マグルにおける魔法使いの考察 10






あの場所はダイアゴン横丁から随分離れているらしい。
ポッター家までは大した距離ではないが、はその間シリウスと話をすることにした。
ポッター氏は少し離れた前の方を歩いている。
とシリウスが話したい事があるだろうと思って、口を出さないように見える。
2人が話したい内容と言えば勿論2人の血縁関係のことだ。

「なぁ、俺、一応ブラック家に関しては色々知っているはずなんだけど、あんたほんとに従姉妹か?」
「それが事実であると証明できる証拠はどこにもないな。別に従姉妹であろうが、なかろうが私は構わないが…。うちの大学でならDNA鑑定できるがやってみるか?」
「DN…?何だ、そりゃ」
「ああ、そうか。魔法使いだったな。マグル関係の事はさっぱりか?」
「家が家だったからな…。電気…か?そういうのもさっぱりだ」

シリウスは肩をすくめる。
育った環境が違うと話もどうも通じにくい部分もあるようだ。
魔法界の常識とマグル界の常識はあまりにも違いすぎる。
も魔法界の常識を持ち出されれば、分からない事が多いだろう。

「マグルには本当に血縁関係があるかどうか調べる事のできる技術がある。それがDNA鑑定というわけだ。まぁ、そこまでしなくてもアルファード叔父さんに聞くのが早いだろうがな」
「叔父上は何も言ってなかったのにな〜」
「言えないだろうさ。私もつい最近まで母の実家のブラック家がどういうものか知らなかったのだからな」

まさか魔法界でも有名な純血一族だとは思わなかった。
恐らくリリーに付き合ってダイアゴン横丁に来なければ、一生知る事は無かっただろうな。

「母親がブラックなのか?」
「私のファミリーネームで分かるだろう?」
「必ずしも父親の姓を名乗るとは限らないだろ?」
「それもそうだな」

が母について知っているのは、旧姓とその両親が魔法使いであったらしいということくらいだ。
その旧姓は母から聞いたわけではなく、叔父であるアルファードがアルファード・ブラックと名乗っていたから分かったにすぎない。
昔は不思議に思ったものだが、叔父が何も聞くなとよく言っていたのを思い出し、母には何も聞いていない。

「私が知っているのは、母の実家が魔法使いの一家であった事。旧姓がブラックであったことくらいだな」
「父上も母上もそんなことは何も言っていなかった」
「恐らく家系から消されたんだろう。純血の魔法使いしか認めないんだろう?ブラック家は」

魔力が少なくスクイブだったの母。
が知る母は、幸せそうに笑っていて、それでもたまに寂しそうな表情をする事があった。
ブラック家で育ったかどうかは分からないが、若いうちに家を出たか追い出されたかしたのだろう。

「随分と息が詰まりそうな家なんだろうな。君はその家にいて平気なのか?」

ジェームズとシリウスは、ホグワーツで散々悪戯をしているとリリーからは聞いている。
性格的にそういう家の風習は合わないのではないのだろうか。
窮屈ではないのだろうか。

「全然平気じゃなかったさ…。だから、出てきた」
「出てきた?」
「ああ、もうあそこには帰らねぇ」
「だが、君はまだ学生だろう?生活はどうしているんだ?」
「今はジェームズん家に置いてもらってる。おじさんは随分と良くしてくれる、俺を本当の息子のように扱ってくれるし…」

シリウスは照れくさそうな笑みを浮かべた。
ポッター氏のジェームズに対する態度と自分への態度が分からないのが嬉しいのだろう。
恐らくそういう家庭で育つ事に憧れていたのではないのだろうか。

「だが、いつまでも世話になるわけにもいかないだろう?」
「分かってる、いつまでもジェームズのトコにいるわけにはいかねぇからな。一人で暮らす目処がついたらちゃんと一人でやってくつもりだ」
「アルファード叔父さんに相談してみたらどうだ?」
「叔父上には言ってみたんだけどな…。アンドロメダの件で忙しいからあまり頼れないんだよな」
「アンドロメダ?」

の知らない名前だ。
シリウスの言葉に、そう言えばと、もアルファードに最近会っていない。
手紙をたまに寄越すくらいだ。
魔法使いと言うわけでもなし、にはの生活があり母にも母の生活がきちんとある。
アルファードに頼る事などそうそう無いのだから便りくらいで十分と言えば十分かもしれないが…。

「従姉妹だよ。ああ、お前からも従姉妹にあたるのか。マグル出身と結婚したってことで、ブラック家と色々ごたごたしてるんだよ」
「何だ、純血一族と言ってもそう頭が固い考えの人間ばかりじゃないじゃないか」
「でも極少数だぜ。頭の固い奴らは大慌てして、アンドロメダをブラック家から消そうとしている。いや、もう消えているかもな…」

純血一族の中でもマグルにそう偏見を持たない人もいる。
シリウスやアルファード、そしてそのアンドロメダのように…。
過去にもそういう人はいたのかもしれないが、血族からその存在を抹消される。
の母もその類なのだろう。
血族からの存在が抹消されてしまうのは、純血一族にふさわしくない者達。

「だが、純血一族の中で育っていたのにマグル界へと関わろうとするのは難しいだろうな。常識が違う」
「それでも一緒にいたいって思えた相手なんだろ」
「そういう相手がいるのはいいことだな」

