マグルにおける魔法使いの考察 9






シリウスとリリーが呼んで来たのは、どうやらジェームズの父親らしい。
彼の魔法によってとジェームズは助けられた。
リリーがどうして魔法が使えるのか不思議そうだったが、そのあたりは彼がごまかしたらしい。
ジェームズの嘘をかばったのか、面白そうだったから誤魔化したのか分からない。
彼に魔法が使えたのは、勿論ジェームズ達が仕掛けた魔法を使えない仕掛けなど、彼にとってすれば解除するのは容易かったのだろう。

「ジェームズ…!無事でよかったわ…!」

リリーが真っ先に駆け寄ったのはジェームズの方。
ジェームズはリリーを安心させるような笑みを浮かべていた。

「なんだ、傷ひとつねぇのかよ」
「ご期待に添えられなくて悪いね、ミスター・ブラック」

土で少し汚れているだけで傷ひとつないにシリウスが声をかけてくる。
傷がないとはいえ、それなりに長い時間穴の中にいたのは精神的にはあまりよくないものだった。
最も、ジェームズとの話が盛り上がって居心地悪い空間ではなかったのだが…。

「リリー、ポッターが心配だったのは分かるけど、幼馴染には何の一言もないのか?」

は苦笑しながらリリーに声をかけた。
このままではリリーはずっとジェームズにとられっぱなしになってしまう。
それはそれで悪いわけじゃないが、やっぱりなんとなく気に入らない。

「え?あ…違うの!別にのことを心配しなかったわけじゃなくて…!」
「分かってるよ。私よりもポッターの方が心配だったんだろう?」
「そ、そんなこと…」
「まぁ、状況が状況だったからね。きちんと受身をとる余裕があった私と違って、ポッターはリリーを助けていたから受身を取る暇もなかったわけだし」
「そうなの!だって、ジェームズの方が危険だったから…!」

の言葉に思いっきり肯定を返すリリー。
それでは今その言い訳に思い当たりましたと言っているようなものである。

別にそこまで勢いよく言い訳しなくても分かってるよ、リリー。
私よりも、ポッターの方が大切だったんだろう。

は心の中でだけそう思う。
今ここでそれを指摘しても、リリーは素直になるかどうか分からない。
ならば言わない方がいい。
あとは2人の問題。

「私は怪我はないけどね、ポッターは多少打ち身があるようだから治療した方がいいんじゃないか?」
「え…?ジェームズ?」

リリーは気がつかなかったようだが、ジェームズは受身が上手く取れなかったのだ。
打ち所は悪くはなかっただろうが、どこかしらの打ち身はあるだろう。

「大丈夫だよ、リリー」
「いや、打ち身だろうがかすり傷だろうが、小さい怪我を甘く見ないことだな、ポッター。小さな傷から菌が入って運悪く死亡した例もあるんだ」
「やだ、ジェームズ!早く治療しましょう!

があおるように言えばリリーが尚更心配する。
ジェームズはを少し睨んできたが、は全く気にする様子はなかった。
心配そうなリリーの表情にジェームズも治療など嫌だとは言えなかったようで、先に家があるだろう方向へと向かっていった。


は、ここで初めてリリーとシリウスに呼ばれたジェームズの父親の方を向く。
髪の質はジェームズそっくりの癖のある黒い髪。
だが、顔立ちは落ち着いた感じに見える。

「ご挨拶が遅れました、ミスター・ポッター?」

の挨拶に彼はにこりっと笑みを見せる。

「いや、愚息が君に迷惑をかけたようだね。ミス・
「可愛い悪戯ですよ。別に大したことありませんでしたしね」

やはりさすが父親と言うべきか、これが事故でなくジェームズがやったことだと気づいているようだ。
しかし、それに気づきながらも息子を叱ろうともしないのが、あのジェームズの父親らしいと言うべきか。

