炎のゴブレット編 03
マルフォイ家のテントはやはり大きかった。
外見ではなく、勿論中の構成だ。
外から見える大きさと中の大きさが全く違う。
魔法界では質量保存の法則というのが成り立たないのだろうか…とちょっと思ってしまおうである。
最も、何かの魔法を使って室内を大きくしているのだろうが、生憎とその方法はには分からない。
「広いね…」
それはもう、とてつもなく。
入ってまず広がるのはがらんっと広い、大きな屋敷にありがちな玄関ホール。
左右に部屋の扉と思われるものが2つずつ、奥の中央にに2階への大きな階段、階段下の左右にこれまた大きな扉が1つずつ、2階にもいくつか部屋の扉が見られる。
「遅かったな、ドラコ」
そう言いながら、2階からゆっくりと階段を歩いて降りて来たのはルシウスだ。
ナルシッサの姿が見えない所を見ると、部屋にこもっているのかそれとも出かけてるのか。
「父上」
「お前が招待したいと言っていたのは、その2人か?」
「はい。は知っているでしょうが、もう1人は同じスリザリンの…」
ドラコがヴォルを紹介しようとしたが、ヴォルがすっと前に出てルシウスに対してにこりっと笑みを向けた。
「トム=リドルと言います。”初めまして”、Mr.マルフォイ。このたびは、クィディッチワールドカップのチケットをありがとうございます。Mr.マルフォイの噂は聞いております」
ヴォルの挨拶にぎょっとしたのはドラコだ。
普段結構乱暴な言葉遣いをしているヴォルしかしらないドラコが驚くのは当然かもしれない。
(優等生リドルバージョンだ…)
ヴォルがヴォルとして会った時には既に言葉遣いは今のものだったので、こうやって丁寧な言葉遣いをするヴォルを見るのはも初めてである。
だが、同じ容姿のリドルがこんな言葉遣いをしていたので違和感があるとは思っていない。
ルシウスはヴォルの名前にぴくりっと眉を動かして反応したが、笑みを浮かべてヴォルの挨拶に対応した。
「君はスリザリンか?」
「はい、ドラコと同じスリザリン寮で仲良くさせていただいています」
「”リドル”の姓を名乗っているという事は、あの方の関係者か何かかね?」
ルシウスのその問いにヴォルは笑みを返すだけだ。
肯定もしないし、否定もしない。
そして馬鹿正直に本当の事を言うわけでもない。
「よく似ている目をしているな」
「そうでしょうか?」
「君はあの方を御存じか?」
「ええ、よく知っていますよ」
「そうか」
ふっとどこか楽しげな笑みを浮かべたのはルシウスだ。
ヴォルは小さく笑みを浮かべたまま、表情を特に変えていない。
思っている事が結構顔に出てしまうらしいにしては、羨ましい程綺麗に自分の感情を隠すものだ。
「ドラコが2人分チケットを追加して欲しいと言った時は、1人はの事だとは思っていたが、もう1人が君のような事はな」
「意外ですか?」
「いや、君のような子こそ、ドラコの友人に相応しい」
「ありがとうございます」
ドラコは困惑した様子を隠そうともせずにヴォルをまじまじと見ている。
ヴォルはその視線を全く気にせず、ルシウスと話を続ける。
「しかし、君はとは親しいのかね?」
「ええ、は楽しいですから」
「ああ、君もそう思うか。打てば響くようなあの反応は遊び甲斐があるからな」
何故かの話題に移ってしまい、は少々顔を引き攣らせる。
(そんな事で意気投合しないでー!!)
ヴォルとルシウスが組んでをイジり倒す事にはならないだろうと思うが、もしそんな事になれば絶対に恐ろしい事になる。
遊ばれて遊ばれまくるに違ない。
「所で、君は純血か?」
「”リドル”の姓でMr.マルフォイには分かるかと思いますが?」
リドルの姓という事はヴォルデモートの身内。
ヴォルデモートが混血である事を知っているのならば、その問いは愚問だ。
「それは、スリザリンの血を引いていると解釈してよいのかね」
「ええ、否定はしませんよ」
「は?ちょっと待て、リドル!お前っ、サラザール・スリザリンの血縁なのか?!」
思わず突っ込むドラコ。
それはそうだろう。
スリザリン寮所属ならば、サラザール・スリザリンは憧れの存在だ。
グリフィンドール寮所属が、ゴドリック・グリフィンドールに憧れるように。
過去の人物で詳しくは分からないので、どんな人物かもハッキリしないのに、創設者の1人で自分の寮の名にもなった人となれば憧れるのは当然だろう。
「言ってなかったか?」
「聞いてない!」
ドラコの様子にくくくっと笑うルシウス。
「良い友人を持ったな、ドラコ」
「え…、はい!」
満面笑顔ではっきりと頷くドラコ。
成績優秀で、落ち付いていて、闇の魔法にも詳しく、更にサラザール・スリザリンの末裔でもある。
嬉しくて自然と笑顔にもなるだろう。
「ゆっくりしていくといい」
「はい、と一緒にお世話になります」
ふっと小さく笑みを浮かべながら、ルシウスはそのまま特に何かを言うわけでもなく、階段したの扉へと消えていった。
は自分に対して何も言われなかった事にほっとする。
ルシウスにとって、よりもヴォルに興味が湧いたからなのだろう。
ヴォルは、リドルの名を持つ、ヴォルデモート卿のに似た面影を持つ少年なのだから。
