古の魔法 2






は両親から説明を受けていた。
ここはどこかの怪しい屋敷。
の家の近くにある空き家である。
なんでも何かあったときの為に被害が出ない場所を、と友人達の支援の下買い取ったらしい。

(というか、何かあったときって…、それって何かあるかもしれないって事?)

不安になるだったが今更後にもひけない。
真剣に説明を聞く。

「いい?、これをまず失くさないように持っているのよ」
「失くすとどうなるの?」

母から渡されたのは小さな鈴。
ペンダントのようになっているので首にかけて服の中にしまう。
ちりんっと小さな音が鳴る。

「帰る時の為の目印なの。失くしたらこっちに帰れなくなるわ。こっちでも同じものを持っているからこれを目印につないで帰ってくるのよ」
「じゃあ、もし失くして帰るときの魔法使ったら?」
「とんでもない時代に行っちゃうかも知れないわね。過去か未来か分からないけど」
「…失くさないようにします」

ぎゅっと服の上から鈴を握り締める。
乱闘でもしない限りは大丈夫だろうと思う。

「じゃあ、お母さん。行く時は目印は必要ないの?」
「必要よ。勿論あるわよ」

そう言って母はしゃらんっと1つのペンダントを見せる。
銀色の鎖に繋がった、星が3つついた不思議な輝きを見せるペンダント。
綺麗だな〜とは思う。

「これはね、私とリリーで作ったもので世界に二つだけしかないの。だからリリーが持っているペンダントを目印にするわ」

はそのペンダントを受け取る。
母の表情からこれはとても大切なものなのだろうと分かる。
だから、これを絶対に壊さないで返そうと思った。

「行きは私達が送るわ。帰りは呪文を唱えて帰ってらっしゃい。呪文は…」

そう長い呪文ではなくはすぐに覚えることができた。
何度も心の中で確認して繰り返してみる。

(うん、大丈夫だ。ちゃんと覚えた)

「準備はいいか??」

両親が杖を構えている。
これからを転送するのだろう。
杖は持った、鈴は首にかけた。
手には先ほどのペンダント。
は頷く。

『タイム・クロス・ディベート!願う時へ運べ!』

両親が声を揃えて呪文を唱えた。
の体を光が包み込む。
まぶしさのあまりには目をつむる。
ぐらっと浮遊感が体を襲う。
ふっと足元から床の感触が消えた。





時は遡る。
ここはゴドリックの谷のポッター夫婦が住んでいる家だ。
10月25日。
運命の10月31日まであと6日。

「今日のご飯も美味しかったよ、リリー」
「よかったわ、ジェームズ。何しろ私の愛情たっぷりだものね」
「リリーの愛情はなによりもご馳走さ」

そこの空気だけがピンク色に思えるかのように仲睦まじ過ぎるカップルがひと組。
そのカップルのいちゃいちゃぶりに水をさすように唐突に大きな音が響く。


がったぁぁぁぁぁんっ


大きな何かが上から降って来たかのような音だ。
ジェームズとリリーははっとなり、警戒する顔つきで音のした方へと向かう。
その際杖を構えることも忘れない。


「い、痛い…」


階段のすぐ側に倒れていた少女が一人。
言うまでもなく時を越えて来たである。
上半身だけを起こしてあちこちをぶつけたらしくさする。
どうやら2階と1階のちょうど階段近くに現れたようで見事の階段を転げ落ちたと言うことらしい。
を見て驚いたジェームズとリリーだが、警戒心を解いたわけではない。

「君は、誰だい?」

自分に向けられた声にはっとする
目に飛び込んできたのは、ハリーを丁度そのまんま大きくしたような青年と、ハリーと同じエメラルドグリーンの瞳の美人さん。
人目で二人が、ハリーの両親のジェームズとリリーだと分かった。

「え?あの、私!…あ、これ!」

何を言っていいのか分からず、説明も美味くできず、とりあえず母から預かっていたペンダントを見せる。
しかし、これで意味が通じたらすごいものだ。
リリーはが見せたペンダントをみてあっと声を上げた。

「それ、私とカレンしか持ってないはずのペンダント…よね」

カレンとはの母の名前である。
呆然とするリリー。

「リリー?どういうことだい?」

ジェームズがリリーとを見比べて問う。
ジェームズもカレンのことは知っているだろう。

「そのペンダント。ホグズミードのアクセサリー店で無理言ってオーダーメイドで作ってもらったの。世界に二つだけしかないはずなのよ。私とカレンの分」

はぐっとペンダントを握り締めて二人を見る。

「あの!私はと言います。話を聞いてもらえますか?」

はちょっぴり両親を恨んでいた。
帰る時の魔法を教えてもらっただけで、ほかの事は何もアドバイスなどなかった。
突然未来からきて果たして信じてもらえるだろうか?
不安でいっぱいだった。



