マグルにおけるホグワーツの考察 3





スリザリンの空き部屋…勿論1人部屋に荷物を置き、ダンブルドアにケルトの部屋までの道順を聞いてそちらに向かっている。
部屋は魔法薬学の教室のすぐ隣になっており、今丁度授業中なので興味があるならば覗いてみるといい、と言われた。
場所は地下のようだ。
空気がひんやりとしているように見える。
が冷たいかどうか感じないのは、勿論保温の魔法を使っているからに過ぎないのだが…。

生徒達はよくもまぁこの寒い中やってられるよな。
それともローブが保温素材にでもなっているのか?

暖房器具に囲まれた生活に慣れているには、このじかの寒さは厳しいだろう。
保温魔法を作ってよかったと今日ほど思ったことはない。

寒々しい廊下を歩いていると、魔法薬学の教室らしき部屋が見えてきた。
扉は開いており廊下からでも中の授業風景画少しだが見える。
は教室にあまり近づかないように中を覗く。

緑系のネクタイと赤系のネクタイをした生徒達が鍋をかき混ぜていたり、レポートを書いているのが見える。
マグルの中で普通に生活してきたからすれば、かなり異様な光景だ。
レポート書きはともかくとして鍋をかき混ぜるのは変だ。
フラスコとビーカーならば違和感ないかもしれないが…。

教壇の方を見ればケルトが生徒達を見張るようにじっと見ている。
ふとケルトが顔上げてと目が合う。
視線で隣の部屋へ行けと言っているのが分かった。
は右手を軽く上げて了解の意を伝え、教室の隣の部屋に向かう。
丁度廊下の突き当たりの部屋になる。

中に入ればそこには所狭しと書物と色々な薬草が並んでいる。
それなりに綺麗に整頓されているのだろうが、物が多すぎる。

がちゃっ

少しだけ勢いよく教室側の扉が開く。
ケルトが部屋に入ってきたようだ。

「ミス・。もう少しで講義が終わるから待っていてくれ。興味があるならあと少しだが見るか?」
「いえ、遠慮しますよ」
「そうか…。その辺りのものは適当に見て構わないから時間を潰していてくれ」
「ええ、分かりました」

ケルトはそう言って教室の方へと戻っていった。
は並べられた本を見る。
器具や薬草類には手を出せないが、本ならば読んだら元の場所に戻せばいい。
ひょいっと1冊取り出しぱらぱらっとめくる。
中身が全て頭の中に入るほど真剣にではないかが、暇つぶし程度に魔法薬学の専門書を読み始めたのだった。



どれくらい時間が経ったのだろうか。
読み出した本が半分くらいまで進んだところで、かたんっと物音に気づく。

「ミス・。少し手伝ってもらえるか?」
「ミスター・バンズ?どうしたんですか?」
「実験を台無しにした馬鹿がいてな…」
「構いませんよ」

は読みかけの本を閉じ、元の場所に戻しておく。
ケルトについていき教室に入ってみればそこにはすさまじい惨状があった。
その惨状をちまちまと魔法を使いながらも片付けているのは2人スリザリン生と1人のグリフィンドール生だ。
スリザリン生の1人には見覚えがないが、あとの2人は見覚えのある顔だ。

「グリフィンドールの方が馬鹿をやった元凶だ。スリザリンの方は巻き添えくった方だからそちらを手伝ってやってくれ」
「鍋をとりあえずのけるのが先ですね」

見ていると要領悪そうな片付け方しかしていないように見える。
まずは邪魔だろうその辺りに転がっている鍋を片付けなければならないだろう。
何があったかのは分からないが、鍋は4つほど汚れたものが転がっている。

「汚れを落とすのも構わないが、まずは鍋をどうにかした方がいいぞ、セブルス」

は鍋のひとつをひょいっと拾い上げてスリザリン生の1人に話しかける。
そう、見覚えのある顔の方だ。
そのスリザリン生、セブルスは驚いたようにばっと振り向く。

「……か?貴様、何故ここに…?」
「要領が悪いな。せっかく魔法を使えるのだからもっと効率のよい使い方をしたらどうだ?」
「人の話を…!」
「ああ、そちらのスリザリンのお嬢さん、物を浮かせる魔法は使えるか?」

はもう1人のスリザリン生ににこりっと笑みを向ける。
スリザリンの少女は少し顔を赤くしながらこくりっと頷く。

「4つある鍋全てを浮かせる事は出来るか?」
「2つなら出来るわ」
「それならば、セブルス」
「……何だ?」
「あとの2つを頼む。あとは…シリウス!」
ああ?!何だよ?!

の声にこちらを不機嫌そうに振り向くグリフィンドール生。
今までの声しか聞こえていなかったようで姿は見ていなかったから、だとは気づかなかったのか、振り向いての姿を目に留めてセブルスと同じ反応をする。
そう、もう1人の見覚えのあるグリフィンドール生はシリウスだ。

てめ…!なんでここに?!
「驚くのはいいから、彼らが鍋を持ち上げたらそれを綺麗に出来るか?」
「出来るけどよ……」
「そう不本意そうな顔をされても、どうせ元凶は君かポッターあたりなんじゃないのか?自業自得だと思って従ってろ」
「……分かった」

ケルトが先ほどグリフィンドール生が馬鹿をやったからと言っていた事と、シリウスがいたことで原因がシリウス辺りかいつも一緒にいるだろうジェームズなのではないかと想像しただけなのだがどうも正解らしい。
ジェームズの姿が見えないのは一人だけ上手く逃げたのか。
要領の良さが随分と違うようだ。

「鍋を浮かしてくれ」
「「ウィンガーディアムレヴィオーサ!」」

セブルスと少女の声が重なる。
4つの汚れた鍋が浮く。
鍋からもれていた液体が残っているのか、ぽたぽたとしずくが零れ落ちる。

「シリウス」
クリーアズ!