「嵐が過ぎ去った感じ…」
「そう身構えると、余計に遊ばれるハメになるだけだ」
「そ、そうなの?」
「面白い反応が返ってくれば、更にちょっかい掛けたくなるものだろう?」
確かにそうだろうが、そのちょっかいが洒落にならないものになりそうで怖いのだ。
「そんなことより、だ!リドルは本当にスリザリンの末裔なのか?!」
「ああ、言ってなかったようだな」
「そう言う事は早く言え!」
「そう重要なことでもないだろ」
「スリザリンの人間なら重要なことだ!」
そこで、ドラコは全く驚いていないに気づく。
勿論はヴォルがスリザリンの末裔である事は知っていたので、驚きもしなかった。
「は知ってたんだな」
「うん、一応」
「僕だけが知らなかったということか」
仲間外れにされたように思ったのか、少しむっとするドラコ。
「というより、知ってるのは、ヴォルさん本人と、私と、ダンブルドアくらいだと思うよ」
最も、ホグワーツ内ではという注釈がつくが。
ヴォルがヴォルデモート卿であったと言う事を知っている者ならば、スリザリンの末裔である事も知っているだろう。
「機密事項か何かか?」
「別に隠してはいないが」
「ヴォルさんが単に言ってないだけだと思う」
ヴォルの今の性格を考えると言いふらすような性格でもない。
問われれば答えるが、聞かれない限りは答えないだろう。
スリザリンの末裔がいると思う人など殆どいないだろうから、当然バレる事もほとんどないのだ。
「あ、それとだな!」
もう一つとばかりに、ドラコはぴしっと指を一本立てる。
「リドル、お前父上の前でのあの態度、一体なんだ?」
「ただの社交用だが?」
それがどうした、と言わんばかりのヴォル。
かつて学生時代はあんな感じだったヴォルにとって、ああやって丁寧な口調で話すのは別に苦でもないのだろう。
「…にしても変わりすぎだろ?」
「そうか?」
「一瞬誰かと思ったぞ」
大きくため息をつくドラコ。
確かにあの変わりようを見れば、一瞬は同一人物かと思えないかもしれない。
それだけヴォルの猫かぶりが完璧なのだろう。
「は驚かなかったよな」
「あー、うん。だって、初めてじゃないし」
「それも知ってるのか」
「ドラコよりかは付き合い長いしね」
ヴォルは3年生で編入、ドラコとは出会って1年足らず。
はヴォルと会って丁度3年位になるだろうか。
「とリドルは付き合いが長いのか?」
「俺からすると長いには長いな」
「え?長い…かな?」
ヴォルの言葉には不思議に思う。
出会って3年というのは変わらないはずなのに、ヴォルからすると長い事になるのだろうか。
ヴォルの実年齢を考えれば、そう長くは感じないはずだ。
「俺からするとな。俺とが”初めて”会ったのはだいぶ前だからな」
「あ…」
リドルとが初めて会ったのは、およそ50年前。
それが”初めて”の出会いとすれば、ヴォルからすれば確かにとの付き合いは長いのだろう。
途中離れていた期間がかなり長かったにしても、だ。
「何だ?実は幼馴染か何かなのか?」
ヴォルの言葉で、とヴォルはかなり長い付き合いだと思ったドラコが聞いてくる。
「いや、ドラコ。僕、マグル。ヴォルさん、どう考えても昔から魔法漬けな生活送ってた感じでしょ?」
「言われてみればそうだな…、どうやって知りあったのかが謎なくらいな関係だな」
マグル出身の魔法使いが、魔法学校に通う前に同じ年頃の魔法使いに会う事は殆どないだろう。
親戚や近所に魔法使いがいるのならば、完全にマグル出身ということにはならないだろう。
「僕とヴォルさんは、思わぬハプニング出くわしたような感じで出会った…ような?」
「偶然と必然だな。後になってみれば、あれは必然な出会いだったと思えるがな」
とヴォルの言葉に、ドラコは意味が分からないかのように顔を顰めた。
最初は偶然と思えたヴォルとの出会い。
ヴォルデモート卿からヴォルが分かれたのは、結局はが原因だった。
だから、必然でもあるのかもしれないのだ。
「とりあえず、部屋に案内してやる。2階でいいだろ?」
2階に続く階段へと歩き出すドラコ。
頷きながらその後をついていく、そしてヴォル。
足音が響かないように床には絨毯がひかれているのだが、なんだか高級感があって少し緊張してしまいそうだ。
「…豪華な部屋だと、あまり寝れなそうなんだけどな」
ぽつりっと思わず本音が零れてしまう。
小さい頃は誰でも一度はお姫様のような部屋に憧れるだろう。
だが、一般的な生活に慣れてしまえば、変に豪華な部屋は緊張するだけだ。
「数日くらい我慢しろ。どうしても嫌なら床にでも寝てろ」
「うん、そうする」
(そうだよね、天涯付きの豪華ベッドなんかあったら反対に寝れないだろうから、床に布団降ろして寝た方が寝れるかも)
うんうんと頷きながらはそう考える。
「は…?本当に床に寝る気か?!」
「日本人は本来床に布団敷いて寝るから、別に抵抗ないけど?」
ドラコはその言葉に大きなため息をつく。
きょとんっとするに、ヴォルはヴォルで苦笑する。
ドラコは呆れた表情をしたが、それ以上何も言わなかった。
ただ、これ以上に何かを言っても、自分が疲れるだけだと思ったのかもしれない。