アズカバンの囚人編 41







人狼の説明とレポートの宿題を出して、セブルスの防衛術の授業は終了した。
内容としては悪くないだろう。
教え方も下手ではない…寧ろ上手な方だ。
ただ、グリフィンドール生に対して嫌味ったらしい所がなんとも言えないが…。

「あ、ヴォルさん、ごめん、先に行ってて。教授にあのこと聞いてくるから…」
「いや、外で待ってる」

苦笑しながらヴォルはぽんっとの肩を軽く叩く。
ヴォルはそのままドラコと一緒に教室を出て行く。
教室の外で待っていてくれるのだろう。
この後は昼食のみで特に授業が入っていないのはスリザリンも同じのはずだ。
ハリーは明日のクィディッチの試合の練習で忙しいようで、教室を早々と出て行く。
ロンは、罰則を命じられるために残っている。

「教授」

セブルスの前に立つロン。
ロンの表情には不満が思いっきり見えている。
ロンの隣に並ぶようには立つ。

「まずはウィーズリー、貴様の罰則だが…医務室のトイレ掃除だ。勿論魔法を使ってやることは禁ずる。全てマグル形式でやりたまえ」
「げ…まじかよ…」
「何か言ったかね?」
「イイエ、何でもありません」

むっとした表情で返事をするロン。
はいつも思うのだが魔法を使っての掃除というのは一体どういうものなのだろう。
マグル形式が普通だと思っているにとって、魔法を使った掃除の方が変な感じだ。

「それから、…」
「はい」

セブルスはちらっとロンを見る。

「何をしている、ウィーズリー。もう行っていい」
「いや、でも…」
「これ以上何か言いつけられたいのかね?」
「いえ……そんなことは!」

慌てたようにロンは教室の外へと向かう。
小さくロンが舌打ちするのが聞こえた。
セブルスがれだけ盛大に反応した事に関して聞きたかったのだろう。
去り際ににちらっと目配せしたのが見えた。
後で教えてくれということなのだろう。
軽く手を振っただが、これをどう説明していいものか…。
正直にそのままを説明しなくても別に構わないだろう。

…」
「はい、なんでしょう?」

にこっとは笑みを向ける。
セブルスはそれに軽くため息をつく。

「何故その名を知っている?」

突然の話題だが意味は通じる。
何故「セウィル=スネイプ」の名を知っているかということなのだろう。
は今までそんなそぶりは全く見せてないなかった。
まさか知り合いだとはセブルスも思ってないなかっただろう。

「あの人は外にめったなことでは出ないはず…いや出れないはずだ。貴様と知り合う機会など……」
「ない、と言いたいのですか?」
「……いや、よく考えればとあの人の組み合わせならあってもおかしくない気がしてきたな……」
「どういう意味ですか、それは」

深いため息をつくセブルスにはは少し顔を顰める。
セウィルの性格はかなり変わっている。
何が起きてもおかしくはないかもしれないが、同類にはされたくないと思うである。
しかし、セブルスの今の言葉で確信する。
セウィルは、生きている。

「どうもこうも…あの性格ねじくれまくった伯父上の事だ、無理して勝手に……」
伯父上?!
「なんだ、知っていて聞いてきたのではないのか?」
「いや、知っていたら聞きませんよ…。伯父上、教授の伯父…」

セブルスの顔を見上げる
顔立ちをよく見れば似ているのかもしれないと思う。

教授の伯父…。
そうだよね、年齢的に考えれば別におかしくないし、でも性格が全然結びつかなかったから親戚くらいかと思っていたんだけど…伯父か…。

「言われてみれば、教授に少し似てますよね」
「いや、全然似てない!
「そ、そうですか…?」
あんなのと似ててたまるか!

吐き捨てるかのようなセブルスの口調。
ここまで激しい口調は初めて見る。

「教授って、その伯父さんのこと苦手なんですか?」
「苦手…?あれを苦手と呼べる部類に入れていいのかも分からないな。ある意味ポッター共の悪戯の方がまだ可愛げがあると何度思った事か…。


セウィル君…教授に一体何をしたのさ…?


「あの人の名前をこの学校でも聞く事になるとは悪夢以外の何物でもない……それで、、どういう関係だ?」
は?…え、…えっとですね〜」

さて、どう説明したものか。
は視線をさまよわせながら迷う。

「僕、1ヶ月間いなかったじゃないですか」
「そうだな」
「その間に会ったんですよ。それで、また会おうって約束して…でも僕は相手の名前しか知らなかったので、同じファミリーネームの教授なら知っているかな…と思ったんですが」

