炎のゴブレット編 06
衝撃の結末だったクィディッチワールドカップの興奮が冷めていないかのように、ドラコは試合の光景を豪華テントの中で熱く語る。
結果はの知っている通りの結果だった。
ブルガリアのシーカーであるクラムがスニッチを捕った事で終了した試合は、スコアの結果を見る限りではアイルランドの勝利だった。
「あの盛り上がりは、クィディッチワールドカップの決勝に相応しい試合だったよな!」
「そうだね〜」
のんびりとお茶をすすりながら答えるは、どことなく緊張が見られる。
それはこれから起こる事が分かっているからだろう。
「知ってるか?」
「何を?」
「今年のホグワーツではな…」
そこで何か含みを持たせた笑みを浮かべたまま、ドラコは言葉を止める。
言葉を止められるとちょっと気になるものである。
ドラコが言いたい事はなんとなく想像つくが、思わずじっとドラコを見てしまう。
の意識が向けられた事が嬉しかったのか、ふふんっと得意そうに笑うドラコ。
「いや、言わないでおこう。父上も誰にも言うなって言ってたしな」
「そこで止められるとちょっと気になるんだけど…」
「父上に言うなって言われているから仕方ないだろう?」
そう言いつつも、ドラコは自分が知っているという事でかなり優越感があるようでかなり楽しそうだ。
ドラコが言いたいのは三校対抗戦の事だろう。
三校対抗戦には、先ほどクィディッチワールドカップで活躍したクラムがホグワーツに来る事になっている。
クィディッチを知る者で、先ほどの試合を夢中になって見た者ならば、クィディッチの英雄とも言えるクラムは憧れの存在になるだろう。
その存在がホグワーツという身近な所に来ると知るのは嬉しい事だ。
「リドルも気になるか?」
ニヤリっと笑みを浮かべてヴォルにそう問うドラコは、将来大物になれるかもしれないとはちょっと思う。
ヴォルは同級生となっているが、雰囲気が気軽に話しかける事が出来るような雰囲気ではないのだ。
からかうような言葉を投げかける事が出来るような雰囲気を持っていないので、気軽にヴォルに接する事が出来る人はホグワーツの中でも限られている。
「俺は知ってるからな」
さらっと何でもない事のように言いながら、ヴォルは窓から外を眺めている。
死喰い人達の動きが気になるのか、ただ人の流れを見ているのかは分からない。
「知ってるのか?!」
「今年のホグワーツで行われるアレだろう?随分と久しぶりの開催だから、魔法省でも話題になってるだろ」
「一応トップシークレットなのに、なんで知ってるんだ?」
「あくまで学生の間でのトップシークレットだろ?大人たちの間では、普通に話題になっている事だ」
だから、知っていても特に不思議な事はない、とヴォルは言いたいのだろう。
準備に奔走するだろう魔法省の間では、確かに知らない者は少ないと言うほど飛び交っている話題だろう。
何しろ一度中止にされてようやく再開する話題の行事なのだ。
魔法省が関わるという時点でかなり大きな行事とも言える為、その情報が全く漏れずにいるという事はないはずだ。
「じゃあ、も知ってるのか?」
「俺はに言った事はないがな」
「じゃあ、知らないのか」
ちらっとに視線を向けるドラコ。
確かにヴォルからは教えてもらってないが、は知っている。
(ここで知ってるとか言うと、どこで知ったのかとか突っ込まれそうだよね)
ヴォルに教えてもらっていないという事になっている以上、知らない事にしておいた方がいいだろう。
特に知らなくて、ドラコに優越感を抱かせても全く問題はない。
ドラコの自慢好きの性格は可愛いと思うくらいだ。
