炎のゴブレット編 01
とヴォルは、リーマスの家に帰って来ていた。
ある程度休暇中にやる事は終わってしまった。
かといって、ノクターン横町のあの屋敷に籠っていてもまずいだろう。
ずっと帰らなければリーマスも心配する。
新学期の準備もしなければならないという事で、家に帰って来ていたのだ。
「はクィディッチワールドカップに行くのかい?」
にこりっと新聞から顔を上げてリーマスが聞いてくる。
のんびりと居間で、、ヴォル、リーマスの3人でのお茶の時間。
この3人でお茶するというのもなんだか妙な感じだ。
「多分…」
「多分なのかい?」
「チケットとってくれるって言ってたけど…」
「友達かい?」
「うん」
連絡をくれるらしいので、チケットが取れているのならば律儀にそろそろ連絡が来るはずだ。
「それより、リーマス。シリウスさんは?姿が見えないけど…」
家の中のどこにも姿が見えない。
リーマスの家でしばらく潜伏しているはずだ。
「シリウスなら犬の姿で散歩しているよ。性格上、家の中でじっとしているのは駄目みたいでね。それに、相性があまり良くないからね」
苦笑しながらリーマスが見るのはヴォルの方だ。
相性というかシリウスが一方的にヴォルを疑っている為、険悪な雰囲気にしかならないないシリウスとヴォル。
シリウスが疑っているのはある意味間違ってはいない。
ヴォルはヴォルデモート卿でもあったのだから。
「2人共、課題は終わってるのかい?」
「うん、ヴォルさんは?」
「適当に終わらせた」
適当に終わらせる事が出来る所がヴォルのすごい所である。
最もかつて首席で卒業した人間にとって、3年生が終わった後の課題など簡単なものかもしれないが。
「ヴォルさん課題やってるようなそぶり見なかったのに、いつの間に終わらせたの?」
「休暇に入ってすぐだ。時間をかけるようなものでもないだろう?」
「そんなこと言えるのヴォルさんだけだよ」
数日もかからず終わらせたに違いない。
だって、実技以外はそれなりに優秀なのだ。
それでも集中して、大人なりの要領の良さがあっても1週間はかかった。
(ヴォルさん、教科書とか参考書みて調べる必要とかないからなんだろうな…)
課題と言っても、教科書や参考書などの書籍を見て調べる必要があるものも多い。
は勿論魔法界の事に詳しいわけでもないので、ちゃんと教科書を開いて調べたりして課題を終わらせた。
だが、ヴォルの場合は参考書を見るまでもない、知識はほとんど頭の中。
頭の中にある知識を書きだせばいいだけだ。
「も十分課題終わらせるの早い方だよ」
「そうかな?」
「普通の子なら1週間じゃ終わらない。だから、イースター休暇は長いんだよ」
「それでも1か月もかからないと思うよ」
「一気に集中してやれる子ばかりじゃないからね」
休暇の半分以上が遊びで埋まる。
それが普通のイースター休暇の過ごし方だ。
とヴォルの場合は、半分以上が生活費稼ぎの為の魔法薬探しだ。
今回に限っては、創設者のホグワーツ創設の為の整理整頓の手伝いで殆ど終わったのようなものだ。
「ああ、でも、シリウスやジェームズなんかは一気にやっちゃうタイプだったね」
「休暇の最初の頃にですか?」
リーマスはの言葉にくすくすっと笑う。
「あの2人が課題を先にちゃんとしっかり片付けるような性格に見えるかい?」
そう問われれば”見えない”と返したい所だ。
一気にやればものすごい集中力で今のよりも早く課題を片付けてしまうに違いない。
それだけ2人は優秀だったはずだ。
「休暇の最終日や、ホグワーツについてから提出期日の授業の日までに一気に慌ててやってたよ。それでいていい評価もらえたりするんだから、地道にコツコツやってる人を馬鹿にしているとしか思えなかったよ」
全くとばかりに呆れたため息をつくリーマス。
だが、そういう天才肌はどんな学校にも1人や2人はいるものだ。
それがたまたまジェームズとシリウスだったに違いない。
「リーマスは真面目にやってた?」
「私は一応真面目に休暇の最初に片付けていたよ」
「一応なの?」
「たまにあの2人に引っ張り出されて、課題どころじゃない時もあったからね」
懐かしそうに目を細めるリーマス。
その時の事を思い出しているのだろうか。
今のジェームズとシリウスのやりとりを見た事があるとしては、その時の光景が想像できそうだ。
きっとリーマス同様ピーターも引っ張り出されたに違いない。
(ピーターさんの事も、どうにかしたい…よね)
シリウスもリーマスも、きっとピーターの事を憎んだままだ。
この先の未来の事もあるが、いつか、絶対にピーターの想いも2人に伝えたいと思う。
小さく息をつきながら、カップを持って紅茶を口に運ぼうとしたの耳に、コツコツと窓をたたくような音が聞こえた。
窓の方を見てみれば梟が一羽。
「フクロウ便のようだね」
リーマスも気づいたようで窓際まで行き、窓をゆっくりと開けてやる。
ばさりっと羽根をはばたかせて梟はの目の前にちょこんっととまる。
「どうやら、宛のようだよ」
ホゥとなく梟のくちばしには一通の手紙。
その手紙を受け取り、差出人を見ればそこには”ドラコ・マルフォイ”の名前。
(ドラコからの手紙なんて…もしかして、ものすごく貴重かも)
