマスは?」
「僕はジェームズに少し手伝ってもらったけどね、一応は終わってるよ」

苦笑するリーマス。
はリーマスの方を見ずに前のほうを向いている。
しばらく風と木々の音のみが辺りに響く。

サワサワ…

心地よい風が吹く。
まだ、リリーは来ない。
はふと思い出す。

「そうだ、リーマス。これ、飲む?」

は持っていた炭酸水をリーマスに見せる。
このままリリーを待っていて冷却の魔法が切れてしまってはせっかく持ってきたのに意味がない。
この冷却魔法は時間に限りがあるのだ。

「それ、何?」
「あ、うん。炭酸水だよ?私が作ったの」
が?」
「うん。こう見えても私、お菓子とかも作れるのよ?甘いモノ好きだからね」

にこっと笑みを見せる
市販のものでは納得いかずに自分で作るようになり、やっぱり名店のお菓子には敵わないものの、それなりのものが作れるようになってきていた。

「僕も甘いモノ好きだよ。でも流石に作ることはできないな〜」
「じゃあ、今度作ったらリーマスに持っていくね」

としては気軽に言ったつもりだった。
自分の作るお菓子がとびきり甘いことは承知している。
それをリーマスなら美味しく食べてくれそうな気がしたのだ。

「ほんとに?!じゃあ、僕も何か美味しいお菓子手に入れたらに差し入れするよ」
「あ、うん!その時は是非ともよろしく!」

びしっと敬礼するように右手を挙げる
その様子にリーマスがくすっと笑う。

「な、何で笑うの?」
「だって、がこういう性格だったなんて知らなかったからね」

くすくすと笑いをとめないリーマス。
はその言葉にきょとんっとする。
リーマス初め、悪戯仕掛け人の人たちとはあまり話をしない
だからリーマスはの性格をよく知らなかった。

「僕達の前ではすっごく大人しくてちょっととっつきにくいかと思ってたんだけどね。って意外と話しやすいね」
「そう、かな?」
「そうだよ。いつもそういう感じで話せばいいのに」
「う…ん」

リリーやセフィアと話す時にはこういう感じで話している。
ただ、リーマス達の前ではどうも引いてしまうというか…。

「でもね、私って甘いモノ関係になるといつも以上にテンション上がっちゃってね、昔の友人にはついていけないとか言われてて、その辺はリリー達の前でも遠慮してたんだけど…」

甘いモノの話題になれば尽きることなく語り続ける所。
それがまた妙にハイテンション。
しまいには普通の人では分からないところまで細かく分析してあれこれ言ったりする。

「でも、でもね!好きなものはしょうがないの!語りたいの!「ローズ」のカタストロフィとか、「ヴィーラス」のイチゴショートケーキとか!!もう、絶品なものは口に入れるだけでほんわりと甘さが広がって…」

妙に興奮した様子で一気に語る
表情は今までの美味しかったお菓子を思い出してうっとりするような表情になっている。

「「ローズ」のカタストロフィね、あれはボリュームもあるしなによりしつこくない甘さがいいよね。「ヴィーラス」だと僕はイチゴショートよりマロンタルトかな?」
「マロンタルト!確かに美味しいわよね!マロンタルトはあそこのオリジナルだし、栗の風味が生かされていて丸ごと入った栗の甘さが丁度いいし」
「その上にのってるマロンクリームも栗の味が保たれていて、少し洋酒が効いてるところも栗に合っていて美味しいよね〜」
「うん、そうそう!!リーマスやっぱり分かる?でもね、イチゴショートも最近新しいのになって美味しくなったんだよ!生クリームの甘さとスポンジがまたすごくふんわりで!」
「あ、ほんとに?じゃあ、今度食べてみないと」
「是非是非お勧めだよ!」

とリーマスの甘いもの談義は続く。
二人とも甘いもの好きな上にかなりいろんなお店を詳しく知っているせいか次々と話題が尽きない。
など、今までこの手の話題を話し合う人がいなかった為に尚更だ。
延々と、その手のひとでないと分からない会話が続いていく。
ずっととどまることなく続くと思われたが。

…何やってるの?」

その会話をとめたのはリリーの呆れたような驚いたような声だった。
ははっとなり、リリーの方を向く。
すっかりリーマスとの会話に夢中になっていた。

「あ、リリー」
「やあ、リリー」

リーマスが笑顔でリリーに挨拶。
意外な組み合わせにリリーは驚いてはいたが、この二人が仲良くなってくれることはリリーにとっても嬉しいことなので取り合えずは何も言わないでおく。