シリウスが杖をふると鍋の汚れが綺麗に消える。

「鍋を机の上に乗せてくれ。あとは床を一掃すればいいんだが…。ミスター・バンズ、危険な薬品は扱っていましたか?」
「いや、特に魔法に反応するようなものはないはずだ。そこの馬鹿が入れたもの以外はな」

ケルトが目でシリウスを示す。
シリウスはむすっとした表情だ。

「それならばシリウス、君がやるのが妥当だな」
「……何でだよ」
「自業自得だと言っただろう?それともこの程度の事が出来ないのか、学力だけは優秀だと聞いているが?」
「〜〜!ちっ、やってやるよ!」

シリウスが呪文を唱えて杖をふる。
の挑発に簡単にのってしまうところがなんとも単純だ。
イースター休暇中、接する事が比較的多かったが、彼が単純犬であるという結論には変わりはなかった。
シリウスは確かに単純だが才能はあるのだろう。
あれだけの大惨事だった床を魔法ですぐに綺麗にしてしまった。
所々汚れが残っているのは本人の性格ゆえだろう。

「ミスター・バンズ。これくらいで構いませんか?」
「ああ、十分だ。それにしても、知り合いなのかね?」
「ええ、セブルスとは友人同士ですので」

知り合ったばかりだがよい友人関係を築いている。

「ブラックとは?」
単なる顔見知りです」
おい!そりゃねぇだろうが!

単なる顔見知りと言い切っただがシリウスの抗議が入る。
休暇中はの家に泊まったりもしたのに顔見知り程度で済まされては悲しいものがある。
だが、友人かと言われればそれは微妙なところのような気がするのだ。
従兄弟だと言っても構わないのだがそうするとブラック家の問題になってくる。

「冗談だ、シリウス。実は親戚なんですよ」

前半の言葉はシリウスに、後半の言葉はケルトにである。
親戚ならば嘘でもないし、聞いた相手がどれだけ遠い親戚か近い親戚かは勝手に判断してくれる。

「どちらかがここに通っているという幼馴染ではないのか?」
「私の幼馴染はこんな可愛くない子じゃないですよ。もっと可愛いです」
……
「…おい…

の言葉に眉間にシワを寄せるセブルスと、むすっとするシリウス。
可愛いと言われたいわけではないが、可愛くないと言われて嬉しいわけではない。
この時だけは、セブルスとシリウスの思いは一致しただろう。

「なんにしろ、知り合いがいるのはよかったな。それで泊まる所はどこになった?」
「校長の計らいでスリザリン寮の空き部屋を使わせてもらう事になりました」
「スリザリン…?確かあそこは男子寮にしか空き部屋がなかったはずだが…」
「……それは本当ですか?」

思わず声が低くなってしまう。
別に男子寮でも女子寮でも、きちんとしたベッドで眠る事ができるのならばそれで構わないには構わないのだが…。
案内されたあの部屋が、男子寮だとは知らなかった。

「私の方から校長に聞いてみよう」
「お願いします」
「授業の話については後日詳しく話す。手を貸して欲しい授業は今度は3日後なのでね、2日後に詳しい話をしよう。それまではホグワーツを自由にまわっているといい」
「そうします」

にそう言うと、ケルトは隣の部屋にこもってしまった。
魔法薬学の教室に残されたのは4人だけとなる。
セブルスとシリウスは何か聞きたそうにの方を見るが、は名前も知らないスリザリンの少女の方を見る。
にこりっと笑みを浮かべる

「名前、教えてもらってもいいか?」
「え?あ…、カルナ・マルフォイよ。貴方は?」
「私はという。短い間だがホグワーツでお世話になることになっている」

少女、カルナは少し顔を赤くしてを見る。
金色の少し癖のある長い髪に青い瞳、可愛らしい顔立ちの少女だ。

「どちらの魔法学校の?それともどこかにもう勤めているの?」
「いや、私はマグルなんだ」
「え……?マグル?」

カルナの顔が歪む。
まるで嫌な言葉でも聞いたかのように。
その反応から彼女は純血主義なのだろうと思う。
しかしそれに動じずにはさらににこりっと微笑む。

「マグルは嫌いか?私のような穢れた血は存在する事すら許せない?確かに礼儀のなっていな馬鹿も、魔法使いを排除しようとする阿呆もいるが……ミス・マルフォイは私が嫌いか?」

は自分の顔立ちがどういうものかをきちんと自覚している。
一般的に見て整っている部類であり、少女相手には押しを強く、微笑を見せればかなりの効果があることも。
使えるものは使うべきだ。
自分の微笑みひとつで人間関係が円滑になれば安いものだ。

そ、そんなことないわ!きっと貴方だけは特別よ!」
「そう、それはよかった。暫くスリザリン寮にお世話になるから何かあったときは宜しく頼むよ」
「ええ、力になるわ」

照れくさそうに微笑むカルナ。

「それじゃあ、あたしは先に行くわね」

カルナは少し慌てたように教科書をまとめて、ににこりっと笑みをむけて教室を出て行った。
ぱたぱたっと走りさる彼女の足音が小さくなっていく。
は苦笑しながらセブルスとシリウスを見る。

「何か言いたい事でもあるのか?」
「あるに決まっている」
「大いにあるに決まってるだろ」

即答するセブルスとシリウス。
何故がここにいるのか。
それが一番の疑問だろうが…。