古の魔法 7





どれくらいの時間がたったのだろう。
眠っていたのかはふと目を開ける。
気がつけばいつの間にか扉が開いていた。
どうやらジェームズのかけた魔法がようやく解けたらしい。
僅かな光が差し込んでくる。

「開いてる…」

ヴォルデモートが訪れたのは夜だった。
日の光が差し込んでくると言うことは、もう日が昇ったのだろう。

キィ…

は僅かに開いていた扉をゆっくりと開く。
開いた扉の先は、ハリーがいたはずの部屋。
そこに倒れているリリー。
はゆっくりとリリーに近づく。
ぺたんっとその場に座り込み…そっとリリーの頬に手を添える。

「まだ、温かいのに…」

ほんのりと温かみを感じる頬。
そこで、不思議に思う
もう少ししっかりとリリーの頬に手を触れてみる。

「…暖かい?どうして?」

体に体温があるのはおかしい。
ヴォルデモートに襲われてから、もう何時間も経っている。
死んだはずの体が温かいわけがないのだ。
ははっとなり、リリーの胸に耳をあててみる。
じっと耳をすませる。


…とくん、…とくん


ゆっくりとだが、心臓の鼓動が聞こえる。

「…生きてる?」

信じられないかのようにはもう一度リリーの心臓の音を聴く。
確かにきちんと動いている。

「でも、なんで?目が覚めないの?」

眠り込んだように瞳を閉じたままのリリー。
禁じられたあの呪文を受けたというのに、生きている。
このまま放っておくわけにはいかず、とりあえずリリーに毛布を一枚かける。

(身代わりの魔法が効いた?待って、それなら…!)

は慌てたように階段を駆け下りる。
リリーが無事だというのなら…!
玄関に向かい倒れているジェームズの胸に耳をあててみる。

…とくん、…とくん

確かにジェームズからも心臓の音が聞こえた。
だが、目が覚める様子がない。

(そういえば、この魔法を教わる時にお母さんが言ってた。この魔法は万全ではない、確実に攻撃を防ぎきることはできない。防ぎきることのできなかった魔力は、相手に戻る。つまり守ろうとした相手に戻ってしまうということ)

「どれだけあの身代わりが肩代わりしたのか分からないけど、完全に防ぎきれなかったから二人は目が覚めないの?」

体温のある体。
眠り続ける体。
このままずっといるわけにはいかないだろう。

(誰か、誰か人を呼べば…!)

は玄関からでて、誰かを呼んでこようとした。
だが…

がちっ

玄関の扉は開かない。
ドンドンっとやっても開くはずはないが、叩いてみる。

「っ!!レダクト!!

開かないなら壊すまで!

ぱしぃん!

だが、の魔法は弾かれた。
いや、弾かれたと言うよりも効かなかったというべきか。
そこで、はっと思い出す。

「ダンブルドアの、守りの魔法?」

確か、ダンブルドアがこの家を封印した。
その為、中からも外からもビクともしないつくりになっているのではないだろうか。
魔法が効かなかったのもそれならば頷ける。
一介の学生程度の魔法が、ダンブルドアの魔法に敵うわけがない。

「でも、このままじゃあ!!」

もしかしたら、今すぐ病院にいかなければこの二人は助からないかもしれない。
今、こうして無事でいるのに。

(考えろ、考えろ、私!これでもレイブンクローの血を引くんだから!賢者の血を!あの魔法を使えるレイブンクローの…、あの魔法)

そこでふっと思いつく。

「そうだ!」

身代わりの魔法は、がまだ未熟な為に相手につき1度しか使えない。
使ってしまった相手には、がかける身代わりの魔法が上手く発動しないらしく…どうやら一度同じ過程で魔法をかけてしまうと効かなくなるのは誰が掛けても一緒で…つまりは、身代わりの魔法は何通りかのかけ方があるわけなのだが、は1つの方法しか知らない。
だが、その応用はできないだろうか。

「ジェームズさんなら、聖魔樹の予備をとっておいてくれているかもしれない!」

身代わりの魔法に使った聖魔樹の枝。
それを使って簡単な結界を張る。
その結界を張る事で、結界内のものを守る。

家捜しをしはじめる
の思う通り、聖魔樹の予備はあった。
それをいくつか細かく砕く。
一塊はジェームズの周りに、もう一塊はリリーの周りに、囲うように置く。
聖魔樹は魔力を持つものでそれを身に着けているだけで守りになる。
にはこれしかできない。

「お願い!お願い…!」

呪文なんて分からない。
祈ることしかできない。
聖魔樹の守りの力を信じるしかできない。
自分には、ダンブルドアの魔法を破ることなどできないのだから…。
そして、この時代に長く留まる事は駄目だと両親からもキツく言われていたのだから。

−いい??3週間経っても戻ってこないようだったら強制的に連れ戻すわよ?
−俺達は、確かに真実を知りたいが、を犠牲にしてまで知りたいわけじゃないからな。

心配してくれる両親がとても嬉しかった。
だから、祈る。

(お願い、お願い。私の全ての魔力を使ってもいいの。スクイブになっても一生マグルとして生きても構わない!だから、だから…、私の生きる時までこの二人を守ってください)

ぎゅっと手を握り締めて祈る
すっと顔を上げて、ジェームズを見る。
そして、二階へ行き、リリーを見る

「また、会いましょうね。リリーさん、ジェームズさん」

(また、一緒にご飯を作りましょう、リリーさん。他にも沢山の悪戯のお話聞かせてください、ジェームズさん。また、暖かい家庭を再び見せてください)

元の時へと還る。
それだけが希望。
その時までリリーとジェームズが生きていてくれることを願う。
自分はこのままここにいても仕方ないのだから…。


『クロノ・リバース!もといた時へと還れ!!』


カッとの体が光に包まれる。
強い光が部屋の中を満たし、光が収まった後にはは消えていた。
そして、同時にリリーとジェームズを囲っていた聖魔樹の欠片が僅かに光を帯び、各々を包みだす。
の祈りに応える様に、リリーとジェームズを守るように…。