「わが息子ながらどういう目をしているのか…。女性相手にあんな悪戯など…」

呆れたようなため息をつくポッター氏。
おや?とは思った。
どうやら彼はの性別に気がついているようだ。

「ちょっと待ってくれ、おじさん。女性って誰の事だ?」

ジェームズ同様の性別に気がついていないだろうシリウスが口を挟む。

「おや?シリウス、君、もしかして気がついていなかったのかい?君にしては珍しい」
「珍しいって…だって、こいつどう見ても…」
「女性には見えないかい?」
「……」
「確かに中性的な雰囲気だろうけどねぇ…」

くすくすっと笑うポッター氏。
は髪は長いがそれを後ろでひとつにまとめてある。
服装も動きやすい男物と言ってもいいものばかりを着ている。
女とも見れるし男とも見れる服装なのである。

「ポッターには秘密にしておいてもらってもいいか?ミスター・ブラック」
「何でだよ?」
「決まっているだろう」

顔を顰めたシリウスにはにっこりと笑みを返す。

「その方が面白いから、だよ。まぁ、リリーを泣かせたら私がもらうよ、って牽制にもなるしね」
「性格わりぃなぁ…」
「リリーは大切な幼馴染だからね。それくらいの意地悪してもかまわないだろう?」

ジェームズのことだからそのうち気がつくだろうが…。
幼い頃から一緒にいた幼馴染の一番になるのだ。
気がつかない方も悪いわけであることだし。

「リリーも多少は自覚したようだから、これで上手くいってくれればいいけどね…」
「だな。…って言っても、エヴァンスが相手にしないならしないで鬱陶しいが、両思いになったらなったで煩くなる気がするが…」

シリウスは呆れたようなため息をつく。
ジェームズに散々愚痴を聞かされでもしているのだろう。
片思いでも両思いでも煩い事には違いないようだ。

「すみません、ミスター・ポッター。そういうわけで、少しの間あの2人の邪魔をしたくないので、ここからの移動は時間を置いてからで構いませんか?」
「ああ、構わないよ」

にこりっとに応じるポッター氏。
時間を見計らってからリリーの所に行った方がいいだろう。
2人の気持ちは分かるがそれを相手に伝えるかどうかは2人次第。
ある程度の助言はしても最後はやっぱりリリーとジェームズの問題だ。
邪魔する気などないのだから、急いで行く事もないだろう。

「それにしても、シリウス。君もジェームズ同様相当無茶が好きなようだけどね、その年になったんだから少しはわきまえる事も覚えるべきだよ」
「ああ…、分かっているんだけどなぁ。ジェームズと一緒だとつい…」
「幼い頃抑えられていた分、今そのタガが外れたって感じかな?シリウスは」
「かもしれねぇ…」

苦笑するシリウス。
シリウスと話すポッター氏はシリウスのことも息子のように思っているように見える。
対するシリウスも友人の父親というよりも、本当の父親相手かのような態度である。
相当仲がいいんだろうな…とは思ったが…。

「『ブラック家』というのは、相当窮屈な家なのか?」

ポッター氏の言葉から、シリウスが幼い頃は自分を抑えて暮らしてきた事が分かる。
それは恐らくシリウスの家であるブラック家がそういう方針なのだろう。

「ブラックは純血一族の中では一番の旧家で権力もある。規律を重んじる堅苦しい家だよ」
はっ…!純血を守ることしか頭にねぇ馬鹿の集まりだ」

ポッター氏はどこか悲しそうに、シリウスは忌々しくはき捨てるように言う。

「純血ね……。私にはそうやって、何をもって『純血』と『混血』を分けるのかさっぱり分からないな。流れる血の成分は皆同じだ」

話に聞く魔法族の『純血』と『混血』。
どうしてそれでいがみ合うのかがにはさっぱり分からない。

「魔法使いの家系でマグルの血が入っていないのが『純血』で、マグルの血が入っているのが『混血』って定義らしいぜ。くだらねぇけどな」
「同感だ、ミスター・ブラック。それに、あまりに近しい結びつきは障害を持った子が生まれる可能性が高い。近親婚を続けていったとしても不幸な子が生まれるだけだというのに…生物学を全く知らない魔法使いはアホだな」
「アホって…」
「随分とはっきり本当のことを言うんだね、ミス・