は一生懸命自分で事情を話す。
ジェームズとリリーはそれに口をあまり挟まず、相槌をうっているだけ。
まずは自分は未来から来たこと。
それは、結構簡単に信じてもらえた。

「言われてみればカレンに似てるわ」

そして、今の時代で起きている事。
言いにくかったのは、二人がのいる時代ではもう亡くなっているという事だ。
しかし、それを話さなければ両親が知りたいことを知ることはできないだろう。
ゴドリックの谷で何が起きたのか。
当事者が生きていれば、その当事者に聞けばいい。
未来のものがそれを知らないと言うことは、当事者が教えられる状況にないこと、つまりもう亡くなっているということ。

上手な説明とは言えなかったがは信じてもらう為に一生懸命説明した。
一通り話し終えたが二人を見ると、二人とも微笑んでいた。

「あの、信じてもらえますか?」

ジェームズもリリーも笑顔でゆっくりと頷く。

「勿論さ。親友の娘を信じないわけにはいかないだろう?」
「そうよ、それに貴方の瞳は嘘をついているような目じゃないもの」

やわらかい笑みを浮かべるリリー。
その言葉にはつられて笑みを浮かべる。
ほっとした為に反射的に笑みがこぼれてしまったのだ。

「それにしても!!カレンってば水臭いわ!」
「全くだね。セイスも水臭いよ」

少し怒ったようなリリーとため息をつくジェームズ。
リリーは本当に怒っているというわけではなく、拗ねていると言った方が正しいだろうか。
は両親の名前がでてきてきょとんっとする。

「だって私達、カレンとセイスが結婚しただなんて知らなかったわ!しかも娘がいるなんてっ!」
「え?知らないんですか?」

驚いたのは
この時代だとはもうすぐ1歳になるところ。
両親が結婚したのはカレンがを身ごもってしまったからなので、丁度今から1年半くらい前になるのではないのだろうか?

「まぁ、リリー。僕らもヴォルデモートに狙われるとかで身を隠していたからね。連絡を取りにくかったんじゃないかい?」
「それでも!リーマスやシリウスは貴方に手紙を寄こしていたじゃない!手段がないわけじゃなかったのに」

拗ねるリリーをジェームズが慰める。
はふと思い出した。
両親はあまり昔の話をしない。
それは、両親が結婚することに反対するものがいたからとかなんとかと聞いたことがある。

「あの、リリーさん。お父さんもお母さんも忙しくて連絡できなかったんだと思います。結婚に反対する人たちがいて大変だったって聞いたことがあるので」

問題だったのは家柄とかなんとか。
詳しいことはも知らないが。

「それこそ、私には連絡して欲しかったわ。脅し…、じゃなくて説得くらいなら手伝えたのに」

(脅し…ってお母さんと似たような事言ってる)

変なところでリリーと両親との共通点を見つけてしまった。
一体学生時代はどんなんだったのだろうと思ってしまう。

「話が逸れてしまったね。聞きたいことはなんだっけ?確かシリウスのことだったね」

ジェームズが苦笑しながら言う。
は両親に真実を見てきて欲しいと言っていた。

「私は見届けに来ました。ここでなにがあったかを」

はまっすぐにジェームズとリリーを見る。

「でも、嫌なものだね、親友に裏切られたって分かるのは」
「あ…」

困ったような表情のジェームズにははっとなる。
これからおきることをは話してしまった。
それはつまりジェームズ達に死の宣告をしてしまったようなものなのだ。

「ごめんなさい!私…」

しゅんっとして謝る。
だが、ジェームズは気にした様子を見せずにの頭をくしゃりっと撫でた。

「気にすることはないよ。おかげでこちらも対策を練れそうだからね」
「そうね、もう場所の移動はできないけど、対抗する為の手段を考えることはできるわ」
「え?」

は二人の反応に驚いた。
希望を捨てていない。
生き残るつもりがあるようだ。

「僕達は諦めないよ」
の話を聞いて尚更そう思ったわ」
「息子のハリーだけを残すなんて親失格だからね」
「生き残る為に全力をつくすわ」

にっこりと笑みを浮かべたこの二人にはすごいと思った。

(強いなぁ。ハリーも噂を聞いてすごいと思ったけど、さすがハリーの両親だよね。心がすごく…強い)