「どうして、リーマスがいるの?」
「セフィアに伝言頼まれててね。それでちょっとと話し込んでしまったんだ」
と話?」
「うん、そう。意外と話が合ってね、ラ・フーレとかルフォンヌとかヴィーラスとかの話でね」
「は?」

リーマスの言葉にリリーは顔を顰める。
リリーにとっては聞いたことない名前だ。
だが、には分かっているらしくにっこりと笑みを浮かべた。

「お菓子のお店の名前だよ、リリー。どこもとっても美味しいところなの」

リリーはこれほどまでに嬉しそうなを見るのは初めてだ。
お菓子の店の名前ということは。

って、もしかして、リーマスと同じ甘党なの?」
「え?あ、うん。…かなり」

少し気まずそうに答える

「どうして黙ってたの?」
「どうしてって、だって、私…」

昔そのハイテンションぶりが友人達に引かれていたとは言いにくい。
この甘いもののこだわりが分かることはないだろうと思って言わないでいただけだ。

「甘いものに関することだと妙にハイテンションになっちゃうの!!」

の勢いにリリーはかなり驚く。
その様子に言わなければよかったと思ってしまう
リリーもやっぱり、このテンションには引いてしまうのだろうか?

「そ、…それだけ?」
「え?それだけって?」
「別にハイテンションになるくらい構わないわよ。ジェームズなんていつでもハイテンションだし、慣れてるわ。それよりも、私はの本当の姿を見れたみたいで嬉しいわ」
「リリー」

感動したようにリリーを見つめる
苦笑するリリー。
別に甘いものが好きな人というのはリーマスで散々慣れている。
リーマスと来たら紅茶に5杯以上も砂糖入れるし、甘めのクッキーを食べては甘くない…と文句は言うし。

「リーマスにお菓子の美味しさが分かるとは思わなかったわ。ただ甘ければいいだけだと思っていたけど」

リリーはポツリっと呟いた。

「ん?何か言ったかい?リリー」

にっこり微笑んでくるリーマス。
おそらくリリーの言葉が聞こえていてわざわざ聞いてきたのだろう。

「なんでもないわ、リーマス」

にっこりとリリーも笑みを返す。
微妙にこの二人の周りが黒いことは気にしないようにしよう。
穏やかな笑顔の応酬が怖いのはこの二人だけだろう。

「あ、そういえば…」

は思い出したように炭酸水を見る。
リーマスとの話ですっかり冷却魔法の時間が切れてしまったようだ。
残念そうにソーダ水を見る
それを見たリーマスはの持つ炭酸水を取り上げる。

「あ、え?リーマス?」
「もらっていいかい?」
「あ、でも、もう冷たくないよ?」
「大丈夫。甘いものは冷たくなくても美味しいものだよ」

リーマスはそのまま直接炭酸水を口に運ぶ。
コクコクと少し口に運び、味わってから満足そうに笑みを見せた。

「うん、美味しいよ」
「ほんとに?」
「勿論。これもらっていいかな?」
「うん、いいよ」

少しぬるくなってしまったものなので、リリーたちにはまた作って冷たいのご馳走すれば言いかと思った
リーマスが美味しいと言ってくれるならそれは嬉しい。

「また何か作ったら、リーマスにもあげるね!」
「楽しみにしてるよ。じゃあ、リリーも来た事だし僕はこの辺で」
「うん、またね」

手を振るとリーマス。
はとても機嫌が良さそうだ。
リーマスが見えなくなった頃、リリーがに尋ねる。


「うん?何?リリー?」

リリーは一息ついて、真剣な表情になる。

「いい?一見おっとりして優しそうなリーマスだけれど、本性は絶対黒よ!間違っても好きになっちゃ駄目よ!」

びしっとに言う。
リーマスは確かに黒い。
その黒さが分かるのもリリーが同類だからだろう。

「リリーってば、いきなり何?大丈夫だって、リーマスってファン多いからそんなことになれば怖いし、なによりリーマスが私なんかに好かれても嬉しくないでしょう?」

真剣なリリーには笑って答える。
同学年で圧倒的に人気のある男子生徒はほぼ3人。
シリウス・ブラック、リーマス・ルーピン、セブルス・スネイプだ。
ジェームズ・ポッターはリリーという付き合っている子がいる為に、隠れファン程度はかなりいるがまだ人気が落ちついている。
そんなリーマスを好きになるなんて考えられない。
同じ甘党同士ではあるが、やはりにとってリーマスはまだ遠い存在だ。