星の扉 21




ミッドガルに戻ったクラウドは、ルーファウスに小型の携帯電話を渡された。
必要があればこれで連絡を取ってくれとの事だ。
携帯のセキュリティや会話の傍受に関しては、神羅の最新のセキュリティがついているので心配はないだろうと色々説明していたが、クラウドに全て理解はできなかった。

ミッドガルに戻ってみれば、ルーファウスが上手く話を通してくれたからか、クラウドがいなかった間は特別休暇扱いになっていたらしい。
ザックスは特別休暇について特に突っ込んでこなかった。
ただ、何も考えていなかったのかもしれないが…。

それはいい。
それはいいのだが…、ザックスがソルジャー1stに昇格したからか、クラウドがミッドガルに戻って次の日すぐにミッションが入った。
しかもセフィロスと同じミッション。

(ルーファウス、さっそくなにか企んでいるのか)

思わずため息をつかずにはいられない。
ミッション自体は何の変哲もない魔物討伐だ。
軍港都市であるジュノン近くにある山脈で魔物の大量発生が確認されたらしい。
都市の方には近づかないが、大群で襲われては困るとの事で討伐の命が出たのだ。


討伐隊はセフィロス、ザックス、そして神羅の一等兵が20名とクラウド。
1stのソルジャーが2人いるだけで十分だと思うが、魔物の量が量らしい。

「大量発生が確認されたのがキャッパワイヤ、元々集団で活動する魔物ですが、その数が目撃情報からですと少なくて100、多ければ500ほどとのことです」

目的地に向かって歩きながらクラウドが書面を見て説明をする。
キャッパワイヤは大人の膝程度の背しかない植物が突然変異したような魔物だ。
1匹2匹ならば、神羅の一般兵でも楽に倒せるが、集団で襲われるとかなりやっかいだ。
クラウド達は、ここの近くまでは乗り物を使ったが、山は歩きである。

「キャッパワイヤか…、大した敵じゃないな。ザックスは神羅兵10名を連れて左へ、オレは残りを連れて右へ行く」
「りょ〜かい」

あまりやる気があるように思えない返事をして、ザックスは左の方向へと歩き出す。
その後を神羅兵10名が続く。
クラウドはどうするか迷った。
特にセフィロスから指定がないわけで、セフィロスの方へ行って様子をみるのが理想だが、クラウドはザックスの下士官だ。

(ここはやっぱりザックスの方に行くべきなんだろうな)

クラウドも神羅兵10名に続くように歩き出そうとした。

「クラウド、お前はこっちだ」

セフィロスに呼び止められて足が止まる。

「ザックスのやつには1人で書類を作成させるようにしろ」

その言葉で、クラウドを呼び止めた意味が分かった。
書類作成には散々クラウドを頼っているザックスである。
同行などすればクラウドの方がちゃんとした書類を作成できる為、クラウドに思いっきりたよるのがザックスだ。
クラウドがせめて状況さえ分からなければ、自分で多少は何とかするだろう。

「はい、そうですね」

1stになったというのに、書類作成もままならないソルジャーでは格好悪い。
ここは心を鬼にしてザックスを見捨てよう。

「サー・セフィロス。こちらの方向、100メートルほど奥の方になりますが、そこで目撃された情報があります」
「そうか」

得た情報をセフィロスに話しながら歩き出す。
さくさくと後ろをついてくる神羅兵は皆無言だ。
情報にあった数がかなりのもので緊張している兵もいるのかもしれない。
それとも、セフィロスに対して緊張をしているのだろうか。

(確かにセフィロスは、異様な雰囲気放っているしな。俺の場合は、恐怖なんかより罪悪感が結構大きい。このセフィロスと俺が”殺した”セフィロスが違うとは分かっているけど、やっぱり…)

クラウドは思考に沈みそうになったところで、ふっと気づく。

『マスター』

耳にピアスとしてついている、ナイツ・オブ・ラウンドのマテリアからアーサーの声が頭に響く。
彼が言いたい事は分かる。
キャッパワイヤの大群は気配で捉えている。
だが、そんなのは大したものではないと思っている。
今感じたのは、別の気配だ。

「サー・セフィロス」

セフィロスは気づいただろうか。
クラウドがセフィロスの名を呼ぶと、セフィロスもどうやら気づいたようで立ち止まる。

「気づいたのか?」
「はい、向かってきますね。けれど、それだけじゃないようです」

キャッパワイヤとは比べ物にならない強い気配。
とはいえ、セフィロスやクラウドにとっては大した相手ではないかもしれないのだが、その強い気配はひとつではないようだ。
クラウドはこの気配に少しだけ覚えがある。
過去戦った魔物たちの気配を全て覚えているわけではないが、強い魔物の気配と特徴は頭に残っている。

「お前達も構えろ」

セフィロスが神羅兵に命じ、自分はすらりっと愛刀の正宗を抜き放つ。
銀色のセフィロスの髪と同様の輝きを持つ刃。
クラウドもバスターソードを抜き放ち、構える。
クラウドがもつソードは神羅一般兵が持つ程度のものと大して価値は変わらない、一般的なものだ。

(アルテマウェポンが欲しいとは思わないが、せめてクリスタルソードくらいの強度があるソードが欲しいな。金を貯めて買うか)