思わずくすりっと小さく笑ってしまう。
の表情に途端にむっとするドラコ。
「何で、そこで笑うんだ、」
「いや、ドラコは可愛いな〜と思って」
「可愛いって言うな!僕は男だぞ!」
「うん、知ってる」
ニコニコしながらは頷く。
それが気に入らないドラコはむっとしたままの表情だ。
「僕はもう今年で14だぞ!」
「それも知ってるよ」
「子供を作ろうと思えば作れる年齢だ!」
「うん、それも…」
うんうんとそのまま頷こうとしただが、ぴたりっと動きを止める。
じっとドラコを見れば、相変わらずの憮然とした様子。
何か、14歳になる子供から思いがけない言葉がでてこなかっただろうか。
「は?え?あれ、子供って…」
取りあえず理論上可能なのは分かる。
確かに、このくらいの年頃になれば、男はともかく女の子も子供を作れる身体へと成長していく時期だ。
「そう言えばはニブいからな、この手の事は知らないのかもしれないな。このくらいの年頃になれば、子を成す事も可能なんだぞ。つまり、大人の仲間入りって事だ」
むっとした表情から、ふふんっと得意げな表情に変わるドラコ。
そうやってコロコロ表情が変わる所も子供らしくて可愛いと思う。
思えるが、言っている言葉にはちょっと突っ込みたい。
「ドラコ、子供を作るって意味分かって言ってる?」
「分かっているに決まっているだろ」
「えーっと、妖精さんが子供運んできてくれるとかって意味じゃなくてだよ?」
おとぎ話のように子供がひょっこり現れる事ではないという意味ではそう言ったのだが、ドラコに呆れたような視線を向けられてしまう。
さらに大きなため息つきだ。
「当たり前だろう?子供を作るってのは男と女でする事をス…」
「うああ!いい、言わなくていい!」
あわててドラコの口を両手で塞ぐ。
まさかさらっと顔色も変えずに、年齢制限モノの言葉を言おうとするとは思わなかった。
その手の話題にさっぱり免疫がないは顔をほんのり赤くする。
何故口を塞がれたのか分からないドラコは、思わずヴォルに視線を向ける。
ヴォルは苦笑しながら肩をすくめた。
「はそのテの話題が苦手らしくてな」
ヴォルはに近づき、の肩に右手を置くとそのまま自分の口をの耳元に近付けてふっと息を吹きかける。
「っ?!!」
顔をさらに赤くしながらは、そのままばっとそこから飛び退く。
息を吹きかけられた耳を手で覆う事は忘れない。
「な、な、な、何するのさ、ヴォルさん!」
「ただ息を吹きかけただけだろ、そこまで過剰に反応する必要はないはずだが?」
言われてみればそうだが、いきなり耳に息を吹きかけられれば誰だって驚くのではないだろうかとは思うのだ。
顔を真っ赤にしたままのを、ドラコは何か考えるようにじっと見つめる。
その視線には気付かない。
何か思いついたのか、ドラコはの手をつかんでぐいっと自分の方に引っ張る。
「わっ?!何、ドラ…」
ドラコは軽くの頬に唇を落とす。
軽く触れる程度のものだったのだが、はさらにあわててドラコから距離をとる。
「な、な、な…!」
「成程。ニブいだけじゃなくて、こういう事にも免疫ないのか、」
「曰く、日本人はシャイだかららしい」
「人種の違いか?」
「それだけとは、思えないがな」
顔色も変えず、何事もなかったかのように話をするドラコとヴォル。
の過剰な反応が相当面白かったのか、ドラコの機嫌はかなり良さそうだ。
ニヤリっと笑みを浮かべてを見る。
その笑みにぎくりっと嫌な予感がする。
「のその反応の方が可愛いと僕は思うぞ?」
ふふんっと勝ち誇ったかのようなドラコ。
(ド、ドラコにからかわれたっ?!)
