アズカバンの囚人編 45





結局が観戦場所に選んだのは教員席に程近い…いやかなり近い場所だった。
目立たぬようには自分の力で姿を消し、ヴォルは目立たない魔法を自分にかけていた。
だが、それもダンブルドアにはお見通しのようで、ちらっと視線を向けられた。

「ダンブルドアって気配も分かるのかな?」
「あれでも魔法界の激戦を潜り抜けてきたからな…」

姿を消してもは自分の気配までは絶つことは出来ない。
戦いの経験のある人ならば、人の気配を読み取ることも可能だろう。
現にヴォルは出来るらしい。

クリディッチの試合は賑やかな実況中継と共に行われている。
ホグワーツではもう3年目になるだが、まともにクィディッチの試合を見たのは実はこれが初めてだ。
なんだかんだと事件や怪我で観戦できないことが続いていた。

「なんか、すごい迫力…」
「見るのは初めてか?」
「うん。…知識としては知っていたけど…、なんというか……」

ここまで容赦ないものだとは思わなかった。
本を読んでいるだけではあまりピンとこないクィディッチの試合。
映画では動きがあるものの、実際見るのとでは大違いだろう。
ドツき合いは当たり前。

「怪我が絶えなさそうなスポーツだろうねぇ…」
「多少の怪我は魔法でどうとでもなるからな。プロの試合になればもっと凄いぞ」
「う〜ん、だろうねぇ…」

どんなスポーツであれ、プロと呼ばれる人たちの試合の方が怪我も多いだろうし動きがすごい。
クィディッチもそうなのだろうと思う。
学生の試合でこうなのだから、プロの試合など怪我して当たり前かもしれない。

「って、ヴォルさん、プロの試合見たことあるんだ」
「ああ、学生時代にも何度かな」

意外だとは思った。
しかし、学生時代といえば、リドルはかなり人望があっただろう。
それこそいろんな意味で。
ゴマすりの為にクィディッチの試合の観戦に誘われた事もあったのかもしれない。

「それで、どうする?
「ん〜、とりあえずは様子見かな?時が来れば動かなきゃならなくなるし」

見届けるのは、吸魂鬼がホグワーツ内に進入してくる事、上空から落下してくるハリーをダンブルドアが助ける事。

「しばらくはクィディッチ観戦、というわけか」
「そうなるかな」

目の前をハッフルパフの選手が箒で飛び去っていく。
順調に行われているクィディッチの試合。
上を見れば、空の天気は良くない。
ぽつぽつと雨もこぶりだが降り始めてきている。

「ヴォルさん」
「ああ、悠長に観戦というわけにもいかないらしいな。そろそろだぞ」
「うん」

ハリーが金色のスニッチを追って空へと上がっていくのが見えた。
先ほどよりも、空気が僅かに冷たく感じる。
はちらりっとダンブルドアの方を見る。
ダンブルドアは上空を睨むように見据えて、何か小さく呟いたように見えた。

ダンブルドアが気がついたようだから、ハリーは大丈夫かな。
本当はニンバス2000もなんとかしてあげたいんだけど、それだとシリウスさんからファイヤーボルトもらえなくなっちゃうし…。

グリフィンドールの生徒達の一部がざわざわしだした。
周囲の空気の冷たさと、そして上空に行ったまま戻ってこないハリーを案じての事だろう。

きゃぁぁぁぁ!

誰の悲鳴だったのか分からない。
けれども、その悲鳴がどんな意味を持っているのかは誰でもわかった。
上空からハリーが落ちてくる。
このままでは地面に叩きつけられてしまうのだから…。
はすぐ側で何かの光を感じた。
その光はダンブルドアの魔法の光。
魔法の光はハリーを包み込み、落下速度を落としてゆっくりとハリーを地上まで導く。

「ダンブルドア、私達が吸魂鬼を見てきます。ホグワーツの外に追い払えばいいですよね?」

ダンブルドアに声をかけたのはリーマスだった。
どうやら吸魂鬼がホグワーツ内に入ってきた事に気づいたようだ。

「すまんの」
「いえ、私は防衛術の教師ですから、こんな時こそ役に動かなければいけませんからね」

内心ダンブルドアは怒っているだろう。
その様子を見せてはいないが、それでもホグワーツ内に入ってこないはずの吸魂鬼が入って、生徒達に影響を与えているのだから当たり前だろう。
吸魂鬼の姿こそ現れてはいないが、空気の冷たさに顔色の悪くなっている生徒達は多数いるようだ。

