時の旅 07
のんびりと食事をする6人。
険悪な雰囲気は全くない。
ニコニコしながら周囲に話しかけるヘルガ、時々微笑を浮かべるロウェナ、がつがつと食べながらも笑いを浮かべるゴドリック、淡々と食事をしながらも話を向けられれば律儀に答えるサラザール。
「ヴォルさんが手伝うなんて珍しいね」
とヴォルも同じように食事をしているのだが、がヴォルがこの場にいるのが不思議でならない。
皆仲良く食事という中には入っていかなそうな気がしたのだが、普通にヴォルはこの場にいる。
それに、彼らのホグワーツ正常化…魔法の解除等を手伝っているようなのだ。
「ホグワーツにかけられている魔法の殆どは、今では闇の魔法に分類されるものばかりだからな。現代にはない、書物では知られることがない魔法を目にするのはいい経験だ」
「ヴォルさんにも知らない魔法とかあるの?」
「この時代はまだ闇の魔法に関して今ほど規制がなかったからな。あのホグワーツにかけられている魔法なんかは、今では知ることすら難しい魔法が多い」
魔法への探求心というのがリドルの頃もそうだっただろうが、今のヴォルにもあるだろう。
知らない魔法を知り、それを自分のものとする事は楽しいのかもしれない。
だから手伝っているのだろうか。
「の割には、苦戦してる様子なんか見えなかったぞ?」
口を挟んできたのはゴドリック。
「彼はゴドと違って応用力があるという事なんだろうね」
「何でも単純一直線のゴドとは違うのよ」
「うん、ヴォル君は賢いからだよ」
次々にゴドリックにぐさっぐさっと突き刺さるような言葉を言う、彼の仲間達。
遠慮の欠片もない。
「お前ら酷いぞっ!」
「本当の事よ」
「事実を言って何が悪いんだい?」
ゴドリックはがくりっと肩を落としてテーブルの上に突っ伏す。
相変わらずロウェナとサラザールはゴドリックに対する言動が容赦ない。
食事を続けながら、ゴドリックに同情の視線を注ぐしかできない。
「そう言えば、」
「はい」
「後で同居人への手紙書いてちょうだいね」
ふと、何か思い出したかのように唐突にロウェナがの方を見る。
「同居人?」
「ルーピンへ連絡しておくべきだろう?下手な騒ぎになっても困るのはだ」
「あ、うん。でも、手紙って言っても届けるのは難しいって…」
「ヴォルに正確な場所を聞いたからなんとかなりそうよ」
「ヴォルさんに、ですか?」
がヴォルを見れば、ヴォルは呆れたような視線を返してくる。
考えなしに彼らの依頼を引き受けたの事を、まだ半分は呆れているのだろう。
リーマスへの連絡は本当にどうしようか困っていたのだ。
「ヴォルはイギリス生まれのイギリス育ちみたいだから、正確な場所が分かったのよ」
「そうなんですか」
「怖いくらい色々知っているわね、彼」
「ヴォルさんですから」
苦笑しながらはその一言で済ませてしまう。
少しロウェナが警戒を含んだ視線をヴォルに向けているのは気づかなかった。
ヴォルが多くを知っているのは”ヴォルデモート”であったからというので、にとっては十分な理由だが、ロウェナはヴォルデモート卿を知らない。
だから、色々な事を知っているだろうヴォルを少しだが警戒してしまうのだろう。
「そこらの魔法使いより知識はあるつもりだが、賢者と言われたロウェナ=レイブンクローには敵わないさ」
「あら、ありがとう」
にこりっと礼を述べるロウェナは、警戒を含ませた表情をすぐに笑みの中に消してしまう。
「ヴォルさんロウェナさんと一緒にいたの?」
「ああ」
ヴォルにリーマスの住む屋敷の位置を聞いたという事は、午前中ヴォルとロウェナは一緒にいたという事なのだろう。
1人で行動する事が多いヴォルが、誰かと一緒に行動するのは珍しい。
だが、ホグワーツでもドラコが一緒に行動していたりする事もあるのでそう珍しくもないのだろうか。
「大丈夫よ、。彼を盗ったりなんかしないわよ?」
「そ、そういう意味で言ったんじゃ…!」
思わず顔をほんのりと赤くしてしまう。
「冗談よ。可愛い反応してくれるのね、は」
「かっ…?!」
「手紙は、明日までに用意できるかしら?」
「え、あ…はい。紙とペンを貸して頂けるのなら」
「そのくらい用意するわ」
唐突に手紙の話題になり、は内心思わずほっとする。
手紙と言えば、羽ペンで書くのはまだ苦手だな…とちょっと思ったりする。
しかも英語なのですらすら書けるかと聞かれれば、唸ってしまうくらいにまだ慣れていない。
「同居人っての恋人?」
「ち、違いますっ!」
「そうなの、つまらないわね」
「つまらないって…リーマスは保護者ですよ」
ダンブルドアがを心配して保護者という立場になってもらった人だ。
「それで、ヴォルが恋人なのね」
「こっ?!」
「違うのかしら?」
「ヴォルさんは、…ほ、保護者みたいなもので…」
彼らに紹介した時にヴォルが”保護者みたいなものだ”と言ったので、そう言ってみるが、ロウェナはにまりっとした笑みを浮かべる。
話題が変わったかと思ってほっとしていたが、をいじる気満々のようだ。
「同居人が保護者なんでしょう?」
「そ、そうですけど…」
「普通、保護者は2人もいらないわよ。それが実の両親ではなければね」
「えっと…」
「を心配してここまで来てくれるなんて、愛されている証拠だと思うわよ」
「あ、あい?!」
顔を真っ赤にしながら、はまともな答えが返せない。
完全に頭の中が困惑している今のに、まともな答えを返せと言う方が無理だろう。
未だかつて、ロウェナのようにヴォルとのそう言う意味での関係をストレートに突っ込んで聞いてくる人はいなかったのだ。
ハリーやロン、ハーマイオニーと言った学生達はよりも年下だから誤魔化す事も可能だ。
だが、ロウェナはよりも年上で経験豊富な魔法使い。
が言葉で勝とうなどというのは無理だ。
「ふふ、って本当に可愛い反応してくれるわね」
心底楽しいとばかりの笑みを浮かべているロウェナ。
「ロゥちゃん、あんまりちゃんで遊んじゃ駄目だよ」
「分かってるわよ。半分は冗談よ」
ヘルガのたしなめるような言葉に笑って返すロウェナ。
(それって、半分は本気で聞いてきたって事ですか?)
