時の旅 04




結局指輪をはずしてもとの姿を見せる羽目になった。
だが、魔法界ではこの姿の方が慣れているのですぐに少年の姿へと変えた。
元の姿をじろじろ見られていた視線に耐えられなくなったからだ。

「服は私のでいい?ロゥちゃんの洋服じゃ少し大きいもんね」
「ヘルの服?男の子の格好じゃ、ちょっと可愛すぎるんじゃないの?」
「でも必要なのは寝巻きだけだから。ちゃん、寝るときはちゃんと元の姿になってね。やっぱり女の子の服は女の子が着た方がいいから」
「え、でも…」
ちゃん」
「あの…」
「お願いね」
「う、はい」

何故か逆らえなかった。
ハッフルパフで仲が良い子は居ないといってもいいだろう。
の友人は殆どグリフィンドールだ。
勿論スリザリンの友人もいるにはいる。
ハッフルパフで唯一仲良く話したことがあるとすれば、と思いながらハッフルパフの1人の生徒の顔がぽんっと思い浮かぶ。

(ディゴリー先輩がハッフルパフなの分かる気がする)

ハッフルパフのシーカーである先輩に当たる人物を思い出し、妙な納得をする。
優しそうに見えて曲者っぽいところが似ている。

「ところでちゃん、ここにいること了承したみたいだけれども、両親は心配してないの?連絡しなくて大丈夫?」
「そうですね。両親というか同居人に数日は留守をすると言ってはありますが、ひと月いないとなると心配かけてしまうので連絡は必要なんですが…」
「けどなぁ、時の代行者が元の時代に戻ったら道が勝手に閉じちまう可能性が捨てきれねぇからな。フクロウ便とか使えねぇか?」
「いくら優秀なフクロウでもゲートを越えた先までの配達は無理だよ」

ゴドリックの提案はサラザールが呆れた口調で却下する。
が一度戻って連絡を、というわけにはいかないようである。
協力すると言った以上、同居人に連絡したらそちらに戻れなくなりました、ではまずいだろう。

「ま、案外大丈夫じゃないか?優秀な知り合いとかが、”道”見つけてこっちに探しにくるかも知れねぇし」
「そのお気楽発想はどこからくるのよ、ゴド」
「勿論、勘」

大きくため息をついたのはロウェナとサラザール。
ゴドリックは何の根拠があるのか自信満々そうだ。

(けど、ゴドリックさんの言う事は間違っていない事もないかもしれない)

優秀な知り合いはいる。
かつて魔法界ではその名を恐れられた人物と同一人物であった知り合いが。

「そのあたりはあたしがどうにかしてみるわ。、貴女の住んでいる場所は分かる?」
「この時代でそこがどこになるか、ということですか?」
「そうよ。”道”からの距離が分かればその距離数分の移動を指定すればいいだけだもの」

さらっと言うロウェナだが、そう簡単なことではないだろうとは思う。
それを簡単な事のように言うのは、やはりホグワーツ創設者の中でも賢者と言われる存在なだけあるという事か。

「このホグワーツ城からのだいたいの距離しか分からないですけどいいですか?」
「構わないわ。適当にあたりつけて数十か所にメッセージをばらまくから」
「さっすが、ロウェナらしくがさつだよな!」

笑顔でそう言ったゴドリックが、ごすんっと大きな音とともに床にのめり込む。
いつの間にか杖を取り出していたロウェナ。
確か呪文も何も言っていなかったはずだが…と思いながらも、そう言えばダンブルドアも呪文なしで魔法が使えなくもなかったと思いだす。

「いってぇ!何すんだ!」
「当然の報いよ」

ゴドリックを床にめり込ませるロウェナもロウェナだが、床にめり込んだ頭が傷一つないゴドリックもゴドリックだ。

「地図はありますか?」
「もってくるね」

にこりっと笑顔で席を立ったのはヘルガだった。
しかし、とは思う。
一応ロウェナにはだいたいの距離は分かると言ったものの、はっきりいってイギリスの地理にあまり詳しいとは言えないである。
地名が変わっていたら、本当にだいたいもだいたい、かなり大雑把にしか分からない。

「君は東洋人だろう?距離は分かると言ったが、イギリスの地理を覚えているのかい?」

思っていた矢先にサラザールにざっくりと突っ込まれる。

「地名が同じならば、たぶん分かると思います…けど」
「…そういう所は、ゴドの寮の生徒らしいと思える所だな」

大きなため息をつきながら呆れたように額に手を当てているサラザール。
その呆れた口調がどことなくヴォルに似ている気がする。

(ここで創設者に協力するなんてヴォルさんが知ったら、同じように呆れられそう)

ヴォルはが厄介事に首を突っ込むのにいい顔をしない。
それでもの意見を尊重し、手助けをしてくれたりするのでとても嬉しいし有難い。

東洋人なのか?どこの国出身だ?」
「え、あ…、えっと、日本です」

目をキラキラ輝かせながらゴドリックが聞いてきたので、素直に答える。

「日本か!ということは、サムライとかいるんだろ?チョンマゲでカタナ振り回してるヤツ!」
「あの、チョンマゲは流石に今の時代……」

の頭にぱっと思い浮かんだのは現代日本の風景だったので思わず否定しそうになる。
だが、ここはのいた時代からおよそ1000年前だ。
1000年前の日本がどうだったかと思いだせば、ゴドリックの言葉は否定できない。

「そう、ですね。今の日本は確かにチョンマゲ…かどうかは分かりませんが、カタナを持ってる武士はいると思います」

生憎とは1000年前と言われてぱっと1000年前の日本が何時代であったか思い浮かぶほど日本史に詳しくはなかった。

「日本人でマグルなのに、時の代行者なんてやっかいな役目押し付けられて、他国のイギリスにまで来させられて平然としているなんて、貴女本当にお人好しよね」
「冷血漢なロゥからすればどんな人間でもお人好しだろうけどな!」

