闇のしもべと屋敷 01
、ヴォル、リーマスの住んでいる家はとても広い。
今更1人同居人が増えた所で狭いと感じることは全くない。
3年生も終了し、無事ホグワーツから脱出できたシリウスが来る場所と言えば、はやりというかなんというか、このリーマスの住む屋敷しかなかった。
「、いいか?」
「ヴォルさん?」
コンコンと軽いノックの後、ヴォルがに与えられた部屋に入ってくる。
「しばらく俺はここに戻らないことを伝えてもらっていいか?本来、ここに同居する予定だったのはだけだったからいなくても構わないだろう?」
「え、でも、ヴォルさん、それじゃあどこに?」
「友人の家にいるとでも言っておいてくれ。この環境は俺には合わん」
「はは、そうだよね…」
2階にあるの部屋にも毎日のように聞こえてくる賑やかな”3人”の声。
シリウスとジェームズが何を話題にしているのか楽しそうに話をし、それがとんでもない方向にいきそうになるところをリーマスが優しくたしなめる。
「屋敷を買ったことは言っただろう?」
「うん」
「そっちの整理をしておく。準備ができたらにも場所を案内するから連絡する」
「うん、分かった」
そう、恐らくこの家でお世話になることが出来るのも、今回の休暇で最後になるだろう。
ヴォルデモート卿が蘇れば、リーマスは絶対に彼に敵対する側へと行く。
となればここにずっと住むことは出来ないか、ここを何らかの形でダンブルドア側の人達が集まる場所とするか。
そこまでの先を知らないには、どうなるかはっきりと断言できないが、側にいられなくなるだろうことは分かっているつもりだ。
「課題も大量に出たから今のうちに片付けておけよ」
「うん。でも、ヴォルさんは?」
「俺はもう終わらせた」
「え?早っ!」
さすが元首席である。
3年生レベルの宿題など簡単なものなのだろうか。
羨ましいものだ。
「じゃあ、行ってくる」
「気をつけてね」
ひらひらっと手を振る。
苦笑しながらも、ヴォルはぱちんっとはじけるような音と共にその姿を消す。
姿現しを使った移動。
普通ならば3年生ではできないが、ヴォルだから出来て当然という所だろうか。
もその気になればそれらしい移動手段をとる事はできるだろう。
「行っちゃったねぇ」
背後からの突然の声にびくりっとなる。
ばっと振り向けば、そこにはジェームズの姿。
ふよふよと浮きながらにこりっと笑みを浮かべる。
「お、驚かさないでくださいよ、ジェームズさん」
「そうは言ってもね、ご覧の通り実体がないもんで気配なんて放てなくて」
「気配あっても、私は気配を捉えることなんて出来ないのでいいんですけど…」
「そうかい?それより、黒猫君はいっちゃったみたいだけど、は下に降りておいでよ」
ひょいひょいと手招きされる。
「リーマスがお茶しようって言っていたら呼びにきたんだ」
「お茶?」
「もれなく甘い匂いに顔を顰めたシリウスが見られるよ」
楽しそうな笑みを浮かべるジェームズにどんな光景が繰り広げられるのか、なんとなく想像がついてしまう。
ジェームズ、リーマス、シリウスがいると、どうもシリウスの立場が一番弱くなってしまうのは何故だろう。
確かにシリウスは今追われている身で、かくまってもらっているという恩もあるだろうが、それは全く関係なく、シリウスの立場はとてつもなく弱い。
性格の問題なのだろうが、学生時代もそんな感じだったのだろうか。
そんな事を考えながら、はジェームズと一緒に1階へと降りていく。
「うわ…」
階段を降りていく途中で分かるこの甘い匂い。
不快な匂いではないが、階段にまで漂う匂いの原因は一体何なのだろう。
リビングらしき部屋に入っていけば、その甘い匂いは強くなる。
「クッキー…?」
リビングに並べられいるのはクッキー。
甘い臭いがしているということは手作りなのか。
「だけかい?彼は?」
リーマスがの姿に気づき声を掛けてくる。
後ろにいるのがジェームズだけなことに気づいたのだろう。
