マグルにおける魔法使いの考察 11






ポッター家に着けば、リリーとジェームズの雰囲気がどこか変わっているように見えた。
2人共照れているように見える。

上手くいったのか?

険悪ムードではないから、悪い方向に進んだわけではないのだろうとは思った。
上手くいったらなそれは何よりのことだ。
大切な幼馴染には幸せになってほしいから。

「リリー、ポッターの怪我は大丈夫だった?」

が声をかければリリーははっとしたようにを見る。

「え、ええ、だ、大丈夫だったわ。そんなたいした怪我じゃなかったみたいなの」
「それは何よりだ。それで、リリーどうする?」
「どうするって何を…?」
「何をって…、このまま家に帰るか、ダイアゴン横丁に帰るかだよ」
「え、あ、そうね…」

リリーはちらりっとジェームズの方を見る。
ジェームズとまだ一緒にいたいのだろうか。
ジェームズはリリーの視線に気づいてにこりっと笑みを見せる。

「泊まっていくかい?リリー」
「まて、ポッター。何を阿呆な事を言っている」

ジェームズの提案を即効却下する
雰囲気からして想いが通じただろうということは分る。
しかし、リリーはと同じ年齢、16歳だ。
16歳は子供でもなければ大人でもない微妙な年齢。

「年頃の少女を自分の家に止めるのがどんなことを意味しているのか分かっているのか、ポッター」
勿論だとも!
「勿論だとも!じゃないだろうが!リリー、帰るぞ!」

リリーの腕をつかんでぐいっと引っ張る

冗談じゃない。
こんなところにリリー一人残していけるか。

はそう思っていた。
リリー一人残して…ということは、は帰る気満々だったようだ。
それはそうだろう、明日は約束があるのだから…。

…!そんなに慌てなくても泊まるつもりなんかないわよ」
「リリー…」
「大丈夫よ、ジェームズもそんなに分別がないわけじゃないわ」

にこりっと笑みを浮かべているリリーには大きなため息をつく。

「少し…」
?」
「少し後悔している」
「後悔?」

きょとんっとするリリー。
この幼馴染はが今何故後悔しているのか分からないだろう。
リリーへ自分の気持ちを自覚させるように促した事は後悔していない。
正直言えば、後悔というよりも寂しいだけだ。
寂しいから自分のしたことを後悔していると思っているのかもしれない。

「いや、なんでもない」

こんな気持ちはリリーに伝えるべきではない。
子供っぽい嫉妬だ。
大切な幼馴染が自分から離れていくのが寂しくて悔しい、ただの嫉妬。

「帰るならうちの暖炉を使うといいよ。リリーはまた来てくれるだろう?」
「勿論よ、遊びに行くわ、ジェームズ」

ジェームズが奥にある暖炉を目で示す。
魔法使い達は、移動には色々な手段を使う。
それが箒だったり、ポートキーだったり…。
一般的なのは暖炉だ。
も使った事はある。
ネットワークに組み込まれている家の暖炉ならば、その場所を叫べば飛べると言う便利なものだ。
最も、移動時の感覚はグリンゴッツのトロッコに匹敵するくらい悪いものだが…。

「君もリリーと一緒に遊びに来るなら歓迎するよ、

歓迎…?
どういう風の吹き回しだ?

「理解できないって顔してるね、君。確かにリリーの側に君がいるのは少し気に入らないけど、それ以上に!!」

ジェームズはびっしっと人差し指を立てる。


君の発想が気に入ったんだ!!


嬉しそうな笑顔を浮かべているジェームズ。
それは小さな子供が面白いものを浮かべた好奇心溢れる表情に似ているかもしれない。
何かが起こるかもしれないわくわくした期待。

「ポッター…?」
「ホグワーツに隠し通路や隠し部屋を作ろうって考え、すっごく気に入ったんだよ!魔法使いからの視点じゃなく、マグルからの視点でもいろんな発想ができるものだってね!」
「いや、ちょっと待ってくれ、ポッター」
「言い出したのは君だし、勿論協力してくれるだろう?幸い君は魔法を嫌っているマグルとは違って、魔法使いを受け入れてくれているようだしね!」

確かに言い出したのはの方だ。
あの穴にいた間、いろいろアイディアも出したりもした。
だからと言ってそれに関わるつもりはない。

「ジェームズ!まさか、まだ悪戯するつもりなの?!」
「リリー…、いくら君でも僕のこの悪戯への熱意は止められないさ!あれほど楽しいものはない!」
「駄目よ!今年からは絶対にやめさせるわ!」
「できるかな?」
「やってみせるわよ!」

リリーは少し笑みを浮かべながらジェームズを睨む。
ホグワーツ魔法魔術学校では随分と悪戯し放題のジェームズ達である。
リリーは監督生という立場からそれを止めなければならない。
なによりも、リリーの性格上そういうことはあまり好まないのかもしれない。

