時の旅 02
呆然と見合うと2人の青年。
はっと先に我にかえったのはだった。
思いっきり警戒してしまったが、彼らが何者か分かったところで警戒心は霧散した。
ゴドリックは言っていた。
「時の代行者」を招くために広範囲の時間や空間を対象にしたと。
ならば時越えをしてもおかしくはない状況である。
「あの!すみません…!」
無理やり口を割らせてしまった事にまず謝罪。
の言葉ではっとなるゴドリックとサラザール。
「君は…」
「もしかして、お前!」
彼らが時の代行者についてどれだけ知っているかどうか分からない。
でも、なにか気づいたようだ。
魔法でない力によって言葉を紡がされた事を。
「お前、時の代行者か?!」
キラキラっと目を輝かせてゴドリックがに詰め寄る。
その勢いに思わず後ずさってしまう。
「えっと、はい。そうなります」
小さく頷く。
ホグワーツの創設者たる彼らにならば明かしても構わないだろうと思った。
サラザールはまだ驚いた表情をしている。
は彼がサラザールだと分かって気がつく。
深紅の瞳にどこか覚えがあったのも分かる。
それは彼の血を引く”彼”と同じだから…。
(ヴォルさんと同じ瞳だよね)
血は肉体に連なるものなのかもしれない。
ヴォルの今の肉体にはサラザールの血など一滴たりとも流れていない。
でも、確かにヴォルとサラザールの瞳は似ている。
どこか闇を抱えたように見えるその瞳はとてもよく似ている。
「サラ!成功だ!あの伝説の時の代行者の召還に成功したんだぜ、俺!!」
「ゴド、成功した君は確かにすごいと思うけどね、”時の代行者”についてのことを忘れているわけじゃないだろう?今の時代は平和で代行者は存在しない、ならば彼は平和でない時から来た代行者になる」
「分かってるさ。世界が必要としたから代行者は生まれた、その代行者が不在になれば世界が代行者をあるべき場所へ戻そうと力を働かせる、だろ?」
「分かっているなら…!」
ゴドリックはにかっと笑みを浮かべる。
そしてびしっと僅かに歪む空間を指す。
「俺がそれを考えてないと思っていたのか?!甘い!あっちの世界が時の代行者の存在を認識していればいいんだろ?だから通路を完全につなげてある!」
「き、君は…、何を考えているんだ!時空間を繋げる阿呆がどこにいる?!」
「ここにいる!!」
きっぱりと胸を張るゴドリック。
これを開き直りというのだろう。
サラザールは大きなため息をつく。
「だが、もって1ヶ月ってトコだな。それ以上はマズイだろうしな…。ってことで、頼みがあるんだがいいか?時の代行者さん?」
はゴドリックの様子に苦笑する。
「世界征服とか、魔法界を闇の世界に…とかって無茶な頼みでなければいいですよ。ゴドリック=グリフィンドールさん」
「ゴドリックで構わないぜ?名前は?」
「です、=」
「よろしくな、」
ホグワーツの創設者の一人であるゴドリック=グリフィンドール。
の所属する寮の名にもなっている魔法使いである。
は彼ににこりっと笑みを向けた。
(ゴドリックさんの性格は、もしかしてシリウスさんが一番似てるのかな?)
「それにしても、代行者の力の事を知っているんですね」
が力を使った事で気がついたゴドリックとサラザール。
時の代行者がどういう者なのか、彼らはきっと知っているのだろう。
「今はな。調べるのに随分苦労したぜ?何しろ文献には一切載ってないからな〜。調べる方法は過去を覗き、垣間見る事だけ。時関係の魔法は魔力の消費が激しいからかなりキツかったぜ」
「才能を無駄に使ったといういい実例だよ」
「サ〜ラ〜、お〜ま〜え〜。俺がどれだけ苦労したか知っているのにそんなこと言うのか?」
「時の代行者を頼ろうとして調べる程の根性があるならば、自分でどうにかすればいいだろう?」
「んなこと言っても、お前も進んで協力してくれたじゃねぇかよ」
「興味を惹かれたからね」
しれっと答えるサラザール。
過去を垣間見て調べたと言う事は、シアン以前にも時の代行者がいたということなのだろうか?