シリウスはこちらをちらっと睨むように見たのは気のせいではない。
相変わらずヴォルとシリウスの相性は良くないというか、なんというかである。
「うん、ヴォルさんはちょっとしばらく数日は友人の所にいるって」
「友人の所?」
「なんか約束してたみたい」
「そっか、残念だね」
残念そうにするリーマスとは反対に、シリウスはあからさまに顔を顰める。
「本当に友人の所か?それとも案外、その友人もヴォルデモートに関わりある相手だったりな」
「シリウス…」
困ったように友人を見るのはリーマスとジェームズ両方だ。
ダンブルドアの後見があることで、ヴォルを信用しているリーマスと、全てを知りながらヴォルの気持ちを理解しているから信用しているジェームズは、ヴォルに疑いを抱かない。
だが、シリウスは違う。
「まぁ、シリウスが彼を疑う気持ちは分からないでもないけどね」
苦笑しながらジェームズはシリウスのところにふわりっと浮きながら移動する。
「まさに生粋のスリザリン気質の彼と、生粋のグリフィンドール気質と言ってもいいシリウスじゃ気が合わないだろうし」
「気が合う合わないの問題じゃねぇだろ?あいつ、怪しすぎる」
ピーターとの時の事を言っているのだろう。
ヴォルはピーターを知っているような口ぶりだった。
死喰い人であるピーターを、だ。
「シリウス、彼はとても頭がいいよ」
「だが、ジェームズ。お前が言うようにあいつはスリザリン気質なんだろ?だったら、余計怪しい」
スリザリン寮出身の殆どが、ヴォルデモート卿の配下となった。
だからこそ、スリザリン寄りの者は怪しい。
「分かってないね〜シリウス。頭がいいのは成績がいいって言う意味で僕は言ったんじゃないんだよ」
「何が言いたいんだよ、ジェームズ」
「頭の良さで言えば、僕も彼もそう変わらないよ。僕だってこれでもホグワーツ首席だったんだしね」
「…自分で言うか、普通」
「勿論」
にこりっとジェームズは笑みを浮かべる。
対するシリウスは呆れた表情だ。
確かにジェームズは知識が豊富で、優秀な生徒ではあったのだろう。
「でも、僕はどちらかといえばグリフィンドール気質。でも彼はスリザリン寄りの考え方で事を運ぶ。だから、僕と彼、比べてどちらが怖いと考えれば断然彼のほうが怖い」
「何でだ?」
「スリザリン気質の人ってのは、誤魔化すのがとっても上手なんだ。嘘は言わない、でも誤解させるような事実のみを述べる。だから怖いんだよ」
確かにジェームズの言うことはその通りだろう。
ジェームズがヴォルがヴォルデモート卿であった事に気づいたのは、ヴォルがそれを決して隠そうとしていないからだ。
ヴォルが隠そうと思った事は、きっともジェームズさえも知る事は難しいだろう。
「だからなんだよ?」
「つまり、怪しいと思われる行動をとるはずがないって事さ」
ぴっとジェームズは指を1本立てる。
「単純なシリウスさえもが怪しいと思われる行動を、彼がとるはずもない。何か起こった時、怪しいと思われているという事は自分に疑いがかかる。まだこのご時勢、疑われるのは困るだろう?」
「そうだけどな、じゃあ、あいつはどうしてピーターを知っていた?!」
「どっかでバッタリ偶然会ったんだよ」
「んなワケねぇだろうが!」
「じゃあ、僕が教えたってことで」
「じゃあって何だよ、じゃあって!」
「まぁまぁ、シリウス落ち着いて」
シリウスをなだめようとするジェームズは笑っている。
ジェームズが言わないからシリウスもリーマスも気づかないだろうが、ヴォルデモート卿に関係がありながら怪しい行動をとった理由を説明できるものが1つだけある。
それは、例えヴォルデモート卿に関わりがあるとバレても、ヴォル本人が気にしないという事だ。
リーマスもシリウスも、ヴォルデモート卿に関わる人はそれがバレることを恐れているという先入観があるからその可能性を思いつかない。
