マグルにおける魔法使いの考察 7
丸1日はリリーと一緒に買い物をし、ダイアゴン横丁を見てまわった。
久しぶりのダイアゴン横丁は変わりなく、でも品物の中には真新しいものもあった。
そして問題のジェームズとの約束の日はすぐに来た。
リリーはどこか楽しそうに目的の場所に向かう。
それをは苦笑しながら見ていた。
待ち合わせの場所は、ダイアゴン横丁の外れにある小さな時計塔である。
5メートルほどの高さの時計塔は、古いもののようでここにこんなものがあるなど知っている者は少ないだろう。
「リリー!」
待ち合わせ場所にはすでにジェームズがいた。
嬉しそうな笑顔でリリーに駆け寄ってくる。
一瞬の方を睨むように見たが、本当にそれは一瞬だった。
感情が隠し切れないようじゃまだまだ甘いよ、ポッター。
ジェームズの一瞬の表情に気づいただったが、そこは気がつかないふりをした。
楽しそうにリリーに話しかけるジェームズ。
まんざらでもないようで受け答えをするリリー。
「そろった事だし、行こうぜ、ジェームズ」
どうやらいたのはジェームズ一人だけではなかったようである。
時計塔のすぐ側でひらひらっと手を振っていたのは、シリウスだった。
「そうだね」
「ジェームズ?一体どこに行くつもりなの?」
シリウスの言葉にジェームズが答え、リリーが疑問を挟む。
どうやらここから移動するらしい。
ジェームズは笑みを浮かべたまま、一本の羽ペンを取り出した。
「これはポートキーになっているんだ。一定時間後に発動するようなね。僕とシリウスの共同開発品さ」
「ポートキーを作ったの?…ジェームズ達って本当にやること常識外ね」
リリーからは呆れるだけで、他の感情は何も見えない。
ポートキーを作るのは本当にすごいことなのだろうが、ジェームズ達にかかれば出来てもおかしくないという認識なのだろう。
それだけ認めているということ。
「もうすぐ発動するはずだよ。シリウス、リリー、それから君も…これに手を触れてないと取り残されちゃうよ」
「どこに移動するの?」
「この間僕の家の近くで、綺麗な花が咲くところを見つけたんだ。それをリリーに見せたいって思ってね」
ジェームズとリリーの話を聞きながら、とシリウスはジェームズの持つ羽ペンに手を添える。
シリウスはどこか気にいらなそうにを見ている。
理由はなんとなく分かる。
シリウスはジェームズと違って初対面に近いを嫌う理由などないはずなのだが、一昨日セブルスと一緒にいたのが原因なのだろう。
あの状況から推測するに、セブルスとシリウスはかなり仲が悪いようだ。
仲が悪いというか、彼らの悪戯の被害にあっているのがセブルスのようだからな。
双方共にかなり嫌っていると言う所か。
それで、セブルスと一緒にいた私のことは気に入らないのだろうな。
「キラキラ輝く花があってね、是非リリーに見せたいんだ」
「輝く花?楽しみだわ」
リリーもジェームズの持つ羽ペンに手を添える。
ジェームズが僅かに、何かたくらむような笑みを見せた。
そう思ったと同時に
ぐんっ
強く引っ張られる感覚。
ポートキーが発動したのだろう。
ポートキーは『物』を鍵として、移動する。
その鍵である物に触れている事で、決められた条件を満たすと指定された場所に移動する。
今の場合は、一定時間が経ったから、が条件なのだろう。
条件は誰かが触れたら発動するものだったり、複数の人数が触れる事で発動するものだったり、作成者に決定権があるものだ。
魔法界では暖炉の次に移動手段としてよく使われている。
魔法界の移動手段はあまり気分のいいものじゃないな。
無理やり引っ張られる感覚と、それから軽い浮遊感。
あまり気持ちのいい移動手段ではないのだろう。
移動先は確かにジェームズの言う通り、花が沢山咲いてある場所。
植物は薬草に繋がる。
工学部所属とはいえ、恩師が薬草関係に詳しく専門に扱ったりすることもあったため、よく話を聞かされていたたからこそ、多少の興味はある。
マグル界では見ることができない花もあり、目の色が少し変わる。
「すごい綺麗ね」
「リリーのために見つけたんだ」
一面花ともいえる光景にリリーはみとれる。
ジェームズはリリーが喜んでいるのが嬉しいのか自然と笑顔になっていた。
「確かにすごいね」
見たことない花を見てが呟く。
リリーのような感動の瞳でなく、対象への興味の瞳だ。
僅かに光を放つ花もあり、そんなものはマグル界にはないと、は珍しがっていた。
マグル界にも色々な花はある。
だが、異常な現象を起こす植物は殆どが魔法界のものなのだろう。
この光を帯びている花も。
「マグルには珍しいものだろ。魔法界でしか見られないものだからな」
シリウスが光る花を見たままの言葉に答えるように呟く。
ぼうっとしているわけでもなく、何を考えているわけでもない。
ただ、どうでもいいかのように見える。
「別につんでも違反にはならねぇぜ?珍しいものだからな、持って帰ったらどうだ?」
シリウスは視線で光る花をさし、に提案する。
「いや、やめとくよ。全ての世界において貴重なものというのは大抵生存能力が低い。それ故に貴重な場合が多い。つんでしまって枯れてしまったら意味がないだろう?」
