時の旅 10



ホグワーツの地下はものすごく広い。
魔法だけでなく得体のしれない生物もいる。
基本的に魔法生物は言葉で説得、無理ならば強制退去をとっている。
本日のは、午前中は湖の浄化、午後は地下でヘルガとサラザールのお手伝いだ。
最近は殆どがこの行動パターンになってきている。

ちゃん、湖の方順調なんだってね」
「あ、はい。段々と湖っぽくなってきましたから」

ここにきて半月ほどが経ち、沼だった湖は湖らしく変わっていっている。
お陰では自分の力の使い方もだんだんと慣れてきている。
ここにきて得たものは意外と大きいのかもしれない。

「でも、この地下はちゃんがいる間に終わるかな?」
「広いですからね…」

薄暗い地下はひんやりとしている。
かなりの空間の魔法解除をしたはずだが、地下の空間はまだ広がっているようだ。
一体どこまで深いのだろうか。

「ある程度の広さが確保できたら、他のスペースは後回しにしてもいいと思うよ」

地下を見回しながらそう言うサラザール。

「そうだよね。全部の広さが必要ってわけじゃないし。必要な広さが確保できたら、残りは封印しておけばいいかな?」
「簡単に馬鹿が迷い込まないように、安全が確認できていない所は頑丈な封印が必要だろうね」

もサラザール同様地下を見回す。
確かに広い。
先が見えてもそこが扉でその先や下がありそうだったりする。
永遠と深くとまではいかないだろうが、キリのいい所で諦める方が賢明だろう。

(あれ?)

視界の端に何か光ったような気がして視線を戻す
じっと光ったような場所を見てみれば、白くぼわっと何かが光っているように見える。
そこにあるのが白いから光っているように見えるだけなのだろうか。
その白いものは動いているように見える。

(なんだろ?)

好奇心が勝ってしまったのか、は引き寄せられるようにその白いものの所へゆっくりと近づく。
大きさはそう大きくはなさそうだ。
手のひらに収まるサイズだろうか?

ちゃん?」

動き出したを不思議に思ったのか、ヘルガがの名を呼ぶ。

「あ、すみません。こっちで何か白っぽいものが見えたような気がして…」

が白いものがあった方向を指さして視線を再び向けてみれば、そこには何もなかった。
あれ?と首を傾げる。
確かに白いものが何かあったように見えたのだが、気のせいだったのだろうか。

「何か見つけたの?」
「ような気がしたんですが…」

は目標物だった白いものが見えなくなったのでその場で立ち尽くす。

「気のせ……のわっ?!」

気のせいだったという言葉を言い切る前に、の身体をひょいっとサラザールが持ち上げたのだ。
いつの間にのすぐそばに来ていたのか。
サラザールとの間には少し距離があったと思ったのだが、姿現わしでも使ったのだろうか。
だが、その理由が分からない。

「サラザール…さん?」

足が宙に浮いたまま、はサラザールを見るが、サラザールは床を見ながら何か言葉を発しているように見える。
サラザールは筋肉質ではないので、をひょいっと持ち上げられる程腕力があるようには見えない。
自身、自分の体重がそう軽いわけではないと思っているので、サラザールがを持ち上げているのは補助的な魔法か何かを使っているのだろうか。

「サラ君、もしかして…蛇?」
「そうだ」

ヘルガもサラザール同様に床に目を落とす。
その視線を追うように、サラザールに持ち上げられたままのも足元に視線を落としてみる。
丁度が経っていた場所に、しゅるしゅるっとをじっと見つめる真っ白で小さな蛇がいた。

「何なのか分からないもにそうひょいひょいと近づかないで欲しいね」
「す、すみません…」

サラザールに呆れたような視線を向けられてしまう。

「サラ君、その子危険?」
「そうでもないと思うよ。ちょっと好奇心旺盛みたいで、珍しいマグルの気配に巻きつこうとしていただけのようだからね」
「そっか、ここにマグルが迷い込んでくる事は殆どないだろうからね」
「けど、加減を知らなそうだから、巻きつかれてたら大変な事になってたよ」

このホグワーツが出来る場所は魔法界。
魔法界にマグルが迷い込んでくる事は殆どない。
この蛇がずっとここにいたのならば、たまに魔法使いを見る程度でマグルの存在はかなり珍しいものだろう。

「大変なことって…、そんなに巻きつく力って強いんですか?」
「骨が折れるくらいかな?」
「骨が折れても魔法なら簡単に治せるんだけど、ちゃん魔法効かないから折れてたら大変なことになってたね」

にこりっと笑顔でとんでもない事を言うヘルガ。

「サラ君。ちょっと説得して、その子大人しくしててもらう事できるかな?」
「やってみるよ」

を持ち上げたまま、サラザールは蛇と何やら会話を始める。
シューシュー言っているのは分かるが、何を話しているのかはさっぱりだ。
相変わらずパーセルタングは良く分からない。
ハリーもヴォルも、よくあんな言葉が分かるものだとは思ってしまう。
暫くサラザールと蛇は話をしていたが、どうやら話がまとまったようで、蛇はサラザールの足元でしゅるりっと大人しくなる。
サラザールは持ち上げていたをゆっくりと降ろした。
とんっとが床に足をつけた瞬間を見計らって、蛇がぴくりっと反応しの足元に近づく。

