アズカバンの囚人編 52





グリフィンドール寮へとハリーを届けてくるとジョージは寮に向かった。
を医務室に連行していきたかったらしいが、ハリーの姿が見つかるのはまずいだろう。
は大丈夫だから、と言ってジョージを寮に向かわせた。
その後、が向かったのは医務室ではなく、魔法薬学の教授であるセブルスの部屋であったりする。


は魔法が効かない。
効く魔法は”時の力”が関わった魔法のみ。
それゆえ魔法薬は効かないのだ。
中には効果が多少なりとも現われるものがあるかもしれないが、どんな効果がでるのか分からないのだ。


馬鹿か!貴様は!


怒鳴りながらもの腕に包帯を巻いていくセブルス。
マグル界で売っている薬を常備してくれているセブルスは、それをの腕に塗りつけて包帯を巻いた。

「いや、だって、教授。手を振り払う事なんて出来ませんよ」

ハリーの目があまりにも追い詰められたように見えたから。
振り払ってはいけないような気がした。

…」
「教授が何を言いたいのかはよぉく分かります。でも、起こってしまったことは仕方ないですよ」

にこっと笑みを向ける
大きくため息をつきながら、包帯や薬を片付けるセブルス。
腕の痛みは多少あっても、気になるほどではない。

「ん、これくらいなら平気かな。ありがとうございます、教授」

自分の腕を動かしてみて感覚を確認する
腕を強くつかまれて腫れてしまっても、骨に異常があるほど強くつかまれたわけではないのだ。
赤くなってしまう程強くつかまれたところから、ハリーもやっぱり男の子なんだな…とは呑気に感じていたりしたのだった。

「クリスマス前には完治するはずだが、無理をするなよ」
「はい、分かってます」

今の季節は丁度冬だ。
ローブと袖に隠れて包帯を巻いている事など、ハリーには分からないだろう。
そもそも包帯なんて大げさに巻く必要もないのかもしれないが、それを言えばセブルスが怒る事になるので言わないでおく。

「そう言えば、
「なんですか?」
「クリスマス……マルフォイ家に行くというのは本当か?」

一瞬きょとんっとするだったが、ドラコからそのような事を言われていたのを思い出す。

「え?あ……まぁ」

できれば行きたくない。
ルシウスは苦手だし、ナルシッサの相手もあまり好きじゃない。
だが、そうもいかないだろう。
の反応に、セブルスは大きなため息をつく。

「貴様もポッター以上に厄介ごとに巻き込まれる体質だな」
「別に巻き込まれたくて巻き込まれているわけじゃないんですけど…」
「どうだか」

巻き込まれたくて巻き込まれている厄介ごとばかりではない。
特にマルフォイ家関連の事などは、予想外の事なのだ。

「油断はするなよ」
「分かってます」

は座っていた椅子から立ち上がる。
セブルスに軽く会釈をして、はそのまま部屋を出て行った。
セブルスはそれを見て、再度大きなため息をついた。




今年最後のホグズミード行きが終われば、クリスマス休暇はすぐだった。
は荷物をまとめて禁じられた森へと、シリウスを迎えに行く。
グリフィンドールの談話室で、ハリー達を見かけたので挨拶をしておいた。

禁じられた森の入り口まで行けば、今日が帰省組が帰る日だと知っていたのか、黒ワンコが尻尾を振って待っていた。
どこからどう見てもアニメーガスには見えまい。
飼い主を待ち構えている嬉しそうな犬にしか見えないだろう。

「行きましょうか?」
「わぅん!」

くすくすっとは笑う。
まるっきり犬の反応を返すシリウスがおかしくて仕方ない。
そのまま黒犬と並んでホグズミードの駅までゆっくりと向かう。
駅まで馬車が出ているのは知っている。
でも、ゆっくりと歩いていく事も出来るのだ。
ただそんな面倒な事をする生徒など殆どいない。
荷物もあるし、疲れるからだ。