「セブルス、行こうか」
「な…!何故我輩が同行しなければならない?!」
「あれ?セブルスは吸魂鬼と対峙する自信がないのかい?」
「…っ!そんなわけが無いだろう!」
「それじゃあ、行くよね?」

にっこりと笑みを向けるリーマス。
セブルスの性格を熟知した言い方だ。
絶対確信犯だろう。

「リーマス、そこにいるとリドルを連れて行けば何か助けになるじゃろう」
「え?…ですか?」

ダ、ダンブルドア〜!
せっかく隠れているのにそれをばらすような事言わないでくださいよ〜!

とヴォルは仕方なく姿を現す。
物陰からとヴォルが現れたように見えただろう。

「予想以上に敷地内に進入した吸魂鬼の数は多いようじゃ。生徒達に余計な不安や恐怖を与えるのはよくないじゃろう。早めの対処をした方がいんじゃ。協力してもらえるかの?、リドル」

吸魂鬼を追い払うだけならリーマスとセブルスだけでも十分だろう。
しかし、その追い払う時間をなるべく短縮したいからこそ、ダンブルドアはにも声をかけた。
とヴォルに頼むということは、ヴォルはともかくが吸魂鬼に対して何の影響も無い事を知っているだろう。

「分かりました、ダンブルドア」

ヴォルは何も言わなかったが、が動くならばヴォルも動く。
はリーマスと一緒にクィディッチ競技場に集まった吸魂鬼を追い出すために向かった。
その場から動く時に、セドリックがスニッチをつかんだというハッフルパフの歓声が聞こえた。
吸魂鬼が現れても勝負は勝負のようである。



吸魂鬼は地上を移動しているわけではない。
空、つまり上空にいるわけなのだ。
その吸魂鬼を追い払う為には、やはり空に行かなければならないわけで…、リーマス、セブルス、、ヴォルはクィディッチ競技場にあった予備用の箒で吸魂鬼を追い払っていた。
魔法使いである3人は銀色の光で、は魔法を使う振りをしながら自分の力で。

黒いローブをかぶった闇の生き物、吸魂鬼。
その存在を感知するだけでも悪寒がする。
吸魂鬼を見据えては力を込めて叫ぶだけ。

「去れ!」

『時の力』というものは、かなり使い手によってはかなり強力になる。
リドルの時代に飛んでシアンに合って、は少しだけ迷いが薄れた。
迷ってばかりでは駄目だと言う事に気がついたから。

この状態が延々と続くわけでもなく、吸魂鬼を追い出すのに実際そう時間は掛からなかった。

、貴様箒に乗れたのか?」
「は…?だって、今普通に乗っているじゃないですか」
「貴様の飛行訓練の成績は悲惨なものだと聞いていたが…?」

セブルスの言葉にはっと気づく
実技系の授業は劣等性を演じる事に完全に慣れてしまっていたのだが…。

「あ、いえ…その…これはですね…!」
、授業は真面目に受けようね」

言い訳を考えていたにリーマスがにっこりとした笑みを浮かべる。

「ま、真面目に受けてる…よ、一応」

としては十分真面目なつもりなのだ。
真面目に手を抜いているということなのだが…。
それでも、実技以外の魔法薬学、薬草学、魔法史などはしっかり勉強している。
でなくては中間の成績を維持できないのだから。

「それならいいけど…」

すいっと4人とも、箒から降りる。
吸魂鬼は追い払った為、あとは箒を返してくるだけだ。

「箒は僕が返してきますよ。リーマスと教授はダンブルドアに報告お願いできますか?」

は手を差し出して、リーマスとセブルスが持っていた箒を受け取る。

、すぐに寮に戻って着替えるんだよ、いいね」
「うん、分かったよ」

リーマスがそう残してホグワーツ城の方にセブルスと一緒に走っていった。
雨は小降りだが降っていた。
その中を箒で飛んでいたのだから当然ローブは濡れているし、髪の毛も濡れている。

「さっさと戻るぞ。体調を崩して動けなくなったら困るだろう」
「うん」

勿論一緒に箒で飛んだヴォルも濡れているかと思っていたが、そうでもないらしい。
防水の魔法でもかけたのだろうかと思う。

そっか、事前に防水効果でもローブにつけておけば濡れなかったんだよね。

今更ながらに気づくだったりする。