星の扉 22




調べてみると、最近は魔物の変異種が多いようで、ソルジャーが魔物討伐に出向く事が多いらしいとの事。
クラウドは何故かザックスから貸し出されて、セフィロスのミッションに同行していた。
十中八九ルーファウスが何かしらの細工をしたのだろうが、特に困る事はない。
今回は化学部門の魔晄調査の警護だ。
調査する場所にはかなり強力な魔物がいるようで、セフィロスが同行することとなっている。

(そんな物騒な場所の調査なんてやめればいいのにな)

魔晄エネルギーを吸い上げる、それは星の命を吸い上げることと同等。
星はこの地に生きる人々全てを子供であると慈しんでいるのに、その子供たちは母の気持ちも知らずに母の命を縮めている。

目的地はゴンガガに程近い平地だ。
周囲には何もなく、小さな草が生えているだけの平地。
こんな所に何があるのだろうと思うが、神羅の化学部門の学者達の考えることは良く分からない。

「クラウド、行くぞ」
「はい」

神羅兵数人を連れて、セフィロスがどこかへと向かうらしい。
クラウドもそれに続く。
化学者達はこの場に残り調査をするようで、調査の機械を取り出して大地を調べ始めていた。
クラウドはそれを見て少しだけ顔を顰める。
魔晄エネルギーを吸い上げる為の研究など、クラウドにとって嫌なものでしかない。

「ストライフ」

セフィロスのすぐ後ろを歩いていたクラウドに、神羅兵の1人が声をかけてきた。
クラウドが顔だけ後ろを向ければ、その神羅兵が少しだけ顔を見せる。
一般の神羅兵は全員同じ服装で同じ防具をつけているため、顔を見せなければ誰が誰だかわからないことが多い。
顔を見て、何度か一緒に仕事をしたことがある相手だと分かった。

「最近仕事が一緒にならないと思っていたら、出世してたんだな?サー・セフィロスの下士官か?」
「いや…」
「けど、似たようなものなんだろ?」

クラウドは自分の立場をどういうものか説明するのに戸惑う。
この立場をどう説明すればいいものか。
表向きはザックスの期間限定下士官だ。
もう1人の神羅兵が知り合いか?と聞いて、クラウドに声をかけた神羅兵が元仕事仲間だと説明していた。

「副社長の気まぐれの期間限定なだけだ」
「副社長の気まぐれ…って、副社長に気に入られて振り回されている神羅兵ってお前のことか!」

クラウドのことを知らないらしい神羅兵が何か納得したように頷いていた。
どうもクラウドのことは噂になっているらしい。
聞けば、副社長の気まぐれ我侭は神羅兵の中でも結構有名なようで、それに付き合わされてとんでもない目にあった人は大多数。
それ故、今回目を付けられたと噂されていた神羅兵を皆哀れに思っていたらしい。

(ルーファウス、お前今まで気に入った相手というのをどういう風に扱ってきたんだ?)

ここにはいないルーファウスに問い詰めたくなる。
噂ではかなり酷いらしい。

「別に副社長は噂ほど酷い人じゃない……と思う」
「その間が怪しいぞ、ストライフ」

クラウドは視線を逸らす。
確かに自分勝手な所はあるが、越えてはならない一線というのをきちんと理解しているはずだとクラウドは思っている。
しかし今はルーファウスのことを語っている場合ではない。
クラウドは近づいてくる気配を感じ取っていた。

「サー・セフィロス」
「後方を頼んだぞ、クラウド」
「了解」

ざっとセフィロスが前方に駆け出した。
クラウドは足を止め、歩いてきた方角に対してバスターソードを構える。
2人が戦闘態勢に入ったことで、神羅兵2人も気づいたのか、クラウドから少し離れた場所で構えた。

― 気をつけなさい。この地は怯えています

頭に響いた声にクラウドははっとなる。
この時代に来てから何度か聞いた星の声。
こうはっきり言葉として聞こえることは少ない。
だからこそ、何かあるのではないかと警戒心を強める。
気持ちを静めて気配を探る。
目に頼るばかりでは駄目だ、気配を感じ取らなければならない。
目で見る限り、この平地にはクラウド達以外の影は見られず、上空にも雲と青空が広がるだけだ。

(来るのは恐らく…)

クラウドはぎゅっとバスターソードを握り締め、はっと顔を上げる。

「離れろ!下だ!」

少し離れたところにいる神羅兵に向かって叫ぶ。
そこは流石は訓練された兵士である。
クラウドの言葉にすぐに反応して、それまでいた場所から飛びのくように離れる。
と同時にぼこっと土が盛り上がり、魔物が一体出てきた。
ばさりっと広がる羽、2つの頭と鋭い目。
ごぽごぽっと魔物の周囲に水の球がいくつもいくつも現われる。

「アクアブレス、キマイラか」

あの時の技術が全て戻っていれば倒すことは簡単だろう。
だが、今のクラウドにはあの時ほどの、ジェノバ、セフィロスを倒した時ほどの実力がない。

『マスター、力をお貸しします』

何をするつもりだ、とクラウドは耳についているナイツ・オブ・ラウンドのアーサーに問おうとした。
だが、その問いが出る前に身体をふわりっと何かが覆う。
そう、これはライフストリーム、星の命。
クラウドは自分の身体を見回し、とんっと足を一歩踏み出してみる。

