古の魔法 10
ジェームズとリリーはとりあえずはの家に。
勿論、の両親が驚いたのは言うまでもない。
セイスはいつの間にか家に戻ってきていた。
「リリー!!ああ、もう!!本当によかったわ〜!」
「カレン」
泣いてリリーに抱きつく母を見て、は本当に大切な親友だったんだと思った。
「でも、リリー。貴方の肌、若いわ」
しかし、泣きながら喜びながらもそんなことを指摘する母カレン。
リリーとジェームズは「時封じの魔法」の中にいた。
休息と同時に肉体の時は緩やかなもので…、つまりは殆ど年をとっていないのである。
「ずるいわ!」
カレンがそう言うとリリーは笑った。
実際の今のリリーとジェームズの年齢は24−5歳だろう。
ジェームズとハリーが並んだら、親子と言うより年の離れた兄弟に見えるかもしれない。
体力が完全に落ちていたジェームズとリリーは、の家で体を慣らすことからはじめた。
10年以上も使っていなかった体はそう簡単に元通りに戻ることはないのか、時間がかかりそうだった。
そんなうちに年が開け、はホグワーツに戻らなくてはならなくなる。
「、頼みがあるんだけれどいいかな?」
明日ホグワーツに戻るという時にジェームズに声をかけられた。
「何ですか?ジェームズさん」
家の中を歩き回る程度には体力は回復しているらしい。
だが、普通に生活するまでには戻っていないようで、早めに寝て遅めに起きる。
そんな生活が続いているようだ。
「新聞を見て知ったんだけど…。あの馬鹿が脱獄してハリーを狙っているんだって?」
(あの馬鹿って?)
きょとんっと首を傾げる。
だが、ハリーを今狙っていると騒がれているのはシリウス・ブラックだと思い当たる。
でも、お父さんもお母さんもだけど…シリウスさんって一体どういう人なんだろう。
馬鹿馬鹿言われているシリウス・ブラックがどういう人物なのか気になるだったりする。
「悪いけど、あの馬鹿犬をホグワーツで見かけたら伝えてくれないかい?」
「いいですけど。そう簡単に会えるとは思いませんよ?」
何しろ脱獄犯。
ホグワーツでも吸魂鬼がうろついているほど。
それに先生方の警戒も並ではない。
「ああ、大丈夫だよ。どうせ禁じられた森の中で犬のままこそこそいてるんだろうさ。差し入れでも持って禁じられた森行けば会えるよ」
「き、禁じられた森…、ですか?」
あそこは入ってはいけないと言われている森。
は授業以外では入ったことはない。
怖くて入れないのだ。
「あの?でも犬のままって?」
「ああ、は知らないんだっけ?シリウスは犬のアニメーガスだよ。真っ黒くてでかい犬のね。呼ぶときはパッドフットと呼べばいい。僕達の学生時代の悪戯名(コード・ネーム)さ」
「パッドフット、ですか?」
「そうさ。それで、伝言と言うのはね」
はしっかりと覚えられるように耳を傾ける。
「プロングスからパッドフットへ。僕が無実を証明してやるから馬鹿な真似はするなよ!馬鹿犬!!」
「え?」
無実を証明する?
それはつまり、ジェームズ達がこれから無実を証明するのだろうか?
(それにしても馬鹿犬って)
「そのまま伝えて。あと、ハリー達にはまだ内緒にしてくれないか?ダンブルドアもその方がいいと言ってたしね」
「え?どうして?」
ハリーに教えれば、驚くだろうけどとても喜ぶだろうに。
友達や周りの人たちが、両親からの手紙やプレゼントを受け取っているのを見て、いつも寂しそうにしていたから。
「ハリーを驚かせたいっていうのもあるけどね、この情けない体じゃ会えないだろう?それにどうせイースター休暇まで会えないんだ。その時にきちんと迎える準備を整えて、迎えてやりたい」
ホグワーツは全寮制。
例外関係なく、生徒全員はクリスマス休暇を除きずっとホグワーツでの生活だ。
生きていると期待させておきながら会えないのは辛いだろう。
それならば、そのままそっとしておくのがいいのではないかと言う結論。
黙っているのは心苦しいが、ジェームズ達がそれでいいというのなら仕方がないだろう。
「シリウス…、さんには、言ってもいいんですか?」
先ほどの伝言から分かるが、あれを伝えればジェームズの生存が分かるのではないか?
「ああ、いいんだよ。あの馬鹿はああでも言わないと先走ってとんでもないことをしでかしそうだからね」
(あの馬鹿って。ジェームズさんの中のシリウスさんってどういう認識なんだろう。それに、シリウスさんって、本当にどういう人なんだろう?)
シリウスに対する興味がふつふつとわいてくる。
ホグワーツに戻ったら、差し入れ持って禁じられた森でもうろついてみようと思った。
「頼んだよ、」
「はい、任せてください」
「僕とリリーは、君の両親と一緒にシリウスの無実を証明するためにいろいろ動くから…。近況はふくろう便で伝えるよ。にも知る権利はあるだろうからね」
ジェームズが今ここにいられるのもが行動を起こしたから。
だから、知る権利があるだろうと。
はジェームズからの伝言を何度か心の中で繰り返して頭の中に記憶させる。
(でも、最後の馬鹿犬っていうのまで言わないと駄目なのかな?)
