アズカバンの囚人編 51





ジョージに引っ張られてつれてこられたのは、隻眼の魔女の像がある場所だった。
知識の上ではこの場所がどういう場所なのか知っているだが、まさかジョージはホグズミードに行こうとしているのだろうか。

「ジョージ先輩」
「何だい、
「僕、リーマスにホグズミード行きは禁止されているんですけど…」

ジョージが一瞬きょとんっとした表情をする。

「僕、ホグズミードに行くって言ったっけ?」
「え?あ…」
「もしかして、。ここの”道”知っている?」
「あ、う……」
「そっか、、ムーニーと一緒に住んでいるんだっけ。知っていてもおかしくないよね」

1人で納得してくれるジョージ。
ジョージがこの道を知ったのは、ジェームズ達4人が作った『忍びの地図』があったからだろう。
リーマスはその地図の製作者の1人なのだ。
それをジョージも知っているから、がリーマスに教えてもらったのだと解釈したのだろう。

「ま、でも、大丈夫!忍びの地図はもうハリーに渡しちゃったけど、ここの隠し通路、僕とフレッド以外が使ったの見たことないから。だから、行こう」
「いや、でも…」
「だって、。今年のクリスマスも帰省組みだよね?クリスマス休暇の間会えないからさ、今日は一緒にいようよ」
「う〜ん…」
「う〜ん、じゃない!問答無用!さあ、行こう!ディセンディウム、降下!

ジョージは杖で像をこつこつっと叩く。
すると、ゴゴっと音をたてて魔女の像が2つに割れ、人1人がやっと通れる程の隙間が出来る。
ジョージはの腕を引っ張ったまま、その中にするりっと入り込んでいく。
中は洞窟のようで光は入り口の光だけだ。
が入り口を抜けて完全に中に入ると、再びゴゴっと音をたてて、像が元の位置に戻っていく。

「一定時間が経つと自動的にしまるんだよ。ルーモス!

ジョージの杖先に明かりが灯る。
真っ暗だった洞窟内がほんのり明るくなる。

「足元気をつけてね、
「…それなら手を離してくださいよ」

の手はジョージが掴んだままだ。
片手がふさがれている状態では何かあった時にバランスを崩してしまう。
だが、ジョージはにっこりと笑みを浮かべる。

、逃げるかもしれないから駄目」
「逃げません」
「そうかな?」

ジョージの言葉には小さくため息をつく。
手を握っているジョージの力が少しだけ強くなる。

「大体逃げようにも、ここは一本道じゃないですか」
「うん、そうだね」
「絶対逃げませんから、手を離してください」

握られた手をくいっと引いてみる

でも駄目。

ぴたっとジョージの足が止まる。
手に持っていた杖を腰にさす。
明かりがジョージの腰辺りからの為、表情が良く見えなくなる。

「僕がの手を離したくないからね」

ぐいっとの手をひっぱり、再び歩き出す。
この洞窟は本当に足場がよくない。
ジョージは慣れているだろうが、初めて通るは注意深く歩かないと転んでしまいそうだ。
仕方ない…と、とは小さく何かを呟き、暗闇でも見えるように力を使う。

、何か言ったかい?」
「いえ、何も言ってませんよ」

にっこり否定する
が呟いた言葉が聞こえていたらしい。

最初からこうすればよかったんだろうけど…。
本当、ここって慣れているか、明かりがないと絶対に転ぶな。

視界がクリアになって、は続く道を見る。
段差もあれば、石が転がっている所もある。
ジョージの明かりのおかげで足元はほのかに明るいが…、それでも少し心もたないかもしれなかった。


どんっ


うわっ?!


ジョージに何かがぶつかったような音と声。
の目にはジョージに誰かがぶつかったように見えた。
しかし、ジョージの姿でそれが誰かは見えなかった。
ぶつかった誰かは、ジョージの目の前でしりもちをついている。
黒いローブ。
ホグワーツの生徒であることは間違いないようだ。
ジョージは腰に杖をさしてある為、その生徒に気づかずにぶつかってしまったらしい。

「ポッター君?」
「え?ハリー…?」

ジョージは腰にさしている杖を手にとって、自分の前を明かりで照らす。
ジョージの前にはぶつかった反動て転んだままのハリーの姿。
とジョージを見る表情が、どこか危ういものに見えた。
まるで泣きそうで、怒っているような表情。

「ポッター君、大丈夫?怪我は……?」

がハリーの側に膝をついてしゃがみこむ。
ハリーは側に来たにそのまま顔を向ける。
でも、何も言おうとしない。

「ポッター君…?」

は心配そうにハリーの顔に右手をそっと伸ばす。
その手がハリーの顔に触れるか触れないかの所でハリーが動いた。
がばっと、に抱きつくハリー。
両手をの背中にまわして、まるでしがみついてくるかのように…。

「ハリー…?」

はファーストネームで呼びかけ横目でハリーを見る。
ハリーの顔はの肩辺りに押し付けているようで、表情は分からない。


友達だったんだ!