「え?え?」
「大丈夫だよ、君に危害は加えないはずだ」
ちゃんにすごく興味持ってるみたいだね」
「ずっと魔法界にいたからマグルは話に聞くだけで会った事がないらしいよ。だから、珍しいんだろうね」

は生粋のマグルだ。
魔法界にいるのは時の代行者だからであり、魔法使いかと言われるとそうではないと答えるだろう分類に入る。
マグルと魔法使いの臭いが違うのか、それとも魔力を感じ取っているのか分からないが蛇はに興味津々のようである。

「マグルが珍しいってことは、ずっとこの地下にいたってことなんでしょうか?」
「物ごころついた頃にはここにいたようだよ。この蛇はまだ幼いからそう長い期間でもないようだけどね」

の足元をしゅるしゅると移動している蛇がシャーとサラザールに何かを言い、サラザールもパーセルタングで答える。
ぴたりっと一瞬動きを止めた蛇だが、すぐに動き出しての右足にしゅるりっと巻きついてくる。

「にょあ?!な、な、なに…」
「力加減はするように言っておいたから大丈夫だよ。まだ幼体だから牙に毒もないし、噛まれても平気だからね」
「ええ?!」

つまりそれは噛まれろという事なのだろうか。
振り払いたくとも、足に巻きつかれているので取るとすれば自分の手でつかんではぎとらなければならない。
どうするべきかと悩む

「牙に毒って事は…もしかしてサラ君、この子ってバジリスク?」
「そうだよ」
「バ…っ?!」

さらりっと肯定したサラザールの言葉には顔を引き攣らせる。
バジリスクと言えばスリザリンの秘密の部屋での嫌な思い出がある。
マグルを異様に嫌っていて、大きさもこんなに小さいものではなく巨体だった。

「サ、サラザールさん、バ、バジリスクって確か目見ると…」
「死ぬね」
「そ、そんなさらっと…」
「けれど、それは幼体だからまだその能力はないよ」

は思わず安堵のため息をつく。
そういう事は早く言って欲しいものだ。

ちゃん、もしかして蛇嫌い?」
「そ、そう言うわけではないのですが、蛇にはいい思い出がないので…」

そもそも蛇好きという人自体が珍しいだろう。
毛嫌いする気はないのだが、秘密の部屋での事件があるのでどうにも恐怖感がぬぐえないのだ。
まだあの事件が終わってから1年と少ししか経っていないのだ。
記憶には新しい。

「と、ところで、この蛇……どうするんですか?」

の足にまきつき、ぐるぐると動いているが脚より上には来ないようなのでとりあえず、振り払う事もせず視界に入れないようにする
の言葉に顔を見合わせるヘルガとサラザール。

「バジリスクって珍しいから、ロゥちゃんに言ったら…」
「研究材料にされるだろうね」
「それはちょっと可哀想だよ」

可哀想どころではない気がする。
賢者と言われたレインブンクローならば、好奇心は旺盛かもしれないがバジリスクを解剖する程なのだろうか。
魔法使いは、ナメクジ刻んだり、何かの内臓などを魔法薬学で使うので感覚がマグルとは全然違うのかもしれないが。

「かといってロゥだけに言わないわけにもいかないだろう?」
「うん、でも、ゴド君にも言わない方がいい気がする」
「…確かに、蛇の扱いを心得てるようには見えないね」

ゴドリックはとにかく大雑把だ。
ここ半月ほどゴドリックの事を見ているですら、サラザールの意見を肯定できる。

「隠し部屋でも作ろうか」
「その子専用の?」
「地下にね」

幸い地下は広い。
それこそ、地下にある全ての空間を把握する事を諦めてしまいかねない程に。
どれだけ大きく成長するか分からないが、蛇1匹暮らすくらいの空間は作れるだろう。

「ゴド君とロゥちゃんには秘密の部屋だね」
「パーセルタングあたりをキーにしておけば、2人には入れないだろうしね」

そこでは思わずぎくりっと嫌な予感がした。
秘密の部屋、鍵はパーセルタング、住むのはバジリスク。
しゅるしゅるとの足に巻きついてる白い蛇はまだ小さい。
しかし、ここは1000年前の時代だ。

(あれ?もしかして、この蛇って…)

恐る恐る自分の足に巻きついている蛇を見る
そして、ヘルガとサラザールへと視線を移す。
秘密の部屋案はどうやら決定事項のように、2人の間で話が進んでいる。
もう一度は蛇へと視線を移す。
に視線を向けられた事に気づいたのか、蛇はひょこっと目をへと向けてくる。
ちょろちょろっと赤い舌を揺らしている。
ひくりっと反射的に顔をひきつらせてしまう

(ここで秘密の部屋について反対しても、歴史が変わる保障ないし、変わったら変わったで困る事もあるだろうし…)

何より秘密の部屋が存在しない場合、どうなるか分からない。
口出しするようなことではないのだと思う事にする。
ここで反対しなかった事での被害に関しては、すでに過去の事になっているのだから。

(にしても、マグルに対して好奇心旺盛なこの蛇が、どんな理由があってあんなんになっちゃったんだろ…)

異様なほどにマグルを嫌っていた。
サラザールがマグルを嫌っているからなのだろうが、サラザールはあのバジリスク程マグル嫌いにには見えないのだ。
この先に、今のでは思いつかないような事があったのかもしれない。