「どんな理由があって、彼がどんなことを考えても、を裏切ることなんてないから大丈夫だよ、シリウス」
「何でそう言い切れるんだよ?」
「鈍感なシリウスには分からないかな?と彼をセットで見てればすぐ気づくと思うけど」
シリウスは顔を顰めるだけ。
リーマスはジェームズの言いたい事が分かったのはくすくすっと笑っている。
「ジェームズ、シリウスは昔からそういうことには何でか疎かったし、しかもずっとアズカバンだったんだから気づくなんて無理だよ」
「やっぱり、そうかい?やれやれ、親友。そんなんじゃ、一生独身だよ?」
「はあ?!」
はでなんとなく照れてしまう。
ヴォルが自分に向けている感情はでも分かる。
大切にされて、信用されている。
「それより、お茶にしよう。ほら、、こっちに座ってね」
リーマスがソファーに座るように促す。
シリウスとは反対側のソファーに腰を下ろす。
ジェームズは物を食べることも飲むことも出来ないので、シリウスの後ろにふわふわっと浮いている。
ソファーの前にあるテーブルに並べられたのは色々なクッキーの数々と紅茶。
「リーマス、これどうしたの?」
「うん。実は小麦粉とか砂糖とかたくさんもらってね、作ったんだ」
「誰から?」
「セブルスから」
その言葉にぶっとシリウスが噴出す。
「リーマス、お前っ!あんなのから素直に貰うなよ!」
「え、だって。なんかセブルスも困っていたみたいだから」
「そのまま困らせとけ!」
「でもくれるものは有難く貰っておかないと」
ほわりっとリーマスは嬉しそうな笑みを浮かべる。
甘いクッキーがたくさんでリーマスはとても嬉しそうだ。
それにしても、料理が出来たことにはびっくりである。
去年の休暇中、料理は殆どがしていた。
リーマスが作ったものといえば、トースト、レタスと野菜をちぎっただけのサラダとか、その程度のものである。
あれはただ面倒だっただけなのだろうか。
「リーマス、それなら僕があとでよければ教授にお礼を言うよ」
「ホグワーツが始まってからかい?」
「ううん、ちょっと用があって教授の屋敷に行く予定があるから」
(セウィル君に会いに行きたいから)
「お前、何であんなのの屋敷なんて行くんだよ?」
「前々から約束していたことですから」
「約束?スネイプと約束か?」
「セブルス=スネイプ教授との約束じゃないですよ、別の人です」
それなら構わないとでも言うように、シリウスはそれ以上何も言わなかった。
本当にセブルスのことが嫌いなんだと分かる。
それとも、卒業生在学生全てのスリザリン生を嫌っているのだろうか。
「それじゃあ、。お願いするよ。私も一応セブルスには用があるから会うこともあるだろうから言っておくつもりだけど」
「うん、分かった」
「とにかく遠慮しないで食べてね、」
並べられたクッキーの量は半端な量じゃない。
遠慮しないで食べたとしても、食べきれないだろう。
取り合えずひとつ口に運ぶ。
「………甘い」
甘すぎということはないが、普通のクッキーよりも甘さが増しているのは気のせいだろうか。
基本的にこういうお菓子は量の配分を間違えるととんでもないことになる。
過去数回程度だが、クッキーを作ったことがにもある。
リーマスオリジナルのクッキーなのか、魔法をつかってなんとか完成させたのかは分からないが甘めのクッキーだ。
「僕は食べられないから、シリウス僕の分も頑張って食べてね」
「…ジェームズ」
「うん?」
「お前、分かってて言ってるな」
「勿論だよ、シリウス」
目の前に広げられたクッキーの山を見て、口元を盛大に引きつらせているシリウス。
きっと甘いものが苦手なのだろう。
嫌、苦手でなくてもこの山とこの甘さを考えれば誰だって口元を引きつらせるくらいはするかもしれない。
にっこにっこ笑顔を浮かべているリーマスをちらりっと見るシリウス。
逆らえない…そう思ったのかは分からないが、半分ヤケになりながらクッキーを口の中に放り込むシリウスがいたのだった。