古の魔法 9





は息も荒く、校長室の入り口に立っていた。
大きな石像のある場所。
ここは合言葉が必要だ。

「ダンブルドア先生!!開けてください!」

合言葉を知らないはダンブルドアが気付いてくれるのを待つしかない。

「ダンブルドア先生!!!お願い!!」

石像に手を当てて叫ぶ。
だが、一向に反応はない。
ばしばしっと石像を叩くがそれは結局は意味がない。
は何かを決意したようにきゅっと口を結び、すっと石像から離れる。
じっと石像を見つめ、杖を構える。

『レダク…!』


「何をしておるんじゃ?


魔法で石像を壊そうとしていたところに声がかかる。
たとえ魔法を使ったとしてもそう簡単に石像が壊れたとは思えないが、なんともタイミングがいい。
が声のした方を向くと、そこにはが探していたダンブルドアの姿。

「ダンブルドア先生!!」

はダンブルドアに駆け寄る。
ダンブルドアは相変わらずの落ち着いた笑みを浮かべている。

「ゴドリックの谷の、リリーさんとジェームズさんがいる家の封印を解いてください!お願いします!!」

つかみかかかるようにダンブルドアに訴える

「落ち着くんじゃ、
「落ち着いている場合じゃないです!一刻も早く!!お願いします!すぐにでも行かないと!!」

ダンブルドアは笑みを浮かべたまま、の頭をゆっくりと撫でる。
理由なんて悠長に話している時間も勿体無い。
早く…!!

「理由はあとで聞こうかの?」
「はい、後でならいくらでも説明します!」

ダンブルドアはの言葉に満足そうに頷いて、ローブでを包み込む。
ふわりっと包み込まれたは、浮遊感を感じた。
そして、その場から二人の姿は忽然と消えたのだった。
このホグワーツでは姿現しは使えないというのに、ダンブルドアにはそれは関係ないのだろうか?



ふっと、が目を開けると目の前には廃墟のような家が1つ。
周りを見回せば、草木も枯れかけた寂しいところに見える。
はダンブルドアを見る。

(ここがゴドリックの谷なのだろうか?)

ダンブルドアは何も言わずに廃屋へと近づき、杖を軽く一振り。
すると、ダンブルドアの杖から光があふれ、家全体を包み込む。
冷たい感じをしていた家が、温かみを帯びる。


かちりっ…、キィ…


玄関の扉が自然に開いた。
ダンブルドアが封印を解いたのだ。
ダンブルドアは振り向き、に微笑む。
ははっとして、急いで家の中に駆け込んだ。

ばたんっ

乱暴に玄関の扉を開ききる。
玄関のすぐ側には一人の青年が横たわっている。

黒いくしゃくしゃの髪。
少しひび割れた眼鏡。
瞳は閉じられたままで眠っているかのよう。
肩までは毛布が掛けられている。

毛布が掛けられているのは、が最後に毛布を掛けたからだ。

「ジェームズさん!!」

はジェームズに駆け寄って、毛布をはいで鼓動を確かめる。
ダンブルドアはこの様子に少し驚いた様子を見せる。
あの時からもう10年以上も経っている。
聖魔樹の守りは効いたのだろうか?
不安いっぱいではジェームズの胸に耳をあててみる。

(お願い…!動いていて!!)


…とくん


「…あ」

鼓動が聞こえた。
はジェームズの頬に触れてみる。
ほんのりと暖かい。
まだ、生きている。

「ジェームズさん。よかった…」

泣きそうなほどの笑顔を浮かべる
一か八かの賭けだった。

「これは…」
「ダンブルドア先生、ジェームズさんをお願いします!2階にまだリリーさんがいるので、私、見てきます!」

ダンブルドアにとりあえずジェームズを任せ、は今度はリリーの元へと向かう。
ジェームズが大丈夫だった、それならばリリーも大丈夫なはずだ。
何の根拠もない自信。
けれど不安も沢山ある。
慌てて2階へと続く階段でこけそうになったりしたが、どうにかリリーの元にたどり着く。

さらさらストレートの長い赤みを帯びた茶髪、瞳は眠ったように閉じられたまま。
がここを発つ時、そのままの光景。
あの時で、最後に見たのはこれと同じ光景。
はそっとリリーに近づき、リリーの鼓動を確かめる。

…とくん、…とくん

ゆっくりとだが、落ち着いた鼓動。

「…生きてる」

ほぅっと息を吐く
ぽろっと涙がこぼれてくる。
安心したのだろう。
気が緩んだのか、次々とあふれてくる涙。
ぬぐってもぬぐっても止まらない。

「やだ。なんで、止まらないんだろ」

ごしごしっと目をこする。


、そんなにこすったら目が腫れるよ?」


くすくすっと笑いのこもった声には目を開く。
久しぶりに聞く声。
ばっと振り返る
そこには、ダンブルドアに支えられながらも笑みを浮かべているジェームズがいた。
ふらふらとした足取りで、こちらに歩いてくる。