(これは、まさか…)

ぐぉぉぉぉんっとキマイラが吼える声が聞こえた。
神羅兵2人が銃で応戦している。
だが、そんなものはキマイラにはかすり傷程度にしかならないだろう。
普通の銃では駄目だ。
だんっとクラウドは大地を蹴り、キマイラに向かう。

「無茶だ!ストライフ!」

神羅兵の1人が叫んだのが聞こえたが、それはこの際無視だ。
なんとかなる、クラウドはそう思っていた。
バスターソードをキマイラに向かって振り上げるが、ガキンっと硬い音がしただけで、ダメージは与えられない。
それはそうだろう、ただのバスターソードでは、ただの銃と同じようなものだ。

「普通の攻撃が駄目なのは…分かっている」

クラウドはすっと刃を水平に構える。
キマイラはアクアブレスの水の球を周囲に出現させる。
アクアブレスを直接くらえばダメージはでかい。
だが、クラウドは水平に構えた刃を突き出すような形に変えてキマイラに向かって駆け出す。
同時にアクアブレスがクラウドに向かう。

「ブリザラ」

ひゅぅっとクラウドの周囲から冷気が広がり、向かってきたアクアブレスの水の球を冷気が覆う。
ぴしりっと水の球が固まり、ぱりぱりっと砕けるような音が周囲で聞こえる。
クラウドはマテリアを持っていない。
だが、それでも中級の魔法を使えるのは、今は星の力を借りているからだ。
氷となったアクアブレスのカケラが舞い、その中を突き進んでクラウドのバスターソードがキマイラを捉える。
ただのバスターソードだが、今度はキマイラの体にはじかれることなくずぶりっと刃はキマイラの体に突き刺さる。
クラウドはバスターソードを握る手に力を込め、腰を落として一気に剣を振り上げた。

ざんっ!

キマイラの身体が綺麗に真っ二つに割れ、その体はずんっと大地に沈む。
断末魔すら聞こえず、キマイラは倒れた。
クラウドは振り上げた剣を下ろし、小さく息をつく。
周囲の気配を探ることを忘れない。
これで終わりではないかもしれないのだ。

「ストライフ!サー・セフィロスが!」
「…は?」

周囲にまだ魔物はいないか気を張っていたクラウドに言った神羅兵の言葉。
思わずクラウドは間抜けは返答をしてしまう。
神羅兵が指す方向を見れば、セフィロスが別のキマイラ2体からアクアブレスを盛大に浴びせられていた。

「…なにやってんだ、あの人」

キマイラ2体に手間取るような人ではないだろうに。
本当に何をやっているのだろう、とクラウドは思ってしまう。

「呑気に呆れている場合じゃないだろ!」
「いや、だが、サー・セフィロスならあの程度……」

クラウドの頭にふっとよぎったのは、血まみれになった”あの時”のセフィロスの姿。
ジェノバを母と呼び、この世界の滅びを願ったジェノバの息子。
クラウドは軽く頭を振る。
”あの”セフィロスと今ここにいるセフィロスはまだ同じではない。
だが、セフィロスを殺したことに、クラウドは今でも罪悪感を覚えている。
エアリスを救えなかったこと、ザックスを救えなかったこと、それが心にしこりとして残っている。

「地面の中に気をつけておけ。地上に存在するものだけが敵じゃない」
「ストライフ?」
「これ以上キマイラはいないとは思うが、危ないと思ったら逃げろ」

クラウドに声をかけてきたのはクラウドより2つ3つ年上の神羅兵だ。
だが、丁寧語がどうのという考えが今のクラウドの頭の中にはない。

「サーを援護してくる」

そう小さく言葉を残し、クラウドはセフィロスの元に駆け出す。

(キマイラが3体も出るような状態と、この地が怯えているというのは関係があるのか?)

キマイラは通常単体で出現する。
セフィロスの所に2体も同時に、しかもその近くでクラウドの所にももう1体出現することなど、ありえないと言ってもいい。
クラウドはバスターソードをぐっと握り締める。
先ほどキマイラを一体倒したことで、この刃はかなり傷んでいる。
ただのバスターソードでキマイラを倒すなどという無茶をやったからだろう。

(次にクライムハザードをやれば、確実に折れるな)

クラウドは冷静にそう判断してた。
だが、セフィロスの元に駆けつけることに迷いはない。
彼の実力は分かっているが、それでも手を出さずにはいられない後悔がクラウドの中にある。
罪悪感から助けるなどと、セフィロスは嬉しくもないだろうが、クラウドはセフィロスも救いたいと思っている。

(この程度で、あんたは苦戦するはずないだろう?)

「ブリザラ!」

ひゅぅっと冷気が周囲を満たす。
それは先ほど使ったブリザラよりも威力が大きく、セフィロスを覆っていたアクアブレスを一瞬で氷の欠片と変える。
さわりっと氷の風が一瞬吹き抜ける。
ぱらぱらっと舞い散る氷は光に照らされて僅かに輝きを見せ、その中に立つセフィロスは少しだけ驚いた表情でクラウドを見ていた。




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