にこやかに一言多かったゴドリックは、ごめすっと今度は壁にめり込んだ。

「あ、あの…」
「いつものことだ、君が気にする必要はないよ」

流石にゴドリックがかわいそうだろうと思っただったが、サラザールに気にするなと言われてしまう。
ゴドリックが一言多いのが悪いのだろうが、これは彼らなりのコミュニケーションなのだろうと思う事にする。
かなり過激なコミュニケーションだろうが。

「良く両親が貴女をイギリスに行かせてくれたわね。もしかして、両親の説得は”力”を使ったのかしら?」
「それは俺も思ったな。別に家族関係悪くないんだろ?」
「あら、ゴド。いつの間に復活したの?」
「いい加減慣れてきたから、最近は反射的に防御魔法展開してるんだよ」

じとっとロウェナを睨むゴドリックだが、ロウェナは全く気にしていない。

(えっと…、どう説明したものかな)

は問われた言葉にどう答えていいものか悩んでいた。
別の世界から来た事を話すほど親しくなったわけでもないし、ヴォルにだって言っていない事を彼らに言うつもりもない。

「あの、私、ホグワーツの3年…今度は4年になるんですけど、別に14歳ってわけじゃないですよ?」

恐らく誤解しているだろう年齢について言ってみる。
の言葉にきょとんっとしたのは3人共だった。

「14歳じゃない?あたしは、年齢詐欺できるような学校にするつもりはないのだけれども、年齢詐欺通用するのかしら」
「彼女は時の代行者だから、魔力がない彼女が入学できた例外同様、年齢が違うのも例外中の例外だったのだろうね」
「けどよ、14歳じゃないしても、16歳か多くみても17歳くらいだろ?どっちにしても1人立ちするのは少し早くないか?」

頑張っても17歳くらいにしか見えないというのにちょっと落ち込むが、東洋人は童顔らしいので17歳に見えれば良い方なのかもしれない。

「3人で何話しているの?」

きょとんっとしながらヘルガが地図を持って戻ってきた。
ばさっと大きな地図をテーブルの上に広げる。

「彼女の両親が心配しているんじゃないかって話をしていたんだよ、ヘル」

小さな笑みを浮かべてヘルガに説明するのはサラザール。

ちゃんが慌ててないってことは大丈夫じゃないのかな?それに、ちゃんも成人してるみたいだし、何かあっても自分で自分の事はできるよね?」
「成人?ヘルガは彼女が成人していると思っているのかい?」
「え?違うの?すごく落ち着いてたから、もう17歳は過ぎていると思っていたんだけど」

どうもこの時代の成人年齢は17歳のようである。
17歳を過ぎているかと問われれば、今年で20歳だろうはそうだと言えるだろう。
はヘルガに頷いて肯定を示す。

「あら、本当に成人していたの?貴女、本当は何歳?」
「…20歳です」
「それだとサラ君と一番年が近いね」

にこりっと笑顔を返してくれたのはヘルガだけだった。
他3名は、まじまじとを見る。

「嘘っ!全然見えないわっ!」
「いいところ17歳だろ?!」
「マグルの神秘だな」
「いや、あの…。東洋人は幼く見られがちって聞いた事があるのでそのせいだと思いますよ」

決してマグルだからとか、時の代行者だからという理由ではない。
日本では決して童顔というわけではなかったとしては、この世界に来てから当り前に童顔認定されているのが少し複雑だ。

「それよりちゃん、家の場所分かる?もうちょっと詳しい地図の方がいいかな?」
「えっと…」

地図にある地名にざっと目を通す。

「ホグワーツが一応ここだよ」
「それなら、そこから南西にこのくらい離れていて、…このあたりでしょうか」

は何かあった時のため、ホグワーツ城のある場所をおおまかには把握していた。
だからこそ、リーマスと住んでいる家の場所も分かるのだが、これで合っていると言い切れるほど詳しいわけではない。

「かなり大雑把な場所指定ね」

ひょいっと地図を覗き込むロウェナ。

「無理かな?ロゥちゃん」
「魔法を作ってはみるけれど、成功するかはやってみないと分からないわよ」

じっと地図を睨みつけるように見えて、考えこむロウェナ。
彼女の頭の中ではどうやってその場所にメッセージを届けるかの方法が何通りかすでに浮かんでいるのだろう。

「作るって、新しい魔法をということですか?」
「ロゥちゃん魔法作るの得意だから」
「すごい、ですね」

すごいで済ませられるようなものではないのかもしれない。
という事は、がいるあの時代、ホグワーツで教えられている魔法のいくつかはロウェナが考えたものなのだろうか。
確かに一番最初は魔法の辞典などあるはずもないので、誰かが魔法を作ったからあの時代に多くの魔法が存在するのだろう。

「メッセージを届ける魔法はロゥちゃんに任せて、サラ君、ちゃんを部屋に案内してくれるかな?私は、ゴド君と一緒にちゃんの部屋に必要な家具類をもらってくるから」
「分かった」
「紳士的に、だよ?サラ君」
「分かっている」
「うん」

まるで弟に言い聞かせるような言い方に思えた。
そう言えば、の年齢とサラザールの年齢が一番近いと言っていたが、彼がこの中で一番年下という事なのだろうか。
創設者の年齢など気にもしなかったので知らないが、見る限りヘルガが一番上そうに感じた。
3人のお姉さん的存在、ヘルガの存在はそう思えた。