古の魔法 1





百年に一度の天才シーカー。
『例のあの人』から生き延びた、ただ一人の英雄。
額にある稲妻の形の傷がその証。
成績は普通程度だけれども、得意な教科はダントツにできる。
彼の名前はハリー・ポッター。



「はぁ〜〜」

グリフィンドールの談話室で大きなため息をつくのは、一人の少女。
名前を
特に大した取り得もなく、勇気もあるわけではないというのに何故かグリフィンドール生だった。

「どうしたの??もうすぐクリスマス休暇よ?楽しみにしてなかったかしら?」
「うん、楽しみしてたんだけどね…」

は友人の言葉にもう一度ため息をつきながら談話室の一点を見る。
その視線に彼女は納得いったかのように頷いた。
この友人の名をラベンダー・ブラウンと言う。

「ハーマイオニーが羨ましい?」

意地悪そうな笑顔でラベンダーは問う。
はその問いに顔を顰めるだけだった。

の視線の先には、あの有名なハリー=ポッターとその友人ロンとハーマイオニー。
見ていることしかできない、あの3人の中には入っていけない…いや入れるような雰囲気ではないのだ。

もうホグワーツに来て3年目。
つまりは3年生なのだが、はいまだにハリーに挨拶以外の声をかけたことがなかった。
入学当初からずっと憧れていた。
でも、本人は英雄扱いでちやほやされるのは余り好きではないので声をかけにくかった。

「でも、ハリーを『例のあの人』から守る!とか言っていたのはどこの誰だったかしら?」
「もう!いいじゃない!そのことは忘れてよ!ラベンダー!」

1年で起こった事件と2年で起こった事件、噂だけは聞いている。
真実は知らない。
恐らく真実を知っているだろうハリーの親友の一人であるハーマイオニーには嫉妬していた。
自分にも何か特技があれば、とも思う。
あるにはある…が、それをはどう使えばいいのか分からない。

「今年こそ守ればいいじゃない?なにしろあのアズカバンから脱獄した殺人犯のシリウス・ブラックがハリーを狙っているんだからね」
「う〜ん」
「あるんでしょう?あれだけ張り切っていたんだから、何か役に立つ魔法」
「あるにはあるんだけど…」

方法が問題なのだ。
親しい人相手ならあれをやっても構わないが、ほぼ初対面に近い相手があれを受け入れてくれるとは思わない。
はハリーを守ってあげたいと思いつつも、今だに、ただじっと見ていることしかできなかった。





クリスマス休暇、はいつも家に帰る。
いつも通り家に戻れば両親の様子がやはりおかしい。
新学期が始まる頃からどうも両親の様子はおかしかったのだが、それが変わっていない。
どこかそわそわしているというか、焦っていると感じをうける。

「お父さんもお母さんも、一体どうしたの?」

クリスマスイブの豪華な夕食の時間、は聞いてみた。
短い間の事ならば気にせずに聞かないでいようと思ったのだが、こう長い期間ではそうもいかない。
両親の仲が悪くなったと言うわけではなさそうだが、子供からすれば不安なのだ。
両親は困ったように、だが諦めたようにため息をついて口を開く。

…、頼みがあるけれどいいかしら?」
「俺も本当ならこんなことはするべきじゃないと思うんだが、どうしても確かめたい」
「お母さんもお父さんも、いきなり何?」

真剣な表情で話し始めた両親に戸惑う
こんなに真剣な表情を見たのは初めてだ。

「シリウス・ブラック…、は知ってるわよね?
「え?あ、うん。アズカバンを脱獄した大量殺人犯、だよね」

の言葉に両親は悲しそうな笑みを浮かべる。
どうしてそんな表情をするのかには分からない。
でも、そういえば…と思い出す。
両親がおかしくなったのはシリウス・ブラックの脱獄のニュースを新聞で見てからだと。

「私達、そのシリウス・ブラックとは同級生だったの。特にセイスはシリウスとは友人で」
「俺は、アイツがあんなことをしただなんて未だに信じられない。あいつは何か事情があって…いや、シリウスの事だから誰かの罠にはまって罪を被せられたんじゃないかって思ってる。シリウスは成績はよかったが馬鹿だったからな」

何気に酷いことを言うものである。
セイスとはの父の名前。
庇っているのかけなしているのか分からない言葉だ。

「それで、お母さんもお父さんも何を?」

両親は恐らくシリウス・ブラックが無実だと信じているのだろう。

「それでね、に見てきて欲しいの。何があったのかを」
「あの時、ジェームズ達が殺されてしまった時に、どんな事情があったのか、何があったのか、シリウスはどうしたのかを…」
「え?え?見るって?」

そもそもジェームズとは誰の事だろう?と思う。
シリウスは、今騒がれている脱獄犯だ。
だが、ジェームズが誰なのかには分からない。
両親は学生時代のことをあまり話そうとしないからだ。

「ジェームズっていうのは、ジェームズ・ポッターよ、
ポッター?!ってことは、ハリーの?」
「そう、あのハリー・ポッターの父親よ。ハリーの母親のリリーとは私は友人だったわ。だからこそ、シリウスが裏切ってないって思いたいの。あの馬鹿のせいでリリーが死んだなんて思いたくないの」

母も結構酷いことを言う。
世間一般と同じくもシリウスに対しては『怖い』というイメージがある。
だが、両親の話からするとそう怖い人でもないかもしれない…と思ってしまう。

「それで、私は何をするの?お父さん、お母さん」

事情は分かった。
シリウスのことを信じていたい両親は、何が起こったのかきちんと確かめたいのだろう。
だが、どうやってそれを知るというのか。

に過去へ行ってほしいの」
…は?