思わず気になっただが、その問いは内心で思うだけにしておく。
口にしてどんな言葉が返ってくるか分からないからだ。
「ま、どっちにしても手紙は明日までに頼むわね。連絡を取るにも早い方がいいでしょう?」
「は、はい」
すでにこちらにきて1日経っている。
数日は大丈夫だろうが、連絡が早いに越したことはないだろう。
去年ホグワーツで1ヵ月間行方不明になっていた件もあるのだから、あまり心配をかけるものじゃない。
「後問題は、”通路”がどれだけ安定しているかよね。ゴド、”通路”は固定したんでしょうけど、どこまで保障できる?」
「あ〜、そうだなぁ。鳥とか小動物がまっすぐ中を通っていくのは問題なし。ただ、”通路”の途中で暴れられると歪みが起きるだろうから、突っ切るだけしかできないけどな」
「それなら手紙の一つや二つは大丈夫ね」
「なんだ、もしかして、もう魔法できたのか?」
「ええ、既存の魔法を応用しただけだからそう難しい事じゃないわ」
さらりっと言うロウェナだが、基となる魔法が存在しているとしてもそれを応用させて変化させ、新しい魔法を作る事はそう簡単ではない。
「ゴド君、その”道”の場所に目印とかってある?」
「目印?別に魔法使いなら魔力の歪みとかで分かるだろうから、目印らしいモンは置いてねぇけど?」
「目印はないけど、人避けの魔法はかけておいたよ。間違って誰かが道に入ってしまってはまずいだろうからね」
「流石サラ君。やっぱり、間違って動物さんとか1000年後に行っちゃったら大変だもんね」
少なくともがこちらにいる1ヵ月間はその道は固定されたままだ。
魔法使いは魔力の歪みで分かるとしても、それが分からない動物達が迷い込んでしまっては大変だ。
通路の先はホグワーツではなく、が半金稼ぎの為に利用していた薬草を摘む場所で、完全に安全とは言い難い所である。
「何かが間違って1000年後に飛ぶのも問題だけれども、1ヵ月も時空をつなげる道を固定しておいて、その場所は何の影響も残らないのかしら、ゴド?」
「いや、残るだろうな」
ロウェナの疑問をあっさり認めるゴドリック。
「サラ、悪いけどその人避けの魔法、半永久的に出来るかしら?」
「ああ、やっておくよ」
ホグワーツ城の少し離れた場所に固定されている”通路”。
その通路を閉じた後でも、その場所には影響が残る。
通路は時間を繋ぐ通路だから、おそらく時に関係した影響が残るだろう。
(あ、れ…?)
はそこで、現代にもホグワーツの外れに存在する、時の魔法が掛かった場所を思い出した。
時の歪みのある小屋、小屋は50年前のリドルの時代には新しく、この1000年前の後に建てられたものだと考えれば、その場所がそれである可能性が高くなるのではないだろうか。
「ねぇ、ねぇ、ヴォルさん、もしかして…」
は小声でヴォルに話しかける。
ヴォルは苦笑しながら頷く。
の聞きたい事が何なのか分かったのだろう。
「”カナリアの小屋”だろうな」
時の魔法は貴重だ。
しかし、1000年もの間名門とも言われるホグワーツが、時の魔法の掛けられた場所を放置しておくような事はないだろう。
しかし、カナリアの小屋は存在する。
カナリアの小屋が存在する事をホグワーツが認識しているのではなく、カナリアの小屋の場所にそう簡単に手が出せない理由があるとすれば。
それが、創設者が関わったもので、創設者によって護られている場所だとすれば、その場所に手を出すことはなかなか難しいだろう。
「それじゃ、私がカナリアの小屋で過去に行っちゃったのって、自業自得?」
「とも言えるな」
がこの時代に1ヵ月間とどまったから、歪みが出来た。
そしてその歪みでリドルの時代に跳んだ。
「でも……」
「?」
にこりっとはヴォルに笑みを浮かべる。
今ここにがいる事があの時リドルに会えることに繋がるのならば、この1ヵ月間、頑張って出来る事をやってみようと思えるのだ。
あれはルシウスの企みで、過去に跳ぶ前に嫌な声や映像を見たりした事もあったけれど、リドルとセウィルに会えた事は良かったことだと思うから。