なんにせよ、全てを捨ててもいいと思える相手がいるのはいいことだ。
それが支えになるから。

「にしてもマグルについては、俺も全然分からねぇからな…」
「マグル界の常識を全て知れとは言わないが、ある程度は覚えておく事をお勧めするぞ」
「って言われても、ジェームズも一応純血一族でマグルとは関わりねぇし…」
「他に友人くらいいるだろう?」
「マグルに詳しい友人なんていねぇよ」

どうやらシリウスには純粋なマグル出身の親しい友人はいないようだ。
完全にマグル出身でなければマグル界のことに詳しいとは言えないだろう。

「それならマグル界でバイトでもしたらどうだ?金も稼げてマグルについても知る事ができて一石二鳥だぞ。なんなら、バイト先を斡旋するが…」
本当か?!

ぱぁっとシリウスの顔が輝く。

「うあ〜、すっげぇ、助かる。叔父上にはめったな事じゃ頼れねぇし、金銭面ではどうしようか悩んでたんだ」
「体力に自信があるならいくらでもあるぞ」
「ある!体力になら、ばっちり自信があるぜ!」

犬だ。
犬がここにいる。
大型犬に見えるぞ、ミスター・ブラック。

「休暇は8月いっぱいまでだったな?」
「ああ」
「それなら8月末あたりまでは空いているのか?」
「おう!全然平気だぜ!」
「それならば人手を求めている所に連絡を取ってみるよ。その後連絡する」

シリウスの喜びようには苦笑する。
尻尾があればぱたぱた振っているだろう。

「フクロウ便で構わないだろう?」
「え?お前、フクロウ便使えるのか?」
「随分と失礼な質問だな、ミスター・ブラック。リリーがホグワーツに行っている間はフクロウ便での文通だ。使えなければ困るだろう?」

は魔法界のある程度の常識は知っている。
リリーがよく休暇中に話してくれるからだ。
だからこそ、フクロウ便も普通に使用するし、フルーパウダーも使った事がある。

「それにしても、魔法使いは魔法にばかり頼っていて体力不足が多いと思っていたが、ミスター・ブラックは違うんだな」

ダイアゴン横丁でを全力で追いかけてきたセブルスは息が切れていた。
その時、体力が無いなと思ったものだ。

「何だよ、その偏った認識は…」
「偏っているのか?だが、セブルスは見た目も実際も体力不足そのままのようだったが…」

顔色も悪い、全力で走れば息切れ。
純血一族である者達は、自らの力を驕っているように感じていた。
だから、魔力に頼りすぎて体を鍛える事を全くしていないのではないのだろうか。
それがの見解である。

セブルスだぁ?!って、そーいやー、お前!スネイプの奴とあの時一緒にいたよな?!どういう関係なんだよ?!」
「どうもこうも友人だが?」
「友人?あいつ、あれでも純血一族で考え方もそれ寄りだぜ?」
「それは十分わかっている。だが、ちゃんと言い聞かせたからな、分かってもらえたよ」

にっこりとは笑みを浮かべる。
シリウスはその笑みに何故か顔を引きつらせる。

「…………お前、リーマスに似てるな」
「リーマス?」
「俺とジェームズの親友の一人」

特にその裏のありそうな笑顔がな、とは口には出さないシリウス。
そんな事を正直に言おうものならとんでもない事になると本能が訴えている。
の”言い聞かせた”という言葉も、何をしたのか少し想像ついてしまう。

「大体なんで、スネイプなんかと友人やってるんだよ。あいつリリーに対しての態度悪いぜ?」
「ああ、それなら知っている」
「だったら何でだよ?」
「何でと言われてもな…、たまたま話が合ったんだ。頭のいい相手と話すのは楽しいからな」

こちらが言うことに対して、想像以上の答えが返ってくる時がある。
そして基本的なことから応用させる頭の回転の良さ。
一人で考え何かを発展させていくのは難しい。
同じレベルの頭脳を持った者が2人以上いてこそ、物事の発展はのぞめる。

「ミスター・ブラックとセブルスは随分と仲が悪そうだな。家の関係か?」
「いや、家つーか…、純血が優位にいると当たり前のように思って、その道を疑いもしないアイツが気に入らねぇだけだよ」

シリウスは”純血が唯一の魔法使いであり最も魔法使いに相応しい”というような純血主義の考えを酷く嫌っているようである。
としては”純血主義”の考え方をさっぱり理解できないが、そういう思考を持つ者がいるのは仕方ないと思える。
魔法界だけではない。
どこでもどんな世界でも、上流階級であることを鼻にかけ自分の努力から得たものでない身分を当然と思っている輩はいるものだ。

「頭ガチガチの大人とは違うんだ。まだまだ交流する余地はあると思うが?」
「ねぇーよ!俺には絶対ない!」

決してそれを認めようとしないシリウス。
だが、それは…。

ミスター・ブラック。
その純血主義の考えを頭から否定するそれは、純血主義を頭から信用しているそれとあまり変わりが無いと言う事が分かっているのか。

無関係の第三者から見ればそれがよく分かる。
どっちもどっちなのだ。
同族嫌悪とでも言うべきか…。
自分が持つ認識がただ違うだけで、主張の仕方は全く一緒なのだ。