時の旅 01





ふらふらさまよい続ける事、一体どれくらいの時間が経ったのだろう。
灰色の空間をふよふよと浮いている
恐らく時間にすれば5分とも経っていないのだろうが、なにしろこの空間は上も下もわからない上にさらに全てが灰色である。
音もない、光もない、全てが灰色。

「ここどこ…?」

何度言ったかわからない呟きをまた口にする。
ふわふわっと舞うのは短い黒髪。
動きやすい、しかし闇にまぎれられるように黒の服。
魔法界ではすでにこの少年の姿も当たり前のように馴染んでしまってきた今日この頃。

ホグワーツで出された課題が終わってしまえば、イースター休暇中にが主にする事は生活費稼ぎである。
今日も今日とて、魔法界の物騒な場所に薬草を取りに来たのだった。
ただ今日来た場所は、噂だけ聞いていたので様子を見に来た始めてくる場所であったりする。
ヴォルは何か用事があるのか、最近よく単独で行動する事が多い。

「一応日帰り予定だったから、早めに帰らないとヴォルさんが何か言ってくるだろうな」

単独行動していても、が帰らないとそれが分かるようになっているのか、次に会った時に何があったのかと問い詰められるのだ。
はふぅ、と大きなため息をひとつ。
このままいつまで彷徨っていればいいものか。

「とりあえず、このままじゃ駄目だよね」

いつ終わるかわからない、ここはどこなのか分からないというのにが落ち着いていられたのはどうにかできる方法が一応あるからだ。
自分の力を使えばいい。
この世界に来た当初に比べれば使い勝手が広がった「時の力」。
悩まずに頑張ってみようと決めたからなのか、最近では結構色々な事が出来るようになっている。

「とりあえず戻る場所は、ここに連れ込まれたあの草原かな?」

戻る場所を強くイメージして言葉にすればいい。
軽く息をつき、集中しようとしたその時だ。

―見つけた!

「え…?」

頭に響くような喜びの声。
驚くと同時に、の体は何かに引っ張られた。
どこかに出るのだろうと思っていても、その方向は決してが望む方向でない事だけはわかっている。

(ええ?!!ちょっと待って!!)

引っ張る力の強さに驚くばかりではそのまま引きずられたのだった。
灰色の空間が歪む。



ふっと視界が切り替わり、どさっと自分の体が放り出されるのが分かった。
思わず一瞬目を瞑ってしまうが、現状確認のために警戒心を出して周囲をうかがう。
ざぁ…とさわやかな風が吹く。
風によって聞こえる草の音。

「あ…れ…?」

元々自分がいた草原とは違えどここも草原のようだ。
誰かに強制的に引っ張られたような感覚だったが、首をかしげながらさらに辺りを見回す
ふいっと顔を上げて、ばちっと誰かと目が合う。

(って、目が合う?!)

つまりは人がいるということだ。
あちらさんも驚いているようだ。
しかしすぐににこっと笑みを浮かべる。

「サラー!来てみろー!…つーか来い!さっさと来い!!」

にこにこ笑顔であらぬ方向へと叫ぶ。
落ち着いた橙色のローブを着た金髪の青年。
一見短髪に見えるが後ろで縛っている髪が見えたので、実際の髪は長いだろうことが分かる。
年の頃なら20代後半くらいだろうか、蒼い瞳は悪戯っ子のような子供らしさがある。

ひゅっ…ぱちんっ

強い風が吹き抜けるような音がしたと思えば、何かはじけるような音。
音と同時に現れた青年。
軽くため息をつきながら金髪の青年を呆れたように見る青年は、驚くほど顔立ちが整っている。
長い銀髪を後ろでゆるく結び、深紅の瞳は怖いともいえるほど綺麗な輝きだ。

(あれ…?)

は銀髪の青年の方に既視感を覚える。
深紅の瞳はどこかで見た事がある気になる。
だが、の知る深紅の瞳の人は確か銀髪ではなかったはずだ。
銀髪の知り合いと言える知り合いは一人しかいない。
だが、その彼がこんなところにいるはずがない、というよりも彼は世界なのだから普通に存在するはずがない。

「君と言う奴は…」

大きなため息の後、青年は手を額に当てる。
金髪の青年はにかっと笑ったままの表情を崩さない。

「見ろよ、ほら!成功したぜ!お前、絶対無理だって言ってただろ?どーだ!!」

金髪の青年はびしっとを指差す。
人を指差してはいけません。
銀髪の青年の方はそんな金髪の青年の反応にひくりっと顔を引きつらせた。

「阿呆」

銀髪の青年は半眼で金髪の青年をじろっと見る。

「何が成功なんだい。どこから連れ込んだのかは分からないが、彼は魔力からしてマグルにしか見えないだろう?」
「へ?あ…、あああーー!!」

金髪の青年がの方を見る。
魔力を感じ取れる魔法使いならば分かるかもしれない。
から感じ取れる魔力は指輪に込められた魔力のみだ。
人一人の魔力を考えれば、さほど多くはない量なのかもしれない。