「ヴォルさんは先に行っているんですよ」
「わう?」
「ヴォルさんとはイースター休暇に会いましたよね?僕は彼とリーマスと3人で暮らしているんですよ」
「うぅ……」

声を低くしてうなるシリウス。
やはりヴォルとは相性がよくないらしい。
列車のコンパートメントではヴォルと同じになるだろうが、大丈夫なのだろうか。

「明日はダイアゴン横丁に行きましょうね。鍵の方は僕が持っていますので……どうしますか?」
「わぅ?」
「ポリジュース薬か何かで姿を変えてシリウスさんが自分で買い物します?それともその姿のままでいますか?」

そこまで言ってはこの問いかけじゃ答えにくいと気づく。
イエスかノーで答えられるような問いかけじゃないと答えが返ってこないだろう。
それに今どうしても聞かなければならない事ではない。

「ダイアゴン横丁に行く前に、ちゃんと決めましょうね」
「わうん!」

黒犬の元気のいい返事に、はちょっと呆れる。
この人は本当に大人なんだろうか…。
反応が、まんま黒犬にしか見えない。




ホグワーツ特急のコンパートメントの中は異様な空気になっていた。
外を眺めているヴォル。
少々引きつった顔をしながら読書をしている
同じくやる事がないのか、やや顔を引きつらせながらも読書をしているドラコ。
そして、丸くなっている黒ワンコ。

ホグズミード駅ではヴォルとドラコが待っていた。
ドラコは黒犬に驚いていたが、それ以上に黒犬とヴォルとの間の雰囲気にひいていた。
マルフォイ家のクリスマスパーティーがあるからか、ドラコもこのクリスマスは帰省するようだ。
そのまま流れるように、、ヴォル、ドラコ、黒犬(シリウス)が一緒という奇妙な組み合わせになったのだ。

どこか重い雰囲気のまま、静まり返ったコンパートメントの中では、時間だけが過ぎていく。
はかさりっと紙の音がして、ふと本から顔を上げる。
ドラコが羊皮紙の切れ端を一枚差し出している。
受け取ってそれを見てみれば…

『この雰囲気なんとかならないか?』

と書いてある。
はドラコの方を見て、顔の前で右手を横に振る。

無理だって。
どうにかできるくらいなら最初からどうにかしてるよ。
大体何で、ヴォルさんとシリウスさんの相性がこんなに悪いかのも分からないし。

はぁ〜と大きなため息をつくドラコ。
仕方ないかのように、本へと視線を戻している。

この雰囲気はともかくとして…。
ドラコも読書なんてするんだね。
私が読んでるのは普通のファンタジー小説だけど、ドラコって何読んでるんだろ。

ちらっとドラコの読んでいる本をのぞいて見る。
本のタイトルは英語だったが、中身は英語だけじゃなかった。

「あ…れ…?日本語?」

の声に再び顔を上げるドラコ。

「それ、日本語も書いてない?」

はドラコの読んでいる本を指す。
英語が半分以上だが、ちらほら見られるのはひらがなと漢字だ。
それが混ぜ合わさっている文というよりも、日本語の下に英語で翻訳されているような感じに見える。

「僕は日本語が少ししか分からないからな。覚えようと思っているんだ」
「何でまた…。日本にでも行ってみたいの?ドラコ」

ドラコが顔を顰める。

「何で僕が日本語を覚えよう思ったと思っているんだ」
「え?何でって…何で?」

がくりっとなるドラコ。
少し考えれば分かるだろう。

君が日本人だからだろう?!

日本語で怒鳴られてしまう。

「え?あ……、なんか、うん。ありがとう?」
「何で疑問系なんだ」
「なんとなく」

は照れたような笑みを浮かべる。
ドラコが、が日本人だから日本語を覚えようとしているとは思わなかったのだ。
十分今のままでも話せると思うが、それだけでは足りないのだろうか。
日本語は難しい。
話すだけならともかく、読み書きとなるとと覚える文字の種類が大量だ。

ドラコが私が日本人だから日本語を覚えようとしているってのは嬉しいかな。
確かルシウスさんとリロウズ先輩は分かるんだよね。
ヴォルさんとシリウスさんも、日本語話せたりするのかな?