ちょっとショックである。
ドラコは比較的素直な性格で、ハリーのようにちょっとした黒さもない。
ヴォルにからかわれるのは仕方ない、何しろヴォルはより随分と年上なのだ。
生きた年月が違うのだから精神的余裕も全然違う。
ヴォルに言い負かされてしまうのは、正直仕方ない事ではあると思っている。
だがドラコは違う。
年齢的にはより年下であり、ドラコの性格を考えても、からかう事はあってもからかわれる事などないだろうと思っていた。
「そ、それより、ルシウスさんとナルシッサさんの姿が見えないけど、まだここに戻ってきてないの?」
話題変換を試みてみた。
しかし、ルシウスとナルシッサの姿がないのは、実際少し気になってはいたのだ。
クィディッチワールドカップの勝敗がついて終了してから結構時間が経つ。
外は暗くなり、殆どの人がテントに戻り、すでに就寝している人もいるだろう時間である。
がいるテントはマルフォイ家のテントであり、テント内が広いといっても、2人がいるかいないか位は分かる。
「ああ、父上と母上か。父上は用事があるらしくて、今夜はこのテントに戻るかどうか分からないそうだ」
「用事?」
「競技場には海外から人も来ていたから交流でもするんじゃないか?」
「そっか…」
マルフォイ家は身分なる優秀な家柄だ。
ルシウスの権力もそれなりのものだからこそ、交流関係は色々な意味で広いだろう。
このように多くの人々が集まる場では、知り合いも多いに違いない。
(でも、もしかしたら交流とかじゃなくて用事って…)
今夜の死喰い人達の動きに何か関係した用事ではないだろうか。
あの騒動にルシウスが関わっていたかどうかは分からないが、全くの無関係ではない気がする。
「ナルシッサさんは?」
「母上は知り合いでも見つけて話が長引いているんじゃないか?母上は話好きだからな。戻ってくるとは思うが、少し遅いな」
どこかで世間話をしているにしても、戻ってきていい時間だろう。
ちらりっとこの部屋にある窓から外を見ると、外は小さな明かりがいくつかあるだけで空は真っ暗だ。。
ポツポツと見える灯りは、周囲にあるテントの側にある街灯だろうか。
じっと窓の外を見ていると、静かな夜ではない何か違和感を覚えた。
(あれ?なんか、明かりが妙に多くない?)
ぱらぱらと点灯している明かりのうち、動いているものある。
「、どうした?」
外をじっと見ているを不思議に思ったのか、ドラコが聞いてくる。
ヴォルも同様窓から外に視線を向け、なにか分かったのかすぅっと目を細めた。
「動いたな」
ぽつりっと小さな声だった。
だが、そのヴォルの声が耳に届いたは小さく頷く。
そう、始まったのだろう。
死喰い人達による、ヴォルデモート卿が復活するという証の事件が。
カタンっと音がして、パタパタっとどこか慌てたような足音が聞こえてくる。
足音は1つだけだ。
「ドラコ!」
息を弾ませて部屋に入ってきたのは、ナルシッサだった。
余裕がないように見えるナルシッサにドラコは少し驚く。
「母上?」
「ここは少し騒がしくなります。テントを出ますよ」
「出るって、どこへ…?」
「とにかく立ちなさい」
状況が良く分からず、ドラコはしぶしぶながら立ち上がる。
ナルシッサはそこでようやくとヴォルに存在に気付いたかのようにはっとなる。
少し迷ったかように視線をさまよわせたが、小さく息をのんでからとヴォルに視線を向ける。
「2人も付いてきなさい。ここにいても危ないわ」
「母上、一体何が?」
ナルシッサはドラコの腕をひっぱりながら外へと向かう。
とヴォルは何も聞かずにその後をついていく。
ばさりっとテントの入口の布を開ければそこは外。
一気にざわめきの声が耳に届く。
ざわめきと言うべきか、それとも悲鳴と言った方がいいだろうか。
慌てたような声と足音、何かから逃げるように走り回る人々。
夜の暗さを照らすように動くのは魔法の明かり。
その光景を見て、は顔を歪ませながら拳をぎゅっと握りしめるのであった。