「嘘だろ?!お前魔法使いじゃないのか?!」
「は?へ?あ、いえ、その…」

突然答えを求められて驚く
今のの姿はマグルの世界に普通に溶け込める姿だ。
真っ黒ずくめという点で少し怪しいかもしれないが。

「そもそも伝説上の存在するかどうか分からない相手を呼び込もうとした君のその考えがおかしい」
「だから一応範囲を広げて呼び出したんだぜ?時間場所問わず、時空間をも越えるように!」
「ということは、闇の魔法を使いまくったようだね」
「当ったり前だろう?!違法だらけだぜ!!」
「威張るんじゃないよ、阿呆」

胸張って答えた金髪の青年に容赦ない言葉が投げかけられる。
と言っても、決して突き放すようなものではなく愛情が込められている、そんな感じもする。
2人の青年はきっと仲がいいのだろう。

「すまない、この阿呆が手違いで君を呼び寄せてしまったようだ」
「あ、いえ…」
「とりあえず道は固定してあるから、ここから帰れるぜ?悪かったな」
「そうですか…って、帰れるんですか?!」

いとも簡単に帰れることが分かって驚く
転移系の魔法で呼び出されたのはこれが初めてではないのだが、こうも簡単に帰れると分かるのは初めてだった。

「お前を呼び寄せた時点で、お前を引き出した空間を固定したんだ」
「そうなんですか…」

自分が現れた場所を見る
何かしらの歪みは確かに見える。
ということは、ここをくぐれば元のあの灰色の空間に戻れるという事なのだろうか。
あの空間に戻ったら戻ったで、次は自分の力で帰ればいい。
しかし、空間を固定するなどかなり高度な魔法に違いないのにそれをあっさりやってしまうという事は、この青年はかなり優秀な魔法使いなのだろう。

「けどなぁ、最初にちゃんと手ごたえ感じて、暫くなにも出てこねぇから相手を時空間に彷徨わせちまったかと思ってたんだけどよ」
「ゴド、それは下手をしたら彼を時空間に彷徨わせる事になったかもしれないと言う事かい?」

ぎくりっと肩を揺らし、金髪の青年は顔を引きつらせる。
どうやら図星だったようだ。

「何を考えているんだ、まったく。マグルを時空間に放り出すなんてね」
「別に放り出してないだろ?今ここにいる事だし、万事オッケー!それにこいつ、普通のマグルじゃねぇぜ?」
「何だって?」

彼らの会話から、もしかしたら時空間というのはが暫く彷徨っていたあの灰色の空間の事なのだろうと思った。
聞けば分かるだろうが、帰れるようなので細かい事は気にしない事にしよう。

「ゴド、それはどういうことだい?どうして彼が普通のマグルでないと?」
「そんなの決まってるだろ。こいつの落ち着きようだよ。マグルならば恐慌状態に陥るのが普通だろ?それに魔法に驚きもしねぇし、俺達の格好にも何も反応もねぇしな」

確かに言われてみればそうなのだ。
銀髪の青年は魔力で判断したが、金髪の青年はの落ち着きようで判断した。
ただ、が何事にも動じないような性格ならば金髪の青年の考えは的外れになってしまう。
2人視線がじっとへと向かう。

「えっと…」

(答えていいのかな?)

「とりあえず、僕はそちらの銀髪の方の言う通り魔法使いに足りうる魔力は持っていません。なので分類するならばマグルなのでしょうけど…現在の住まいは魔法界でして」

魔力が全くないから「時の代行者」に選ばれて、魔法界の歴史を最良の未来へ導く役目なんてものを与えられちゃったので魔法界にいます。
とは言えないだろう。

「まぁ、俺にとってはお前がマグルでも魔法使いでもどっちでもいいんだよ。しかし、失敗かぁ…」

はぁ〜と大きなため息をつく金髪の青年。

「当たり前だよ。あの伝説級の相手を呼び出そうとするなんてね」
「だよな、”時の代行者”だもんな〜」

呆れたような銀髪の青年と残念そうな金髪の青年。
だが、は驚きで思いっきり目を開く。
”時の代行者”については世界のトップシークレットとも言っていい程だ。
その存在が知られないように世界が動く。
知られてしまえば世界の存在が危うくなる可能性がある為、世界がその存在を隠すのだ。

「あ?どうした?帰るならそこを…」

驚きのあまり固まってしまっているに話しかける金髪の青年。
はそこではっとする。
警戒するような視線を2人に向けた。

「貴方達、何者なんですか?その名前は調べたからといって分かるものではないです」

ここはどこだ。
彼らは何者だ。
の知らない存在、そして場所。

「君は知っているのかい?”時の代行者”を?」
「それに答える必要はありません」

”時の代行者”を呼び出して何をしようとしていたのか。
見た所、闇の魔法を自分の欲望のままに使うようには見えなかった。
ヴォルデモートのような考えの魔法使いでないと思ったのだ。
だが…、そうではないのかもしれない。

「貴方達は誰ですか?答えてください」

警戒心を込め、力をのせて言葉を紡ぐ。
これは強制である。
力を使った自白の方法。
彼らが何をもっても隠そうとする重要事項でない限りは抗えずに答えを言う事になる。

「俺は、ゴドリック=グリフィンドール」
「私は、サラザール=スリザリン」

金髪の青年がゴドリック、銀髪の青年がサラザールと名乗る。

「へ…?」

自分で勝手に名乗ってしまったゴドリックとサラザールも驚いていたが、それ以上には驚いていた。
彼らはなんと名乗った?

(って、創設者?!)