古の魔法 14





は今、ハリー達と一緒に談話室で待機である。
あの後、魔法省の役人が現れてシリウスを連れて行った。
不安そうにシリウスを見ていたハリーにジェームズが一言。

「大丈夫だよ、ハリー。僕がシリウスをアズカバンになんか戻しはしないさ。シリウスにはちゃんとリリーからの制裁を受けてもらわないとならないからね」

ジェームズの言葉にハリーは少し安心したようだ。
だが、果たして安心していい言葉なのだろうか。

ぱちぱちと火が燃えている暖炉の前に3人はただ黙って座っている。
ハリーとハーマイオニーはタイム・ターナーを使ったので一度医務室へと戻ったりしていたが、今は談話室でじっとしている。
談話室に人影はない。
もう夜は遅いのだ。
殆どの生徒が部屋で寝ているか、もしくは自分の部屋にこもって何かをしているか…だろう。
ちなみに、ロンは未だに医務室である。

「シリウス、大丈夫かな」

暖炉の炎を見つめながらハリーの口からぽつりとこぼれた言葉。
ジェームズにああ言われたものの説明もなにもしてもらっていないハリー達としては不安な気持ちが消せない。

「そう言えば、。貴方どうしてハリーの両親のことを?」
「え?あ。うん、そうか、私でよければ知ってること話すよ。本当ならちゃんとジェームズさんの口から直接聞いたほうがいいかなって思っていたんだけど…」
「僕、聞きたい!」

ハリーが身を乗り出すようにに言う。
は驚くようにハリーを見た。
ハリーにしてみれば、分からない不安を抱えてままよりも多少は事情を知っておきたいのだろう。

「でも、私が知っているのは、私が見てきたことだけ、だよ?」
の見てきたことって何?」

ハリーに過剰な期待をさせないようには言ったつもりだったが、ハーマイオニーはそこに尋ねる。

「私が見てきたのは真実、…それから、過去」

そう、真実と過去。
これを話すということは、があの時何もできずに見てることしかできなかったことを話さなければならない。
はぎゅっと拳を握り締める。

「この話をしたら、ハリーもハーマイオニーも私の事嫌いになると思う」

それでも、この二人には知る権利があるのではないかと思う。
特にハリーに関しては当事者なのだ。

「どうして?どうしてを嫌うことになるのよ」
「そうだよ」
「だって、私は何もできなかったから」

扉を叩いて、ヴォルデモートが禁じられた呪文を放つのをただ見てることしかできなかった自分。
ジェームズが倒れ、リリーが倒れ…ハリーへと魔法が向かおうとした時、はただ「やめて」と叫ぶことしかできなかった。
そして、シリウスがピーターを追っていくのも見てるだけしかできなかった。

「ジェームズさんとリリーさんが『例のあの人』…ヴォ、ヴォルデ…モートにっ!あの呪文でやられるのを見てるしかできなかったっ!シリウスさんがマグルの町でピーターを追っていくのを見ているだけしかできなかったの!!」

まだ頭の中に鮮明に残っている映像、そして声。
お願いだから、お願いだから、お願いだから!
何度そう祈ったことか。

?それはどういうことなの?どうして貴方がその時…」

ハーマイオニーが最もな疑問を言う。
それはそうだろう。
その時代、もハリーも、そしてハーマイオニーもまだ赤ん坊といっていい年。
は泣きそうな表情をしながらも、顔を上げて話す。
クリスマス休暇にあったことを。



両親とその仲間の協力の下、真実を知るために過去にとんだ自分。
そこで会ったジェームズ、リリー、そして赤子のハリー。
は未来の事を話した。
そして、秘密の守人がピーター=ペティグリューであったことを知った。
ヴォルデモートのが襲ってきた夜、は一人だけ隠れていたこと、ジェームズが用意した水晶球を覗いていて全てを見ていたこと。

「私、見ているだけだった。ジェームズさんが襲われたときも、リリーさんが襲われた時も、ハリーが襲われそうになった時もっ!」
「待って、。それじゃあ、ハリーの両親は『例のあの人』のあの呪文を受けたんでしょう?」
「…うん」
「それじゃあ、どうしてハリーの両親は無事でいられたの?あの呪文を受けて無事だったのなんてハリーだけ…まさか、ハリーの家族だけになんらかの守りの魔法でも?」
「それはないよ、ハーマイオニー。僕があの時、ヴォルデモートの呪文を跳ね返せたのは、母さんの命を懸けた想いの魔法、古い昔の魔法らしいんだけど、それがあったからなんだ」

