アズカバンの囚人編 42
教室のすぐ外の廊下にヴォルは立っていた。
ドラコと一緒に教室を出て行ったヴォル。
当然のようにドラコも一緒にいる。
「お待たせ、ヴォルさん。あ、ドラコも…待たせてごめん」
「いや、気にするな。場所を移動するぞ」
「あ、うん」
ヴォルは先に歩いていく。
その後をはドラコと並んで歩く。
となりのドラコをちらっと見る。
ドラコも一緒にいても構わない話なんだろうか…?
「僕がいるのが何かおかしいのか?」
の視線に気づいたのかドラコがを見る。
「そういうわけじゃないんだけど…ドラコって、なんか本当に変わったね。変わらない所もあるけど…」
苦笑する。
変わったのは、時と場合によっての行動が違っているところなど。
色々と物事を広く見るようになってきている。
そして、先入観で物事を見ずに自分で判断していこうと思い始めている。
「明日はグリフィンドール対スリザリンだったけれども、ドラコの怪我で対戦相手が変わっちゃったって、ポッター君怒ってたよ」
「傷がまだ痛むんだ、仕方ないだろう。そもそも、対戦相手が変わった程度で怒るなどおかしい。誰が相手でも勝つつもりでいつも練習しているはずだろう?………、どうしてそこで笑うんだ」
くくくっと肩を震わせて笑っているを見て、ドラコが僅かに顔を顰める。
最初の頃からは考えられない言葉である。
「傷が痛む…ね。まぁ、僕にはクィディッチなんて関係ならいいんだけど…、ところでバックビークの件はどうなってるの?」
「気になるのか?」
「気にならないと言ったら嘘になる。だって、一応僕には大いに関係ありだし…」
そもそもバックビークはを狙っていて暴走した。
それをドラコがかばったからドラコが怪我をのだ。
元の原因はにあると言ってもいいだろう。
「あれは父上が処刑するよう手続きをとっている。あのデカブツが何かやっているようだけど無理だろ。生徒に襲い掛かるような魔法生物は処分するに限る。父上もを襲ったアレに対しては随分と機嫌を悪くしてた」
「そっか…」
ということは、順調に処刑方向に行っているわけだね。
これでシリウスさん逃亡の足はなんとか確保できそう。
よかったと思うべきか…ちょっと複雑だな。
「それだけか?君の事だから絶対に嫌がると思っていたんだが……」
「別に処刑を望んでいるわけじゃないんだけど…ま、ちょっと事情ありなんだよ」
会話の間も歩みを止めずに前に進む。
特に疑問も抱かずヴォルの後についていっているだけなのだが、どうもこの方向は見覚えのあるところへと向かっている気がする。
方向は地下だ。
はあれ?と思う。
「……あの、ヴォルさん?」
前を進むヴォルに声をかけてみる。
「なんか、スリザリン寮の方向に進んでいる気がするんだけど…」
「気がするじゃない、まさにその通りだが?」
「いや、ちょっと待って。何でスリザリン寮?!何の話するの?」
どうして場所がスリザリン寮なのだろうか。
話があると言ってきたからてっきり重要な今後の事に関してのことか、過去のことで何か関係あることかと思っていた。
困惑するだったが、結局スリザリン寮まで素直についていく事になった。
地下にあるスリザリン寮。
にとっては過去で、つい最近までよく出入りしていて馴染み深いと言えば、深い場所である。
少し薄暗いスリザリンの談話室。
そこを通り過ぎて男子寮の方へと向かう。
案内されたのは以前も来たことがあるドラコの部屋。
「もしかして、ヴォルさんってドラコと同室?」
「ああ、今年になって部屋替えをしたらしくてな…今はドラコと2人部屋だ」
「へぇ〜、いいな〜。僕の部屋は相変わらずポッター君達との4人部屋だよ」
ドラコが有権者の息子だから優遇されているのだろうか。
ヴォルが編入してきたから部屋替えを行ってたまたま2人部屋になってしまったのかは分からない。
「、ルシウスからもらったアレを出せ」
唐突にヴォルが手を差し出す。
アレとはネクタイピンのことだろう。