「10年以上も眠ったままじゃったからの。体力が完全に落ちているじゃろう…?無理してはいかんよ?ジェームズ」
「分かってます、ダンブルドア。ですが、リリーも…」
「わかっておるよ。お主は座って見ておるんじゃ」

ぺたんっと力なく座り込むジェームズ。
ダンブルドアが魔法か何かをかけて目を覚まさしたのだろうか?
はジェームズの方に近づく。

「ジェームズさん、よかった!」
「君のおかげだよ、

ふわりっと微笑むジェームズ。
はそんなことはない、と首を横に振る。
自分は何もできなかった。
見ていることしかできなかったと言うのに…。

ダンブルドアはリリーに回復か何かの魔法をかける。
リリーの体が、一瞬淡い光に包まれ…、そしてリリーの瞳がゆっくりと開いた。

「…ん、ここは?ダンブル、ドア…先生?」
「リリー、気分はどうかの?」

ゆっくりと身を起こすリリー。
ふらふらしている体をダンブルドアが支える。
まだ記憶が混乱しているらしいリリーはぼうっとしている感じだ。

「どうして、ダンブルドア先生が?ここは一体…」
「覚えておるかの?ヴォルデモートに襲われたことを」

ダンブルドアはリリーにゆっくりと言う。
リリーはその言葉にはっとなり。

「そうだわ!ジェームズ!ハリーとジェームズは!」
「僕はここだよ、リリー」

ジェームズの言葉に、リリーははじめてジェームズの存在に気付く。
リリーが無事に目を覚まして、ジェームズは嬉しそうに微笑んだ。
リリーも泣きそうなほどの笑みを浮かべる。

「ジェームズ、よかったわ。でも、ハリーは?」

突然不安そうになるリリー。
息子の姿が見えない。
最後まで守ろうとした最愛の息子はハリー。

「ハリーは今ホグワーツにおるよ」
「ホグワーツ、ですか?」
「リリーさん、ハリーはもう13歳なんです」

の言葉に驚くリリー。
ジェームズはダンブルドアから先に聞いていたのか、それとも想像ついていたのか驚く様子はない。
リリーの記憶はあのヴォルデモートに襲われた12年前の時から止まったままである。

「あれから、もう12年も経っているんです、リリーさん」

リリーはジェームズを見る。
ジェームズはの言葉に頷く。
そしてダンブルドアも頷いていた。
だが、取り乱すことはなく落ち着いたもので、そう…と答えただけだった。

「12年も眠っていたなんて信じられないわ。そんなこと可能なのかしら…」
「僕もそう思ったよ。寝坊するにも限界があるね」

苦笑しながらリリーの言葉に答えるジェームズ。
その疑問にはダンブルドアが答えた。

「恐らく、わしのかけた時封じの魔法と聖魔樹の魔力が共鳴したんじゃろうな」
「え?」

は驚く。
ダンブルドアはそのまま説明を続ける。
要約するとこういうことらしい。

ダンブルドアは、この家をそのままの形で保つために「時封じの魔法」をかけた。
「時封じの魔法」は時をそのまま止める魔法ではなく、その対象の時の流れを緩やかにするものだ。
その魔法と、ジェームズとリリーの周りにあった聖魔樹の守りの魔力が共鳴して、二人の時の流れをかなり緩やかなものへと、そして守りの魔力が彼らの生命の持続を助けた。

「あの禁じられた呪文をまともに受けたんじゃ、かなりの休息は必要じゃろうて。むしろ、この状態で休息を取ったことが幸いしたのじゃろう。体力は落ちても違和感はないじゃろう?」

ダンブルドアの言葉に頷くジェームズとリリー。
あの呪文を受けて生き延びることはありえないと言われている。
それほど強力な魔法なのだ。

「あの時、聖マンゴ病院へと運ばれたとしても、同じくらい…いやそれ以上眠り続けることになったかもしれないの。不幸中の幸いという訳じゃ」

の身代わりの魔法、聖魔樹守り、そしてダンブルドアの「時封じの魔法」。
全ての要素が重なって、今ここでジェームズとリリーは無事でいる。

「12年の休息を取ったおかげで、わしの簡単な回復魔法で目覚めることができたんじゃよ」

はほっとすると同時に驚いた。
あの時、諦めずに聖魔樹のことを思い出して本当によかったと思う。
どの要素が欠けてもこの二人は生き残れなかった。

「ダンブルドア、ありがとうございます」
「ふぉっふぉっふぉ。ジェームズ、お礼を言うなら、わしじゃなくてにじゃよ。全てその子のお陰じゃろう?」
「そうですね」

ジェームズとリリーはを見る。
二人同時に視線を向けられてドキッとする

「ありがとう、。貴方のお陰だわ」
「僕からもお礼を言うよ。君のお陰だ、

優しげな笑みを浮かべて照れる
そんな大層なことはしてない、と自分では思っている。
けれども、最後まで諦めなくてよかったと心底思った。
諦めない気持ちが、何よりも大切だと、改めて思った。