星の扉 20





神羅の魔晄エネルギーの吸い上げの永久停止。
ルーファウスへの話が終わり、クラウドが早急に対応して欲しいと言ったのはこれだった。
星の力が弱まってしまっては意味がない。
しぶると思っていたルーファウスだったが、自分が社長になれたら別にとめても構わないよ、とあっさりと承諾した。
拍子抜けである。

とにかく、ルーファウスとクラウドは隠し部屋にあった資料を漁りまくった。
問題はセフィロスなのである。
セフィロスをこちら側につけなければ、ジェノバが完全に目覚めた時大変な事になるだろう。

「ルーファウス、神羅の魔晄炉の件は本当にいいのか?」
「ああ、それ?魔晄エネルギーが永遠に続くものじゃないってのは最初から分かっていたから、次のエネルギーの候補くらいは頭の中にあったんだよ。だから別に全然構わないさ」

ぱらぱらと書類に目を通しながら、ルーファウスはさらりっとそんな事を口にする。
クラウドの口元が少し引きつってもしまっても、それを責める人はいないだろう。

(こ、こいつは…。通りであんなにあっさり承諾するわけだ)

思わず小さくだがため息がもれてしまう。

(いや、そんな事よりセフィロスの事だ。いくら父親が宝条でなくても、セフィロスが生まれた過程や理由が変わるわけじゃない。ここの資料を全て抹消して事実をもみ消すか?いや、宝条が生きている限り事実が宝条の口から漏れることもあるだろうし、なによりもルクレッツアはどこかで生きている。彼女も事実を知る一人だからな)

クラウドは考え事をしながら資料をぱらぱらとめくり目を通す。

「セフィロスに兄弟でもいればよかったのにねぇ」

資料を漁りながらルーファウスがそんなことを呟く。
その言葉にぴくっとクラウドは反応する。

「何故セフィロスに兄弟がいればよかったんだ?」

エアリスの事を脳裏に浮かべながらも、ルーファウスにそう問う。

「兄弟がいればそれが少なくともセフィロスの鎖…って言うと言い方が悪いね、まぁ、支えっていうか、そういうものになるかなって思っただけだよ」
「血の繋がり…か」
「両親がいなかったりして血の繋がりがある兄弟でもいれば、その兄弟をかなり大切にすると思うんだよね」
「そんなものか?」

クラウドにはよく分からない。
母親はいたが父親はいなかった。
それでも兄弟が欲しいと思ったことはなかった。

「そんなものだと思うよ。ま、セフィロスの感覚は普通とは違うから本当の所、兄弟がいたってどうなるか分からないけどね」

ルーファウスは肩をすくめる。
クラウドは少し迷った。
セフィロスの本当の父親がガスト博士なのだから、セフィロスには”妹”がいる事になる。
異母兄妹になるが、血の繋がりはある。
星の厄災であるジェノバの細胞を受け継ぐ兄と、星の声を聞き厄災から星を守る役目のある最後のセトラの民である妹。
その存在は対極だ。
クラウドは今でも、セフィロスがエアリスを刺した光景を覚えている。
あれを思い出すと、エアリスをセフィロスに会わせていいものなのか、迷う。

「セフィロスの強さは化け物じみているし、”厄災”ジェノバの細胞を埋め込まれて作られた存在で…なんて、それを全部知っていてもセフィロスに普通に接する事ができる人間なんていないのかもね」

ルーファウスは諦めたようなため息をつく。

「ルーファウスはセフィロスに普通に接しているんじゃないのか?」

ルーファウスの口調から、セフィロスへの恐怖など感じないし、嫌悪も感じない。
セフィロスを1人の人間として見ているのではないのだろうか。

「ああ、君は僕がセフィロスと一緒にいる時を知らないんだね。表面上は普通に接しているさ。でも、実際は怖いよ」

ルーファウスは巨大なビーカーのある方を睨むように見る。
そこには何か…いや”誰か”がいた。
恐らくセフィロスもそれと似たように生まれ、一定期間は同じようにその中で育ったのだろう。
人とは違う育ち方、生まれ方。

「強大なドラゴンを刀一本で切り伏せる事ができる力、マテリアをいくつも自在に扱える才能。セフィロスは、一歩下がって普通に接する事はできても、あえて近づこうとは思えない存在だよ。多分、セフィロスもそれを分かっているから僕には必要以上に近づこうとしない」

そんなものなのか、とクラウドは思う。

「セフィロスはかなり警戒心が強い。そのセフィロスを引き止めるものを見つけるのはすごく難しい事だよ。だから、せめて血の繋がりがある者でもいれば違うんじゃないかって思うんだよ」

ザックスなどは怖いものでもないかのようにセフィロスに対して、結構礼儀知らずな態度をとっているように見えた。
かなり親しいのだろうとは思う。
けれど、それでもセフィロスを止める存在にはなり得ないはずだ。

「そんな事を考えていても仕方ないね。問題はここと上の資料をどうするか、かな」

ルーファウスは腕を組み、資料の山をじっと見る。
セフィロスの生みだされた理由がそこにある。

「これをセフィロスが見たらどうなると思う?クラウド」
「良くて資料のみの抹消、最悪はニブルヘルムごと消滅して失踪だろうな」
「セフィロスの実力を考えると、この辺り一帯が荒野になっても全然おかしくないしね」

資料を処分するだけならば簡単だ。
だがそれをしたからどうなるのか。
ただ、セフィロスが真実を知るのが遅れるだけかもしれない。

「当分は時間を稼いで、セフィロスをどうにかする方法を考えればいいかな?後はジェノバだけどどうしようか?」
「ジェノバの本体はここニブルにある。だが…」
「貴重な”古代種”をこんな田舎に置きっぱなしにするわけないね。ソルジャーを創り出す事ができるのはミッドガル」
「細胞の欠片か何かがミッドガルにあるのは間違いないだろうな」
「でかい本体なんて必要ないから、数人の研究者を置いて詳しい研究はミッドガルでって事かな?」

