マグルにおける魔法使いの考察 12






ダイアゴン横丁の漏れ鍋の部屋で、夜、リリーはに少しだけ話してくれた。
ジェームズと何があったのか。

「ジェームズにね、どうして自分が怪我をするのも構わずに私を助けたの?って聞いてみたの。そしたら、ジェームズが真剣な表情で…好きだから…って」

そう話すリリーは少し照れた様子で、それでも嬉しそうだった。
の忠告通り、ジェームズは自分の思いを真剣に伝えられたようである。
ふざけた様子での告白ではリリーも相手にしないだろう。
だが、リリーの性格上、真剣な思いにはきちんと真剣な態度で返す。
「嫌い」だからという理由で、ばっさり切り捨てる事はないだろうとは思っていた。

「それで、リリーも好きだって伝えた?」

の問いにリリーはこくりっと頷いた。
自覚したのはいつかは分からないが、ジェームズがリリーをかばって穴に落ちた時、あの時を見れば分かる。
経緯はどうあれ、うまくまとまって何よりだ。



一夜明けた今日、リリーはポッター家へと遊びに行っている。
ホグワーツでの友人を誘っていった。
も誘われていたのだが、セブルスとの約束があったため断ったのだ。
ダイアゴン横丁のこの間一緒にお茶をした喫茶店で待ち合わせである。

「待ち合わせ時間はまだだぞ、セブルス。随分と律儀だな」
「………?」

待ち合わせ場所へと、待ち合わせ時間の10分ほど前に行ってみれば、セブルスはもう来ていた。
セブルスの向かいの席にが座るとウェイターが注文を聞きにやってくる。
コーヒーを頼む
セブルスはすでに紅茶を頼んでいるようだった。

「昨日色々あって、少し疲れているから、例の場所へは一息ついてからでも構わないか?」
「あ、ああ、構わないが…。疲れているようならば今日でなくても…」
「いや、昨日のことはちょっと予定外だったからな」

疲れているといっても会話に支障が出るほどではない。
十分に睡眠もとったのだが、すぐに例の場所に出かける気にならないだけだ。
ちなみに例の場所とはセブルスが手紙に書いていた”ノクターン横丁”の事。

「そう言えば、昨日ポッターとミスター・ブラックに会ったぞ?」
「……ポッターとブラックにか?」

セブルスの眉間にシワがよる。
なんとも正直な反応だ。

「中々面白いと思ったよ」
「……どこがだ」

不機嫌オーラ全快のようである。

「ポッターを警戒するのはわかるがな、セブルス。あれは敵に回すと怖いタイプだ。大切な者がいる分それが弱点になりうるだろうが……あれは天才と言ってもいい」

リリーに一途な所がなんとも人間らしいがな。
それが唯一の弱点であり、ポッターを人間らしくさせている感情か。
まぁ、育った家庭も悪くないようだから闇に埋もれる事はないだろうが…。

「ポッターは天才一途だな、経験のせいでツメが甘いところもあるようだが」
「随分とポッターを評価しているようだな」
「正当な評価だと思うが?最も、あの性格は私とは合いそうもないな。あのテンションにはついていけん」

ジェームズは感情にあわせてテンションを上げていくように見える。
は冷静に何事も行う方が好きだ。
わくわくする事は好きだが、テンションを上げて何かを成すのは疲れる。

「それからミスター・ブラックの私の中での評価は、単純大型犬だ」


ごふっ


タイミングが悪かったのか紅茶を口にしていたセブルスがむせる。

「大丈夫か?セブルス」
「…だ、大丈夫だ」
「ミスター・ブラックが単純大型犬なのがそんなに意外か?」
「…僕が知っているシリウス・ブラックは、ブラック家の嫡男としての姿だったからな。大型犬とは結びつかないと思っただけだ」

それにしても面白いくらい大きなリアクションを返してくれるものである。
これがあるからこそ、ジェームズ達が彼をターゲットにすることをやめないのではないのだろうか。

「仲良くしろとは私は言わないが…。セブルス、もう少し彼らを上手くあしらう方法を覚えた方がいいぞ」
「…説教のつもりか、
「いや、助言だよ。今の君の性格では状況が全く改善されないように思うからね」

がそう言葉を切ったところで、注文したコーヒーが来る。
それに砂糖も何も入れずには口に運ぶ。
朝からブラックコーヒーはよく飲む方だ。
目覚めに丁度いい。
なるべく朝はクリープなりを入れて胃に優しいものを飲むのがいいのは分かっているのだが…。

「ところで、今日行くところはどういうこところだ?」
「…エヴァンスには何も言ってないのか?」
「質問を質問で返すな、セブルス。リリーに言える訳がないだろう?君もリリーもお互いを余りよく思ってはいないようだしな」