としてもヴォルに一度きちんと見てもらいたかったので、抵抗なくヴォルの手にそれを差し出す。
ヴォルがルシウスを”ルシウス”と呼び捨てにしていたことにドラコが少し顔を顰めたのが見えたが、気にしない事にする。
「やっぱりな…」
軽く息をついてヴォルは小さく何かを唱える。
するとネクタイピンから黒い何かが剥がれ落ちる。
黒いモヤのようなものだった。
「ヴォルさん…?」
「にはこの呪いは意味がないだろうがな…」
ヴォルはネクタイピンをに返す。
どうやらこのネクタイピンには何らかの呪いが掛かっていたらしい。
ヴォルはそれを解いたということだ。
「、お前に話したい事はそれを含めての事だ。お前は知っているようで知らな過ぎる。
」
「何を…?」
きょとんっと首を傾げる。
そのの様子に同時にヴォルとドラコのため息が聞こえた。
半分呆れも混じっているように思える。
「とにかく話が長くなるだろうから座れ」
ヴォルが杖を取り出して軽く振ると、小さなテーブルと椅子が3つ。
ドラコももそれに驚くことなく椅子に腰掛ける。
はヴォルがこれくらいの魔法は使えることは知っているし、恐らくドラコも何度か目にしたからこそ驚かないだろう。
普通のホグワーツ3年生では出来ない魔法である。
「魔法界の権力は殆どが古くからの一族が握っている」
「うん、それはなんとなく分かる」
ヴォルの言葉に頷く。
「思っている以上に古くからの家は厄介だ。、ソレを手にした以上は自覚しろ、お前も彼らの仲に入る事ができる権利を持つ者として認められたと言う事をな」
「権利って……?」
「時と場合によってはマルフォイ家の権力を施行できるってことだ、」
それまで黙っていたドラコが口を開く。
軽いため息とともに…。
「リドルも言っていたが、君は本当に知っているようで何も知らないんだな」
「寧ろ魔法界の常識については無知と言ってもいい程にな」
首を傾げる。
確かに自分が知っていることは本の中でのことだけだ。
細かい設定など、そんなことは全然分からない。
魔法界の現状、常識。
「、自慢するわけじゃないが、君が考えている以上に僕の家の影響力は大きい」
「この国の魔法界での権力を考えればマルフォイ家に逆らえるものは早々いないだろうな」
「うん、なんとなくは分かっているよ」
知識としては分かっているつもりだ。
ただそれを目の当たりにしていないから、自分に関する事でその権力を見せられた事がないからイマイチピンと来ないというのが本音だろう。
は比較的魔法界に縛られていない生活をしている。
生活資金も表の権力関係なしの裏で得るもの、魔法使いになれなくても全然構わない。
「なんとなくじゃ困るんだ、。ソレを持った以上は自覚しろ」
「………って言われても。そんなにすごいものなの?これ」
はネクタイピンを取り出して手に持つ。
銀色の上品でシンプルな形のピン。
全く警戒心というか何も変わっていないの様子に、ドラコは深いため息をつく。
「にいくら言い聞かせても僕は無駄なような気がしてきた…」
「それでも何かあってからじゃ遅いんだがな…」
ヴォルも呆れたような表情になる。
魔法界に対してそれほど執着心もなく、純血や混血、マグルなど全く気にしていない。
そんなだからこそ、今の状況がありうるのだろうが…自分が手にしたその状況に自覚が全くない。
「、これだけは覚えておけ」
「うん?」
ヴォルとドラコが言い聞かせるほど危険なものなのかには分からない。
「ソレはマルフォイ家とのいろんな意味での繋がりを持つ事を、な」
その繋がりは有益であることもある。
だが、不利に働く事もある。
特にヴォルデモート卿が蘇った時にどう働くか、それはまだ分からない。
にはただ頷く事しかできなかった。
それで話は終わりかと思っていたがそうではなかった。
その後、延々とヴォルとドラコによる魔法界の常識…主に純血一族の…を頭の中に叩き込まれたのであった。
だが、根本から考え方が異なってしまうにとって理解はできても共感はできないものばかりだったということだけ述べておこう。