ぎゅっとハリーの腕の力が強くなる。
それに僅かには顔を顰める。
表情を見せず、乱れた感情だけが声から分かる。

「友達なのに……!親友だったのに……!」

はハリーの背中に手をまわして、ぽんぽんっと軽く叩く。
ハリーをなだめる様に…。

「ハリー…!」
「ジョージ先輩」

突然ぶつかってきた上に、にしがみついてジョージにはよくわからない事を言っているハリー。
当然ジョージからすれば、文句の1つも言いたい所だろうが、がそれを止める。
人差し指を口元に当てて、少し何も言わないでくれと合図する。
ジョージはの合図に不機嫌そうなため息をつきながらも頷く。

ジョージにはハリーが何を言いたいのか分からないだろうが、には分かった。
恐らく『三本の箒』で魔法大臣と先生方の話を聞いてしまったのだろう。
世間では、アズカバンを脱獄した大量殺人犯であり、『例のあの人』忠実なる部下であるシリウス・ブラックが、学生時代ジェームズとは双子のようになかのいい友人、親友であったことを。

「ハリー、聞いた事が全て真実ではないかもしれないよ」
「でも…!親友だったのに!どうして裏切るんだ!」
「何か理由があったかもしれないよ」

ハリーはばっと顔を上げて、の背中にまわされていた手で、の腕をつかむ。


僕の父さんと母さんを殺すどんな理由があったって言うんだ!


目に涙をためてハリーはを睨むように見る。
は困ったような笑みを浮かべているだけだ。

「うん…、そうだね」

どんな理由で、彼が裏切ったかなんて私も知らない。
でも、もしかしたら、彼にも譲れない何かがあったのかもしれない。
それは自分の命だったかもしれないし、別のもっと大切なものだったかもしれない。

「どうして…、どうして……!何で僕の両親が何をしたんだよ!」

何もしてない。
ジェームズさんも、リリーさんも、ただ信じていただけ。

「僕…僕は……、絶対にアイツを許さない!」

ぎりっとハリーの手に力がこもる。
はハリーの力が強すぎるからか、腕に痛みを感じる。
ハリーはの腕を傷つけるほど強く握っている事に気づいていないだろう。

「僕は……っ?!…」

尚も何か言おうとするハリーの言葉が不意に途切れる。
ハリーの言葉が止まると同時にハリーの瞳が閉じられて、体がの方にぽすんっと倒れこむ。

「ハリー…?」

はきょとんっとして倒れこんできたハリーを見る。

「ハリーには悪いけど、ちょっと眠ってもらったよ。何があったか分からないけど、あのままじゃ、の腕を握りつぶしそうだったからね」

ジョージがハリーの後ろでしゃがみこんでいた。
杖をハリーの方に向けながら。
何か魔法を使ってハリーを気絶させたのだろう。

「ジョージ先輩」
が我慢強いのは知っているけどね。自分の腕が潰れそうなのに何も言わない、何もしないのはよくないよ」
「これくらい、大丈夫ですよ」

の腕は未だにハリーにつかまれたまま。
ハリーの手の力が強いからなのか、気絶しても尚離れていない。
ジョージがそれを見て、ハリーの手をべりっと引き剥がす。
意識がないのに、結構ガッチリの腕をつかんでいた為、ジョージが引き剥がすのに少し苦労していた。

「ありがとうございます。ジョージ先輩」
「これくらい別に構わないよ。それより、医務室だね」
「ポッター君をですか?」
「違う。を、だよ」

ジョージはの右腕をぐいっと引っ張り、袖をめくる。
杖の明かりをの腕に近づける。
の腕には、ハリーが手で握っていた部分がくっきり赤くなっている。

「もう片方も多分同じじゃないかな?」
「うわ…、痛いと思っていましたけど、痕が残るとは思いませんでした」
…」

呆れたようなため息をつくジョージ。

「…らしいって言えばらしいんだけど…、とにかくホグズミードは今度にしよう。ハリーも連れて帰らないとならないしね」
「そうですね」

ジョージはの方に倒れこんでいるハリーをひょいっと担ぎ上げる。
ハリーは小柄な方とはいえ、男の子の体だ。
それをひょいっと持ち上げる事が出来るジョージは、この間を担ぎ上げて運んでいた事からも分かるが、結構力があるのだろう。

の時も思ったけどさ…」
「僕の時?」
「ほら、この間を担ぎ上げた時」
「…あ、あの時ですか…」
「うん、それでさ。もだけど、ハリーも結構軽いよね」
「ポッター君はまだ成長期が来てないからだと思いますよ」

11歳になるまでは、ちゃんとした食事を取れていなかったこともあった為、それが影響して今も小柄なままなのだろう。
だが、ホグワーツでは十分な食事も出来る。
が会ったジェームズとリリーは、小柄な方ではなかった。
リリーは女性だから大柄ではなかったが…。
血筋から考えれば、ハリーはまだまだこれから成長するだろう。

「それから、
「何ですか?」

ハリーを担ぎ上げながら、ひょいひょい歩いていくジョージ。
その少し後ろをついていく
歩く方向は来た方向と同じだ。
ホグワーツに戻る方向である。

「いつから、ハリーをファーストネームで呼ぶようになったんだい?」

ぎくりっとなる
ジョージは前を歩いている為、の反応は見えなかっただろうが一瞬焦る。

「何のことですか?」

とりあえずしらばっくれる。
ジョージはの答えに苦笑する。

「そういう事にしておいてあげるよ」

追求はしないらしい。
分からないようにホッとため息をつく
言い訳くらいは思いつくが、ジョージ相手ではその言い訳が通用するかどうか分からない。

追求しないでいてくる所が、優しさなんだろうな。
でも……。
頼りきれないんですよ、ジョージ先輩。
貴方には……。