アズカバンの囚人編 40







明日はクィディッチの試合の日だ。
予定ではグリフィンドール対スリザリンのはずだった。
だが、昨日ハリーが怒ったように部屋で相手はハッフルパフになった、と言っていたのを聞いた。
ドラコの怪我の治りが悪いのが理由らしい。
今日唯一ある防衛術の授業へとは向かう。

そう言えば今日の授業は教授だったはずだよね。
教授と言えば…セウィル君のこと。

セウィルのことを知っているはずのセブルス。
すぐに聞けばいいのだろうが、もういない、と返事が返ってくるのが怖い。
聞きたいけれども聞きたくない、そんな心境である。

いつまでもこのままじゃ駄目だよね。

はぁ〜とため息をつく
入った防衛術の教室にドラコの姿を見つけたのでとりあえず近づいてみる。
嫌味満点の視線でロンやハーマイオニーを見ながら傷が痛むと言っているようだ。


「ドラコ、傷痛むの?」


ドラコの後ろからひょいっと傷を覗き込む

?!

驚いた表情でドラコがの方を振り返る。
手に巻かれている包帯。
完全に治っているはずの傷である。

「うん、久しぶり〜。かれこれ1ヶ月ぶりらしいね」
らしいね、じゃない!君はどうしてそう呑気なんだ!」
「別に呑気ってワケじゃないんだけど…」
「それで、大丈夫だったのか?」

真剣な表情でドラコが聞いてくる。

「…何が?」
「何が、じゃない!怪我はしてないのか?なんともないのか?精神的におかしくなったとかそういうのもないのか?!」

ドラコの言葉には少し驚く。
心配そうなドラコの表情に苦笑がもれそうだったがなんとか堪える。
それから、ぽんっと思い出したかのように手を打った。

「とりあえずどこも健康。で、ドラコ、ルシウスさんに手紙書きたいんだけど大丈夫かな?」
「何故父上に手紙なんだ?」
「いや、フクロウ便に同封されていたのがね、結構高価そうなものだからこういうのを理由なく頂く訳にはいかないもんで…」

は自分のポケットの中に入れてあるネクタイピンを取り出す。
会った時にいつでも返せるようになるべく持ち歩いている。
ロン曰く、マルフォイ家の紋の入ったネクタイピンだ。

それは…っ?!
「なんかルシウスさんから手紙が来て、今度のクリスマスパーティーにこれをつけてくるよう…って、ドラコ?」

ドラコは怪我をしていない方の手を頭に当ててあからさまなため息をつく。

「それを父上に返そうと思わない方がいい」
「何で…?」
「それは多分、父上が君のために作らせたものだ。返されれば捨てるだろうな、父上は」

どう見ても高価そうなこれを捨てる?
あのルシウスならばやりかねないような気もするが…。

「諦めろ、父上にそれを渡された以上は覚悟するしかない」
「か、覚悟って何の…?」
「玩具扱いされる覚悟だ」
「…………………そ、そう。

きっぱり言い切られてしまってはどう反応していいか分からない。
ヴォルが随分前に言っていた。
ルシウスの試練を見事乗り切られたら困るんだと。
恐らくヴォルはこうなることが分かっていたのだろう。

「そろそろ先生が来るぞ。も席につけ」
「あ、うん…」

ちらりっと見たドラコの隣にヴォルの姿はなかった。
3年の防衛術の授業などヴォルにとって退屈で仕方ないのは分かるが、サボりなのだろうか…?
はいつものようにネビルの隣に席をとる。
にこっと笑みを向ければネビルも同様に笑みを返してくる。
ドラコの方を見れば、ヴォルがギリギリで教室に入ってきて座るのが見えた。
ヴォルが振り返ってのほうを見る。


―授業が終わったら待ってろ


そう言ったような気がした。
首をかしげながらも軽く手を振って了解の意思を伝える。

何か約束してたっけ…?

首をかしげる
思い当たることがない。
が首をかしげている間に、ばたんっと教室の扉が開いてセブルスが入ってくる。
セブルスの登場にグリフィンドールの生徒もスリザリンの生徒達も驚きを見せる。
グリフィンドールの生徒達は嫌な先生が来たことによる不快な気持ち。
スリザリンの生徒達はスネイプ先生が現れた喜び。
同じ驚きでも正反対の感情だ。

「静かにしたまえ…、グリフィンドール煩いぞ、5点減点」

授業内容が違ってもやることは同じなセブルスに苦笑がもれる

「ルーピン先生は今日は体調不良でお休みをとっている為、本日は我輩が教鞭を取る。授業がどこまで進んでいるか分かるものはいるかね?」

セブルスの言葉にはっとなったハーマイオニーは教科書をぱらぱらっとめくる。
生憎はこれまでの授業にでてなかったのでどこまで進んでいるのかさっぱりだ。
ハーマイオニーが勢いよく手を上げようとした時。