ホグワーツでは友人として話をしたりしているが、よくよく考えれば手紙をもらったのは初めてだ。
元々自身、休暇中に友人に手紙を書くなどという事をしないという事もあるだろうが、友人からの手紙というのはなんだかくすぐったい気持だ。
思わず笑みを浮かべてしまうである。
ゆっくりと封を切って中を確認し見てると、クィディッチワールドカップについてだった。
「クィディッチワールドカップの事か?」
「うん、そうみたい」
書いてあるのは、チケットが無事にとれた事と、場所を待ち合わせて一緒に行こうという事と、当日の集合場所だ。
「なんか、すごく律儀だよね…」
「普段のを見ていて、世話を焼きたくなるほど危なっかしいからだろ」
「私、そんな無茶してる?」
「自覚ないのか?」
「…ドラコの前では、そんなに無茶してないと思うよ」
「あの大怪我の件をよく思い出してから、もう一度同じ事が言えるか?」
「う…!」
それを言われると言葉を返せない。
しかし、あの時ドラコが大怪我する予定などなかったので、は自分が怪我してかばった事を後悔していない。
あのまま何もしなければ、おおいに後悔していたはずだ。
「クィディッチワールドカップはいいけど、は無茶しないようにね」
ばさりっと再び新聞を広げて読み始めるリーマス。
「クィディッチワールドカップは観戦するだけだから、無茶なんてしようがないよ?」
「それでも、多くの魔法使いが集まるから何があるか分からないよ」
一瞬リーマスのその言葉にどきりっとする。
そう、実際本当に何があるか分からないのだ。
死喰い人の襲撃がある事、闇の印が空に浮かび上がる事、それがヴォルデモート卿の復活を感じさせる事件になってしまう事。
そこで、はある事に気づく。
(私とヴォルさんは、ドラコがチケット用意してくれたけど…)
マルフォイ家が都合してくれただろうので、チケットを取るのに苦労はしなかったのだが、人気の競技のクィディッチのワールドカップである。
個人でチケットを取るのはかなり大変に違いない。
多くの人が集まるという事は、それだけ人気があるという事だ。
「リーマスも、クィディッチワールドカップ行きたかった?」
申し訳なさそうにはリーマスに聞いてみる。
の問いにリーマスは驚いたように顔を上げ、そして苦笑する。
「私は人の多い所はあまり好きではないんだよ、。私の事は気にせずに楽しんできなさい」
の場合、楽しんで観戦ではなく、本当に事が起こるかの確認の為に行くのだ。
だが、そんな事を正直には言えないのでとりあえず頷いておく。
クィディッチを楽しく観戦しても別に構わないのだから、楽しんでくる事も頭の隅においておけばいい。
「それにしても、よくチケットが取れたね」
「もしかして、チケットとるって難しいの?」
「4年に1度しかないワールドカップだからね。ファンならば何がなんでも観戦したいと思うよ」
そういうものだろうか。
はクィディッチの熱狂的なファンというわけでもなければ、寮対抗のクィディッチの観戦すらもまともにしない程度だ。
(魔法界のオリンピックみたいな感じなのかな?)
魔法界オリンピック、クィディッチ限定版と考えると分かりやすいかもしれない。
「ヴォルデモート卿が全盛期だった頃は、何度か延期になったりしたこともあってね、4年どころか6年ほどワールドカップが出来なかった事もあったんだよ」
思わずがヴォルの方を見てしまうのは仕方ないかもしれない。
ヴォルはリーマスの言葉など気にしていないかのように、のんびりと紅茶を口に運ぶ。
「人気は昔から変わらずで、チケットは1年位前から予約が必要なくらい人気なんだよ」
「1年前?!」
「のその反応じゃ、チケット頼んだのは結構最近だったりするのかい?」
「帰りのホグワーツ特急の中で、もし行きたいならとってくれるって…」
「それでチケットが取れるなら、知り合いか誰かが運営関係者なのかな?」
さらっと”頼む”とドラコに言ってしまったが、ものすごく大変なことを頼んでしまったのではないだろうかと今更ながらに思う。
後でお礼を何かしなければならない。
しかし、相手は純血一族のお坊ちゃまだ。
金銭面で困っている事などないだろうという事もあり、下手な安物などお礼にもならない。
「知り合いが運営関係者ってのはあるかもしれないけど…、マルフォイ家だし」
あのマルフォイ家だ。
ツテは多いに違いない。
ぽそりっと呟いたの言葉に、リーマスの表情がふっと変わる。
「、友人っていうのはマルフォイ家なのかい?」
「へ?あ、うん」
ホグワーツでもそれなりに仲良くしていたとドラコ。
2人が友人であることはリーマスならば分かっているだろうに、何故リーマスは警戒する様な表情をしているのだろうか。
「リーマス?」
黙り込んだリーマスに、は思わず声をかける。
「あ、いや…。何でもないよ、」
複雑な表情での手の中の手紙に視線を向けるリーマス。
マルフォイ家はかつて死喰い人であったというのは有名な話だ。
そして、恐らく今もまだ、ヴォルデモート卿のしもべでもある。
(ドラコはマルフォイ家の人間だし、死喰い人になるかもしれないけど、ドラコはドラコでそれは変わらないのに…って言っても駄目なんだろうね)
マルフォイ家が考え方を変えない限り相容れないのだとは思う。
それはにとって少し寂しい事で、悲しい事だ。