の言葉に呆気に取られるシリウスとは反対にポッターしはにこやかにそれを肯定するような言葉を返す。

「マグルの私からすれば、確かに魔法は便利だ。しかしそれだけだ。科学力のほうが現実的で発展も早い。科学で魔法のような現象を起こす事は可能だ。そしてそれを超えることもな」

噂で聞く闇の魔法使いは魔法で相手を死に至らせると聞く。
相手と対峙しなければ効かない魔法など、マグルという人が作り出す殺戮兵器に比べれば可愛いものなのではないのだろうか。

「”魔法”が至上のものと思い込んでいるのはただのアホだ。魔法を否定するマグルも多くいるだろうが、大抵科学の最先端にいる研究者達は否定するどころかそれが有効活用できると分かれば大いに利用すると思うぞ」

うちの教授なら、魔法の存在でも知れば真っ先に飛びつきそうだからな。
常識に縛られているようでは新しい考えも思い浮かばん。
上にいる者達はそれを知っている。

「なるほど…、流石というところかな?」

くすくすっと笑いながらポッター氏が言う。

「ミスター・ポッター?」

何が流石なのだろうか?
はポッター氏を見る。

「いや、君の事をね…アルファードから少し聞いていたんだ」
は?ちょっと待ってくれ、おじさん。何で叔父上がこいつのこと…」
え…?

ポッター氏の口から出てきた名前に驚いたのはシリウス。
シリウスがその名を知っている事には驚く。

アルファード。
アルファード・ブラックはの叔父にあたる。
母方の叔父で母の弟にあたる。
そして魔法使いだ。
はその叔父に魔法界の基礎知識と魔力の制御の基礎を教わった。

「ミスター・ブラック。アルファード・ブラックは君の叔父上なのか?」
「は?そうだが…それが何だよ?」
「アルファード・ブラックは私にとっても叔父に当たる。だから私のことを知っている」
はあ?!
「つまり、私とミスター・ブラックは従兄弟ということだな」

あまり遠い血縁ではないだろう事は想像していた。
だが、ブラック家の直系と従兄弟同士とは。
はため息をつく。
アルファードに以前今と同じような事を言ったことがある。
その時、アルファードは楽しそうに笑っていた。
今のポッター氏と似たような反応である。

「ミスター・ポッターはそれを聞いたのですね」
「そうだよ。面白い考えをする子がいるってね」

確かに魔法使いならば珍しい考え方なのだろう。
自身はそうは思っていないが…。


「さて、そろそろいいかな。戻ろうか?」


驚いたままのシリウスとため息をつくに声をかけるポッター氏。
いつまでも戻らないままなのは不自然だろう。
少し時間はおいたはずなのでそろそろリリーとジェームズの所に行くべきだ。

「ミスター・ブラック。詳しいことは私も知らないが、今度叔父さんを交えて話でもしてみるか?」
「ああ…」

混乱しているらしいシリウスに声をかける

「複雑か?」
「当ったり前だろう?マグルの従姉妹がいるなんて聞いたこともねぇ…」
「その存在を知られたくないからこそ、隠されているんだろう」

複雑だな、ブラック家は…。

シリウスを見るかぎり、複雑な気持ちでいることは分かる。
隠されたマグルとの関係。
それを隠しながら平然としているブラック家。
そういう家系であることは分かっていただろうが、それを改めて突きつけられたようなものだ。

「私の一家は十分幸せだ。気に病むなよ」

はシリウスの背中を軽くぽんっと叩いた。
慰めるかのように、自分が決して恨みなど抱いていない事を分からせるために。