「すみません!ルーピン先生……!」


ハリーが慌てたように教室に駆け込んでくる。
教壇の方を見て、はっとなるハリー。
そこに立っているのはリーマスではなくセブルス。

「何をしているポッター。授業はすでに始まっているぞ、早く座れ。授業に遅刻するとは気が緩んでいる証拠だな、10点減点だ」
「え…?あの…ルーピン先生は…?」
「ルーピンは本日は体調不良で休みだ。我輩は座れと言ったはずだが、ポッター?5点減点」

ハリーは顔を顰めながらロンの隣の席へと向かう。
表情に思いっきり不本意だと出ている。

「さて、ポッターが邪魔をする迄話していたことだが…ルーピン先生は今までどのような授業をやっていたか記録を残していない」
「今まで授業でやっていたのは、『まね妖怪』『赤帽鬼』『河童』『水魔』です」

ハーマイオニーがきっぱりと答える。
セブルスはハーマイオニーにちらっと視線を向けただけで何も言わずに言葉を続けた。

「しかし我輩が教える『闇の魔法に対する防衛術』の授業は甘いものではない。本日学ぶのは……」

セブルスはぺらぺらっと教科書の後ろの方までめくる。

「人狼である」

僅かに教室ないがざわつく。
全く習っていない範囲である。
しかも教科書の最後の方のページと言うことは、今の時期に習っているはずがないもの。

「先生、私たちが次やる予定だったのはヒンキーパンクで…!」
「グレンジャー。我輩は君の意見を求めているわけではないのだが…?さぁ、全員教科書394ページをめくれ」

流石のハーマイオニーも黙って教科書のページをめくる。
もぱらぱらっと教科書をめくって指定のページを開く。
そこには人狼の説明が載っていた。
思わず軽くため息がでてしまう。

「人狼と狼をどうやって見分けるか知っているものはいるかね?」

ばっとハーマイオニーの手が挙がる。
はヴォルの方をちらっと見る。
知っているだろうに我関せずの態度のようだ。

「誰も見分け方を知らないとは、授業が遅れているのか…嘆かわしいことだな。このことをしっかり校長に報告を…」
「先生、狼人間はいくつか細かいところが本当の狼と違って……」
「グレンジャー…、二度目だな。我輩が求めずに勝手に意見を言って…、その知ったかぶりは鼻持ちならない。グリフィンドール5点減点だ」

ハーマイオニーは目に涙を浮かべて手をおろす。
悔しそうに唇をかんで下を向いて涙を堪えているのが見えた。
それを見たロンがハーマイオニーに一度視線を向けて、そしてギロリっとセブルスを睨む。
普段散々ハーマイオニーが「知ったかぶり」だと批判しているくせに、セブルスに言われるとロンはかなり気に入らないようである。

「先生は質問をして、ハーマイオニーはそれに答えただけじゃないですか!何がいけないないって言うんですか!?」

セブルスに怒鳴りつけるように言うロンはすごい勇気があるだろう。
グリフィンドール生たちの尊敬の視線がロンに集まる。
ロンはこういう所に全然気がつかないから、ハリーばかりが注目されていると思ってしまっているのではないのだろうか…?

なんか、微笑ましいな〜。

は笑みを浮かべながらその光景を見ていたりする。

「罰則をやろう、ウィーズリー。またこのようなことがあれば、今度はこんな甘いものではすまないぞ」

ぐっとロンが口をつむぐ。
それでも睨むのはやめないところがロンのいいところとでも言うのだろうか。

「それから、
「…は?

セブルスはくるりっと向きを変えての方を見る。
突然指名されたはきょとんっとする。
特に何もしていなかったはずだが…。

「先ほどから何か言いたそうだが、何か質問でもあるのかね?」

何かって…。
とりあえず教授に聞きたいことはセウィル君のことだけど。

「質問がないとはこの1ヶ月授業を受けていないというのに随分と余裕だな」
「いえ、聞きたいことならばありますが、よろしいでしょうか?」
「構わん、言いたまえ」

はかたりっと立ち上がってセブルスを見る。


「セウィル=スネイプという人物をご存知ですか?」



がたがたがったぁぁぁん!!



の言葉に盛大に転ぶセブルス。
周囲の机と椅子を巻き込んでの転び方だ。
この反応には流石のも驚く。

「あの…教授?」

大丈夫ですか…?

の問いには答えずにセブルスはむすっとした表情のまま立ち上がる。
軽くローブの埃を払うかのようにぱんっと叩く。
そして何事もなかったかのように教科書を捲る。

。授業の後、残りたまえ」

の返事を待たずにセブルスは人狼の説明を始めた。
グリフィンドール生達の中にはくすくすっと笑いを堪えていた生徒達が多数。
それもセブルスの睨みで黙ってしまったが…。
セブルスの視線がそれたのを見て、ロンがの方に視線を向けて、親指をぐっと立てた。


―ナイス、


ナイスもなにも、特に狙ってやったわけじゃないんだけどな…。

はそれに軽く手を振り、苦笑を返すのみである。
あそこまで盛大な反応をさせるとは思わなかった。
確かにセウィルの性格は独特で、だが、がセウィルの存在を知っていることがそんなに驚くことだろうか。
たまたまどこかで会っているかもしれないという可能性もあるだろに…。

でも、教授があんな反応するってことは…セウィル君、いるんだよね?
生きているんだよね?