隠し事をしながらの説明は難しい。


「…………会うのか?」


僅かな沈黙の後、セブルスは確認するかのようにをみる。
眉間のシワがいつもより多い気がするのは気のせいではないだろう。

「会いたい…と思っているんですけど。今、その人はどこにいるか教授は知っていますか?」
「そうか、会うのか……」
「あの…?教授?」

額に手を当てて大きなため息をつくセブルス。

「あの人ならば今は我輩の家にいるはずだ。大人しくしていれば、の話だがな。全く、出歩けるような体ではないくせにひょこひょこ出歩く…」
「教授、もしかして、セウィル君の体調良くないんですか?!」
「…………セウィル……君?、その呼び方は、貴様伯父上と本当にどいう関係だ?」
「そんなことはどうでもいいです!セウィル君は体調悪いんですか?!」

の必死な様子にセブルスは困惑する。
どういう接点があるのか非常に気になるだろう。
とセウィルでは、今では年が離れすぎている。

「悪いと言えばここ10年ほどずっと悪いからな…変わりないといえば変わりないだろう。若い時に無茶をやったからと医者に言われている」
「10年……、命に関わるとかは?」
「医者にはいつ死んでもおかしくない体だと言われているな、生きているのも不思議だと」
そんなに酷いんですか?!
「だがな…、我輩はあの伯父上がそう簡単に死ぬはずがないと確信できる。あれがそう簡単に死ぬような人間か…」

セブルスはぽんっとの頭に手を置く。
を安心させるように軽く頭を撫でる。
セブルスにそんなことをされると思わなかったので思いっきり目を開いて驚く

「ありがとう…ございます、教授」

笑みを浮かべる


「それで、教授。セウィル君に会いたいんですけど…クリスマス休暇に教授の家に行ってもいいですか?」
却下だ。
何でですか?!それに即答しなくてもいいじゃないですか!」
「家主がいない家に勝手に招待できるか。我輩はクリスマス休暇中も殆どホグワーツだ」
「それじゃあ、イースター休暇は駄目ですか?」

セブルスの眉間のシワが深くなる。
そこまでにセウィルのことが苦手なのだろう。
それでもセウィルがセブルスの屋敷にいるという事は、セブルスが優しい証拠かもしれない。
なんだかんだと言いながら面倒をみているのではないのだろうか…?

「あまり長時間は許可できん」
「少しだけでもいいです!」
「あの人に会ったとしても、ただ疲れるだけだと思うぞ」
「そ……それは重々承知…です」

セブルスの様子からセウィルの性格が昔と殆ど変わっていないだろう事が分かる。
あの性格についていくのに疲れるのは分かるが、は会いたかった。

「伯父上に了解を取ってみる。イースターまでまだ日が十分にあるから後で日時を決めろ」
「教授!」

ぱっとの表情が明るくなる。

「時間があれば手紙でも書いてやってくれ。あの人も退屈はしているだろう。敢えてと伯父上の関係がどういうものかは聞かないが…」

セブルスはぱらぱらっと別の教科書をめくりだす。
よく見てみれば魔法薬学の教科書だ。
どうしてここまで持ってきているのだろうか…?

「くれぐれも我輩を巻き込むな」

ぴしゃりっと厳しい口調のセブルスだが…。
は少し考え…。

「う〜ん、それはちょっと僕の知るセウィル君の性格上無理なような気がします」

嬉々としてセブルスを巻き込んで楽しみそうだ。
何を楽しむかは分からないが。
何しろセブルスはからかうと面白い。
血縁関係のセウィルならそのことを良く分かっているだろうからこそ、セブルスにはちょっかいを出すのではないか。

「もう、いい…」

深いため息をつくセブルス。
本当に疲れているような感じだ。

「ああ、このページからだな。
「あ、はい」
「貴様がいなかった1ヶ月分の魔法薬学の授業でやった部分だ。教科書を読んでレポートを書きたまえ。理解度が薄いようならば特別授業を行う」
「了解です。えっと…56ページから89ページまでですね」

は机の上においてあったメモ帳とペンを取りに行き、ページをメモる。
セブルスはメモ帳とペンを使っているをじっと見る。
魔法族ならば絶対に使わないだろうものだ。

「何故、マグル出身の貴様と伯父上が仲が良いのか我輩には分からん…。伯父上は我輩が知る限り誰よりも譲らない頑固な純血主義だったはずだ」
「そのあたりは本人にでも聞いてください。何か気に入られちゃったみたいで…」

ぱたんっとメモ帳を閉じる。
思ったよりもセブルスとの話が長くなってしまった。

「それでは、教授、ありがとうございました!」

ぺこっと勢いよく頭を下げ、教科書と荷物をまとめて教室の外に向かう。
機嫌よさそうなの様子にセブルスはため息をつかざるを得ない。




セブルスはぎゅっと自分の右手を握る。
血の繋がった実の伯父。
彼の恐ろしい所はその性格でもなく…想いの強さだ。

「会わせて…いいのか?伯父上はあの人をまだ心酔してるというのに……」

が、ヴォルデモートに見つかるのがまずいことを、セブルスは知っている。
だから、迷う。
今でもヴォルデモート卿への忠誠があるだろう伯父をに会わせていいものか。
は…だまされているのではないのだろうか…と不安がよぎる。

セブルスの口からは、再び深いため息が零れた。