リリーが命を懸けて願ったこと。
母の愛情は何よりも強く、深い。
それがハリーを守った。
守ったのは、リリーのハリーへの想い。

「じゃあ、どうして」
「どうして、とかはどうでもいいよ」

ハリーはをじっと見る。
何か言いたそうな表情をしているが、は少し怯えたようにハリーを見るだけ。
ハリーは少し迷ってから口を開く。

「僕、には感謝…してると思う」
「え?」
「父さんはを見たとき、すごく嬉しそうな表情をしてた。だから、きっと父さんもには感謝…してるんだと思う」
「ハリー」

罵倒する言葉か出てくるかと思っていた。
ハリーは少し戸惑っているのか、迷っているのかは分からないが、確かにそう口にした。
感謝をしていると。


「流石は僕の息子だ、分かっているじゃないか」


ハリーの頭にぽんっと置かれる手。
驚いてハリーが見上げるとそこにはいつの間にかジェームズの姿。

「父さん!どうやって、ここに?」
「ハリー、僕を見くびってもらっては困るな。寮への隠し通路の一つや二つ」

普通はそんなものは知りません。
だが、元悪戯仕掛け人である。
ハリーはきょろきょろっと見回すがジェームズ一人。

「父さん、シリウスは?シリウスはどうしたの?」
「大丈夫さ、今ちょっと魔法省と話をしている。なにしろ無実で12年もアズカバンだろう?魔法省としても手続きもかかるし、なによりシリウスに申し訳が立たないわけだ。だから魔法省の不手際を言いふらさないように釘をさしてるのさ」
「なにそれ。それって、魔法省が悪いんじゃないか!シリウスは最初から無実なのに!!」
「落ち着くんだ、ハリー。大人には大人の事情ってのがあるんだよ」

ジェームズは苦笑してハリーの頭をくしゃりっと撫でる。
正しいと思うことがまかり通る世界ではない。
汚いことも、難しいことも、複雑なことも沢山ある。
それが大人たちの生きる社会の仕組みなのだから。
ハリーにはまだそれは分からないだろう。

「ところで、
「え?はい!」

ジェームズに話を向けられてびしっとする
にこっとジェームズは笑顔を浮かべる。

「事情説明はいいけどね、肝心なことを省いちゃいけないよ。誰のお陰で僕達はここにいる?誰のお陰でシリウスの無実が証明できた?それをわかっているかい?」
「え?」

本来ならば、ヴォルデモートのあの呪文によって今ここにいるはずなどなかったジェームズ。
ピーターに逃げられたシリウスは無実だと何も証明することもなく、もしかしたらまだ脱獄犯扱いされていたかもしれない。
どうやってジェームズ達が助かったのか、どうやってシリウスの無実の証明ができたのか…はそれを知っているはずである。

があの守りの魔法をかけてくれたから、あの時が的確な判断をして聖魔樹の欠片で僕らの守りを祈ってくれたから、助かるはずのない僕達はここにいることができる。があの時、シリウスを気にしてピーターとの対峙の瞬間の映像が残っていたからシリウスの無実の証明ができた。違うかい?」
「でも!ジェームズさんたちの証言があったからシリウスさんの無実が証明できたのもの本当でしょう?私はただ、見ていただけなんですよ!」
「その僕らも、君がいなかったら助からなかったんだよ。それを思えば君は僕らにとって命の恩人さ、

責めないで、私を責めないで。
見ていることしかできなかった私を責めないで。
はそう思っていた。

「誰も君を責めたりしないよ、。そうだろう?ハリー?」
「え?あ、うん!勿論だよ!」

ハリーがにこっと笑う。
ハリーとしても少しの不安はあった。
物心つく頃からあのダーズリーの家で育ったのだ。
もしあの時、ジェームズ達が12年間も寝ていることなく生きていれば、あんな生活を送らずに済んだかもしれない…と思ってしまったのだ。
ほんの少しだが。
それでもがいなければ、今このときの両親との再会もありえなかった。

、もっと自信持っていいのよ。貴方はすごいことしたんだから!」
「ハーマイオニー。…わ!」

ハーマイオニーに抱きつかれる
から自然と笑みがこぼれる。
笑ってくれている、それがこんなにも嬉しい。
ハリーもジェームズも微笑みながらそれを見ている。

「夏までにリリー、ハリーと一緒に暮らす家を探さないとね。それとダーズリー家にも挨拶に行かないといけないしね」
「父さん?もしかして一緒に住めるの?!」
「おいおい、ハリー。親子が一緒に住まないでどうするんだい?それとも、ハリーはダーズリー家の方がいいのかい?」
「絶対嫌だ!あんな家!」

ハリーはきっぱりはっきり否定する。

「それはよかった。それじゃあ、ダーズリー家へのお礼も兼ねて挨拶にも行かないとな」
「父さん、あんなヤツらの家に別にお礼なんて必要ないよ」
「ハリー、お礼のというのは必ずしも相手が喜ぶことをしなくてもいいんだよ」

にこっと笑みを浮かべるジェームズ。
ハリーはハタと思いついたようににやりと笑みを浮かべ。

「それもそうだね」

黒親子である。
血は争えないとでも言うのか…。
その様子を平気そうに見ているハーマイオニーに、はどこか尊敬を抱いたりしたのだった。