一瞬固まる
だが両親は真剣な表情のまま。

「えっと…、お母さん?」
「聞こえたわよね。過去に行って確かめてきて欲しいの」
「ちょっと待ってよ!過去に行く魔法なんて!」

そんなの聞いたことない!
はそう言おうとした。

「あるんだよ、。闇の魔法でかなり難しいけどね。タイムターナーがある以上、過去に戻ることは不可能ではないんだよ」

タイムターナーはペンダント式の砂時計のようなもので、時間を戻すことができる。
だが、戻れる時間は少しだけと制限がついており、過去の自分と会うこともあるので気をつけなければならない。

「でも、何で私?」

過去に行く方法があるのなら両親が自分達で直接確かめてみればいいのではないか。
両親はそれに苦笑するだけ。

「この魔法はね、私達だけじゃなく昔のまだシリウスを信じている友人達を集めて、ダンブルドアを脅し…じゃなくて説得して協力してもらったの」
「研究を重ねていろいろ実験もしてみて、その結果、大人じゃあ時間の移動に耐えられないって結論が出てしまったんだ」

(いや、お母さん。ダンブルドア先生を”脅し”って聞こえたんだけど)

「子供のまだ成長途中の肉体ならば時間の移動に対応できると理論上の結論はでた。本来なら俺達が行きたいところだが」
しかいないの。貴方ならあの魔法があるからいざと言う時大丈夫でしょう?」

両親は心配半分、引き受けてくれなかったらという不安半分の表情だ。
決して無理強いをするつもりはないようだ。
それでもそんな両親の真剣そうな表情は始めて見る。
ここで断ったらこの二人はを責めはしないだろうが、とてもガッカリするだろう。
はふぅっとため息をつく。

「うん、いいよ。私、行くよ」

ゆっくりとだが頷いた。
ここまで真剣な両親は始めてみたから、断るに断れない。
それに自分には、本当はハリーを守りたいからと覚えた魔法がある。

!それでこそ私の娘よ!学校の方は多少休暇期間を過ぎても大丈夫よ!」
「え?休暇期間過ぎるって、何で?」
「実は時間をきちんと指定することはできないのよ、どうしても1週間〜3週間くらいのズレができてしまうの。だからそのズレを計算して過去に行ってもらって帰ってきてもらうとしてもとしてもクリスマス休暇だけじゃ無理なのよ。戻ってきたら、過去に行った日から3週間後かもしれないのよ」
「でも、そのあたりは大丈夫だぞ!リーマスに頼んでおいたからな、。リーマスならばセブルスを脅し…じゃなくて説得して協力させるだろうさ」

(だから脅しって…。お母さんもお父さんも一体何やったの?あれ?でも、リーマスとセブルスって)

「お父さん、リーマスってルーピン先生のこと?あとセブルスって、もしかして、もしかして……ス、スネイプ先生?」

は恐る恐る聞く。
ルーピン先生は今年の『闇の魔術に対する防衛術』の先生だ。
とっても分かりやすくて授業は面白い。
スネイプ先生は言うまでもなく、あの魔法薬学の先生だ。
ハリーはじめ、グリフィンドール生をいつも悪い意味で贔屓している。

「そうだ」
「お父さん!ルーピン先生ならともかく、スネイプ先生に限って説得されたからってグリフィンドール生を庇うようなことなんて絶対しないって!これ幸いと減点するに決まってる!

は力説する。
セブルスのスリザリン贔屓は有名だ。
そして何よりもグリフィンドールに必要以上に厳しい事も。

(『は学校に来てないのか…。その不真面目な態度にグリフィンドール10点減点』とかって、知らないところで絶対に減点するに決まってる!あの嫌味減点教師!

「いや、大丈夫だぞ、
「もう!お父さん何の根拠があってそんな!」
「だってな、セブルスも今回の協力者だしな」
「そうよ、セブルスがそんなことするはずないわ。今回はセブルスも快く協力してくれたもの」
嘘?!!

(あのスネイプが?!グリフィンドール生だったお父さんとお母さんに協力?!)

「そうよ。セブルスはシリウスの事はちょっと嫌い、結構嫌い…いえ、かなり嫌いだったけれど、それと信じている信じていないは関係ないのよ」
「セブルスは律儀だからな、約束はきちんと守ってくれるさ」

何を根拠に両親はスネイプ先生を信じているのだろう。
散々グリフィンドールいじめをみているとしては信じられない。
それでも、やると決めたからには減点程度を怖がっている場合じゃない。
これからが恐らく大変なのだから。
そう、きっと減点など大したことではない程のものだと思えるから。