*
冬が過ぎ、春が来る。
その間もホグワーツではいろいろあった。
ホグズミード行きも何度かあったし、クィディッチの試合。
そして、何よりも…、シリウス・ブラックが寮に進入したかもしれないということ。
ハリー達は3人で、何か調べているようで…沈んだ気分でいるハリーを見るとどうしてもジェームズの事を教えたくなってしまう。
でもジェームズ自身から言った方がいいと思い、何度も思いとどまる。
それよりも、は魔法薬学の授業をびくびくしながら受けていた。
クリスマス休暇の途中、ホグワーツに来たときにセブルスにとんでもないことを言ってしまったのだ。
あれで目を付けられて、ネチネチ減点されることを覚悟していたのだが、今のところは変わりはない。
といっても、相変わらずスリザリン贔屓は激しい。
「ふぅ……」
は談話室の暖炉に当たりながら手紙を読んでいた。
両親からの報告を兼ねた手紙である。
本人も知らぬ間に着々とシリウス・ブラック無実証明計画は進んでいるらしい。
どうやら、があの時見ていた水晶球は映像を記録することもできたらしいので、その時の記録が大きな証拠になるという。
いつの間にそんな機能がついていたのやら。
今は、その記録をもみ消されないようにいろいろ慎重に進めているとのこと。
があの時水晶で見た光景。
「あれが、証拠になるんだ」
確かにあの映像があれば、あれほどきちんとした証拠になるようなものもないだろう。
あとは、あの映像が本物であると証明できればいい。
「あと、少し…」
きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!
突然叫び声が聞こえてはっとする。
男子寮の方からだ。
「え?何?」
男子寮のほうがばたばた騒がしい。
他の生徒も叫び声を聞いたのか男子寮の方を覗こうとする。
男子は男子寮に堂々と入っていくが、女子はそうもいかない。
人だかりがあっという間にできる。
「なんだ?」
「何があったの?」
「ウィーズリーが襲われたってよ」
「襲われた?誰に?」
「誰って決まってるだろ?このあたりをうろついてる犯罪者と言えば…」
「シリウス・ブラック?」
要約するとシリウスが進入してきて、ウィーズリー家の誰かが襲われたということなのだろう。
はそれを聞いて顔色を変えた。
(どうして?誰かを襲う必要なんてないのに、何が…)
そこでふと思いつく。
進入したのなら今はまだすぐ近くにいるはずだ。
ジェームズは恐らく禁じられた森にいるだろうと言っていた。
それならば…。
は自分の部屋へといったん戻る。
ホグズミードで買い溜めをしておいたお菓子を大きな袋いっぱいに詰め込む。
皆が騒ぎに集中している間にこっそりと寮を出て行った。
*
厨房に寄って、屋敷しもべ妖精から少しサンドイッチとおかずを詰めてもらう。
お菓子だけじゃ、栄養にならないから。
飲み物ももらって…、かなりの荷物になった。
食料を持ちながら、禁じられた森へと移動する。
こんな夜遅くに行動したのははじめてだ。
フィルチに見つかればただじゃすまないだろう。
こそこそしながら、見つからないようになんとか移動していく。
禁じられた森に足を踏み入れたは少し怖くなった。
先生方が生徒がここに入るのを禁止するのはここが危険だからだ。
あたりは真っ暗。
とはいえ、月の明かりが少々あるのでびくびくしながらも何とか進む。
がさがさっ!!
草木の音がしてびくっとなる。
その弾みで持っていた食料をどさっと落としてしまう。
がささっ!
「っ…!!」
草を分けて何かが出てきた。
暗いので黒い何かとしか思えない。
吸魂鬼にしては小さい。
さぁ…、と月の光がそれを照らし出す。
「え…?」
それは黒く大きな犬だった。
は目をぱちぱちさせて、その犬を見る。
黒い犬。
ジェームズ曰く、シリウスは犬のアニメーガスということ。
犬はが落とした食料をくんくんっと嗅ぐ。
「あ、の…、食べますか?」
「わぅん!」
嬉しそうに吼える犬。
お腹が空いているようだ。
はとりあえずは厨房で屋敷しもべ妖精に分けてもらったサンドイッチとおかずを広げる。
犬は、躊躇いもなくがつがつと食べ始めた。
ものすごい食欲だ。
相当お腹が空いていたらしい。
は自然に手を伸ばして犬の背中を撫でる。
(この犬はシリウス・ブラックかもしれない。でも、人を襲うような人には見えないよ。何より…)
の中のシリウスのイメージはあの時のもの。
親友に裏切られ、親友を失い…、そして裏切られた親友に逃げられた時の無力感。
狂ったように笑っていたシリウス。
「美味しい、ですか?」
「わう!」
嬉しそうに返事をする犬。
は思わず苦笑する。
「飲み物もありますよ?」
は持ってきたジュースを差し出す。
お茶でもいいかと思ったが、結局迷って果物のジュース。
しかし、食べ物はともかく飲み物はこのままでは飲みにくいのでは?
犬はそんなの杞憂もなんのその。
が用意したコップに鼻から突っ込んでごくごく飲んでいた。