「別にあれはそんなヤワな花じゃねぇぜ?なんなら枯れないように魔法かけてやってもいいけど?」
シリウスはひょいっと自分の杖を取り出す。
花が枯れない魔法があるのかどうかには分からない。
マグルの常識という常識を見事に突き破ってくれる魔法にならそれくらいのことできるだろうが…。
「随分と親切なんだな、ミスター・ブラック」
「俺はいつだって親切だぜ?」
「同じ学校の同級生を”水で綺麗に洗ってあげる”くらい親切とでも言うのか?」
の言葉にシリウスが僅かに驚いた表情を浮かべる。
が言いたいのはセブルスに水をかぶせた事。
あんな事をやっておいて親切と言えるのか。
それともあれを親切でやったとでも言うのか。
「当たり前だろ。俺が”洗ってやった”んだからな」
にやっと笑みを浮かべるシリウス。
随分と性格の悪いガキだ。
そんな事を思っているだが、一応シリウスとは同じ年なのだ。
だが、大学で年上の学生や教授にばかり囲まれているにとっては、同じ年のシリウスのような子はガキだ。
「それなら、その親切に甘えてあの花を持ち帰らせてもらおうかな」
「ああ、そうしとけ」
単純だな、ミスター・ブラックは。
あれじゃあ何かありますと言っているようなものだ。
流石に死ぬような罠があるとは思いたくないが、なんとかなるだろう。
「、私も欲しいわ!」
が光る花の場所に歩いていこうとすると、リリーがの腕にしがみついてくる。
どうやらかなり光る花が気に入ったらしい。
「それに、あれをペチュニアに見せれば喜んでくれるかもしれないでしょう?」
「そうだね…」
リリーの言葉には苦笑する。
リリーの妹のペチュニアは魔力を持たない普通のマグル。
魔法使いとしての魔力を持ち、ホグワーツに通っている姉のリリーを羨んで妬んで…今は、”化け物”と蔑んでいる。
ペチュニアがリリーに対して”化け物”と言うのは、魔法使いになれるリリーを両親が喜んでリリーにばかり構っている事、自分にはその資格がないという惨めさからなのだともう。
リリーと休暇中などは仲良くしているもペチュニアにはあまり好かれてはいないが、魔法学校に行っていない一般的にはマグルである為か、そう嫌われてはいないようである。
「ペチュニアも何か切欠さえあれば、リリーと仲のいい姉妹に戻れるだろうしね」
「ええ、昔みたいにペチュニアとも仲良く話せるようになりたいわ」
昔はとても仲の良い姉妹だった。
構ってもらえない寂しさと、自分は駄目だという気持ちからリリーと仲良く出来ないだけなのだから。
「リリー…!花が欲しければ僕がとってくるよ」
突然ジェームズがリリーの腕をつかんで、リリーの足を止めさせる。
「ジェームズ?別に構わないわよ。危険なことなんて何もないでしょう?」
「勿論危険なことなんてないさ!でも、僕がリリーにとってあげたいんだ」
花のある場所まであと10歩程度というところだ。
別に今更とめなくてもいいだろう。
だが、はジェームズの表情にどこか焦りを見つけた。
何かあるとは思っているが、ここはリリーを止めた方が良さそうである。
は自分ひとりにかかる被害ならば構わないが、リリーにまで及ぶのは自分としても嫌だ。
「リリー、ミスター・ポッターがリリーのために言ってくれているんだから、ここは甘えてもいいんじゃないか?」
「でも、!私がペチュニアの為に自分でつみたいの」
「誰がつんでも別に変わらないのなら、ミスター・ポッターの方がいいだろう。それに、この場所を知っていたミスター・ポッターの方が、綺麗な花を選ぶ方法がわかっているだろうしね」
もっともらしいことを言う。
でも、リリーは首を横に振ってさくさくっと花の方に歩いていってしまう。
「大丈夫よ。ペチュニアの好みは私が一番よく知っているわ」
笑顔で花のあるほうに歩みを進めるリリー。
「駄目だっ!リリー!!」
焦った様子を隠さないジェームズの声。
は花の方に近寄ったリリーの足が僅かに沈むのを見た。
足が沈むほどここの土は柔らかくはない。
「「リリー!!」」
ジェームズとがリリーのいる場所へと同時に走り出す。
ずずずっ…!
「ジェームズ!!」
聞こえた叫び声はシリウスのもの。
は自分の体ががくんっと沈むのを感じた。
足元の土が崩れ、視界に移る光が遮られるかのように暗くなる。
『ウィンガーディアム・レヴィオーサ!!』
聞こえた呪文はジェームズの声。
ジェームズは自分の体勢が崩れるのも構わず、杖を取り出して呪文を唱えた。
それはリリーを助ける為。
ジェームズの呪文でリリーだけふわりっと浮き、とすんっと大地に下ろされる。
それは本当に全てが一瞬の出来事。
光る花のあった場所は落とし穴になっていたようで、その場所にたどり着いたリリーの重みで、落とし穴は広がる。
元々はを引っ掛ける為だったのだろう。
落とし穴に落ちそうになったリリーを助ける為に駆け寄ったとジェームズは穴に落ちる。
リリーはジェームズの呪文で穴から離れた場所に着地。
穴はそう深くもなく、だが浅くもない。
土や花と一緒に底まで落ちたとジェームズ。
土がクッションになった為に、痛い所は背中から落ちたせいか、背中くらいか。
落とし穴とは古典的だな…。
ぼうっと穴の出口の光を見ながらそう考える。
意外と冷静であった。