魔法界が存在してからもう何百年、何千年も経っているだろうから、時の代行者の存在がシアンとだけというのはありえないかもしれない。
「、と言ったよね?嫌ならゴドに従う必要はないよ。見ず知らずの他人に手を貸す必要なんてどこにもないんだからね」
「サラ、お前なぁ」
は思わず苦笑してしまう。
「いえ、構いませんよ、できる事があるならば力を貸します。ただ、僕が役に立てるかどうか分かりませんが」
「役に立つに決まってるだろ!の力が借りたいから呼び出したんだしな!!」
「僕の、というと”時の力”ですか?使う事は出来ても、あまり詳しい事は僕でも分かりませんよ?」
「いや、使えれば十分だぜ」
一体何をやらせるつもりなのか。
ゴドリックはにこっと笑みを浮かべるだけ。
隣でサラザールが大きなため息をついていたのだった。
*
ゴドリックとサラザールに連れられてきたのは見覚えのある大きな城。
そう、ホグワーツ城だ。
変わらぬホグワーツ城、…それはいい。
問題はその周りの風景だ。
の知るホグワーツ城の前には大きな湖があり、禁じられた森が覆う。
見渡しのいい丘もあり、自然あふれたとても気持ちの良いところだ。
「えっと…、これ、なんですか?」
の目の前に入った光景はとてもではないが見慣れたホグワーツの光景とは違っていた。
ホグワーツ城の前に広がる大きな湖は湖でなく、沼である。
よどんだ空気が漂う大きな沼。
そして禁じられた森の位置にあたる場所には同じく大きな森。
但し、昼間にも関わらずどんよりと暗い雰囲気の森。
禁じられた森と言うよりも、呪いの森と言ったほうがいいかもしれない。
そして極めつけは、ホグワーツ城の周辺の丘や草原…のはず場所は草ボウボウ。
の膝まで伸びている雑草だらけである。
「最初はもっと綺麗な場所だったんだけどな〜」
ぽりぽりっと頬をかきながらゴドリックが呟く。
「沼の臭いは魔法で遮断しているから大丈夫だろうけれども、このままではまずいだろう」
「森も城の回りもどうにかしねぇとならねぇし」
「だからといって無闇に魔法を使うわけにはいかない」
「なんだよな〜」
同時にため息をつくサラザールとゴドリック。
はぐるりっと周囲を見まわす。
荒れ放題のこの場所、だが確かにここはホグワーツだ。
「ホグワーツ魔法魔術学校は、まだ創設されてないんですね」
とてもではないが魔法を学べる環境ではないだろう。
の言葉に驚きを見せるゴドリックとサラザール。
「もしかして、、お前…」
「君はいつの時代の人なんだい?」
そう言えば説明と言う説明がまだ全然されていなかった、と思う。
ゴドリックが過去を垣間見て”時の代行者”の事を知ったと言う事は過去の人間でない事は分かっているだろう。
この時代はがいた時代からは随分前の時代だ。
「僕が存在している時はこの時から1000年以上も後になりますよ。ホグワーツ魔法魔術学校グリフィンドール寮所属です」
大きく目を開いて驚いたのはゴドリック。
「俺の寮か?!」
「はい」
嬉しそうな笑みを浮かべるゴドリック。
やはり自分の寮に所属していれば嬉しいものなのだろう。
「けれど、君は魔法使いではないんだろう?ホグワーツは魔法魔術学校だよ」
「分かってます、僕は魔法を学ぶためにホグワーツに通っているのではなくて、必要があるからホグワーツに通っているだけなんです。授業は適当にごまかしてますよ」
サラザールの問いには笑みを浮かべて答える。
ホグワーツにいるのは魔法使いになるためでない。
魔法を学ぶ学校とした立ち上げた場所に魔法を学ぶ以外の目的で入学する者がいるとは今の彼らは考えもしないだろう。
「そんな事はいいだろ!時間も限られるわけだし、やることやろうぜ!」
ゴドリックの言葉にサラザールとは苦笑した。
「未来でのホグワーツはきちんと機能していると分かっただけでもいいだろ。今のこの状況ををなんとかしねぇとな!」
廃墟とも言っていいほどの現在のホグワーツの状況。
沼は湖に変わり、淀んだ森は危険な魔法生物が住む事にはなるだろうが、もっと綺麗な森に、雑草が生えている場所は芝生に…。
(本当にこれがどうにかなるんだろうか?)
