アズカバンの囚人編 49
ホグズミード村。
それは、イギリスで唯一魔法使いだけが住む村である。
他の地域は魔法使いやマグルが入り乱れての町や村が殆どだ。
もうすぐ2度目のホグズミードに行ける時期だ。
「ポッター。君が吸魂鬼に怯えて箒から落ちてくれたおかげで、今寮杯に一番近いのはスリザリンだ。お礼を言うよ」
「マルフォイ!」
「ロン、無視すればいいから」
防衛術の授業に向かう途中、ドラコが箒から落ちた事を馬鹿にするような事をハリーに言っているのが見えた。
反論しようとしているのはハリーでなくてロン。
ハリーはつとめて冷静に対処しようとしているようだ。
ただ、我慢しているだろう事が表情から伺える。
「また、マルフォイだ…」
の隣でネビルがぽつんっと呟いた。
選択授業以外は、は大抵ネビルと一緒に授業に向かう事が多い。
たまにそれにハリーとロンが加わったり、ハーマイオニーが加わったりするが…。
「懲りないね、ドラコも」
こういうことはしないようになったと思ったんだけどな。
ハリーが気に入らなくて罵倒するのは子供っぽいだけなのに。
「でも、ドラコの腕が治ったみたいでよかったよ」
ハリーとにらみ合っているドラコの腕にはすでに包帯はない。
身振り手振りでハリーがどれだけ格好悪かったかを訴えている様子からすると、完治したのだろう。
あの酷い傷でも魔法を使えばすぐに治ってしまうことは分かっていたが、白い包帯が取れるまでは少し不安だった。
「、そんな事言ってないで止めないの?」
「うん、そうだね。授業が始まっちゃうし…」
はハリーとドラコのところへと近づいていく。
ネビルは近づかないで少し離れたところで足を止めていた。
「あの時のポッターはまさに見ものだな」
「いい加減黙れ、マルフォイ!」
「ロン!」
本当に仲悪いな〜。
原因はドラコの態度なんだろうけど、それに対して反応するウィーズリー君もウィーズリー君なんだよね。
「ドラコ、怪我治ったみたいだね」
続きそうな言い合いを遮ってが声をかける。
不機嫌そうな表情の3人の視線がの方を向く。
それにはにこっと笑みを向ける。
「こんな所で話してると授業が始まっちゃうよ。リーマ…ルーピン先生は厳しいところは厳しいからね」
それはもう厳しすぎるくらいに…。
というよりも、怒ったリーマスって怖いし。
「ポッター君もウィーズリー君も、ドラコの嫌味なんて軽く流して授業に行かなきゃ」
「!僕の嫌味とは何だ!」
「だって、嫌味じゃない。違う?」
「………ち……違う。」
否定しているのか肯定しているのかよく分からない。
は手でハリーとロン、それからネビルに先に行くよう促す。
ハリーはロンの腕をとって、引きずるように教室の方へ向かい、ネビルはに小さく手を振ってから走っていった。
「ほら、ドラコも行かないと」
は教室の方向を指差す。
ドラコは納得かないような表情で歩き出した。
「そう言えばヴォルさんは?」
「多分先に教室に行っているはずだ」
「別行動?」
のその言葉にドラコは答えない。
「もしかして、ポッター君に嫌味言っているうちに置いていかれたとか?」
「違う!………リ、リドルが勝手に先に行ったんだ」
「そっか、ドラコが置いていかれたんだね」
「違うって言っているだろう?!」
真っ赤な顔で否定されても説得力がない。
は思わずくすくすっと笑う。
プライドが高いのは相変わらずのようだ。
「ポッター君への嫌味なんてやめればいいのに。楽しい?」
ドラコは思いっきり顔を顰めた。
「楽しい楽しくないの問題じゃない」
「え?違うの?ポッター君が嫌がるのが嬉しいからやっているんじゃなくて?」
ハリーが嫌いだから、貶める事を言うのが嬉しいのだと思っていた。
良家の出である本来ならば目立つはずのドラコよりも、ハリーのほうが目立っているし注目されている。
それが気に入らないからではなかったのだろうか。
「……あいつらはあの凶暴なヒッポグリフの弁護とあのデカブツを庇っている」
「バックビークとハグリッドの事?」
何でそれがここで出てくるんだろ?