セブルスは生粋の純血主義者だ。
それでもとこうして話をしているのは何故か、には分からない。
もしかしたら対等に、何のしがらみもなく、話ができるからなのかもしれない。
はセブルスが純血一族であろうが、ホグワーツでどういう生活をしようが、闇の人間になろうが気にしない。
大切と思える者に害をなさなければ、の話だが…。

「あそこは闇の者が多く出入りする場所だ。エヴァンスに言えば確実に反対されるようなところだ」
「それはそれは、より一層興味深いな」

はふっと笑みを浮かべる。
セブルスはのその反応に少し驚きを見せる。
闇の者、闇の魔法使いがどういうものか知らないわけではない。
だが、はリリーよりも人の汚さというものを知っているつもりだ。

「私の反応が意外か?」

驚きを見せたセブルスに尋ねる

「ああ…、少しだがな」

セブルスは小さく頷く。
リリーの友人であるは、リリーと同じような考えを持っていると思っていたのだろうか。

「世の中というものはな、正しいだけではどうにもならないことがあるのが事実だ。例え不法な手段でも、自分の欲望を満たしたければそれに手を出す事もある。専門分野のトップの方に近づけば近づくほどにな」

闇の存在を否定する気にはならない。
それが正しくない事でも必要な時がある。
人はそういうものだ。
それはマグルであれ、魔法使いであれ変わる事はないはずである。

「マグル界であれ、魔法界であれ、裏があるのはどちらも一緒だ。裏があるからこそ今の世界がある。私は決して闇を否定するつもりはないよ」

ノクターン横丁が闇に深く関わりがある場所であっても、そこがの好奇心を満たすのならば別に拒むことはなしない。
自分や大切な者に被害が及ばない限りは…。

「大体な、私の恩師なんぞは不法な手段使いまくりで色々な薬品を手に入れているぞ?あの人のやることに比べれば、多少の違法くらいなど可愛いものだ」

が恩師と仰ぐ尊敬する大学の教授は本当にとんでもないのだ。
興味のあることに突き進み続ける。
それがどんなに危険な事でも、それを踏んづけてでも進んでいくような図太い神経、そして強さがある。
尊敬はしているのだが、たまに「それはちょっとやりすぎなのでは…?」と思う事もあるほどなのだ。

「……の恩師はどういうマグルなんだ?」
「聞きたいか?」

は僅かに顔を引きつらせて、真剣にセブルスに尋ねる。
聞きたいのなら聞かせてやろう。
人としてちょっと間違った趣味に走っている恩師の話を。
だが、セブルスは首を横に振る。

「いや…やめておこう」
「ああ、それが懸命だ」

あれに好き好んで関わるべきじゃないさ、セブルス。
特に魔法使いなんて存在を知れば、今にも切り刻まんとばかりに嬉々として魔法使い捕獲に乗り出しそうだからな。
しかも、それが冗談で済みそうもない行動力と実力があるのがさらに恐ろしいんだ、あの人は。

「さて、それじゃあ、行くか?セブルス」
「そうだな…」

とセブルスは2人同時にかたんっと席を立つ。
頼んだ紅茶とコーヒーの伝票をセブルスが持って支払いに行く。

「セブルス、支払いなら私が…」
「構うな。これくらい大した金額じゃない」

セブルスはそう言い、自分でささっとの分まで支払ってしまう。
としては自分は講義を持っているために収入がある、だがセブルスはまだ学生という身分で収入がない。
ならば収入が少しでも…実際はアルバイト代で済ませるような小さな金額ではないのだが…あるの方が支払うのが当然だと思っていたのだ。

「悪いな、今度何かおごる」
「構うなと言っただろう。こういう場で女性に支払わせるわけにはいかないからな」

むすっとした表情のセブルスだったが、はその言葉に驚く。
紳士的な態度もそうだが、何よりもが女性だと言う事が分かっている。
は普段着ている服装のせいもあるが、中性的な雰囲気の為男性であると誤解されやすい。
現にジェームズは未だに誤解中だ。
シリウスとてポッター氏が言わなければ気がつかなかっただろう。

「私が女だと分かっていたのか?」
、貴様はおかしなことを言うものだな。貴様のどこを見れば女性じゃないと言える?」

当然であるかのような言葉。
思わずくすりっと笑みがこぼれる。

?」
「いや、なんでもない」

嬉しい。
そう思っただけ。
別に男に間違われるのが嫌だというわけではない。
は自分の口調からも間違えられやすいのは自覚している事もある。
だが、当然のように自分が女であることを言われ、それでも対等に接してくれることが少し嬉しいと感じた。