古の魔法 12






シリウスにたびたび差し入れをしつつ、は両親からの手紙でシリウスの無実が証明されるのを待った。
『例のあの人』の部下として、大量殺人犯の罪でアズカバンに入れられたシリウス。
魔法省もシリウスが無実だとなかなか認めない。
まさか無実の人間を10年以上もアズカバンに放り込んでいたと認めるわけにはいかないのだ。
だが、そこはそれ、ジェームズ達が生きていたことがなによりも大きい。
リリーとジェームズの暗黒オーラの脅し…、もとい説得はかなりの威力があり、もうすぐでなんとかなりそうとのこと。
は今日も禁じられた森にシリウスへの差し入れをもって来ていた。
何度も来ているせいか、この森にも大分慣れてしまった。


「シリウスさん?」

はいつもシリウスがいる洞穴を覗く。
しかしそこには大きな犬はいなかった。
いつもが来る時間には必ずいるはずなのに。
とりあえず、食料の入ったバスケットと飲み物をそこに置いてシリウスを探し出す
夜のこの森は不気味だが、もう結構慣れてしまっている自分がいる。

がさがさっと草を掻き分けて進む。
適当に歩いているうちにいつの間にか随分奥の方に来てしまった気がする。
あまり長い間いると、寮にいないことがばれて騒ぎになってしまうかもしれない。

(どこにいるんだろう、シリウスさん。まさかお腹空きすぎて厨房に泥棒しに行ったわけないよね)

いつものシリウスの食欲を見ている分、それを信じてしまいそうになる。

がさっ

少しは離れた場所から草の音が聞こえてはっと振り返る
別の誰かがこのあたりにいる?


がさがさっ


はその茂みの方を見ている。
懐にしまっておいた杖を出して握り締める。
この森が危険だということは分かっているが、いままで何かに襲われたことはない。


「ハーマイオニー!こっちだ!」
「ハリー、そんな急がなくても!」


草の根を分けて飛び出してきたのは、ハリーとハーマイオニー。
は二人の姿を見て、驚きで固まる。
ハリーとハーマイオニーもの姿に気付いて一瞬ぎょっとした。

「ハリー、ハーマイオニー、どうしてここに?」

の言葉にハーマイオニーはかなり慌てていた。
禁じられた森に入ったのを見られたからだろうか?
でもそれならお互い様である。

「見られたものは仕方ないよ、ハーマイオニー。それより急ごう!」
「でも、ハリー!」
「急ぐってどこ行くの?」

の問いかけにハリーは答えようとせずに走り出してしまった。
は悲しそうな表情をするが、ハーマイオニーがハリーを追いかけようとの腕を掴んで走り出す。

「え?え?ハーマイオニー?!」
「こんなところに一人じゃ危ないわ!一緒に行きましょう!」
「行くってどこへ?」
「そんなのハリーに聞いて頂戴!」

はハーマイオニーに引っ張られる、というより引きずられるように走らされる。
ぐいぐいと引っ張られどこにいくかと思えば泉の方。
そこに泉があることは授業などで来たことあるので知っていたが、どうしてこんなところに…?

「ねぇ?ハーマイオニー…」
「しっ!静かに」

ハーマイオニーが人差し指を当てて静かにするようにと言う。
ハリーとハーマイオニーはじっと泉の方を見ている。
よく見てみると、泉をはさんだ反対側に人影がふたつ。
一人は青年と言っていい男性、もう一人は少年。

(って、え?え?え?!)

そのどちらの姿もには見覚えのあるもの。
思わずその少年とハリーとを見比べてしまう。
そう、泉の向こう側にいるのは、ハリーとシリウスだった。
シリウスはどこか怪我をしているように見える。

(な、なんでハリーが二人もいるの?!それにハリーもハーマイオニーも全然驚いてないし)

ふとハーマイオニーの首にかけてあるものに目が留まる。
小さな砂時計のついたマジックアイテム。
それは…タイム・ターナー。

(もしかして…、タイム・ターナーで時を逆転してきたの?)

そう考えればハリーが二人いることも頷ける。
でも、どうしてと思う事が1つ。

(どうして、シリウスさんがこんなとこにいるの?!あれだけ!あれだけ、馬鹿なことするなって言ったのに!全然聞いてなかったんだね…。対面したら、絶対馬鹿犬って言ってやる!)


ぞくっ


突然寒気がした。
思わず両手で体をしがみつくように抱える。
顔を上げてみれば、そこには吸魂鬼の群れ。

「っ?!!」

伝わってくるいやな感じ。
そして嫌な記憶が浮かび上がってくる。
絶望を与える吸魂鬼。

―リリーさん!お願い開けて!!

甦るのはあの時の記憶。
見ているだけしかできなかった自分。
何かできたかもしれないのにただ扉を叩いて自分だけ守られていた。

「…あ、いや…」
…?」

顔色を青くしながらも、ハーマイオニーはの様子がおかしいことに気付く。
はがたがた震えている。
その震えを止めるようにハーマイオニーはを抱きしめる。

「落ち着いて、!」
「いや、だ。…どうしてっ!」
!」

脳裏に浮かぶのは、倒れるリリーとジェームズ。
顔色が真っ青になり…生気が感じられなくなる。
そして、ハリーに襲い掛かるヴォルデモート。

やめてぇぇぇぇぇ!!


『エクスペクト・ペトローナム!!!』


かっ


銀色の光が広がる。
ハリーが呪文を唱えたのだ。
銀の光は牡鹿へと姿を変え、あたり一面にいた吸魂鬼を散らしていく。
その光はとても暖かい。
牡鹿はシリウス達に襲い掛かろうとした吸魂鬼をも追い払い、蹴散らした。
の意識はそこまでだった。

…、?!!

ハーマイオニーの心配そうな声が聞こえた気がした。
の倒れそうになる体を支えながら、ハーマイオニーはハリーを見る。
ハリーは杖をおろしてハーマイオニーを見た。

「ハリー、あなた」
「あれは父さんじゃなくて、僕だったんだ」

ハリーは悲しそうに微笑む。
ハリーの呪文によって現れた牡鹿。
その呪文はジェームズが唱えたものではなく、ハリーが唱えたもの。
父に会えるかもしれないという期待を込めてここまで来た。

「行きましょう、ハリー」
「うん…」

ハーマイオニーがを抱きかかえようとする。
だが、そう体格が変わらない為に、引きずるようになってしまう。
それを見たハリーがひょいっとを抱き上げる。
やっぱり男の子だからなのか、力が全然違うようだ。

「それにしても、どうしてはあんなところにいたのかしら?」
「そうだね。このあたりに用があったのかもしれないよ」

ハリーとハーマイオニーは気を失ったままのを見る。
確か学校に吸魂鬼が入った時も、ホグワーツ特急の中でも、は今のように気を失ったりしなかったはずだ。
それは、あの時以降に気を失うほど辛いことがあったのだろうか。
ハリーはそれを不思議に思った。
それと…。

「どうしたの?ハリー?」

じっとを見ていたハリーにハーマイオニーが問いかける。

「あ、うん。なんか、ふと思い出したっていうか…」
「何を?」
「僕、のこと見覚えあるような気がするんだ。ずっと昔に会ったことがあるような…」
「そんなあるはずないわよ」
「うん、そうだよね」

ならば、のこのぬくもりの懐かしさはなんなのだろう?
ハリーがそれを知るのは、あと少し先の事。