古の魔法 8






は浮遊感がなくなったと思って目を開けた。
どうやら戻ってきたようだ。

「おかえり、

にっこりと笑顔で迎えて抱きしめてくれたのは母カレン。
はぎゅっと母にすがりつく。
だが、こんなことをしている場合ではないとはっとなる。

「お母さん!!ダンブルドア先生に会いにいかないと!」
、どうしたの?」

一刻も早く。
もう、あの時から10年以上も経ってしまっているのだから。
僅かな希望にすがりたい。

「ダンブルドアなら、ホグワーツに戻ったときに会えるだろう?」
「そうよ、、そんなに急がなくても」

父であるセイスが、苦笑した表情でこちらに近づいてきた。
先ほどは姿が見えなかったが、が還ってきたことが分かったのだろう。

「違うの!一刻を争うの!急がないと!!」
「どうしたの、。少しは落ち着きなさい」
「だって、お母さん!…もう、いい!私、ホグワーツに行って来る!」

説明する間も惜しい。
こうしている間にも時間は過ぎていってしまうのだから。
はカレンから離れて玄関に向かう。

!どこいくの?!」
「ホグワーツに決まってるじゃない!」
「ダンブルドア先生には休み明けでも、まだ貴方が行ってから3日しか経ってないのよ?」

が過去に行ってから3日。
クリスマス休暇はまだ終わっていない。

「だって、お母さん!リリーさんとジェームズさんは生きているかもしれないんだよ!!」

はそう言って飛び出していった。
ばたん…と玄関の扉が閉まる音。
の言葉に両親は驚きの表情のまましばらく固まったいた。

「リリーが、生きている?」
「ジェームズが?」

信じられないだろう。
だが、娘のは過去に行って真実を見てきたはずなのだ。
ならばその言葉は信用するに値するのでは?

「カレン、君はが嘘を言ってると思うか?」
「いいえ、あの子が嘘をつくはずないわね。そういえば、私達はリリーとジェームズが亡くなったとしか聞いていない。そして実際に二人が死んだところを見た人は…」
「シリウスとハグリッドだけか」
「お墓の場所も知らないわ」
の言葉が正しいかもしれないな」
「いいえ!正しいわ!」

カレンは言い切る。
一筋の希望。

「セイス!」
「ああ、分かってる。をホグワーツに連れて行く、だろ?」
「勿論よ!」

カレンとセイスも駆け出す。
まだ真実は何も聞いていない。
もしかしたら、自分達が思っていた真実よりももっと現実は、救いのあるものかもしれない。



はとりあえず駅に向かって走っていた。
ここからホグワーツへはいつも電車で行く。
だが、この移動時間さえも今はもどかしい。
けれど、自分ができるのはこれだけなのだ。

!!」

がしっ

名前を呼ばれて腕を掴まれた。
走っていた足が止まる。
荒い息をしながらが振り返ると、そこには同じく荒い息をした両親。
追いかけてきたようだ。

「ホグズミードまでなら姿現しでいけるわ。その方が早いわよ」
「お母さん」
「ホグズミードからは箒で俺が連れて行く」
「お父さん」

は驚いたように両親を見る。

「なんて表情してるの?。急ぐんでしょう!」
「え?あ、うん!!!」
「事情はあとでゆっくり説明してもらうさ。今は急ごう!…行くぞ、、カレン!」

はカレンに抱きしめられる。
姿現しは難しい魔法だ。
カレンはを抱きかかえて同時に移動するつもりらしい。
には勿論そんな高度な魔法は使えない。

ひゅ…ぱちんっ!!

弾くような音と共に親子三人はその場から消えた。
ここは魔法使いの住む町。
誰もそれに気を止めることはない。



再びの浮遊感には眩暈がして、ふらっとなる。
それをカレンが支えてくれる。
目を開ければ、そこは一面銀世界。
ホグズミードは今雪に覆われていた。

「寒いが、我慢できるか?
「うん、我慢する!」

寒さなんて、どうでもいい。
だって、人の命がかかっているのだから。

「アクシオ!箒よ来い!」

セイスが箒を呼び寄せる。
ひらりっと綺麗に箒にまたがり、もその後ろにまたがる。
父親の背中にぎゅっとしがみつく。

「家で暖かいスープでも用意して待ってるわ」
「5人分だぞ、カレン」
「ええ、分かってるわ。、行ってらっしゃい」
「うん、行ってきます!」

父の言葉には嬉しくなった。
5人分。
それは、父がリリーとジェームズの生存を信じていてくれる証拠。
それだけで、信じる気持ちが大きくなる。

(時間切れなんてことはない!きっと生きているから!)


刺す様な風も、凍えるような寒さも我慢する。
ホグズミードからホグワーツは近い。
ホグワーツの城が見えてきた。

、このまま校長室の近くまで飛んでいくぞ?」

はその言葉に頷く。
寒さのあまり言葉を発するほど余裕はない。
セイスはの頷きが分かったようで、そのままホグワーツへと入っていく。
どこに校長室があるのかと分かるのは、そこはそれホグワーツ卒業生だからだ。
校長室は移動することはない。
ただ、入るのに合言葉が必要になる。

箒が降下して降りる。
足を下ろせばさくりっと雪を踏む音。

、大丈夫か?」
「だ、い…じょぶ」

カチカチ震えているが、強がっているようだ。
ぎゅっと手を握り締めて、感覚を確かめる。
大丈夫、大丈夫。
ぎこちなくだが、走り出す。
しかし、の進路をふさぐように断つ人物がいた。


。これはどういうことかね?このホグワーツに不法侵入か?」


ニヤリと意地悪げな笑みを浮かべたセブルス・スネイプがそこにいた。
はセブルスがいたことで一瞬怯むが、ここで立ち止まっている場合ではない。

「ミス・。ホグワーツに戻ってくるならばこんな方法でなくてもいいだろう。グリフィンドール10点減点だ」
「減点なんていくらでもしてください!」

はそう叫んでセブルスの側を走り抜ける。

「止まれ!!でなければ!」
「10点でも50点でも100点でも好きなだけ減点すればいいじゃない!!根暗陰険教師のわからずや!!

はセブルスにはき捨てるように言ってそのまま走り去って言ってしまった。
セブルスと言えば、面と向かって言われたことに呆然としてた。
は比較的大人しい生徒だ。
減点されることもなければ、目立つこともない。
そんな生徒にあんなことを言われれば誰でも驚く。

「悪いけど、セブルス。今回は見逃してくれないか?」
「…何故貴様がここにいる、

ぎろりっとセイスを睨むセブルス。
仲は…良くないようだ。

には過去に行ってもらったんだ」
「本当にやったのか、貴様ら…」
「何を言うんだ。セブルスだって協力者の一人だろ?」
「不本意ながらな」

ちっと舌打ちするセブルス。

「戻ってきたは言ったんだ。ジェームズとリリーは生きているかもしれない、と」
「はっ、そんな都合のいい…」
「それじゃあ、セブルスは見たか?ジェームズとリリーの最後を?」

その言葉に黙るセブルス。
誰も知らない、彼らの最後。
ダンブルドアから知らされ、静かにさせてやろうと言われて誰も聞かなかった。

「あの子は見てきたんだ。だからこそ、信じようと思うのさ、俺は」
「ふん、下らん」

そういいながらも、セブルスはどこか嬉しそうに見えた。
その様子にセイスは微笑む。
あの時、セブルスが悲しんだことをセイスは知っていたから。