自分が怪我させられたのに、無実を訴えるのが気に入らないから?
「あれはを襲ったんだぞ?ポッターはの友人じゃなかったのか?!友人を襲った魔法生物を庇う理由がどこにある?!その原因を作った教員も監督不行き届きで罰せられるのが普通だろう?!何故あいつらはそれを反対するんだ!!」
ドラコはイラついたように近くの壁に蹴りを入れる。
壁は石造りの壁だ。
勿論硬い。
鍛えている人ならともかく、普通の子供が蹴りを入れて痛くないはずがない。
蹴りを入れたがいいが、ぶつけた所が悪かったために、ドラコはそのまま痛みでしゃがみこむ。
ちょっと間抜けだ。
「ドラコ…自業自得」
「分かってる!」
は思わず笑みを浮かべていた。
壁に蹴りを入れて足が痛いドラコには悪いが、笑みが零れてしまうのは仕方ないだろう。
嬉しいのだから。
「ありがとう、ドラコ」
「何だ、いきなり…」
「だって、僕の事考えてポッター君に嫌味言っていたんでしょ?」
「ち、ち…違う!べ、別に僕はのことなんて…!」
慌てて否定するが、これでは肯定しているようなものである。
なんとも正直な反応だ。
「……友人としてなら当然の行いだろう」
そっぽ向いてぽそとっと呟くドラコ。
嫌味を言う事が当然の行いとは言えないが、友人の方を優先する気持ちは分かる。
きっとがドラコの立場ならば、やっぱり傷つけられてしまった友人の事を考えるだろうから。
「ああ、そうだ、。父上からを誘えと手紙が来たんだが、クリスマス休暇は帰るのか?」
「うん、一応ね」
ダイアゴン横丁とノクターン横丁でお買い物の予定だ。
クリスマスまでには間に合わせたい買い物がある。
「誘うって何に誘うの?」
「マルフォイ家のクリスマスパーティーにだ」
「……ドラコの家の?」
歓迎していない様子の。
それはそうだろう。
以前流されるままに参加させられたパーティーは、純血一族ばかり。
マグル出身と認識されているにとって居心地のいい場所とは言えなかった。
とは言っても、はそんな視線を気にしなかったのだから気分が悪くなった訳ではないのだが…。
「気をつかいそうで嫌だなぁ…」
「言っておくがに選択権はないぞ」
「え?何で?」
「今回は父上にお気に入りが出来たって噂が流れているからな。そのお披露目も兼ねているんだろう。だから肝心のが出席しないでどうする?」
「お、お披露目って…」
お披露目なんてされたくないよ。
これも一種の嫌がらせなのかな…。
「精々馬鹿にされない程度の作法や礼儀は身につけておけ」
「作法……」
「リドルならその辺詳しそうだから教えてもらったらどうだ?」
「う……。」
ヴォルさんに教えてもらうなんて…できないって。
しかもマルフォイ家のパーティーに出る為とか言ったら、絶対に教えてくれなさそうな気がする。
ルシウスさん関係はすごい嫌がるし…。
「ドラコは?」
「僕か?僕は小さい頃からそういうのは当たり前だったからな」
「お坊ちゃんだもんね…。そう言えば、ドラコは他の国の言葉も話せるんだっけ?」
「最低限はな」
最低限…。
なんか基準が違う気がする。
私なんて日本語しか分からなかったのに…。
いや、今は時の代行者としての知識で普通に英語話せているけど。
「う〜ん、世界が違う気がする…。ドラコってやっぱりすごいんだね」
「何を言っているんだ。僕から見ればのほうがすごいぞ」
「どこが?」
「色々変なところが」
「………へ、変なところって…」
それって褒めてるの?それともけなしているの?
「父上に気に入られて平気でいられる事自体が変ですごいんだよ」
変ですごいって…。
やっぱり褒められている気分じゃない。
きっぱり言い切ったドラコの言葉に何か言い返したかったものの、やはり言うのは止めただった。