!学校が始まったらフクロウ便で連絡をとるからね!」
「だから、ポッター、私は関与するつもりは…」
「駄目よ!!悪戯なんかに関わらないわよね!」

勘弁してくれ…。

「大切な幼馴染をあんなくだらない悪戯に関わらせるわけには行かないわよ!」
「いや、リリー。例え君でもこれだけは譲れないよ」
「絶対に駄目よ!」
「僕らの悪戯心は誰にも止められないのさ!」

怒鳴り合いをしているように感じるが、決して険悪な雰囲気ではない。
お互いがお互いの意見を主張しあっている。

これはこれでいい方向に向かったということで、良かったのかな。
それにしても、ポッターはミスター・ブラックと違って、私がフクロウ便を使えることが前提として考えているようだったな。
リリーと仲がいいから、フクロウ便くらいは使えると思っていたのか。
いや…ポッターのことだら、普段ホグワーツからリリーが私宛に出していた手紙の事を知っていたのかもしれないな。

は軽くため息をつく。
それにしても、リリーもジェームズもの意見を聞いていないようだ。
は関与するつもりはないと言っているのに…。

「これで、当分は惚気の日々かよ…」

ジェームズとリリーを見ながら呆れたようなため息をつくシリウスが、の隣に何時の間にかいた。
ポッター氏は奥へと行ったのか、何か作業があって別の所に行ったのかわからないが、この場に姿は見えない。

「だろうな…。まぁ、頑張れ」
「……人に押し付けんなよな。お前、何でホグワーツに通ってねぇんだよ…」
「そう言われてもな」

リリーからのホグワーツでの話を聞いて興味を惹かれた事も何度かある。
だが、ただそれだけだ。
今の大学生活を捨ててまで行きたいとは思わない。

「途中編入とかできねぇのか?」
「無理に決まっているだろう?私はマグルなんだぞ、ミスター・ブラック」
「ち…。お前が来たら面白そうなのにな〜」

残念そうなシリウス。
どうしてをホグワーツに誘うのだろうか。
が魔法を使える事をシリウスは知らないはず。
ジェームズのように悪戯に誘いたいわけでもない、かといって過大な好意を寄せているわけでもない。

「お前のその考え、スリザリンの奴らにぶつけてやったら、おもしれぇと思うんだよな〜」
「私の考えというのは、その純血だの混血だののことか?」
「ああ」

スリザリンと言えばホグワーツの寮のひとつだ。
リリーから少しだけ聞いた事があるのだが、スリザリンは純血主義の者が多いらしい。
今魔法界に恐怖を撒き散らしている「闇の帝王」などというおかしな存在もスリザリン出身であり、彼にかしずく者たちもスリザリン出身が多いようだ。

「私なりの持論を持ち出しても、大抵が答えは一緒ではないのか?」
「どういうことだ?」

の考え方はマグル寄りだ。
それに反論するにはマグルの知識を得てなければ反論もできないだろう。
遺伝子だの血液成分だのを持ち出されても、果たしてその意味を魔法使いは理解できるのか。
理解できずに答えられるはずがない。
となれば答えは決まってしまうだろう。

「私の考えに対してまともな”答え”をくれるような相手でもいれば、ホグワーツに行ってみてもいいのだがな」
「なんだよ、そりゃ…」
「セブルスは私の考えに対しての答えは”沈黙”だった。何も分からず”純血”ということを信じている証拠だな。だが、それに自分なりの考えを持っている者がいたならば非常に興味深いと思うよ」

はセブルスに対しては悪い評価はしてない。
頭の回転も悪くない、知識もかなりのものがある。
体力不足が少し気になるが、話し方も名のある家の出なのかしっかりしたものだ。
礼儀もきちんとしている。
それでも、の”純血一族とは何か”という問いに、が納得できるような答えを出せなかった。
もし、その答えを出せるような相手がいるならば、会ってみたいと思う。

「どうだろうな〜…、あ〜でも、あいつなら開き直って答えるかもな」
「あいつ?」
「親愛なる”従姉妹”殿。同じく純血のレストレンジ家に嫁いだな」

シリウスの従姉妹となるとにとっても従姉妹にあたる存在だろう。
純血主義に凝り固まった従姉妹殿ならば答えを出せるかもしれない。

「それは興味深いな……」
「興味深いのはいいけど、やめとけよ。あいつ、今あっち側で活動しているから、会うのは危険だぜ?純血一族でなければ尚更な」
「大丈夫だ、好んで厄介ごとに関わろうとは思わん」

は魔法界に慣れていないとはいえ、何も分からないわけではない。
興味があるからといって、危険を顧みずに何事にも突進していくような性格でもない。
興味深い、ただそれだけだ。
今ある生活を壊してまで望むものではない。


、帰りましょ」


気がつけばジェームズとリリーの言い合いは決着したようだ。
リリーにぐいっと手を引かれる

「また、明日ね、リリー」
「ええ、また明日説得しに来るわ!」

どうやら話の決着はついていなかったようである。
一時休戦か。
どちらにしろ、明日また延々と同じような”話し合い”があるのだろう。
リリーの性格とジェームズの性格から、この件に関してはどちらも譲り合う事はないだろうとは思うのだった。