大量に近づいてくるキャッパワイヤを目で確認できても、クラウドにはかなり余裕があった。
神羅一般兵達はその量に緊張と恐れを抱いているように見える。
セフィロスは言うまでもなく、いつもと変わらない表情だ。

「クラウド」
「はい」
「ここは任せた」

大群のキャッパワイヤよりもその後方にちらりと見えた大きな影。
それもひとつではない。

「了解、サー」

セフィロスはクラウドの返答を聞くと、キャッパワイヤの大群の中を進んでいった。
背の低いキャッパワイヤの中を突き抜けようと思えば、セフィロスにならば可能だろう。
キャッパワイヤの大群の向こう側に見えたのは巨大な魚型の魔物3体。

(やっぱりボトムスウェルか。だが、あの魔物は魚型で本来は海辺あたりにしかいないはずで数も少ない。何故こんな山の中に…?)

クラウドと神羅兵達は群がるキャッパワイヤを倒していく。
しかし、倒されずにクラウドと神羅兵達を通り過ぎていくキャッパワイヤもいた。
向かう方向が都市の方向のため、数人の神羅兵達が追う。

(まさか、逃げているのか?)

キャッパワイヤ達は、彼らよりも強大な魔物であるボトムスウェルから逃げているようにも見えた。
1体のボトムスウェルが水の球を5つ程放つ。
その球はキャッパワイヤを捉え飲み込む。
本来ならばその球は徐々に取り込んだ相手の体力を減らすような効果があったはずなのだが…。

「変異種…か?」

クラウドはキャッパワイヤの大群の中を駆け出す。
大群の彼らは逃げているだけで、都市に行って被害をもたらすような様子はなさそうだが、ボトムスウェルに近づくためになぎ払う。
ボトムスウェルから飛んでくる水の球体はバスターソードでなぎ払えば、ぱちんっとあっけなく消える。
ただ、3体のボトムスウェルから放たれる数が数なので油断すると取り込まれそうだ。
水の球体はキャッパワイヤを取り込み、そして神羅兵までも取り込み始めた。

「うわあぁぁ!」

悲鳴を上げる兵達。
放っておくわけにはいないと思ったクラウドは、球体のみをぱちんっと割る。

「2人か3人で組んで互いの背後に気をつけたほうがいい」
「あ、はい!」

クラウドの助言の通りに、兵達は2人か3人に分かれ戦闘を続ける。
実際の位はクラウドの方が下だ。
その為命じることができる立場ではないのだが、放っておけないので仕方ないだろう。
ぱちぱちっと水の球体を割っていくクラウド。
3体のボトムスウェルを相手にしているセフィロスは、そのうちの1体をさっくり倒す。
その隙を突いて、他2体の水の球体がセフィロスに向かう。
セフィロスならば難なくそれを壊す事ができると思っていた。
だが、球体の数が数だったからか、あっさり取り込まれる。

「サー・セフィロス!」

その光景を見ていた兵士たちも顔色を変える。
クラウドは駆け出した。

(何考えているんだ、あの人は!!)

取り込まれずとも倒す事はできたはずだ。
何しろ球体に取り込まれる瞬間のセフィロスは全く慌てていなかったのだから。
絶対に分かっていて取り込まれた。
水の球体は意外と脆い。
外から力を加えればすぐに弾ける。
だが、中からは壊せないらしい。
クラウドはソードをふるってセフィロスの取り込まれた球体を壊す。
弾けた球体の中にいたはずのセフィロスは、水で濡れているものの傷は全くなし。

「阿呆ですかあんたは!?分かっててこんなものに取り込まれないで下さい!」

思わずセフィロスに怒鳴りつけてしまうクラウド。
セフィロスは一瞬驚いた表情をしたが、すぐに苦笑する。

「ああ、すまなかったな」
「謝罪は結構です。それよりもこれを片付けましょう」

全然すまなそうではない謝罪は必要ない。
クラウドはセフィロスから一歩下がり、セフィロスが刀を振るうのを見る。
まさに一閃。
2体いたボトムスウェルはあっさりと倒された。
その光景にクラウドの顔が少々ひきつる。

(こんなにあっさり倒せるなら、最初からやれよな。それとも何かに気を取られていたのか?)

「何か考え事でもしていたのですか?サー」
「いや…」

何か考えているかのように返事は曖昧だ。
まさか出生の秘密を知ったわけでもないだろうが、下手な方向に思考が行っていないことを祈るのみである。
間違っても”以前”のような方向性にはなってほしくない。

「大したことじゃない…かもしれない」

(かもしれないって、何だよ)

内心突っ込むクラウドだが、流石にそれは口には出せない。
何か悩んでいるようにも見えるが、セフィロスとクラウドはお悩み相談ができるほど仲がいいわけではない。
せめてザックスの半分くらいのお気楽さがセフィロスにもあれば違うだろに、と思ってしまう。

なにはともあれ、今回のミッションは完了。
変種のボトムスウェルが山に存在する。
これは少し異常だ。

(ジェノバとは関係ないかもしれないが、少し調べる必要があるかもしれないな)

クラウドのその考えを悟ったかのように、ざわりっと星が同意を示す。
風が吹き、木々が揺れ、大地が暖かくなる。
きっと、何かが起こり始めようとしている。




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