この神羅屋敷も地下にある研究所も、今現在使われている。
魔物の見張りがいたのがいい証拠だろう。
今は夜も遅いため人気もないし、ここは宝条の隠し部屋らしいから人は来ないはずだ。
日が昇れば兵士達が動き出し、研究者達も何かの研究の続きを始めるだろう。

「ジェノバは細胞が欠片でも残っていれば、時間をかけて復活する。ジェノバを消滅させるには細胞全てを消さなければならない」
「僕ら人に植え付けられている”種”や、ソルジャーに植え付けられている”細胞”までも?」
「最終的にはそうなるが、人の中にある種とソルジャーの細胞くらいなら何とかなると思う」

これ以上星の力が弱まる事がなければ浄化が可能なはずだ。

『ええ、マスター。確かに可能ですよ』

頭の中に響くのは、ナイツ・オブ・ラウンドのアーサーの声。
この声は恐らくクラウドにしか聞こえていない。

『”種”のある人が亡くなり、ライフストリームに還る時、それを浄化しているのは母たる星の力ですから、”種”の浄化は厄災の本体を滅ぼせば可能になるでしょう』

今その浄化を行わないのは、それをしても意味がなくなるかもしれないからだ。
全人類の浄化は、星の力をかなり使うだろう。
全ての人類を浄化したところでジェノバが目覚めてでもした場合、星には抗う力がないかもしれない。
ジェノバが目覚めてしまえば、厄災飛来時の二の舞だ。

(種はともかく、ソルジャーの細胞の浄化も可能なのか?)

ルーファウスにはなんとかなると思うとは言ったものの、確証など全くない。

『ソルジャーは自らの強い意思で厄災の破壊と滅びの意思を押さえているから大丈夫でしょう。厄災の何よりも恐ろしいところは、迷いのない破壊と滅びを求めている意思なのですから…』

人が破壊をもたらそうとしても、そこには少なからず躊躇いと迷いというものが生じるはずだ。
だが、厄災であるジェノバにとっては破壊と滅びが全てであり、迷いや躊躇いなど全くない。
迷いのない力というのは恐ろしいものなのだ。

「本体を今すぐ潰すわけにはいかない」
「ミッドガルの細胞を全て消して、その後本体…って言っても、僕とクラウドだけじゃ難しいところだ」
「やろうとしている事に割には、俺とルーファウスだけじゃ難しいか…」

ジェノバの細胞がミッドガルに別れているのがやりにくいことこの上ない。
いっそのこと、ジェノバが復活しようとリユニオンでもしてくれた方が倒しやすい。
とはいえ、そんなことになったら星が危機を感じてウェポンを生み出す可能性が出てきてしまう。

「でも、タークスのうち数人なら、こちらに引き込めるかもしれない…けど、どちらにしても時間が必要だね」

クラウドもここに”戻って”来て間もない為、何かを準備しているわけではない。
今一番必要なのは時間なのかもしれない。
来るべきだろう時の為に準備する時間。

「時間が必要にしても、当分はセフィロスはここに近づかせないほうがいい」
「同感だね。今のセフィロスがこれを知るのは困ったことになりそうだ。それに…」

ルーファウスは巨大なビーカーを見る。
そこに刻まれた名は”カダージュ”。
クラウドの知らない名で、この名が何を意味しているのか分からない。

「ミッドガルの化学部門をもう少し詳しく調べた方が良さそうだ」

ニブルヘルムのここにある実験結果や書物が全てのわけがないだろう。
寧ろミッドガルにこそ結果や資料があるはずだ。

「どうやって調べるんだ?」
「勿論ハッキングするに決まってるだろう?正規の手段で足でもついたら狸親父に絶対に警戒される」
「…ハッキング」
「犯罪だから、なんて勿論言わないよね?」
「ああ」

ハッキングを咎めるつもりなどないが、本当にルーファウスは副社長なのだろうかと思ってしまう。
リボルバーを持って魔物を倒し自らが動く。
人に命令する事には慣れているようだが、今の社長とは違う。
今の社長であるプレジデントは、社長の椅子から動かずに人に命じるタイプだ。

「セフィロスをニブルヘルム方面の仕事になるべくつかせないようにするのはできる限りやっとくよ。無理な時はクラウドを同行させるようにするから、その時はよろしく」
「俺?」
「怪しまれない程度にセフィロスがここに近づかないようにしておいてよ」

クラウドは頷く。
自分にできるのはそのくらいだ。
流石に神羅から来るソルジャーへのミッションをどうこうなど、ある程度の地位がなければできない。

「クラウドは今確かソルジャー・ザックスの下士官だっけ?」
「ああ、そうだが…」
「彼は基本的にセフィロスと同じミッションが多いから、クラウドもなるべく同行するようにして、セフィロスを見ててよ」

ジェノバをどうにかする事も必要だが、やはりセフィロスの考え方なり有り方なりをどうにかしなければならないだろう。
同じ過ちは繰り返したくない。
だからこそ、クラウドはここにいる。

「セフィロス…か」

セフィロスを”こちら側”に引き止めておく何かが見つかればいい。
そうでなければ、再びあの時と同じ事が起こってしまいかねない。

星はセフィロスも救いたかった。
子供達を救いたかった。
星の願いが自分の願いと同じ。
だから、今度こそ、やり直したいと後悔しないように……。




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