*
ゴドリックとサラザールが普段寝起きしているのはホグワーツ城がある場所ではないらしい。
そこから少し離れた小さな村だ。
村と言っても住んでいるのは4人だけだといっていた。
つまり、創立者4人が住んでいるだけなのだろう。
広い屋敷がひとつ立っているのみ。
(あれ?ここって…)
は屋敷に入ってどこか見覚えのある光景に驚く。
知っているのはこれよりももっと古い光景。
(…私が初めてこの世界に来た場所だ)
ホグズミードの近くにあった屋敷。
世界に呼ばれ、そして目の前にいたのはクィレルに乗り移ったヴォルデモート。
随分前のことのように思える。
(1000年以上も前から存在していたんだ)
居間と思われる場所に案内され、一息つく。
サラザールが杖を一振りすると、紅茶3つとお菓子が出てくる。
「さて、詳しい話でもするか」
紅茶を一口運び、一息ついてからゴドリックが口を開いた。
あの場所で突っ立っていても仕方ないだろうということで場所を移動したのだ。
どうやら話も長くなるようだった。
「がホグワーツに通っているって事は俺達がこれからしようとしていることは大体想像つくだろう」
「学校を創るんですよね?」
魔法使いを育成する魔法魔術学校の創設。
「ああ。ただ、なぁ〜」
ゴドリックが視線を彷徨わせる。
するとサラザールがふぅ、と深くため息をついた。
「校舎に相応しい城を見つけ購入し、ある程度の運営方針も決めたんだが、問題はその城の設備だ。あちこちにおかしな呪いがかけられている上に構造がかなり複雑、その上森や沼はあの有様だ。とてもではないが人を招ける状況ではない」
「購入時はあそこまでは酷くなかったんだけどな〜」
「大半が君とロゥの仕業だろう?」
「うう…」
申し訳ないとでもいうようにゴドリックが頭を下げる。
確かにあの有様では人が住める、いや訪れることすらも疑問だろう。
好んで近づく人などいないはずだ。
「ロゥって誰のことですか?」
想像はつく。
「ああ、俺とサラ以外にも他に2人いてな、2人とも女性なんだが、今は食料の買出しに行ってもらっている。しばらくここに篭って城を何とかする予定だったからね」
「未来から来ている君なら検討がついているんじゃないかい?」
はその言葉に苦笑する。
”ロゥ”そして”ヘル”。
その愛称に合う人物がホグワーツの創設者にはいる。
「ロウェナ=レイブンクローさんとヘルガ=ハッフルパフさんですね」
「正解だ」
にっと笑みを見せるゴドリック。
そして、ぱんっと自分の膝を軽くたたく。
「俺とサラ、そしてロゥとヘル。俺たち4人で魔法学校を作る。それはずっと前から決めてたことだ」
「その為に私たちは色々な魔法を学びそして書物として残しても来たんだよ」
ホグワーツの創設者達。
彼らの始まりは大きな夢から。
魔法学校を作りたいという夢。
「にやって欲しい事は、”時の力”での沼の清浄化と城に掛かった可笑しな”時の魔法”の解除だ」
やってもらえるか?と、ゴドリックは視線でそう問う。
断る理由などにはない。
時間は限られるだろうが彼らに協力したいと思う。
だからは笑顔で頷いた。